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「FF」サウンドの父 植松伸夫氏と「FFXIV」サウンドディレクター祖堅正慶氏が音楽と飲み会を語る

2月19日 開催(現地時間)

会場:Festhalle(フランクフルト)

 スクウェア・エニックスは、プレイステーション 4/Windows/Mac用MMORPG「ファイナルファンタジーXIV(以下、FFXIV)」のオフラインイベント「FINAL FANTASY XIV FAN FESTIVAL 2016-2017(以下、ファンフェス)」をドイツ、フランクフルトで開催している。

 2日のステージイベントとして、「FF」シリーズの作曲家、植松伸夫氏と「FFXIV」のサウンドディレクター祖堅正慶氏によるトークセッションが行なわれた。最初は音楽について真面目な議論を交わしていた2人だったが、だんだんとエンジンがかかってくると、通訳に困るような裏話もどんどん飛び出してきた。

「ファイナルファンタジー」の曲は植松氏の右頭に渦巻いている

白い蝶ネクタイをした植松伸夫氏と、赤い蝶ネクタイの祖堅正慶氏
トークセッションの様子

 最初の質問は、「FF」の音楽をどのように作曲しているかというもの。植松氏は「音楽を勉強したことがないので、作曲をちゃんと勉強している方がどうやっているかはわからないんです」と言いつつ、「小さい頃からメロディを作ることが趣味というか、癖になっていたというか。だから小さい頃から音楽は頭の中で鳴り続けているんですよ。それが習慣になっているんです。「どうやって作曲していますか?」という質問はよく受けるのですが、例えばオープニングやバトルに音楽を付ける時に、頭の中で渦巻いている音楽を、頭の右上辺りで探している感じです。いつも頭の右上なんですね」と、頭の右上で手をくるくるっと回して見せながら、答えていた。

 同じ質問を受けた祖堅氏は「自分で振り返ったことがないからよくわからないです。でも植松さんと同じで、別に勉強したわけではないので、感覚で作っています。「FFXIV」の場合は、ゲームコンテンツに対して一番マッチする曲はどういうものかということを考えながら作っています。そんな感じですかね」と、少し緊張気味に答えた。

 ゲーム音楽を作曲するときには、設定やイラストなどが資料として渡されるそうだが、植松氏は「僕はどちらかというとストーリーを読んで曲を作る」タイプ。「祖堅はどうなの?」と振られた祖堅氏は「僕も、絵を見ただけじゃバカなのでわからないので、どんな話なのか聞きに行きますね」と謙遜しつつ答えていた。

 もっともいいのは実際にそのゲームをプレイしてみることだというのが両者の共通見解だ。だがゲーム制作の場合は音楽も開発と並行した作業になるのでそこが難しいと。植松氏は、そこに出てくるキャラクターがどういう性格なのか理解できるかとか、彼が何を言うかどういう人間なのかが想像できるかどうかといったちょっとしたことで、曲を作る難易度が変わってくるのだそうだ。

 また、祖堅氏によれば、発注してくる人があまり音楽に詳しくない場合、例えばボス用のBGM発注書が「汎用ボス1」のような、どんな曲を作ればいいのか全く想像がつかない発注の仕方だったりして、作曲家を困らせてしまうということもあるのだとか。

 それを聞いた植松氏は「でも逆にじゃあ今回はジョン・ウィリアムズみたいな感じでお願いします、と言われたって、僕ジョン・ウィリアムズじゃないし……。だったらジョン・ウィリアムズに頼めばいいのにってことがありますね」と答えて、2人で爆笑していた。

 だが、祖堅氏によれば、この「〇〇みたいな感じで」という依頼が「FFXIV」にはないらしい。植松氏も吉田氏からのリクエストは、「こんなものをイメージしていますと単語でくれる」ため、そこから自由に膨らませていけると語る。「『FF』って意外と作曲家にゆだねられることってない? ああしろこうしろって言われることがない」と言いつつ、祖堅氏とうなずき合っていた。

 祖堅氏は「FFXIV」の曲を作る時、バトルを見て、ここからは違う曲を流した方がいいと思った場合、ゲームデザイナーとディスカッションを重ねて決めていく。例えば「真タイタン」の時には5つのフェーズすべてで曲を切り替えたほうが「絶対に盛り上がると思った」と言い、ふと気づいて「そうか。そういうことをしているからギネスになるのか」と384曲ものBGMを使った「最もBGMの多いビデオゲーム」としてギネスレコードに認定された理由を1人でかみしめていた。

「ファイナルファンタジー」は挑戦し続けるタイトル

「FFはなんでもありというのが結論」と植松氏

 「FF」全体の音楽について尋ねられた植松氏は「ただ作曲をするのが好きという人間だったので、『FF』との30年間で、現場で音楽を学ばせてもらったという意識が強いです」と、第1作目からずっと「FF」シリーズに関わり続けてきた思いを語った。植松氏らが「FF」シリーズを世に出した当時は、まだゲーム音楽という言葉すら存在していなかった。「ただ一生懸命やっているうちに、自分の中で『FF』の音楽はこうなったほうがいいという思いは出来上がりました」と植松氏。その思いとは「『FF』の音楽は何をやってもいい」という結論だった。

 植松氏の前には「FF」はこうだという土台はなく、自分が作ってきた階段こそが土台となるので、ほかの音楽に似る必要がない。「何が起きてもいいわけです。ロールプレイングゲームですから」という思いの元、ロックあり、ジャズあり、クラシックあり、映画音楽やフォルクローレまで、「FF」の音楽は様々な要素を取り込んできている。

 そんな「FF」シリーズの中でも、「FFXIV」の音楽表現について質問された祖堅氏。「FFXIVはコンテンツによって遊び方がまったく違うので、そんな遊び方にマッチングする音楽は何かを突き詰めて」作っているという。「FFXIV」には「『FF』シリーズのテーマパーク」というテーマがあるが、それに沿う形でいろいろなタイプの曲がゲーム内で共存している。

 特に植松氏が過去に作った歴代シリーズの曲を「FFXIV」の中でどう再現するかという部分には、かなり気を使ってこだわっているのだそうだ。さらに「そもそも『FF』というゲーム自体が、僕の印象だとチャレンジするタイトルという印象が強いので、音に対しても音楽だけではなくて、効果音やサウンドエンジンでもチャレンジすることを忘れずに作っています」と「FF」というタイトルの印象を語っていた。

 まだ、オンラインゲームのBGMを作るという視点では、オフラインのゲームよりもはるかに長い時間、同じBGMを聞き続けることになるというゲームの特性を踏まえて、「特に長い時間聞くことになるBGMは、飽きないように1曲の長さを長めにするとか、天気によってアレンジを変えるとか、なるべくそういった工夫をするようにしています」と、プレイしていると気づきにくい開発側の配慮を語った。植松氏に「考えてるじゃん、頭使ってるよね」と褒められると、「まあそんなに頭はよくないですけどね」と謙遜していた。

 極蛮神やテーマソングなど、歌詞が付いた曲の製作については、植松氏が「歌詞が先にあるとメロディを当てはめないといけないから、ある程度自由が奪われてしまう。だからできれば、メロディを先に作らせて欲しいです。最後に作詞のマイケルに泣いてもらう(笑)」というと、祖堅氏は「『FFXIV』の開発には余裕がございませんので、曲を作ったその日の晩に、曲ができたから歌詞をつけてくれとコージに頼みます。いつまで? と聞かれたら、明日レコーディングしたいから明日まで」と鬼のようなスケジュールを暴露。このトークセッションの通訳をしていたクリストファー・マイケル・コージ・フォックス氏は、自分の話題が出たことに照れて焦りつつも、2人の言葉を翻訳していた。

 祖堅氏はさらに畳みかけ、「最近の蛮神ではソフィアは、本来歌詞を付ける予定はなかったんですが、いい曲ができちゃったから、コージならできる。明日までになんとか歌詞をつけてくれと言ったら、本当につけてくれたので、仕方なく歌を取りました(笑)」とこれまた非情なスケジュールの裏話を暴露し「そう考えると植松さんの曲も、僕の蛮神の曲も全部コージがやっているから、コージ凄いね」と全力で持ち上げつつ「これ自分で翻訳するんだよね」と困り顔のマイケル氏を笑っていた。

 さらに裏話はこれだけではない。あの名曲「Answers」もマイケル氏が歌詞をつけているのだが、つけた歌詞は譜面に描き込むのではなく「自分がお風呂場で歌った歌声を渡してくれたんですよ(笑)」と植松氏。これに祖堅氏が「いや、あれ違うんですよ。実はお風呂場で歌ったんじゃなくて、うちのスタジオのレコーディングブースで録ったんですが、あまりにも聞くに堪えなかったから、僕がリバーブを足して、それで渡したんです(大爆笑)」とさらに衝撃の事実を明らかにした。「あれをスーザンさんは聞いたんですか」という祖堅氏の質問に「いや、聞いてないんじゃないかな」と植松氏が答えると、マイケル氏は「フー」と胸をなでおろしていた。なお、このマイケル氏の歌声音源は、いまだ現存しているらしい。

サウンド部の飲み会で、祖堅氏たちが出したのは……

後半は、通訳をしていたマイケル氏やスクウェア・エニックススタッフの女性が翻訳に困るようなぶっちゃけ話が飛び出しまくった自由なトークセッションだった

 トークセッションは、司会者が2人のなれそめを聞いた質問あたりから、だんだん場の雰囲気が変わってきた。植松氏は祖堅氏のことを「スクウェアで仕事をしていたときの後輩」と言いつつも「でも同じプロジェクトで仕事をしたことがなかったせいもあって、会社であまり見たことがない。でも夜になると飲み屋で会うんだよね」と当時の印象を語った。祖堅氏はこれに応えて「今だから言いますが、昼間いなかったのはギャンブルに行っていました」と会社員にあるまじき告白をした。

 そして夜になって腹がへっても、新入社員の薄給では飲み歩くにも限界がある。「だから、この人お金持ってそうだなという人にちゅーっと付いていって、お酒をおごってもらう。そんな毎日を送っていました」という、まさにその相手が植松氏だったようだ。

 植松氏はそんな祖堅氏を飲み会で見かけると「こいつまた何かしでかすんじゃないかとハラハラして」見ていたそうだ。何しろ、祖堅氏が原因で出禁を食らった店が複数もあるというのだから、かなりのものだ。祖堅氏はそんな指摘を「否定はしません」と甘受しつつ「でも楽しかったですね。いい時代でした」と答えると、植松氏も「いい時代だったね」と返していた。

 そんな祖堅氏にとっては、植松氏の音楽こそが「FF」の音楽。植松氏の曲を「FFXIV」内でアレンジする時には、「皆さんの記憶に刻まれている植松さんの音楽を壊さずに、『FFXIV』の中でより美しく再現することに気を使っています」という。例えば「クリスタルタワー」では「FFIII」の戦闘曲やボス曲のアレンジバージョンが使われている。元曲の雰囲気を壊さないように、今の時代のゲームに合うようアレンジするのは難しいが、やりがいがある仕事なのだそうだ。

 逆に、アレンジを聞く立場の植松氏は「今日もサイン会場でずっと流れていたけど、かっこよかった」と祖堅氏のアレンジ曲を評価。植松氏は、ポピュラー音楽の作曲について「リズムと和音とメロディがきっちりできていれば自分の中では完成形」なのだという。それはいうなれば、「素っ裸の赤ちゃん」を生み出したようなもので、その子に他の人がジャズやロックやクラシックの着物を着せるのは、お化粧をしてもらうような感覚なのだという。もちろん自分でも最低限の服は着せるが、やはりその道に一生をかけて仕事をしている専門の人に頼んだほうがいいものができるため「自由にいじってもらって平気なんです。ただその子は自分の子であるという意識はありますけれどね」と生みの親の自信とでもいうべき余裕を感じさせつつ語った。

 「FFXIV」で祖堅氏自身が作曲した曲について、祖堅氏も「僕もいろんな人にお洋服を着せてもらいたいのですが、この「FFXIV」というタイトルはどうしても物量と、それを作る期間が見合っていないので、服を着せるところまで自分でやらなくてはならないことが多々あるのです」と常にアップデートに追われるMMOのサウンド開発ならではの苦労を口にした。やれるところはなるべく自分でやるという祖堅氏だが、今回のイベントで公開されたシネマチックトレーラーに使われていたフルオーケストラの楽曲などは、やはりプロフェッショナルに依頼している。「僕は分かっていないから、例えばオーケストラのティンパニの譜面を書いて渡すと、こんなもの叩けませんって言われますもんね」と苦笑。同じ体験があるのか、植松氏もそれそれと同意していた。

 ただ、プロに任せても、必ずしも意図通りのものが上がってくるとは限らないという。だからかつては有名な人にお願いしていたこともあるという植松氏は、今では気心の知れた、植松氏の音楽をよくわかっている専門家に頼むのだそうだ。その際、「そういう奴らってたいがい俺より若いから、俺が全部やり直しと言ったら、いうことを聞いてくれる。やあ、年は取ってみるものだな」とベテランの余裕ものぞかせた。

 年という単語に反応した祖堅氏が「でも年を取ると夜弱くなりませんか? 深夜しかゲームする時間がないんですが、弱くなったなと」と年甲斐もない話を振る。それに答えた植松氏は、なんと朝5時に起きて夜11時に寝るという超健康的な生活を送っているのだそうだ。5時に起きたあと、8時までの3時間を作曲に充てることでとても仕事が捗るのだという。

 祖堅氏が「3時間酒を飲むのかと思った」と茶化すと、植松氏からは「酒は7時から11時まで飲むんだよ」とせっかくの健康的生活が台無しになるような回答。やたら酒の話をすることについて祖堅氏が「植松さんとはあまりプロジェクトで一緒になってないから、酒を飲んでるところしか想像できなくて」と言い訳すると「こっちもだよ」と植松氏も応酬。結局そこからまた飲み会の裏話に発展していった。

 植松氏は、飲みながら仕事ができるタイプで、PCの横にワインやビールを置いて仕事をするのだそうだ。一方祖堅氏は「酒を飲むと脱いでしまうから仕事にならなくて」と告白。会場が爆笑に包まれた。

 ここから植松氏による衝撃の告白が始まった。植松氏がまだスクウェアにいた時代、祖堅氏も所属していたサウンド部で飲み会に行った。長テーブルの片方の端にベテラン、反対側の端に新人が座るという位置取りでしばらく飲んだあと、植松氏がトイレに席を外して戻ってくると、なんと新人が全員下半身をまるだしにして飲んでいたのだとか。翻訳に困る通訳の女性に対して「これセクハラにならないですか」と祖堅氏が心配してしまうような悪乗りネタに対して、「そりゃあ出禁になりますよね」と嘆息する植松氏。「植松さん笑ってたじゃないですか。爆笑してましたよ」と祖堅氏が抗弁すると、「そういういたずら大好きなんだよ」と評価が一転し、結局一緒になって楽しんでいたことが判明した。

 「音楽の話をしなくてもいいの?」と植松氏が心配するほど、後半はずっと飲み会の話で盛り上がったトークセッションだったが、ゲーム音楽を作っているアーティストたちの自由は発想が生まれる根源を垣間見ることができた。

 「旧FFXIV」に使われていた植松氏の曲は、「新生エオルゼア」の時点で一度はすべて封印されたが、その後「大迷宮バハムート:侵攻編」の4層のような、最も効果的と思われる場所で再び使われている。祖堅氏も「植松さんの曲は『FFXIV』にとって貴重な資源なので、最適なコンテンツがあれば復活させていきます」と意欲を見せていた。あっという間に時間がたってしまい、まだまだ話足りないから飲み会の席で話しましょうという約束を交わしつつ、トークセッションは終了した。