【特別企画】

パラデータから紐解く「FF7」サウンドの深淵とノビヨマジックの真価。植松伸夫氏による「ff vol.7」一挙レポート

【『ff〜植松が音楽のことを語りたがってるんですけど、よろしかったでしょうか?(仮)〜』vol.7】
開催日程:7月18日・7月25日・8月1日
アーカイブ視聴期間:9月8日23時59分まで
配信チケット:各回2,750円

 スクウェア(現スクウェア・エニックス)より1997年1月31日に発売されたプレイステーション用RPG「ファイナルファンタジーVII」(以下「FF7」)の音楽について、作曲家の植松伸夫氏が語るトークイベント「ff(フォルテッシモ) 〜植松が音楽のことを語りたがってるんですけど、よろしかったでしょうか?(仮) vol.7」が2026年7月18日、7月25日、8月1日と3週連続で自由が丘hyphenにて開催された。

 本イベントは「FF7」の楽曲群を、スクウェア・エニックス提供のパラデータ(各楽器の分離トラック)を用いて解説するという、音楽ファンおよびゲームオーディオの技術的側面に興味を持つ者にとって非常に価値の高い内容となっている。本稿では、全3夜に渡って語られた「FF7」サウンドの制作の裏側をレポートする。

□「ff〜植松が音楽のことを語りたがってるんですけど、よろしかったでしょうか?(仮)〜」のページ

第1夜:ハード移行に伴うオーディオ設計の決断と制約

 第1夜では楽曲の個別解説に先立ち、スーパーファミコンからPSへの移行に伴う、ゲーム内オーディオの技術的仕様に関する重要な証言があった。当時のPSは同時発音数24音というスペックを誇っていたが、これはBGMと効果音(SE)の合計値であった。当時のSEチーム(中村栄治氏ら)との調整について、植松氏は「音楽と効果音は同時に一緒にして24音だからね。効果音が鳴るたびに音楽がどっか欠けるのも嫌だったから、初めに効果音チームと相談して、音楽には16チャンネルくれと」と語っている。

 また、CD-ROMという大容量メディアを採用しながらも、BGMをストリーミング再生(CD-DA等)しなかった理由について、ゲーム体験のテンポを損なわないための意図的な選択であったことを明かした。内蔵音源のメモリに音色データを読み込ませる方式をとったため、現在の耳で聴くと圧縮による音質の限界はあるものの、ロードを挟まずにシームレスな音楽体験を提供するという、明確な設計思想が貫かれていたことが窺える。

作曲家・植松伸夫氏(左)と司会進行を務めた戸塚利絵さん(右)

第1夜:「FF7」サウンドはいかにして構築されたか。楽曲パラデータ深掘り解説編

 「ff(フォルテッシモ) 」の核心は、植松氏自身がパラデータを再生・操作しながら行なう解説にある。今回はあえて楽曲数を絞り、一つの楽曲に対する技術的アプローチや思考プロセスが濃密に語られた。第1夜からは2曲を抜粋して紹介しよう。

1.「オープニング〜爆破ミッション」

 シリーズの伝統であった中世ファンタジー路線から、サイバーパンク・SF的な世界観への転換を決定づけた象徴的な楽曲である。植松氏は制作当時、未完成のCGムービーが徐々に仕上がっていく過程を見ながらこの楽曲を制作したといい、「絵が仕上がっていくたびに、違う、ファンタジーじゃない。これは明らかに、これまでのもの(FF)とは違うっていうのを感じたね。特にオープニングで流れる曲なんで、やっぱりユーザーさんの気持ちをここでガシッって掴まないとならない」と、当時の状況を語った。

 ちなみに、この楽曲のデモを聴いた坂口博信氏が「VERY GOOD」と英語で称賛したため、「なんであの時英語だったんですか?」といつか問いたいというエピソードも明かされ、会場が笑いに包まれた一幕であった。

【【Video Soundtrack】オープニング~爆破ミッション(ファイナルファンタジーVII)】

2.「F.F.VIIメインテーマ」

 広大なフィールドで流れるこの長大な楽曲については、イベント中に植松氏が持参した当時の限定版サントラ付属の冊子から、驚愕の事実が判明した。1996年7月26日、ティファのテーマと同日に作曲されたこの曲は、元々クラウドのテーマとして書かれていたのである。

 「フィールド用に作った曲だと思い込んでたのに、それは実はクラウドのテーマとして作った曲だったってことを、今日知ったのよ」と植松氏自身も驚きを隠せない様子だった。さらに、作曲時に植松氏がイメージしていた情景は、ゲーム内の荒廃した世界やミッドガルではなく、全く異なる穏やかな風景であった。

 「アメリカの大平原を想像してください。そこで家のデッキチェアでお母さんがニコニコしながら川で釣りをする父と子を眺めてるっていう、非常に何でもない日常生活」と植松氏は語り、「FF7」の重厚なストーリーとは対極にあるようなそのイメージからあの旅立ちと冒険のテーマが生まれていたという事実は、パラデータ解説と並ぶ第1夜のハイライトであった。

【【Video Soundtrack】F.F.VIIメインテーマ(ファイナルファンタジーVII)】

第1夜:技術的探求と実験の数々

 第1夜では発音数の増加に伴って試みられた数々の音響実験が紹介され、例えば「闇に潜む」や「血の跡」については音楽理論に基づく機能和声ではなく、直感的な不協和音や響きを優先したアプローチがとられ、「俺はこの音がこの時に欲しかったと言ったもん勝ちだ」という言葉に、クリエイターとしての矜持が表れていた。

 このほかにも「急げ!」や「ゴールドソーサー」「クレイジーモーターサイクル」、「不安な心」、「蜜蜂の館」なども解説。第1夜の終盤、植松氏はこの特異な熱量を持った作品の制作期間を次の一言で総括した。

 「FF7は本当に悩みなしで楽しかったね」

 ストリングスの硬い音と柔らかい音が混ざり合う瞬間の響きの変化、ゴールドソーサーの3音が重なって豪華なサウンドに化ける瞬間の驚き、そしてアナログシンセのフィルター変化をクロスフェードで擬似再現したベースラインの蠢き。これらはすべて、実際にパラデータの音声を耳で聴かなければ絶対に理解できない領域である。

第2夜:PS移行期の試行錯誤と音作りの哲学

 それでは次に7月25日に開催された、第2夜のレポートをお届けしていこう。

 楽曲の解説に先立ち、スーパーファミコンからPSへ移行した当時のサウンド制作の背景が語られた。ロード時間をなくすために、あえて内蔵音源への読み込み方式をとったことで、現在の耳で聴くと音色のクオリティに限界を感じる部分もあるという。

 「音楽自体が良くなかったっていうよりも、音楽的にもそうだけど、音色的にも思ったほど完成されてなかったなぁ」と植松氏は冷静に自己分析を行う。

 しかし同時に、それは当時の開発陣の勢いと挑戦の証でもあった。「FF6の完成度の後に、相当やっぱり僕も、プログラマーの赤尾君、効果音の中村君は、とどまることなく突っ走ってるな、挑戦しかしていないな、と感じたね」と振り返り、続く「FF8」での劇的な音質向上の布石となる、実験的なアイデアが「FF7」には数多く詰め込まれていたことを明かした。

第2夜:「エアリスのテーマ」で後悔していること。楽曲パラデータ深掘り解説編

1.「エアリスのテーマ」

 ゲーム音楽史に名を残すこの名曲は、単なる「悲しい曲」として作られたわけではなく、明確なシーンとキャラクター設定から導き出されたものであった。具体的なインスピレーションの源を、植松氏は「駅でお母さん(イファルナ)を亡くしたでしょ。あそこのシーンに合うように作ったんですよ。あそこで流れるといいなと」と明かした。

 楽曲の構造は非常にシンプルであり、「ひたすらモチーフを変化させて変化させて作っていった曲なんですけれど、冒頭の和音で勝負あったって感じだと思うんですよ」と、最初の和音の重要性を、実演を交えて解説した。

 明るい和音やおしゃれすぎる和音を避け、Dナインスという和音を選択した理由について、「普通の明るいメロディじゃなくて、この子何か運命を秘めてるかも、というのを音に潜ませた」と、1つの音に込めた手腕を垣間見せた。

 一方で、長年絶賛されてきたこの曲について、パラデータを聴き直したことで「いまだにすごい後悔してるところは42小節目、43小節目で、これ当時になぜ気づかなかったんだろうと思う」、「みんな綺麗な曲だとか言ってくれてるけど、パラデータで聴くと実はこんなに汚いよ」と、自身のミスを赤裸々に告白し、会場の笑いを誘う一幕もあった。

【【公式・植松伸夫TV】エアリスのテーマ】

2.「ルーファウス歓迎式典」

 パレードのミニゲームで流れる威風堂々としたこのマーチは、植松氏にとっては少々特殊な立ち位置の曲だったようだ。「音楽的にはどこにでもありそうなマーチ行進曲っぽいやつ」と評し、ループまでの尺が「1分10秒くらいだね」と意外に短いことを明かした。

 「なんかやっつけ仕事っぽくて、僕はあんまり好きじゃない曲なんですよ。好きじゃないというか、こういう思いをこの曲に込めて、クラウドの気持ちを、エアリスの気持ちを表現しようっていうのとは、作り方は明らかに違うわけで。マーチだからこんな感じだろうなって、あらかじめなんか自分でわかってる仕事をやるのって、つまんないっちゃつまんないですよね」と、職業作家としての苦労を正直に吐露した。

 さらに「僕はどっちかっていうと弦楽器よりも金管楽器が苦手で、どう使えばいいのかがわからない。未だによくわかってないんだけど。金管楽器の派手に鳴り響く音楽は想像はつくんだけど、金管楽器だけを使って柔らかい音楽ってどう作ればいいかわかんないのよ」と、当時の金管楽器に対する苦手意識があったことも明かされた。

 それでも、この曲でもパラデータを通じた工夫が確認できる。「2つのトラックを利用して一つの音を出してるのがあって、それは何かというとスネアの音なんですけど、一つのトラックだけでやっちゃうと音がスムーズに重ならないのね。だからわざわざ二つ使っています」と、スネアの迫力を出すための細かいプログラミングが実演された。

【【Video Soundtrack】ルーファウス歓迎式典(ファイナルファンタジーVII)】

第2夜:作曲家としての確かな成長を遂げたという面も

 第2夜では、上記2曲以外にも「FF7」の世界を彩る多様な楽曲の裏話が次々と語られた。例えば「鷲の砦」は、協和音や分数和音を多用し、ドビュッシーやラヴェル、あるいはEL&Pのキース・エマーソンのような前衛的な響きを模索した実験作であることが語られている。

 「樹海の神殿」はファミコン時代を思わせる「自分臭いメロディ」でありながら、作曲家としての確かな成長を感じるという、個人的なお気に入り曲として紹介。このほか「フィドル・デ・チョコボ」、「星降る峡谷」、「シンコ・デ・チョコボ」、「花火に消された言葉」、「ケット・シーのテーマ」、「牧場の少年」の秘話が語られた。

 さらに質疑応答の中では、「オープニング〜爆破ミッション」の映像合わせについて、「タイムコードは当時使ってないんで、送られてきた映像を見て、ボイスレコーダーに入れてそれで曲作っていったの。本当に」という、現在では考えられないアナログな手法で奇跡のシンクロを生み出していた事実も明かされた。ちなみにそのボイスレコーダーの音源はさすがに残っていないが、使用されたボイスレコーダーの写真は、オリジナルサウンドトラックの限定版の中に写真が残っている。

第3夜:「片翼の天使」などバトル曲が中心。楽曲パラデータ深掘り解説編

 最後に8月1日に開催された第3夜のレポートをお届けしていこう。第3夜はバトル曲が中心の回となっている。

1.「更に闘う者達」

 中ボス戦などで流れるこの楽曲はシャッフルのハードロック調であり、リズム隊に非常に力が入っていることが明かされた。なんとドラムだけで7トラックも使用しているそうだ。

 しかし、この曲の面白さは単なるロックの模倣にとどまらない部分にある。13、14トラックに入れられたシンセっぽい音について「1チャンネルで鳴らして、もうひとつは追っかける形でディレイになってる。これを、一緒に鳴らすと結構浮遊感が出る」と解説された。

 「こういうハードロックっぽいリフの中に、ブルース感が何もない綺麗なアルペジオが流れるとちょっと印象的」と植松氏は語り、単音で聴くと柔らかくロックっぽくない音をあえて「ガッチャンコさせちゃう」ことで、「FF7」ならではの独特なサウンドを生み出していた。

 また、オルガンのグリッサンド奏法についても、「一音一音打ち込んでいくと鳴るかっていうとそうではなく、このグリッサンドを出すために3チャンネル使っている」と、プログラミングにおける細かなこだわりが披露された。

【【Video Soundtrack】更に闘う者達(ファイナルファンタジーVII)】

2.「片翼の天使」

 「FF7」を象徴する本楽曲について、植松氏は「よくできたなこんな曲、って思った」と率直に語る。本作の根底には「破壊的でいて、常に次へ行きたがってるっていう思想を持ったオーケストラ音楽を作りたかった」という考えがあり、「あえてぶつけるとしたら、ジミ・ヘンドリックスとイーゴリ・ストラヴィンスキーをガッチャンコさせたらこんな感じになるんじゃないかな」と、壮大な試みであったことを明かした。

 斬新さゆえ「社内では最初、評判悪かった」というが、声楽出身の浜渦正志氏の協力で「スタジオで録音したものをそのまま流せなくて、歌ってもらったのをひたすら圧縮して内蔵音源として持たせた」という手作業の裏話も語られた。

 冒頭の和音も「Eメジャーなのかというとセフィロスがこんな明るいのかとなる。Eマイナーにするとセフィロスはこんなに暗いのかとなる。だから三度の音を四度でとったりしていて」とあえて不協和音にし、「音でキャラクターを表現している」と強い信念を覗かせた。

【【Video Soundtrack】片翼の天使(ファイナルファンタジーVII)】

第3夜:メインテーマの物足りなさを「FF7」で解消した

 このほかにも第3夜では、「J-E-N-O-V-A」で無茶なアルペジオが続くベースラインについて、The Black Magesのライブでベースを務めていたスクエニの河盛慶次氏の笑い話が披露されて会場を沸かせた。

 「完全なるジェノヴァ」については、3と4チャンネルが6拍子を刻む中で、5チャンネルがアクセントをずらして入ることで「ちょっとつんのめってるように聞こえる」というリズムの複雑さが解説された。そして「闘う者達」、「神の誕生」、「星の危機」、「スタッフロール」などの楽曲についても語られている。

 なお、「FF」のオーケストラコンサート「Distant Worlds」で指揮を務めるアーニー・ロスさんが、植松氏のためにO-1ビザ(世界的に認められた芸術家しか取れないビザ)をとってくれた話や、海外公演が多い植松氏ならではの苦労話(笑い話とも言う)などもたくさん明かされたので、そちらもぜひ併せて聞いてみてほしい。

テキストでは伝わらない「ノビヨマジック」の真価

 全3夜にわたって行われた「FF7」のパラデータ解説は、単なる過去の振り返りではなく、植松伸夫という稀代の作曲家の思考回路を覗き見るような、極めてスリリングな体験であった。特に第3夜で語られたバトル曲の数々は、単なるBGMの枠を超え、いかにしてプレイヤーの感情を揺さぶり、ゲーム体験を拡張するかという命題に対する、当時の植松氏の野心的な解答であったことがよくわかる。

 「片翼の天使」の冒頭の和音が持つ意味合いや、「更に闘う者達」の複雑なグリッサンドの構築など、パラデータとして音を分離して聴くことで初めて理解できるノビヨマジックの数々は、テキストで読むだけではその真価の半分も伝わらないだろう。植松氏の「やりきった感はすごくあったけど、FF8を聴いたらFF7なんかボロボロだな」という言葉は、次なる「FF8」解説イベントへの期待を否応なく高めてくれる。

 当時の熱気と試行錯誤の軌跡を、ぜひアーカイブ配信のチケットを購入し、自身の耳で直接体験していただきたい。(各楽曲、ここでは語っていない秘話もまだまだあります!)

ちなみに、イベント前だと「番組内で名前を呼んでもらえるワインの差し入れチケット」なども購入できる。余談だが、第3夜で筆者も初めてワインを差し入れして名前を呼んでもらう光栄に預かった。「FF8」を解説するイベントの詳細はまだ決まっていないが、「我こそは」という人は、自由が丘hyphenからの情報を必ずチェックしておこう

「『ff 〜植松が音楽のことを語りたがってるんですけど、よろしかったでしょうか?(仮)vol.7』」開催概要

開催日:2026年7月18日、7月25日、8月1日
会場:自由が丘hyphen
アーカイブ視聴期間:9月8日23時59分まで

□「ff vol.7 第1夜」の配信チケット販売ページ
□「ff vol.7 第2夜」の配信チケット販売ページ
□「ff vol.7 第3夜」の配信チケット販売ページ