【特別企画】

【EVOJ2025】「鉄拳8」部門決勝レポート。シーズン2の開幕戦は古豪、韓国が日本を席巻!!

GFで待ち受けるは大ベテラン・Knee選手。彼の牙城を崩す若手は現われるのか

 ウィナーズサイドでは、初代「鉄拳」からプレイを続けている韓国の大ベテランKnee選手が勝ち上がっていく。

 Knee選手は、守備寄りのプレイスタイルで鉄拳界の頂点に君臨し続けた選手だ。「鉄拳8」は「アグレッシブ」をテーマとするゲーム性であるため、他のゲームに比べて圧勝や惨敗というケースが多く、勢いで勝つ、負けると言ったシーンが他のゲームより頻発する。そんな「大事故」が常に付いて回るゲームで、守りを軸にして勝つのは非常に難しいため、Knee選手にとって今作は最も相性の悪いゲームとも思われた。しかし、今年のKnee選手は何かが違う、相撲でいえば横綱相撲というよりかは、土俵際で生き残るというイメージだ。

 グランドファイナルへの切符1つ目を争うウィナーズファイナルではロウの高速の攻めを活かして勝ち上がってきたMangja選手と対決。Knee選手は今まで戦ってきた選手は全てオフェンス能力を活かしてここまで勝ち上がってきた選手だが、当然この選手もここまでフルスロットルの攻めを展開してきた難敵だ。

ウィナーズサイドのGF進出を争うKnee選手(左)とMangja選手(右)の両名。この試合から3試合先取のルールとなる

 ここでMangja選手はさらなる策を弄する。今まで使用してきたキャラクター、ロウではなく、シーズン1で追加されたポーランド首相、リディアを投入。

「鉄拳7」からDLCキャラクターで登場したリディア。「鉄拳」世界におけるポーランドの首相であり、空手を用いて戦うファイターだ。「鉄拳7」時代は猛威を奮ったリロイ・スミスにも匹敵するような圧倒的なスペックを誇っていた

 リディアのファイトスタイルは「鉄拳」シリーズの主人公の1人、風間仁と同じく空手だが、仁のものとは動き方が違う。仁はリーチを活かした距離戦や、攻撃を受け流してスキを発生させる受け流しなど、やや防御に偏った動きが可能だが、リディアは彼より手数の多さや、攻撃的な構えに特化したスタイルで、同じ空手でも攻撃能力に秀でた性能をしている。前作では圧倒的なオフェンス性能を見せた天上天下の構えは今作でも健在で、これを用いてKnee選手の盾を打ち砕こうとする意志が感じられた。

 しかし、ここでは今までスロースターター気味であったKnee選手が1試合目を先制。これで作戦は機能しないと判断したか、MAJYA選手は今まで勝ち上がってきたロウへキャラを戻す。ここで一気にロウの手数を活かす戦いになるのか? と思ったがちょっとした珍事がここでも見受けられた。何発も連続で攻撃する技を多く持つのが特徴のロウだが、ほとんど連携技を2発攻撃までで止めているのだ。そしてブライアンも攻撃回数の多いコンビネーションがあるはずだが、こちらも2発程度で攻撃を止める立ち回りとなった。お互いに攻撃回数の多い連携技を使えばそこを付け入られ、手痛い反撃を受けるだろうと判断してのことだろう。

 なので、この試合ではいつ相手の予想を裏切るか、3発以上の攻撃を放つかが1つのポイントにも見られた。しかし、ここは対策の鬼であるKnee選手。3試合先取のルールになったことでしっかりと相手の手癖を読む時間が取れたためか、チャンスでしっかりと大ダメージを取る立ち回りを決めていった。

 体力の一定割合からレイジが始まるため、体力が増えると結果レイジに突入もしやすくなる。そのため、体力調整をしっかりと行ない、大ダメージコンボを使ってレイジに突入しないまま相手を倒し切るのが逆転負けを喫しないコツでもある。Knee選手は守備を軸としながらも、そういった大ダメージを与えられるところではしっかり大ダメージコンボを決め、いわゆる「事故負け」をしない横綱相撲の勝ちパターンをこの試合では構築していた。

 2試合目の3ラウンド目ではまたまた「鉄拳8」では珍しいタイムアップ直前での体力僅差の奪い合いが発生。ここは今まで同じシチュエーションで勝利をもぎ取っていたMangja選手が決めるか!? と思ったが最強の盾を打ち破ることは叶わず、2試合目もKnee選手が勝利した。

 人読みを重視するためか、結果としてスロースターターになりがちなKnee選手が、珍しく2試合を連取、MAJYA選手はここから3連勝を達成しなければならない。だが、先にエンジンが温まってしまったKnee選手を猛攻で突破することは能わず、ウィナーズサイドからグランドファイナルの切符を手にしたのはKnee選手だ!

 そしてもう1つのグランドファイナルの行きの切符を争うルーザーズファイナルは先程ウィナーズサイドでKnee選手に敗れたMAJYA選手と、同じくKnee選手に敗れ、ここまで勝ち上がってきたMulgold選手の対戦だ。どちらも高いオフェンス能力を誇るので、バチバチのど派手な乱打戦が期待できる。

 MAJYA選手は今回は最初からロウを選択。Mulgold選手は今まで使い続けてきたクラウディオを続投で開戦となった。

 ここで光っていたのがMulgold選手の圧倒的オフェンス力と空間把握能力だろう。「鉄拳」では壁を有効活用するのが勝利への近道だ。相手に空中コンボで大ダメージを奪うのも大事だが、さらにダメージが期待できる壁際へ押し込んでいく戦い方も「鉄拳」の醍醐味であり、重要な駆け引きである。一度相手を壁に押し込んだら、相手が壁際からの脱出ができないような動き、例えば相手が壁から逃れるような方向へ移動するのならば、その移動方向に当たりやすい攻撃を行なったり、相手と位置が入れ替わって、自分が壁際に追い詰められてしまうような行動を自重したりすることが重要になる。これにより常に相手を壁際から逃さないのが「鉄拳」における勝利の方程式だが、超上級者同士の対戦で徹底するのは至難の業。しかし、Mulgold選手はこれをいとも容易くやってのけていた印象がある。特に壁際に追い詰めてからの溜め攻撃を用いた戦法が今大会では光っていた。

EVO Japan 2024では、壁の活用が光っていたのが覇者・CHIKURIN選手のリリだった。壁に追い詰め、相手が回避しにくいセットプレイへ連携して一気に体力を奪う。この択一攻撃の命中率の高さを昨年筆者は「魔法」と例えたが、今年の魔法使いはMulgold選手だった

 溜め攻撃をガードし続けているとガードが解かれ、そこからの追撃で大ダメージ。溜めが来ると判断して攻撃で止めたり、横移動をしようとするとタメを途中で解除して迎撃。今大会ではガードし切ろうとして被弾する選手が多かったが、この試合では途中で開放することで被弾させるパターンで結局魔法はかけられたままだった。

 この強力な攻めを展開するために、壁際へ追い込むには基本的には攻め手を休めず、相手を後ろ後ろへと運ぶこむことが多いのだが、Mulgold選手は守りも確かで、壁に追い詰められていく過程でいつの間にか横移動を用いて相手との位置を入れ替えつつ反撃を行ない、するりと闘牛士のように攻撃を避けて相手が気づいたら壁際へと追い込まれていく。ここも魔法のようなディフェンススキルである。

高度な防御スキルを持っているからこそか、普通なら大味な選択肢であるアーマー判定がある大技・レイジアーツを用いての切り返しも成功させる。読まれてガードされていれば大ダメージの確定反撃をいれられてKOされるのがオチなのだが、これすら通っていた

 最後は、体力が少ない時に特定の条件で発生するするスーパースロー演出が発動、上段攻撃と下段攻撃がすれ違う中、勝利したのは下段攻撃で足元をすくったMulgold選手のクラウディオ。再びKnee選手へ挑み、TWT2025開幕戦の王者を目指す!!

とうとうグランドファイナル! 精密機械Knee選手にMulgold選手の魔法は通じるのか

 いよいよ2025年最初の「鉄拳8」大会の行方を占う最終決戦の幕が上がった。ラウンド1ではいきなり猛攻を仕掛けたMulgold選手のクラウディオのラッシュにて8割近くの体力を奪われるKnee選手のブライアン。ここでクラウディオは続けざまにヒート状態を発動。イケイケの猛ラッシュは対策の鬼でも止められず。そして2ラウンド目でも体力4割 vs 9割強と圧倒的な体力差を付けられる。ここではある程度抗い体力差を徐々に縮めていくも、横移動に強い打撃を置かれて2ラウンド連続でMulgold選手が獲得。

2試合目でもMulgold選手の猛攻に対しKnee選手が手を焼いている様子が見られた。致命傷は避けているのだろうが、それでも体力差は徐々に広がったり、再び壁際からの脱出を試みたところに横移動対策の打撃を撒きKO。Mulgold選手は難なくリセットへリーチをかける
長い間EVOでの戴冠経験から遠ざかっているKnee選手。圧倒的なオフェンス能力で食らいつくMulgold選手にリセットへ王手をかけられ、大ピンチか!? 対策・長期戦に強いというKnee選手がここで珍しくコーチングを要請しているのも不穏な空気が感じられた

 要所要所でしゃがみ行動でクラウディオの攻撃を回避し、生じたスキへ反撃を叩き込むスタイルで徐々にクラウディオの体力を奪っていき1ラウンド目をやっと先取する。2ラウンド目でもしゃがみからのトゥースマッシュでの反撃が決まりラウンドを連取。「鉄拳8」シーズン2からは、2D格闘ゲームのように、カウンターヒットを成立させたり、確定反撃を成功させた際は画面の端にそれを知らせる文字が表示されるように変更された。Knee選手の側に表示される「Counter」と「PUNISH」の回数が、目に見えて増えていっていた。

 しかし、とうとうこの時間がやってきてしまったのか。4試合目、増えていったのは「Counter」と「PUNISH」の回数だけではなかったことに気付かされる。これまで魔法のヒット率を誇っていたクラウディオの壁際での溜め攻撃を用いた攻めが、遂に横移動にて回避されてしまったのだ。これまでTOP8に残った選手をしても圧倒的な命中率を誇っていたこの技が破られてしまった。そしてそれを証明するかのように、Knee選手はこの試合を3ラウンド連取して圧勝。次の試合でKnee選手が勝てば優勝決定、Mulgold選手は崖っぷち、だが勝てばリセットがかかり優勝への望みをつなぐことができる。

今までMulgold選手の快進撃を支えていた壁際でのセットプレイが遂に破られる。それだけでなく、明らかにMulgold選手がKnee選手によって壁際に追い詰められる時間が増えていた。今まではどんな選手に追い詰められてもスルリと壁際から脱出していたのだが、それをKnee選手は許さなくなっていた

 いよいよ迎えた5試合め。ここでMulgold選手はもう1つの切り札を切る判断を行なう。それはもう1つのメインキャラと言ってもいい中国拳法使い、フェン・ウェイの投入だった。

 フェン・ウェイは、高い攻撃力、壁際での爆発力はクラウディオにも決して引けを取らない攻撃的なキャラ。そしてKnee選手は人対策・キャラ対策へ時間をかけるタイプのプレイヤーなので、ここで手を変え品を変えるのは理にかなっている判断だ。

 だが、Knee選手のもう1つの顔はどんなキャラクターでも高い練度で操れることだ。前述の最高段位全キャラクター達成の逸話がそれを証明している。その知識と経験を活かしてか、ブライアンの勢いは止まることなく1ラウンド目はブライアンの猛ラッシュで決着。手を休めないといわんばかりに猛攻を仕掛け、あっという間に体力を奪い去っていくブライアン。相手の攻撃を横移動で回避してからコンボ始動技を叩き込んだり、「鉄拳」の特徴である「視認できない速度の下段攻撃」にすら対応して防御からの反撃をこなして2本とも連取。念願の優勝へリーチをかける。

ある意味一番のコミカルシーン。フェンの1LKは高速で足元を掬う対処が厄介な技。それをKnee選手はあっさりガードしてからニブレで反撃してKO。その瞬間実況・解説の両者が「なんでガードしてるの~~~??」と同時に発するツーカーの仲の良さを発揮していた

 完全に対応完了と言わんばかりの横綱相撲。7年ぶりの大規模大会優勝がかかった大ベテランはキャリアハイは今では!? と思うばかりのスーパープレイを見せる。ラウンド開始時のファーストタッチから完全に読み勝ちコンボを決め、壁際を背負うも相手の選択肢を読み切り最大リターンの見込める横移動からジェットアッパーでの空中コンボ>ウォールブレイクを発生させて相手を押し込む。最後は上段派生部分をしゃがんで回避してからの確定反撃で圧倒的な対応力を見せ詰めての戴冠劇を見せた!!

最後も相手の上段派生を見切って、小さなダメージをしっかり取ってのKO。画面左側の「PUNISH」の文字が「お前の考えていることは全てお見通しだ」と訴えているかのようだ

40歳越えの大ベテランが見せた優勝劇。後進への道も整備しつつ、彼の旅は続く

 40歳オーバーの大ベテランが成し遂げた今大会の優勝。いくら格闘ゲームが30~40代の選手でも活躍できる種目だと言っても、この偉業を成し遂げるのは決して楽な道ではない。反応速度、判断の処理、正確な操作など、年齢を経るにつれて衰えという名の決して逃れることができないことから派生する多くの問題はプレイにとって大きな妨げとなる。だが、Knee選手を優勝を支えたのはその「年月」である。

 長年のプレイ経験から構築された膨大なデータが、彼の危機をギリギリで支え、そして反撃の糸口となっていたのは間違いないだろう。また、この後行われた優勝インタビューでは、いくら大ベテランとなっても、1プレイヤーとしてまだまだ簡単にはそう道を譲らないぞという意思を感じられた。

 何歳になっても長く遊べる娯楽、それが格闘ゲームの魅力の1つであるということを改めて痛感した今大会であった。

 そして、Knee選手が述べているように、まだまだ「鉄拳8」の2年目には未知の部分が存在する。その一例がKnee選手が戦いたい国として挙げたパキスタンの選手、そしてトッププレイヤーの1角であるArslan Ash選手やAtif選手の動向だろう。独自の攻略文化を持っている彼らは、この短期間でもすでに牙を研いでいることだろう。その実力のヴェールが明らかになった時、まだ我々の知らない「鉄拳8」シーズン2の姿が見えてくるのかもしれない。

 また、今後ゲームバランスの改訂も継続的に行なわれるが、筆者の気になる話題は次に参戦が決定したDLCキャラクター「ファーカムラム」の存在だ。「鉄拳7」から参戦した彼は高い攻撃力と長いリーチ、そしてその大きな体躯からは想像できないような機敏な動きを誇り、当時格闘ゲームシーンを席巻した強力なキャラクター、リロイ・スミスにも実は引けを取らない非常に強力なキャラクターだった。そして「鉄拳8」でのDLCキャラクターは参戦するにあたって新しい固有システムを実装される可能性が高い。今までのDLCキャラクターは何かしらの固有システムを搭載されていた。果たして彼に実装されるシステムは何なのか? まだまだ話題には事欠かなさそうだ。