【特別企画】

本日は「GANTZ」第1巻発売から23周年!

謎の星人との命がけの戦いを展開する日本SFコミックの金字塔

【「GANTZ」コミックス1巻】

2000年12月11日 発売

 黒い球体“ガンツ”によって死から蘇生した者たちが、異形の星人との死闘を強制される――。「SFは受けない」と言われた時代に連載を開始しながらも、異例の大ヒットを飛ばした「GANTZ」。コミックス第1巻が発売されてから今年で23周年となる。

 「GANTZ」は漫画家・奥浩哉氏の代表作であるSFコミックだ。集英社の週刊ヤングジャンプに2000年7月から2013年6月までと、実に13年もの長期に渡る連載となった。全383話、コミックスは全37巻という大作である。2004年にはTVアニメ、2011年には嵐の二宮和也さん主演による実写映画化、そして2016年にはフルCGによる3Dアニメ映画が制作されている。また2018年には舞台化もされており、他にもスピンオフ作品が現在でも連載中など、今日に至るまで根強いファンを持つ人気作だ。

 物語の主人公は、平凡な高校一年生の玄野計。パッとしない高校生活を送っていた彼は、ある日地下鉄の線路に落ちたホームレスを幼馴染みの加藤勝とともに助けるが、2人はそのまま電車に轢かれて死んでしまう。しかし次の瞬間、なぜか2人はとあるマンションの一室にいた。部屋には玄野たちと同様にかつて死んだことがある人間が集められており、その中央には1メートルほどの黒い球体が鎮座していた。そして玄野たちは謎の球体“ガンツ”によって転送され、理由も知らされないまま異形の星人たちとの戦いを余儀なくされる。

【【劇動版】『GANTZ』Ep.01 │ヤンジャン漫画TV】

“定石を覆す予想外の展開”が続く「GANTZ」のストーリー

 本作は、20世紀の最後の年である2000年に連載がスタートしている。SF作品が数多く存在するアニメとは違い、当時のマンガ業界では「SF作品は読者の受けが悪い」と言われていた時代だったのは前述の通りで、作者の奥浩哉氏もことあるごとに「SFはダメだ」と編集部から反対されていたということだ。しかしそんな逆境にもめげず「GANTZ」はヒットを飛ばし、今では世界中の読者を魅了する作品となっていることは周知の通りだ。

 地に足の付いたSF設定や意表を突く星人のデザイン、マニア心くすぐる兵器類などのガジェットと、本作は実にさまざまな魅力にあふれている。そんな中で、本作最大の魅力とはいったい何だろう? 筆者の個人的な見解であるが、「GANTZ」の一番の魅力は“定石を覆す予想外の展開”、これに尽きると考える。

 例えばバトル系マンガであれば、主人公は努力の末仲間たちと共に強くなっていき、それに連れて敵もパワーアップしていくものだ。だが本作の読者であれば、まだ序盤ともいえるエピソードで登場した千手観音の圧倒的な強さに、筆者と同じ絶望を感じたことだろう。それまでの星人とはケタ違い、というにはあまりにも無慈悲な反則級の強さによって、主人公である玄野以外の仲間たちが全員殺されてしまうのだ。結果、本作において“仲間と共に戦い抜く”というバトルものの王道的な展開は否定され、続くミッションで玄野はたった1人での戦いを余儀なくされる。

 このように、本作では人命の軽さも際立っている。なんと主人公の玄野があっさり死んでしまうという衝撃的な展開が、物語中盤に待っているのだ。マンガ的お約束であれば主人公の死というものは通常起こりえないし、例え起きたとしてもなんらかの重大な危機を回避するための犠牲であったり、仲間を助けた末の結末であるなど、ドラマチックな理由が用意されているものだ。だが本作で描かれる玄野の死は、他のキャラクター同様あまりにも軽く、あっけなく訪れる。そのため次の大阪編では、主人公の玄野が不在のまま物語が展開する。

コミックス21巻から始まる大阪編では、死亡した玄野に変わって加藤が主人公になる。本来の主人公が登場していないにも関わらずこのエピソードは特に人気が高く、2016年には大阪編単独で3DCGアニメが劇場公開されている

 さらにこの大阪編では、玄野を殺害した張本人である吸血鬼もろともガンツ部屋へ転送されてしまい、以後仇敵である吸血鬼たちもガンツメンバーとして星人との戦いを余儀なくされるという、まさに呉越同舟の驚愕的な展開が待っている。

 このように、本作ではそれまでのマンガでは通常あり得ないようなストーリーが展開されることが非常に多い。作中の登場人物はもちろんのこと、我々読者でさえも一瞬の油断さえできないような、緊迫した物語が繰り広げられるのだ。この予測不可能な常識外れの展開こそが「GANTZ」最大の魅力であることは、多くの読者に頷いて頂けることだと思う。

 もちろん以上は「GANTZ」の数多い魅力の一端に過ぎない。連載開始より23年経った今、そんな本作の見どころの数々を改めて振り返ってみたい。

玄野をはじめとした作中の主要登場人物

玄野計(くろのけい)

 主人公。「昼行灯」とあだ名されるような平凡な男子高校生だが、子どもの頃は誰よりも勇敢で、加藤があこがれを抱くほどの存在だった。星人との死闘(ミッション)を繰り返すうちに、日常では体験できない生死を賭けた戦いに高揚感を覚え、秘めた才能を急速に開花させる。やがては東京チームのリーダー的な存在へと成長していった。巨乳とグラビアが好き。

加藤勝(かとうまさる)
 玄野の幼馴染み。長髪にオールバックと威圧的な風体だが、正義感が強く心優しい少年。星人といえど殺すことを厭うため、殺傷能力のないYガンを好んで使用する。弟と2人暮らしで、穏やかな生活を維持するために奮闘する。大阪編では再度死んでしまった玄野に代わり、東京チームのリーダー役となる。

西丈一郎(にしじょういちろう)
 玄野たちより先にガンツメンバーとなっていた中学二年生。ガンツ部屋へ呼ばれた死因は万引きで逃げた際の転落死。プライドが高く歪んだ性格で、冷酷なサディスト。ガンツのことをある程度把握しており、個人ブログ“黒い球の部屋”を運営してガンツの情報を密かに発信・収集している。やがて訪れるカタストロフィを予見しており、それを待ち望んでいる節がある。

風大左衛門(かぜだいざえもん)
 かっぺ星人編から参加。筋骨隆々の大男。髭面で老けて見えるが、実際はまだ高校生らしい。八極拳の使い手で、最強の男となるべく上京した。口べただが加藤同様正義感にあふれ、玄野たちと協力して戦う。ミッションでは武器を使わず格闘戦で戦う。死因は射殺で、新宿大虐殺時に和泉に撃ち殺された。

下平玲花(しもひられいか)
 かっぺ星人編から参加。玄野とは違う学校に通う高校生で、人気グラビアアイドル“レイカ”として活動していた。オフで新宿を訪れていた際に新宿大虐殺に巻き込まれて死亡、ガンツ部屋へ転送される。やがて玄野に強く惹かれていくようになるが、小島多恵の存在により想いが叶わないと知り、ガンツに頼んで玄野の複製を作り出してしまう。

桜井弘斗(さくらいひろと)
 かっぺ星人編から参加。中学生。いじめに苦悩し掲示板に自殺をほのめかす書き込をしたところ、知り合った坂田に超能力を伝授される。その力でいじめた相手を殺害するが、以後良心の呵責に苛まれるようになる。死因は風やレイカ同様、新宿大虐殺での射殺。ミッションでは坂田と共に超能力を駆使し、最大戦力の一端を担う。

岸本恵(きしもとけい)
 玄野たち同様、ねぎ星人編から参加。物語初期のヒロインで、明朗快活だがやや周囲への思慮に欠ける性格。リストカットでガンツ部屋に転送されたが実際は死亡しておらず、本来の岸本本人と部屋へ転送されて来た岸本と、同一人物が2人同時に存在することになってしまう。スピンオフ小説「GANTZ/EXA」では重要人物として登場した。

和泉紫音(いずみしおん)
 かっぺ星人編から参加した、長身長髪の美男子。かつてはガンツ部屋にいたが、100点獲得して解放され、その間の記憶は失われている。刺激のない日常に退屈していた折、西のサイト“黒い球の部屋”に魅了されて新宿大虐殺を起こし、再度死亡してガンツ部屋に転送されようと目論んだ。虐殺で387人を射殺しており、かっぺ星人編からの参加者はほとんどが和泉に殺害された者となっている。

坂田研三(さかたけんぞう)
 かっぺ星人編から登場。桜井に超能力を伝授した人物であり、坂田自身も別の人物から能力を伝授されている。本人も桜井同様いじめを受けた過去があり、その相手を超能力で殺害している。そのため内心では桜井には自分のようになってほしくないと思っており、なにかと彼のことを気にかけている。

小島多恵(こじまたえ)
 おとなしく目立たない印象の、玄野の同級生の少女。罰ゲームによって玄野から告白されて付き合うようになるが、やがて互いに真剣に愛し合うようになる。とあるミッション中に偶然ガンツメンバーの姿を撮影してしまい、そのせいで人間であるにも関わらず緊急ミッションの標的にされてしまう。

23年前に到達していた、驚くべき「GANTZ」の先進性――時代を先取りした本作の注目点とは?

 23年前に連載がスタートした本作は、今日で言うところの“デスゲーム”系作品の先駆的なタイトルとして分類することが可能だ。本邦においては高見広春氏の小説「バトル・ロワイアル」が1999年に刊行されており、海外に目を向けると映画「SAW」が2004年に公開されている。これらはその後のデスゲーム系の嚆矢(こうし)となった作品だが、本作「GANTZ」はこの2作とほぼ同時代に世に出ている。

 登場人物同士が生死を賭けて殺し合うのが「デスゲーム」系の作品における基本的な骨子であり、その点では人間と星人が死闘を繰り広げる「GANTZ」はやや趣旨が外れるかも知れない(※)。しかし、後述するように“(多くは正体不明の)他者に戦いを強要される”、“一定のルール下で殺し合いが行なわれる”、“条件の失敗やルールの逸脱、もしくはゲームからの離脱は死を意味する”など、現在ではお馴染みとなっているデスゲーム系作品の基礎的な設定を、「GANTZ」は既に2000年当時で備えていたことになる。この点において、本作は非常に先進的であったといえる。

※作中ではガンツメンバー同士が殺し合うエピソードがある(コミックス15~16巻)。またTVアニメ版でもメンバー同士が殺し合うオリジナルエピソードが存在する(第二期22~26話)

 また先進的にCGを導入しているという点でも、本作は著名である。奥浩哉氏の前作「01 ZERO ONE」同様、本作でもSF作品としての硬質な世界観とCGの質感が非常にマッチしている。だがCGは主に背景や効果に使用されており、人物やメカなどはすべて奥浩哉氏の手描きであるとのことだ。

 さらに、本作の転送シーンも非常に独特だ。物質をデータに変換し別の場所で再構築するという移動方法は、TVドラマ「スタートレック」シリーズ(1966~)や映画「ザ・フライ」(1986)などでも見られる古典的な手法だ。だが本作ではそれを“頭頂部から下方へ輪切りのように徐々に水平に消失”していき、別の場所に現われるときは逆に“頭頂部から徐々に下方へ出現”していくという形で表現している。もちろん水平に輪切りになった部分は、人体の内部が断面になって丸見えになる。

 上部からスキャンしデータ化していくという一連の動作を、このようにビジュアルとして見せた点は画期的だった。後に鬼頭莫宏氏のマンガ「ぼくらの」(2004~2009連載)などでも、同様の転送/出現シーンが描かれている。

 以上のように本作は、多くの点で非常に先駆的な部分が存在する作品だった。その魅力は、20数年経った現在でも薄れていない。「GANTZ」本編の基本設定を受け継いだスピンオフ作品がいまだに展開中なのも、その証左といえるだろう。

仲間やヒロインのみならず、主人公までもが死亡!? 命の軽さが際立つ「GANTZ」独特の死生観

 繰り返しになるが、本作において扱われる命は驚くほど軽い。主人公やヒロイン、そしてその仲間たちという、多くの作品であれば“安全圏”にいるようなキャラクターでさえ、容赦なく死亡し、物語から脱落していく。ヒロインや仲間たちが次々に死亡し、そのポジションは新たな登場人物に取って代わられていく。前述の通り、主人公さえ死んでしまうことがあるのだ。

コミックス20巻のラストでは、ガンツメンバーと敵対する吸血鬼たちによって玄野が殺害されてしまう。続く大阪編では、死んだ玄野に代わって加藤がチームのリーダーとして活躍する

 ガンツによってミッションに参加させられるメンバーは、既に死亡している人物だ(※)。死亡している人物だからなのか、それともコピーされた人間だからなのか……、まるで捨て駒であるかのように次から次へと補充され、ガンツによって死地へと転送されるメンバーの命はあまりにも軽い。しかもたちの悪いことに、ガンツは子どもや老人など、どう考えても戦闘に不向きなものであっても無差別に部屋へ転送してしまうのだ。

※……岸本の例でわかるように、厳密には死亡した本人が復活したわけではなく、生前の情報から複製されたコピーだと言える

 実はガンツには、ミッション中に死んだ者を再生させる機能がある。詳細は後述するがミッションで獲得した得点100と引き替えに、仲間を生き返らせることが可能なのだ。死んだ仲間を復活させられるという点では「ドラゴンボール」という偉大な先駆者が存在する。しかし、同作では一星球から七星球までを集めるという行為自体には特別な危険性が存在しているわけではないのに対し、「GANTZ」では自らの命すら危ういミッションで生き残り、100点という高得点を獲得しなければならないという、非常に困難な条件が課せられる。

 そのため、本作では常に“誰が生き残るのか?”、“次に死ぬのは誰か?”、そして“はたして復活できるのか?”という緊張感が付きまとう。いささか不謹慎ではあるが、連載当時「次に死ぬのは誰だろう?」と予測しながら読んでいた読者も決して少なくないはずだ(もちろん筆者もそのうちの1人である)。このような無情とも言える死生観こそが、本作の大きな魅力になっていることは否めないだろう。