インタビュー
【特別企画】新たなフィギュア世界を提示する造形! 「S.H.Figuarts ブルース・リー」
2015年8月14日 00:00
“眼力”を感じさせるリアルな造形を、マスプロダクトで実現できる技術
エム アイ シーはバンダイをはじめ様々なメーカーとビジネスを展開する造形メーカーだ。アニメキャラクターだけでなく、プロ野球選手のスタチューなども手がけている。そういった造形ノウハウと技術を、バンダイのアクションフィギュアで活かせないか、というところで、バンダイとエム アイ シーで「ブルース・リー」の企画が生まれた。日本のみならず香港や中国、アメリカのS.H.Figuartsでのマーケットを考え、商品化を進めていくこととなった。
二条氏はブルース・リーに強い思い入れを持っている。出会いは子供の頃のテレビでやっていた映画だった。その後二条氏は大人になってから「没後○○年特集」などで、ブルース・リーが取り上げられていくのを目にして、彼への興味を再認識し、意識的にブルース・リーの截拳道や彼の生涯を調べ、資料を集めてのめり込んでいったという。その想いがフィギュアに込められているのだ。
「知識が深まってくると映画の見方も変わるんですよね。截拳道は映画という媒体で、初めて“総合格闘技”という概念を映画で提示したと言われています。映画のブルース・リーの動き1つ1つに截拳道の思想が活かされているのです」と二条氏は語った。
今回の取材でも二条氏は「平手を前に出し、拳を構える截拳道のこの構えは、敵の攻撃を平手で払い拳をたたき込むポーズなんです」など、濃い解説を入れながらフィギュアのポーズを調整していた。ヌンチャクや棍棒に関しても、こういった武器を映画の中に取り入れたのは、ブルース・リーの弟子にフィリピンの伝統武術「カリ」の達人がいて、そのカリの武器術によるものだという。今回の取材では、二条氏のブルース・リーの濃い知識の一端を知ることができた。
「S.H.Figuarts ブルース・リー」の原型制作は、永尾氏がバンダイ側の担当者と二条氏の熱い想いを受け止めて進行していった。綿密な打ち合わせを重ねながら、永尾氏がこれまで培った造形・アクションフィギュアのノウハウを本作につぎ込んでいったという。その上で、本商品は多くの人に手にとって欲しいフィギュアとして企画された。
リアルなフィギュアとしては海外では数万円のものが主流だ。「S.H.Figuarts ブルース・リー」はそれと比べれば低価格で、それでいながらリアルな質感があり、他の製品にはないこだわりを盛り込んでいる。「私達のように子供の頃からブルース・リーが好きな人はもちろん、ブルース・リーを知らない若い人にも興味を持って欲しい」と二条氏は語った。
そして、本商品の大きな特徴である“顔”は、バンダイの「デジタル彩色」という技術で作られている。デジタル彩色とはいわば“印刷”ともいえる技術で、PC上で作った彩色データをそのまま立体印刷することで、クオリティを維持しつつ大量生産を可能とした。もちろん原型のデータ製作は試行錯誤をくり返していく。PC上のモデルは自由に拡大・縮小できるので、データ上で細部まで作り込み、そこから商品のサイズで“印刷”して作り込んでいった。
顔に関しては本物に近い“造形”と“印刷”の2つの要素をリアルにしなくてはならない。印刷側だけで似せようとしてもいわば「メイクでごまかす」形になってしまい、似なくなる。ブルース・リーの資料は映像や本などの2Dのもののみであり、究極の所では永尾氏の“腕”で「S.H.Figuarts ブルース・リー」の完成度は生み出されている。永尾氏は映像を見たり資料を探し様々な角度のブルース・リーの顔を見てデータを作り込んでいったという。
デジタル彩色が生み出すリアルな“顔”、ブルース・リーがこれだけ似せられるならば、今後も様々な人物がフィギュア化されるのだろうか? 二条氏は「実は課題が多い」と語る。特に女性の顔の表現は難しいという。特にデジタル彩色は彫りの深いメリハリのある男性を表現するにはぴたりと“ハマる”のだが、きれいでムラのない女性の顔を再現するには、リアルさ一辺倒とは違った表現方法が必要かもしれないというのだ。
「彫りの深い白人女性ならありかもしれないんですが、日本のアイドルのかわいらしさを再現するには、リアルなだけでは伝わらないかもしれない。女性を再現するには、男性とは違ったノウハウが必要になるかもしれないと思っています。結構デリケートなんですよ」と二条氏は語った。
造形の永尾氏は顔と共に、ズボン部分に特にこだわったとのことだ。どの足のポーズでも破綻しているように見えないしわのデザインは特に注意した。そして、可動を実現させるための関節のわずかな隙間といったレベルまで原型師は担当するという。ちなみに永尾氏は「S.H.Figuarts ブルース・リー」でカッと目を見開いた表情パーツがお気に入りだ。この表情はほとんど1シーンでしか見せず、しかも写真も正面のものばかりで横顔といった資料もなかったため、再現するにはかなり苦労したという。
本商品で最もリテイクを重ねられた部分はやはり顔の表情である。表情の選択も含め、何度もキャッチボールを繰り返して現在の原型となった。ズボンの股の表現、蹴りのポーズをいかに美しくするかというところは強くこだわった部分だという。
そして、顔の印刷データは写真の取り込みだけでは「S.H.Figuarts ブルース・リー」のクオリティは出せないと二条氏は強調した。「デジタル彩色技術があると、一見簡単に写真を貼り付ければリアルにできるという印象を与えがちですが、職人のセンスと蓄積された技術に負うところが大きい」と二条氏は語った。
「S.H.Figuarts ブルース・リー」は開発者達の溢れるばかりの熱い思い入れと、それを再現する原型師の技、そしてそれをきちんと製品化するバンダイの技術によって生み出されたのが今回のインタビューで改めて確認できた。そして生産技術という点でも、本商品は見逃せない作品であることも感じた。これまで玩具職人達が手作業で生み出していたクオリティを“印刷”で再現しようとする試みは、注目していきたいところだ。
このバンダイの技術はこれまで以上に凝った彩色を一定のクオリティで大量生産を可能にする。もちろんこの技術でこれまでの手作業が全てなくなるわけではない。アニメキャラクターは筆の質感が必要なデザインも多いだろうし、素材によっても手法は変わってくるだろう。しかし、「S.H.Figuarts ブルース・リー」が提示した新しいフィギュア表現、そしてそれを可能にした技術の蓄積はやはり驚かされた。さらなる発展とはどのようなものになるのか、期待したい。
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