インタビュー

「FFXIV」プロデューサー吉田直樹氏 G-STAR特別インタビュー

韓国サービスの気になる中身について。目標は「MMORPGで1位」、「同時接続10万人」

韓国サービスの気になる中身について。目標は「MMORPGで1位」、「同時接続10万人」

韓国語版「新生FFXIV」の運営プロデューサーを務めるチェ氏と吉田氏。少しだけ話すことができたが、人柄の良さを強く感じた

――運営プロデューサーのチェさんが「新生FFXIV」のコアユーザー過ぎてちょっと笑ってしまったのですが、彼は元々好きだったのですか? それとも仕事で始めたらハマった口ですか?

吉田氏: もともと韓国のゲーム業界にいる方、特に一線級で活躍されている方は、「Starcraft II」の時代にガチガチのゲーマーで対戦放送をストリーミングしていたような人たちがすごく多いのです。例えば今回G-STARでチェさんが、もともと古くからのマイベストフレンドと言って紹介してくれたのが、「Blade&Soul」のプロデューサーの方でした。チェさんの古くからのゲーム友達で、その縁で今回ちょっと会ってお話したのですが、彼もやっぱり「Starcraft II」のコアゲーマーでした。しかも、2人とも韓国版「WoW」の上位3%に入るくらいのコアプレーヤー。

 今回Actoz Softさんの方で次に勝負をかけるタイトルは何にしようという話し合いがあったそうで、「Blade&Soul」や「TERA」、「Guild Wars 2」など、あのあたりを社内みんなでひととおり試そうと、会社で費用をもってあげてプレイをしたそうです。「Blade&Soul」や「TERA」は比較のために、ですね。その際に、結局最後まで社員が残業をしてまで家に帰らず遊んでいたゲームが「FFXIV」だったから、「FFXIV」で勝負を賭けたいです、ということになったと伺いました。

 やっぱりチェさんも最初はGCD(グローバルクールダウン)が遅いなあ、と思いながらスタートしたらしいのですが、もともと「FF」が好きだったということもあって、すごく丁寧に作られているのでストーリーを追っていくうちにエンドに到達頃には、難易度が上がっていって、持ち前のレイド魂というのもあって邂逅編にもチャレンジして。ところが「WoW」の知識が逆に「FFXIV」のギミック攻略の思いつきに躓いたり……という感じで、結局Actoz Softの皆さんは、チェさん含め運営チームは全員がプレイしていて、なおかつものすごくハマって下さったという感じです。

――それはコアゲーマーである吉田さんと意気投合するのも早かったでしょうね。

吉田氏: もちろんそれもそうなのですが、何よりやはり説明の必要がない。アラガントームストーンといういわゆるMMO業界のトークンというシステムをゼロから説明する必要がないのはとても話が早いのです。MMORPGのトークン制に詳しくない方に対してアラガントームストーンやゾディアックウェポン、コンテンツドロップアイテムの関係性を説明しようとすると、ホワイトボードを使って図解をして説明をしなければいけない。

 こっちのコンテンツは確定ドロップだけど、そのジョブに対してのドロップがあるかどうかは期待値が何分の何で、このアラガントームストーンは週に制限が来るとはいえ、3週間したら必ず欲しいものが、強いものが手に入る。あとは時間をかけるゾディアックウェポンシステムみたいなものもあるよと。この概念を説明して「はー、なるほど」と言われたとしても、深いところまで理解するのはとても難しいことです。しかし、運営バージョンを決めたり、プレーヤーフィードバックに合わせた調整をする際には、とても重要なことです。ご自身もプレイして理解しているから、ちゃんとお互いに意見が言えるというのは、とてもありがたいです。

――あまりにもコアなファンでユーザー視点を持ちすぎると、それはそれで開発と視点が少しずれてくるところがあると思いますが、その点でのやりにくさはなかったのですか?

吉田氏: そこはないです。チェさんも何本もゲームを開発、運営してきた方ですので、開発の意見はとても尊重していただけています。具体的に今のグローバルバージョンを見て、韓国市場ではこういうスタートを切りたいですというのをはっきり提示していただいたうえで、ゲームデザイン的にはこう考えているのですが、これはどうですかというキャッチボールができるのです。そこは素晴らしいなあと思います。

 ゲームの開発や運営は忙しいので、自分が担当しているゲームであっても、コアにプレイすることはとても難しい。お客様から当たり前だろう!とお叱りを受けると思いますが、それをキチンとできている開発や運営は意外と少ないと思うのです。

 運営とお客様のズレという点では、開発都合や処理都合、長期的視点と短期的視点という形で、どのゲームにも存在してしまう問題です。ですが、それ以外の部分で、お客様が次に欲しかったコンテンツやシステム……、例えば「FFXIV」だとクラフターに対して、もう1つ何かモチベーションが欲しいという気運があるときに、じゃあ分解というものを2カ月先を目指して作っていこう、というような話がしやすくなります。プレイをしていないと、こうした方向のズレは、プレイしている場合に比べ、より大きく乖離していってしまいます。僕の中でActoz Softさんと組もう!と決めさせていただいた理由は、ビジネス面よりもその点が大きかったです。結果として、それがビジネスに繋がると思っています。

――それにしても、韓国からグローバル版を遊んでいるユーザーがすごく多いですね。

吉田氏: とても嬉しいです。

――韓国未展開の日本語版のオンラインゲームを、韓国のユーザーがわざわざ遊ぶというのは時代の変化を感じました。韓国のゲームファンは、日本のゲームをリスペクトしているのだけど、やっぱりどうしても認められないというか、例えば「MHF」にしても「大航海時代オンライン」、「PSO」にしてもそうですが、韓国はあらゆる日本のオンラインゲームを退けてきた歴史があります。そうした中で、「FFXIV」のようにサービス開始前からこれだけ歓迎されているタイトルが過去にあったのかなというのが正直な感想なんです。

吉田氏: やはりそれは「ファイナルファンタジー」の力が大きいところはあるだろうなと思っています。昨日もちょうど会場がクローズした後、会場全体のSP、警備の総責任者の方が来て、どうしてもサインと写真をと言われて、自分は「FF」を1から13まで全部やっていると。大学も日本語専攻で、その方は「FFVII」から入ったのかな? で、さかのぼって「FF1」まで。その後もずっとやっていると。とにかく「FFXIV」を楽しみにしているので、映像もそうだし、サウンドもそうだし、ストーリーにもむちゃくちゃ期待していると。明日最終日だけど、何かトラブルがあったら全部自分に言ってくれと(笑)。

 ただ、いい面と悪い面もあるなと思っています。韓国はコンソール市場ではないので、韓国では「FF」という単語を皆さん知っていても、内容についてはそれほど知られていない。むしろ、今回特にメディアの方ともお話をしていて、「FF」自体がコアなプレーヤーが遊ぶコアなゲームだと思われているところもあるようです。そうではなくて14番目の作品ではありますけれど、1から13までやらないと遊べないゲームではないですし、MMORPGである「FFXIV」は、むしろMMOが初めての人に向けて作られている部分もある。そうしたポイントはもう1回ゼロからキチンとPRしなければならないところです。

 生来持っている「ファイナルファンタジー」というのは世界的に見てもすごいゲームなんだとか、やはりグローバル版で今プレイされている方、特に韓国のプレーヤーはMMOに関して目利きが厳しい中で、その人たちに関してはすごくエキサイティングだよと言ってくださっているという部分に関しては、韓国ローンチに際してとてもアドバンテージがあると思います。グローバル版でも新生するにあたって、レガシーの方にコアなサポーターになって頂きましたし、今回韓国版をローンチするにあたっても、今のグローバル版のプレーヤーの方がサポーターになってくれると考えています。

今回出展していたのは開発中の韓国語版ではなく英語版。そこにはローカライズに対するこだわりがある
ChinaJoyの盛大ブースでは、開発中の中国語版が出展されていた。これは「旧FFXIV」からローカライズがスタートしていたおかげだという

――その韓国版の開発状況はいかがですか?

吉田氏: バージョンに関する作業は決めの問題ですので、あまり大きく作業が残っているわけではありません、先ほどのロットのシステムですとか、あと韓国特有のネットカフェのスペシャルボーナスなどにこれから対応していくものがメインです。後はもう本当にローカライズの作業だけになります。

――ローカライズについては、今回わざわざ韓国版ではなくて英語版を出すというくらいにクオリティにこだわりを見せたわけですが、そのローカライズはどれくらい進んでいるのでしょうか?

吉田氏: いま「FFXIV」の韓国語辞書とも言えるグロッサリーが完成したので、いよいよ本テキストのトランスレーション作業に入り始めたところです。グロッサリーが完成したことを何パーセントと見るかなのですが、グロッサリーがあることによって、クオリティが担保された状態で大量に人をかけてのトランスレーションが可能になる……と考えると、だいたい今45%くらい、全体構成の進捗で言えば終わった感じかなと思います。

――ちなみに中国語版はかなり早いタイミングで中国語版が出ていましたよね。しかし、今回は、出てもおかしくないタイミングで韓国語版が出なかった。これは何が違うのでしょうか?

吉田氏: 中国語版については、僕が「FFXIV」を率いる前から契約があったためです。僕が「FFXIV」を担当することに決まった時点でグローバル版の状態を見て、シャンダさんから「本当に大丈夫なのですか?」と聞かれて……。僕の方が「お約束は守ります、絶対になんとかします」というお話をしていたので、中国版はある意味グローバル版に内包されていたようなイメージです。中国の場合はゲームを正式サービスする前に、中国政府への申請と調査を受ける必要がありますので、中国語の翻訳は新生版の開発と一緒に動いていました。日本語が上がった瞬間、英語に翻訳して英語からフランス、ドイツに翻訳していきますが、日本語からそのまま中国語も同時並行でやっていたということです。

――中国語版にも同じようにグロッサリーを作っていたのですか?

吉田氏: はい、あります。「旧FFXIV」の時代からずっと更新されています。韓国はむしろ新生してから制作が決まったので、今作成している、ということになります。

――韓国語版の音声は日本語のままですか?

吉田氏: ちゃんと韓国語です。

――アクターさんはどんな方ですか?

吉田氏: アクターさんの選出はActoz Softさんにお任せしています。

――ビジネスモデルについてですが、韓国サービスは、グローバル版とも中国版とも少し違いますよね。

吉田氏: 基本的にはサブスクリプションで、カジュアルな方向けに3時間遊べるとか7時間遊べるとか、丸1日とか、1カ月以外のも用意するぐらいです。韓国市場をもっとも知っているActoz Softさんが正式なものを出してくると思います。

――月額料金はグローバル版の設定と同額ですか?

吉田氏: そんなに変わらないのではないかと思います。

韓国サービスで検討されてるネットカフェ特典だが、グローバル版のユーザーが歯がみして悔しがるようなリッチなサービスは実施されなさそうだ
gametricsが提供しているネットカフェランキング。右上に表示されているのがそれで、「League of Legend」を筆頭に、「FIFA Online 3」、「Sudden Attack」、「Starcraft」と競合が並ぶ。直接のライバルとなる「WoW」は5位にランクしている

――ただ、韓国サービスではネットカフェだと無料で遊べて、プレイ特典もある。ここが大きな違いですね。

吉田氏: ネットカフェだとネットカフェの利用料を払ってプレイできて、その何パーセントが我々に入ってくると言うモデルですね。

――ちなみに韓国サービスでは、自宅とネットカフェはどれくらいの割合で遊ばれると思いますか?

吉田氏: 市場の数字データを見ると、今でも24パーセントくらいはネットカフェというデータが出ていますので、それぐらいかなと思っています。まだかなり多いですね。

――韓国サービスはネットカフェ向けのサービスが1つキモになると思っているのですが、吉田さんはどのような期待を持っていますか?

吉田氏: 毎月更新される韓国人気ゲームランキングというのは、今でもネットカフェの数字なのです。だから韓国でオンラインゲームを展開する場合、ネットカフェでのサービスは必須です。それから韓国のネットカフェは競うようにハイスペックなマシンを入れていて、設備も整っていて、まさにラグジュアリースペースですね。そこでしっかり遊んでもらうことによって、ネットカフェオーナーの支持も得られますし、結果それによって色々なタイアップが入ってくるので絶対に無視できないというところですね。

――ネットカフェ対応は、開発工数がそれなりに掛かるものですか?

吉田氏: グローバル版でもネットカフェ運営はしていますので、システム的にはほとんど作業がありません。韓国にはネットカフェ専用ボーナスという概念がありますので、その点については対応内容を検討していますが、基本はグローバル版の内容と同じで、ゲーム体験を変えるつもりはないですし、専用のコンテンツを作ることはあまり考えていないです。自宅でプレイする方がガッカリしてしまうと思うので。これだけネットが発達していて、みなさん自分たちも同じ料金を払って、同じくらいみんな「FFXIV」が好きで、何故ネットカフェでしか遊べないものを出すんだ、というのはあまり好まれないだろうと。

――先月行なわれた発表会では、ネットカフェ専用バフや韓国独自アイテム、そしてネットカフェ専用ダンジョンの存在も少し臭わせていましたが、吉田さんには専用ダンジョンを作るつもりはない?

吉田氏: それはActoz Softさんがスクエニに検討してもらっています、というおっしゃり方をしていましたよね。僕自身はあまりやる気がないです。難易度だけちょっと調整した物を出す可能性はありますが、例えばアラガントームストーンの排出量がちょっと多くて、その代わり難易度が高いので難しいですよというのもありかなあと。やるとしてもそのレベルまでです。それだと僕らもデータを調整するだけでできるので。

――私も発表を聞いて、日本の開発チームが韓国に対して本当にそこまでの独自コンテンツを用意するのかなと疑問だったのですが、やはりその程度なのですね。

吉田氏: やはりネットカフェのサービスを良くしすぎると、家にせっかく素晴らしい環境が整っているプレーヤーが、それが欲しくてわざわざネットカフェにいかなくてはいけないという事態になってしまうので、そこはちょうど良いバランスをとりたいと思います。

――韓国のMMOではネットカフェ専用コンテンツが当たり前にありますが、吉田さんとしては「新生FFXIV」の韓国サービスでそこまで踏み込むつもりはない?

吉田氏: 極端にそこまではするつもりはないです。

――昨日はエクスパンションについても言及していましたけれど、エクスパンションは当然韓国でもサービスするのですよね?

吉田氏: もちろんです。ただ、韓国の場合はパッケージという概念がまったくないので、基本的には超超大型パッチになってしまいますね(笑)。

――ほほー、それは韓国のユーザーからするとちょっとお得な感じですね(笑)。

吉田氏: そういったコストは、日々の月額課金に毎月数百円の違いとして乗ったり、オプションアイテムの価格に少し差があったりする部分になると思います。

――ダウンロードコンテンツみたいな形で1万ウォンで販売するということもないですか?

吉田氏: ないですね。

――韓国での3.0のローンチはいつ頃になりそうですか? グローバルは春と発表されていますが、そこから少し遅れてのサービスになるわけですか?

吉田氏: そうですね。やっぱりパッチ2.3か2.4で始まって、半年くらいは2.0シリーズが続くので、その先にはなるかなと。

――となると早くても2015年の年末あたりですか?

吉田氏: そうですね。それくらいの差は普通に出ると思います。

――韓国サービスの目標についてですが、成功の分岐点というのは、どのぐらいの数字を見ていますか?

吉田氏: Actoz Softさんは今回1位を取るおつもりで、我々にとってもチャレンジャーではありますけど、同時接続10万人ぐらいはという話はされています。

――1位というと、韓国では今「League of Legends」が長らく1位を独走していますが、その「LoL」すらも抜く?

吉田氏: それはさすがに(笑)。かたやF2PのMOBA系で、マッチング1試合で楽しめるエキサイトメントにいたるまでのスピードと、終わりの手軽さというものがそもそも全く違うものです。それとMMORPGで瞬間プレーヤー数を競えと言われても、無理ですよねという話になってしまいます。あくまでMMORPGの中でトップということだと思います。

――余談になりますが、私は吉田さんの「新生FFXIV」のコアコンテンツの作り方を見ていると、MOBA系のストラテジーゲームを作っても、世界と勝負できる面白いゲームができるのではないかと思っています。

吉田氏: 作りたいのは作りたいですが……日本の会社としてはやはり悔しいです。まだ日本からMOBA系でドンと押していけるタイトルがないのは。

――「FFXIV」はすでにひとつのブランドになっているので、「FFXIV」のスピンオフというか、「FFXIV」のキャラクターや世界観を活かした形でMOBA系のゲームが生まれると、私はワクワクしますが(笑)。

吉田氏: なるほど(笑)。ただ、それでは自由度がきかないと思います。MOBAをやるなら、キャラクター設定とかクラス設定は、あまり色々なものに引きずられないほうがいいだろうと思っています。他社に比べてグラフィックスには徹底的にこだわるとしても、Tuneにシステムや技をどんどん調整したり、作りやすいとは思いますが、それで「FFXIV」のお客様を取り合う形になっても意味がないですし。

 「LoL」が凄いのは、ユーザー数は世界一でも、ARPPU(Average Revenue Per Paid User、平均客単価)は決して高くない。顧客単価のランキングで見ると、かなり下位の方にいます。ただ、それだからこそゲームが楽しめていて、本当にこのゲームが好きだからアイテムを買おうと思っていらっしゃる方が多いのだと思います。大会ひとつとっても、決して運営は手を抜かないですし、それでいて掛けるところには尋常じゃなくお金をかけます。オンラインゲームの運営としては理想だなとは思います。

 またMOBA系は、やはり片手間で開発できるようなゲームバランスではありません。「LoL」はやっぱりゲームのバランスをしっかり取っているし、逆にバランスを変えることを絶対に怖がっていません。それは当たり前で、変化が常にあった方が、試合がおもしろくなるからです。もしやるのであれば、相当のスタッフをいれて死にものぐるいで開発しなければならない……ですので、たまーに頭の片隅で挑戦はしたいな、と思うことはあっても、僕には大好きな「FFXIV」があるので、今は無理です(笑)。

(中村聖司)