ガマニア代表取締役COO 浅井清氏特別インタビュー
2010年は自社開発の新規オリジナルタイトルを複数本投入!


1月13日収録

会場:ガマニア本社



 世界経済で年々その存在感を増しつつある中国。昨年、オンラインゲームの分野でもその中国が意外なほどの存在感を見せつけてくれた。きっかけは2008年に中国や台湾で発生したのブラウザゲームのヒットだ。2009年にそれが日本に飛び火し、新規ユーザー獲得が伸び悩む既存のオンラインゲームやゲームポータルビジネスを尻目に、mixiアプリの開始やソーシャルゲームへの期待を追い風に、あきれるほど多くのユーザーを獲得した。まさに2009年のオンラインゲーム大賞は“ブラウザゲーム”といっていい状況だった。

 2010年はオンラインゲーム市場にとってどのような年になるだろうか。ブラウザゲームがさらに勢力を拡大するのか、それともバブルとして弾け、新たなトレンドが顔を覗かせるのか。水面下で勢力を拡大しつつあるソーシャルゲームはどのような進化を遂げるのか。今回は、台湾に本社を置き、中国、香港、そして日本でビジネスを展開しているグローバル企業のガマニアデジタルエンターテインメントに話を伺った。



■ 「仙魔道」の敗因は“準備不足”。「アンリミテッドハーツ」はアクション性が課題

インタビューに応じていただいたガマニアデジタルエンターテインメントCOO 浅井清氏
グループ子会社Alibangbang Digital Gamesが長年かけて開発していた「仙魔道」。正式サービスを待たずに昨年7月にサービスを終了した
中国Winking Entertainmentが開発している「アンリミテッドハーツ」。浅井氏はアクション性が課題と語る

編集部: 2009年のガマニアのビジネスはいかがでしたか。

浅井清氏: 2008年「ルーセントハート」をご好評いただき、昨年は新規で「仙魔道」と「アンリミテッドハーツ」を始めました。「仙魔道」については、ユーザー様には大変申し訳なかったのですが、サービスを中止する結果になりました。初動のユーザー様の集まりは良かったのですが、日本仕様を入れようという企画があったものがうまく進みませんでした。特に武侠系のコンテンツでしたので、日本向けの仕様を入れていくことがポイントでした。いったん止めて、それをどこまでやるかを協議しようとしました。それがどうにも時間がかかりそうだということになったのですが、オープンβサービスまでやっておいて半年1年かけるのは良くないと考えていました。また、開発会社との考え方の違いも見えていました。課金を始めてから数カ月で終わってしまうようなことは避けたいと思い、ガマニアとして納得いくところまでいかないのであれば、サービス自体を閉じてしまうこともやむをえないと思いました。苦渋の判断でした。

編: 「仙魔道」のサービスを止めようと思ったのはいつごろでしたか。

浅井氏: 2009年の5月くらいです。5月27日にオープンβを止めてから開発会社と話し合っていたのですが、日本向けの仕様について議論が平行線になってしまいました。また同時に「アンリミテッドハーツ」のサービスが迫っていましたので、リソースが分散されてしまうのであればということと、ペンディングでおいておくわけにはいかないという判断です。「アンリミテッドハーツ」のサービス前に、止めようという結論になりました。

編: 「日本向けの仕様が間に合わなかった」ということですが、直前まで、NPCの台詞にボイスをあてるなど、日本向けの仕様の部分が充実していた印象があります。何が足らなかったのでしょう?

浅井氏: キャラクターの設定やNPCやクエストを日本仕様のものを入れていく企画がかなり進んでいました。そのボリュームが大きすぎたということもあったのですが、日本側が満足する形に収まりませんでした。単純にNPCを入れてお使いクエストをいくつか入れるだけでは日本のユーザーさんを納得させられないだろうと。

編: 敗因は何でしょう?

浅井氏: 1回止めて壊してやり直そうと思ったのです。それが長引いて時間がかかってしまう状況でした。市場状況を見て1年後にもう1度やり直すというのはなかなか厳しいなと思いました。武侠系のコンテンツを日本市場で多くのユーザーさんに遊んでいただくのはそもそも難しい。総括すれば準備不足といわざるを得ないと思います。

編: 「仙魔道」と入れ替わるようにしてスタートした「アンリミテッドハーツ」はいかがでしたか。

浅井氏: ガマニアとして、これまでMMO中心にやってきたところで、次はアクションRPGをやろうと。市場にも他にそういったタイプのものが少ないこともありましたし、コンテンツ的にも日本のユーザーさんに合うのではないかと思いスタートしました。キャラクターのアクションをもっとブラッシュアップしたいなという思いは今でも持っていますが、初動としては非常に良かったので、日本では良い形でサービスを提供できているのではないかと考えています。後はアップデートが少し遅れていてユーザーさんをお待たせしているところがあります。単に中国にあるものをそのまま持ってくるのではなく、アクション的な要素が強いのでバランスの調整を日本向けにやろうということで準備しています。

編: つまり、こちらもまた日本独自要素の実装に時間をかけているということでしょうか。

浅井氏: そうです。そこに時間がかかっています。2月頃には大型アップデートがあると思います。新しいエリアの実装と一部システムの開放、日本独自システムの導入を予定しています。

編: 今回の取材に先立ち、ユーザーさんの意見を調べた限りでは、比較的厳しい意見が多いと感じています。特に日本はコンシューマーゲームの文化によりアクション面でのハードルが非常に高い。まだまだ「アンリミテッドハーツ」のアクション部分に関しては満足できてない方が多いのではないかと思います。

浅井氏: アクション部分に関しては、私も前の職場でゲームの開発に携わっていましたから、直したい部分はたくさんあります。ただ、「アンリミテッドハーツ」は、アクションよりもキャラクターの育成要素のほうが意外と面白いのではないかと考えています。

編: キャラクターの育成要素に関して、「アラド戦記」などの競合タイトルに対してどういったアドバンテージがあると考えていますか?

浅井氏: 1番は遊びやすさです。さくさくレベルが上がっていって、他の2Dアクションゲームでボリュームが足りないと感じている部分に対しても解決していますし、たとえばマップの移動に関してもオートでできる機能が最初から入っているなど、遊びやすさが重視されています。

 また、構えてやらなくても片手間に遊んでいくことができます。アクションRPGと言いつつRPG的な遊び方でご納得いただけるのではないかと考えていました。確かにアクションの部分に関しては弱いと思っていますので、ブラッシュアップについて協議を重ねています。

編: アクション性の部分については、スキルやアクションの追加ではなく、既存の動きやモーションについても改善されるのでしょうか。

浅井氏: キャラクターのアクションや当たり判定に関しても随時調整はしていますが、なかなか思い通りのところまでは到達できていないと感じています。

編: 到達できない理由はどのあたりにありますか?

浅井氏: 正直なところ我々としても満足しているところではないのですが、文化の違いがあるのではないかと思いました。コンソールに慣れている分、要求の水準が高い部分は少なからずあると思います。日本のゲーム開発の場合、2Dのアクションにしろ、ヒットバックの感覚にしてもものすごく考え抜かれていて、一見なにげない動きにも、ものすごくノウハウが詰まっているのです。「アンリミテッドハーツ」については、当初の設計自体がそうした動きが前提になっていないものもありまして、たとえばジャンプの軌道1つとってみても、かゆいところに手が届かないのです。

編: 直すべきところはわかっていても、それを直すのがなかなか簡単でないと?

浅井氏: 開発会社もいろいろとがんばってやってくれてはいるのですが、変えてみても「あれ?」ということがあります。ただ彼ら自身もアクション性の部分については高めていきたいという考えがあるので、そこは一緒に協力してがんばっていこうと思っています。


■ ガマニアも今年ワンタイムパスワードを導入予定。mixiアプリへの参入も視野に

浅井氏は、JOGAの理事を務めていることもあって、セキュリティ対策には、メーカー横断的な取り組みを提言する
写真は、2009年4月にスクウェア・エニックスが「ファイナルファンタジー XI」において導入したワンタイムパスワード(OTP)に使用するトークン。ガマニアでは、どういう形でOTPを発行するのか現在検討中だという

編: 「仙魔道」と「アンリミテッドハーツ」以外の取り組みについてはいかがでしたか。

浅井氏: ユーザーアカウントが、GASHプラットフォームのアカウントとゲームのアカウントに分かれていたものを統合してシングルサインインで遊べるようにしました。今後ガマニアとしてもコンテンツを拡充していく過程でユーザーさんに利便性の高い環境を提供できるベースが整ったのかなと思っています。

編: ログインが簡単になるということは、セキュリティが弱くなることを意味しますが、セキュリティ対策についてはいかがですか。

浅井氏: 今後ワンタイムパスワードや二重認証といったセキュリティ対策も含めて導入準備を進めています。なるべく早く導入するつもりですが、シングルサインインをすることによって、すべてのユーザーに対して同時にそういったサービスが導入できるようになりますので、それを見越した上でやっています。セキュリティ対策についてはワンタイムパスワードの導入を近いうちにやる予定です。トークンや携帯を利用したものになります。

編: ワンタイムパスワードの導入時期は?

浅井氏: 遅くても夏までは掛からないと思います。

編: トークンはガマニアが販売するのですか?

浅井氏: トークンを売り出す方向では考えていないのですが、いくつかのソリューションを検討しています。実は以前GASHアカウントとゲームのアカウントを調査したところ、90%以上のユーザーさんが同名のアカウントを作っているのです。名目上、別アカウントにすることでセキュリティ性を高めるとおっしゃられるかもしれませんが、ユーザーさんの使い方自体が実質的に1アカウントでやられている状況であれば、まずは統合を先にしてしまおうと考えました。

編: 昨年もアカウントハック等の報告が目に付きました。

浅井氏: アカウントハックに関してはガマニアだけの問題ではなく、他社さんともいろいろ情報の共有をしていっています。JOGA(日本オンラインゲーム協会)の方でも対策を進めています。たとえばワンタイムパスワードを業界全体で作って標準化させていくようなやり方も検討を進めてはいます。いつどういった形でできるかはわかりませんが、1社の力ではなく業界全体で取り組むべき問題だと思います。後は不正な課金関係の問題もそうですね。

編: 現在もっとも大きなハッキング被害はなんでしょうか?

浅井氏: やはりアカウントのハッキングが多いです。ユーザーさんのアカウントを盗用してアイテムを移動してしまうケースを、弊社のいくつかのコンテンツからも報告を受けています。原因としてはいくつか考えられるのですが、ウィルス等も含めてユーザーさんの環境から抜かれているものが1番多いのかなと思います。また、特定のコンテンツを狙っているものも多いです。ゲーム関係に特化したウィルスやマルウェアのようなものは結構あると思います。以前あったもので、ガマニアのコンテンツだけを狙ったウィルスみたいなものもありました。これらはなかなかウィルスソフトも検知が難しい。

 また、オンラインゲームのユーザーさんは、ガマニアを含む各社のゲームをまたいで遊ぶ場合に、同じアカウントパスワードを使っていらっしゃる方が相当多いらしいです。1個の会社から流出したものが他の会社にも使えるというところで、未確認ですがそういったリストをベースにアタックをしながらハッキングすることがあるのではないかという情報もあります。そうなると会社全体で取り組むよりも業界全体で取り組まなければ解決できないのかなと思います。

 私共の場合ですと被害に遭われたユーザーさんから「ガマニアから情報が流出しているのではないか?」と言われることもありますが、さすがにオンラインゲーム系の会社でアカウントとパスワードが盗まれたケースというのはそれほどありませんよね。個人情報としてメールアドレスなどが漏れたケースはあったかもしれませんが、アカウント情報がダイレクトに漏れたケースでそれほど表面化しているものはないと思います。弊社もそうですが、そういったところは神経を使って調査をし、内部的にも調べてはいますが、簡単に侵入して取られるような構造にはなっていませんのでそこではないのかなと思います。

 もし弊社に限らず運営会社からアカウントやパスワードが漏れているというケースが出てくれば早急に対策をしなければならないと思います。ただ、そうではなく、どうやら運営会社とは別のところで抜かれたアカウント情報が出回っているのではないかという話もあるので、そういう意味でも早めにワンタイムパスワードを含めた2次認証のようなものを導入して被害を防ぐ必要があります。そういったサービスをパブリッシャーが提供していくのは非常に大事なことだと思います。

編: ガマニアさんは現在会員数でどのくらいいますか?

浅井氏: GASHアカウントで累計250万人くらいです。

編: 昨年、業界を賑わせてくれたのは、単体のゲームではなくmixiアプリでした。一部のゲームアプリは400万人を越える登録が集まるなど、文字通り桁外れの動きがありました。こうしたソーシャル方面の激動ぶりをどう見ていますか?

浅井氏: ユーザーさんから見て、mixiアプリのゲームは我々が提供しているMMOなどに比べるとライトなものが多いです。業態としてはモバゲーさんやGREEさんなどのモバイルゲームに近いです。そういったところにニーズがあるのは間違いないのだろうと思います。我々が提供しているMMOや規模の大きなゲームとは遊び方の質が違うと思いますし、差別化をしていかなければいけないと思います。一方でユーザーさんのニーズがそこにある以上、そこに対してコンテンツを提供していくことも考えていかなければいけません。

編: つまり、ガマニアさんが今後mixiアプリを提供していくこともありえるだろうと?

浅井氏: ありえます。具体的にいつということではないのですが、その前段階としていわゆるブラウザゲームに関しては今年はやっていこうとしています。

編: ここ数年、オンラインゲームパブリッシャーさんは、ゲームポータルにお金を注ぎ込み、互いに繋ぎ込んでシナジー効果を狙いましたが、まったくといっていいほどうまくいきませんでした。しかし、mixiに限らず、SNSと繋ぐことで爆発的な集客が実現されました。GASHを展開する会社のトップとしてこうしたユーザー動向をどのようにご覧になりましたか?

浅井氏: mixiアプリ以前にFacebook等で、ソーシャルネットワークの可能性や、そこにユーザーのニーズがあるというのはある程度わかっていました。ソーシャル系のアプリはウォッチしてきましたが、正直いろいろなものがごっちゃにありましてあまり魅力に感じませんでした。ガマニアとしては、MMOを展開してきた会社がその中でどういうアプローチをしていくのかということなのです。そこで単なるFLASHゲームを出してもしょうがないですし、そこのプラットフォームにガマニアならではのサービスを提供できるかが1つのポイントではないかと思います。

編: ガマニアさんとしては、興味はあるが慎重に行きたいと言うことですか?

浅井氏: 興味はあります。ただみんながやっているからうちもやろうというのではなく、ガマニアがソーシャルアプリに入っていく上で、独自性を出していきたいです。たとえばiPhoneもそうですが、話題性もあってユーザーさんも多いのですが、一過性の部分があって、必ずしもビジネスとして成立していない場合もある。様子を伺っているところはあると思います。


■ ガマニアもついにブラウザゲームに参入。現在3タイトルを開発中

照れ笑いしながら釈明する浅井氏。昨年ブラウザゲームを出さなかった反動として、今期は自社タイトルを投入する予定のようだ
2009年に大ヒットしたブラウザゲーム「ドラゴンクルセイド」(ベクター)。ガマニアはこうしたいわゆる「トラビアン」タイプのブラウザゲームの準備を進めているようだ

編: 今年はブラウザゲームを展開されるということですが、2009年は“ブラウザゲーム元年”とでもいうべき状況になりました。その年頭に私がブラウザゲームについて質問をした際、浅井さんはこう言っています。「日本でいけるという確信も前例もないからまだやらない」。市場の動きはまったく浅井さんの予測の逆を行き、この予測は完全に外れましたよね。どうしても聞きたいのは、2008年の時点で中国と台湾でブラウザゲームの大波が来ていて、台湾の企業として非常に有利なポジションにいたにも関わらず、なぜ日本展開を全面的に見送ったのかということです。

浅井氏: 実はブラウザゲーム自体は2008年からやろうとして計画をしていました。ブラウザゲームは日本のユーザーさんにすごくマッチしていて、短時間で遊べて高スペックな環境も必要なく、リアルタイムでなくてもやりやすい。去年の取材を受けている時点でブラウザゲームのサービス自体は計画をしていて、他社さんが中国産台湾産のコンテンツを持ってきている中で、なかなか日本でいけるというものが見つからなくて、自社で開発をしていました。

 去年はベクターさんなどが非常に良い成績を出されていて、本当によく探せたなと思いますね。我々も相当探したのですが良いものが見つからなかった。どうしても海外のものをそのまま持ってきてもなかなか絵的なものや、中国のものは武侠系のものが多すぎて三国志ばかりになってしまう。だから、結果的に自社で開発を進めているのですが、そこは日本の好みにマッチしたものを考えています。日本で作ったブラウザゲームは、台湾や中国でもサービスをしていくので、三国志のような題材もありだなと思っているのですが、ガマニアがやるのであれば他とは違うものを提供したい。日本から発信するからには日本のテイストを強めたものにしたいです。

編: 今年ガマニアさんからリリースされるブラウザゲームはどのようにものになりますか?

浅井氏: 日本開発のほかにも、台湾のグループ内で開発しているものもありますが、まずは日本で開発しているものを出していきます。紆余曲折があって時間がかかってしまいました。いろいろと大変なのです(笑)。今のブラウザゲームのいくつかのタイプのもののどれかにはなってきてしまうのですが、知名度のあるのは「ドラゴンクルセイド」や「トラビアン」ですよね。そういったところに元々インスパイアされているものですので、それをベースに日本ユーザー向けにカスタマイズするような考え方です。

編: それは昨年から話が出ているものですか?

浅井氏: そうです。現時点では3つほどラインが走っています。どれも国産です。ゲーム性としては「トラビアン」タイプのものばかりではないです。

編: その他にRPG系、ボードゲーム系、パズル系、それ以外にもいくつかありますし、北米では「Quake」をブラウザで動かすなど、すべてのゲームをブラウザ上で動かそうという流れになりつつあります。日本ではNHNさんが展開している、XPECさんの「カナン」なども、MMORPGをブラウザで遊ぼうという流れの中で生まれた作品ですよね。

浅井氏: 私はブラウザゲームでMMOをやるつもりはないです。ブラウザゲームならではの特性を重視し、とりわけプレイスタイルが重要ではないかと思っています。ブラウザのMMOは将来的にはあって良いのでしょうが、今は無理にブラウザでやる必要がないと考えています。

編: 私も似たような固定観念を持っていましたが、それは間違えていたんですね。具体的には、ブラウザゲームがmixiアプリに対応した際、どうしてわざわざmixiの中でブラウザゲームをやるのだろうと思ったんです。ところが実際には、多くのブラウザゲームはmixiアプリに登録されてから大ヒットしましたよね。遊びやすさや見てくれは二の次で、友達とわいわい遊べるから楽しいし、芋づる式に人が集まるという、オンラインゲームの本質に気付かせてくれました。

浅井氏: もちろん、ブラウザゲームの中に、MMORPGという選択肢があって良いと思うのですが、正直FLASHベースでMMORPGを作ろうとするとかなり制約は出てくる。ゲーム性としてユーザーが満足できるものを提供できるようになればMMOもありなのかなと思いますが、現時点ではPCでサーバークライアント型のほうが良いものを提供できると考えています。もっとも今おっしゃったようにコミュニティがあるところにコンテンツを入れていく考え方ももちろんありです。ただ、それはあくまでマーケティング的な考え方で、コンテンツ的な考え方とは異なるかなと。

編: 3タイトルのブラウザゲームの内容は?

浅井氏: それはまだ言えません。IPが絡んでいるものもあり、タイトル名を出したいのですが出せないのです。加えて、通常のサーバークライアント型のオンラインゲームに関しても現時点では3タイトルを準備しています。すべて発表するかどうかも含めてタイミングは調整しています。

編: 現在用意しているというクライアント型の3タイトルはどのようなものですか?

浅井氏: 台湾と中国で開発しているもので、すべてグループ内での開発になります。2タイトルは日本でのサービスを前提として、途中からかなり日本側を意識した要望を入れて開発していっています。もう1タイトルは日本側が企画して、開発をグループ内で行なっているものです。1本はMMOで、2本はMMOではありません。1本は結構チャレンジングなタイトルです。また、これとは別に「HERO 108」がありますが、北米のアニメとセットで展開する予定なので、日本では様子を見ている段階です。アメリカでは今年の春のアニメーションの公開に合わせて北米からゲームの配信を行なっていきます。



■ ガマニア1の人気タイトル「ルーセントハート」は“ダンス”がブーム。今後はペットと一緒に踊ることも

「ルーセントハート」の新要素“ダンス”の好評ぶりは意外だったという。何がヒットするのかわからないところがオンラインゲームのおもしろさだ
ダンスシステムは、先月12月22日に実装されたばかり。戦いや争いを求めない同作のユーザーにマッチしたようだ

編: ガマニアの新たな柱となっている「ルーセントハート」は、今年はどのような展開を予定していますか。

浅井氏: 去年は「ルーセントハート」でサーバーが安定しない時期があり、ユーザーさんには申し訳ありませんでしたがなんとか解消しました。去年12月に実装したダンスシステムが好評で、そこで新たに伸びてきている感じです。ユーザーさんが戻ってきていただいていてかなり良いですね。

編: 確かに昨年は一時期トラブルが重なりましたよね。

浅井氏: そのときにユーザーさんのアクセス自体は落ちませんでした。この状況が続いてしまうと厳しいなと思っていましたが、ユーザー様に我慢して頂いたと思っておりまして、大変感謝しています。

編: ユーザーさんはその辺はシビアですから、トラブルが直らなければ別のゲームに行くケースが多いですが、そうはならなかったということですか。

浅井氏: どこかで期待されていたからだと思います。サービスそれ自体が安定しなかった時期はユーザーさんからもなんとかしろよというご意見は相当強かった。現在、すべてのユーザーさんが納得されているかは分かりませんが、基本的にユーザーさんの考えている方向とガマニアの運営の方向がズレずにやってこれているのかなと思います。ダンスシステムについては、まさかそのようなシステムが入ると思っていたユーザーさんはそれほどいなかったと思うのです。ゲームの中でこうしたシステムを入れているものは無いと思います。

編: 動画コミュニケーションサイトのZOOMEとコラボレーションを開始していますが、これは自慢のダンスを動画で録って公開してくださいという狙いで始めたわけですか?

浅井氏: ダンスのモーションを組み合わせて作れますので、他のユーザーさんと共有してもらいたいなと思いました。ダンスシステムが入ったことで、ユーザーさんによりダンスを共有して楽しんでいただける施策はないかと考えました。

編: ユーザーさんはみなさんダンスを楽しまれているのでしょうか。

浅井氏: 全体の7割ぐらいが、結構遊んでいただいていると思います。現時点では順位を決めるようなシステムにはなっていないです。パーティーで戦闘する際に、集まって全員で軽く踊ってからラビリンスの中に入るといった遊び方をしているユーザーさんもいるということも聞いています。一体感が出るのだと思います。

編: しかしそれにしても意外なコンテンツに人気が集まっているんですね。

浅井氏: ダンスという遊びはかなり浸透していますね。12月のアップデート以降かなりまた伸びてきています。

編: そうなるとアップデートの方向性も、ダンスに絡めたものも含まれてくるわけですか?

浅井氏: そうですね。ダンスの部分はもう少しなんとかしたいです。ユーザーさんが作ったダンスの保存であったり、そういった使い勝手を良くしていこうとしています。また、ダンスが栄えるようなアバターを用意することも必要だと思います。

編: 「ルーセントハート」はもともと非バトル系のコンテンツが充実していますが、いよいよ冒険から遠ざかりつつあるような(笑)。

浅井氏: 私自身、企画を見た際になぜダンスを入れるのかという疑問を感じました(笑)。何人かで一緒にやれることを作ってあげることが重要なのだということと、開発側で検証をしている最中にも、面白いのではないかという意見が相当出ていました。日本としてもやってみましょうということになりました。正直かなりチャレンジだなと思ってはいました。開発会社も非常にがんばってくれてモーションの動きなども相当しっかり作られています。

編: ネタとしては大変面白いなと思いましたが、そこまで反応があるとは知りませんでした。

浅井氏: 相当遊んでいただいています。現時点では、遊んでいただいてもあまり課金につながらないのが難点ですね(笑)。とはいえ現状はダンスを遊ぶためのアイテムをたくさん用意しているわけではないので、売り物に限らず、よりシステムを遊んでいただけるようにしていかなくてはいけないです。

編: ダンス用のアバターアイテムなどの需要もありそうですね。

浅井氏: そういった部分でも手にとっていただけるようなものが提供できたらなと思います。ダンスシステム自体は非常に簡単なので、キーの入力をしてもタイミングも全くシビアでなく、誰でも遊べる作りになっています。もう少し音ゲーぽくしようという意見もありましたが、かえって今くらいの易しさで良かったなと思います。

編: ダンスゲーム特有の要素としてコンボがありますよね。一定の技を繋げていくと特別なダンスを踊れてさらに高得点が狙えますといったものです。そこまでは狙わないと?

浅井氏: そういった方向ではなく、あくまでアトラクションなのです。アトラクションでユーザーがパラパラをみんなで踊っていたように、みんなでそろって踊ることを喜んでいるのであれば、そこを盛り上げるようなことに注力したいです。ペットを一緒に踊らせることもアイデアのひとつとして入ってます。

編: ダンス以外では、今年どういった進化を遂げそうですか?

浅井氏: 去年入れたルームシステムをバージョンアップしていこうですとか、コンテンツ的に一層ボリュームを出していかなければということもあります。開発会社でも意外なことを考えていたりします。夏くらいまではダンスシステムを拡充させ、夏以降に次世代のアップデートを入れる予定はしています。ダンスシステムの周辺にプラスアルファの要素をもう少し加えることもしていきたいですね。



■ ガマニアは片手で余るほどの新規タイトルを準備。今年は実行の年に

現在7タイトルをサービスするガマニアだが、今期も積極的に新規タイトルを投入していく考えだ
インタビュー後に、オフレコを条件に現在準備中の新規タイトルを少しずつ見せていただいた。日本オリジナルタイトルはすでに実機で動いている!

編: ガマニアの2010年の方向性を教えてください。

浅井氏: ガマニアグループとしては北米市場でのパブリッシングを始めますので、よりグローバルに展開していくことになります。そこでガマニアの色を出していかなければならないと考えています。ここ3、4年の間グループ内で開発に力を入れていまして、実際かなり開発が進んできています。日本での3タイトルもそうですし、作っているものが片手で余るくらいあるのです。今年の春夏までには具体的な情報が出てくると思います。日本ではブラウザゲームと、MMO、それ以外のオンラインゲームが控えています。日本市場に特化したものでやっていこうとしています。大作だけではなく、オンラインゲームの遊び方はまだまだ可能性があると私は思っていて、そういったところで「ユーザーさんにこんなゲームどう?」という具体的な提案ができたらよいなと思います。

編: なるほど、それはどういった提案になりそうですか?

浅井氏: MMOではなく、日本ではそれほど出ていないようなオンラインジャンルがありますよね。たとえばリアルタイムストラテジー(RTS)です。FPSはすでに日本でもユーザーさんを獲得して1つのマーケットができてきているので、RTSを日本向けにちゃんとカスタマイズしてあげればと思います。「Warcraft」や「Starcraft」がすぐに日本で受けるとも思いません。MMO一辺倒というのも私自身が飽き飽きしてきたこともありますので、違う遊び方を提案していきたいです。

編: 今年中にリリースされるタイトルは何本ぐらいですか?

浅井氏: 準備をしているのは5~6タイトルです。これまで年間1~2タイトルのペースでやってきていますが、今年何タイトル提供するかはわからないです。準備は進んでいます。今まで仕込みをしていたものが今年から来年にかけて一気に湧き出てきました。来年以降も準備しているものが詰まってしまっているので、どうしようかなと思っています。

編: 今年1発目はいつになりますか。

浅井氏: 春から夏にかけて先ほどのブラウザゲームをサービススタートしたいですね。正式発表は3月くらいの予定でいます。

編: 2010年のオンラインゲーム市場はどういった風景になると思いますか。

浅井氏: オンラインゲーム市場はずっと拡大傾向できて踊り場に差し掛かっていると思います。MMO一辺倒でやってきたことで市場が飽和してきていることが1つ。mixiアプリもそうですし、モバゲーやGREEさんのように携帯で連動したSNSと含めて、エンターテインメントのコンテンツの選択肢が他にも増えてきている。そうした中でも、引き続きMMORPGを1日何時間も遊ぶというプレイスタイルで楽しむユーザーさんも確実にいらっしゃいますし、MMO自体も着実に成長してきていますので、そこはしっかり成長の余地は残されていると思います。また、弊社だけでなく他社さんからも、新しい試みがどんどん出てくる年になるでしょうね。ガマニアとしてはブラウザゲーム及び新しいジャンルのゲームを提案していきたいです。

編: 先頃、GoogleがNexus Oneと呼ばれるスマートフォンを発売して話題を集めました。iPhoneも依然として盛況ですし、スマートフォン向けのゲームコンテンツは、昨年以上に盛り上がりそうですが、こうした分野についてはいかがですか?

浅井氏: 日本のメーカーさんはハードウェアに乗っていく考え方ですので、日本のメーカーさんは今後も引き続きiPhoneも含めてやっていくのではないかと予想しています。我々オンラインゲームパブリッシャーの立場としては、プラットフォームやサービスモデルという点で、考え方がおそらく違うんじゃないでしょうか。コンテンツを供給するだけというのと、サービスモデル自体も新しくしていくということです。オンラインゲームとしてはそれほどアンドロイドやiPhoneに積極的に流れることは無いのではないかなと私は思います。

編: ガマニアとしてはいかがですか。

浅井氏: 興味はありますし、内部的にも台湾本社などではやっていると聞いていますが、今の時点でアジア市場が中心でもありますので、現時点でiPhoneなどを積極的にやることはありません。私は個人的にコンシューマーからオンラインに来た人間なのでまたコンシューマーに戻るのもちょっとなと思っています(笑)。

編: 今後ともPCを中心としたオンラインサービスがメインになるだろうと?

浅井氏: 基本的には、ネットで繋がっているユーザーさんと1番近い位置でサービスを行ないたいなと思っています。今ではPCだけではなく、iPhoneもあるし、携帯もある。特に日本では携帯ユーザーが非常に多いので徐々にシフトしていく可能性はあります。あくまでもインターネットを通じたコンテンツサービスが我々の軸だと思います。

編: 今年のガマニアはどういったところに注目してもらいたいと思いますか。

浅井氏: 具体的なお話ができなくて残念なのですが、ガマニアの出す新しいタイトルを楽しみにしていただければなと思います。毎年同じことを言っているようですが、今年は違います(笑)。ガマニアはこういったことを仕込んでいたのだということをユーザーさんにもご納得いただけると思います。

編: 最後にユーザーさんに一言お願いします。

浅井氏: 去年「ルーセントハート」のサーバーが安定しないなど、サービスのクオリティが維持できなかった時期があったのを反省しています。我々自身も最大限努力していたのですが、それでもご迷惑をおかけしたところが相当あったのではないかと思います。また、一部のユーザーさんについてはハッキング問題でご心配をおかけしている部分もありますから、まずは安心して遊んでいただける環境づくりにいっそう力を入れていきたいです。そして、新しいサービスをどんどん提供していきます。今年はついに実行します。ぜひガマニアに注目していてください。

編: 期待しています。ありがとうございました。


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(2010年 1月 27日)

[Reported by 中村聖司]