インタビュー

韓国ゲームファンに最も愛された日本人 SCEKプレジデント川内史郎氏インタビュー

SCEKプレジデントとしての総括と、ソフトウェアビジネスVPとしての役割とは?

SCEKプレジデントとしての総括と、ソフトウェアビジネスVPとしての役割とは?

韓国での仕事は「しんどかったが楽しかった」と語る川内氏
SCEKプレジデントとして最も辛かったエピソードとして不正アクセスによるPSNの長期ダウンを挙げた
2013年12月のPS4ローンチイベントで涙を流す川内氏。ここに到るまで無数のドラマがあったという

――韓国に赴任直後と、今の離任直前で、韓国市場は変わりましたか?

川内氏:めちゃくちゃ変わりましたね。赴任する前から韓国を見てましたけど、赴任していままで3年半なのですが、赴任した時は韓国はアジアの中でもなんとなく元気がない、マーケットが盛り上がっていない、ユーザーに響いていない。赴任する前からマーケティングやっているハには悪いんだけれども(笑)、やっている割には少ししか響かなかったり、もうちょっと買ってほしいなと言うのはありました。

 しかし、韓国に赴任してみて、やはりいろんな難しさがありました。規制がものすごく難しくて、例えば、さっきも出たように韓国はネット販売のデジタル購買が本当に多い国なんですが、だからこそ個人情報の取り扱いとかネット規制がものすごく厳しいんです。以前、PlayStation Networkがサービスを停止したことがありましたが、復活したのは韓国が世界で1番最後だったのです。

――そうだったんですか。

川内氏:要するに再開するための要件がきつくて、それを全部合わせると1番最後になってしまう。良い、悪いではなくて、やはり消費者保護の観点からの規制なので、だからこそ安心してネット購買もできるということでもあるので、そこは国の規制にちゃんと従ってやってきたんですが、商売の難しさもそういうところにあったんですね。全部クリアしていかないとダメなので、その間ネットは全部閉じたままでした。

 あとは青少年保護法ということで、19歳以下の人に対してのネット閲覧は何時から何時まで閉じるとか、そういう細かい仕組みは入れられないので、年齢で一律閉じるしかない。そういういろんな規制に対応していく難しさがあったり。それを乗り越えていきつつの3年半でしたね。

 韓国の皆さんは私たちに「何やってるの! 早く開けてくれ」と言われるんです。当然ですよね。私としても、東京とはもう散々っぱら議論して、当時、ネットワークを統括していたショーン(レーデン氏、現SCEAプレジデント兼CEO)に結構ねじ込んだりとかしました。それでも我々として一貫していたのは、皆さんにちゃんと遊んでいただけるようにするために、私たちは規制にちゃんと沿った形でビジネスを進めてきました。

 我々はちゃんとユーザーさんのために、国が定めたことをきっちりクリアしていって、皆さんに快適な環境でやっていただけるようにというのを本当に心底思っていて、そういうことの繰り返しが、ユーザーの皆さんに届いていく時期がぽんときて、それがPS4の発売と合った感じが自分の中でするわけです。

 そこからの風向きは変わりました。例えばユーザーさんから私たちに向けてくれている感情だとか、感覚とか、後はローカライズの仕込みだったりとかがこのころからずっと活きてきて、ハングル語のタイトルが増えてきて、そうするといい相乗効果でユーザーさんがどんどんついてきました。今やっているのは、PCオンラインゲームをやっているユーザーさんを獲得するために、こうやってG-STARに出たり、韓国の開発会社さん、ほとんどがPC系の開発会社さんですが、彼らにプレイステーションというプラットフォームに入ってきてもらうことです。

 そうするとやっぱり、ユーザーも付いてきてくれて、ローカライズされるタイトルも増えてきて、そのいい効果がずっと見えてきているというのが、ユーザーさんにも伝わっていって、我々がサポートすることによっていい環境ができてくるのだなというのが、感じてもらえるようになったのではないか。これは大きな赴任当時と、今感じる大きな違いです。

――ハさんはいかがですか。川内さんの赴任前からSCEKにいたわけですが。

ハ氏:もうまったく違ってますね。どこから語ればいいのかというくらい変わってきていまして、ユーザーさんから見れば、1番変化が感じられるのは、やはりハングル化されたタイトルの数が全然違います。特に「これハングルで遊べるの?」と驚くような大作がハングル化されるようになりました。例えば「ドラゴンクエスト」とか、「龍が如く」とか、そういう大作がハングルで遊べるようになったのはまさに川内さんが赴任してからの出来事です。あとは川内さんは、すごくユーザーさんにフレンドリーで、韓国ではもうほぼ芸能人みたいな扱いで、どこへいってもサイン攻めにあって次の所にいけないくらいです。すべてが良い方向にまとまってっていって、それがPS4のローンチに合わせて爆発した感じです。

川内氏:いろんな多角的に仕込んでいたものが、本当に全部いい方向に動いてきた感じがするよね。

――そういう意味ではSCEKは惜しい方を失いましたね。

ハ氏:失ってはないですよ!

川内氏:失ってはないです。何言ってるんですか(笑)

――ハさんは迷ったときに、たまに川内さんに相談に乗って貰う?

ハ氏:たまにじゃなくて毎日相談です(笑)

――しかし、ここまで“川内組”が完成していると、後任の安藤さん(哲哉氏、SCEHプレジデント)はちょっとやりにくそうですね。

川内氏:そんなことはないと思いますよ。彼は真面目で堅実な人なので、きっちりやっていきますし、私みたいにちゃらんぽらんではないですから。私がSCEKで大事に思っていたのは、社員1人1人が楽しく生きがいを持って務めてもらうことと、SCEKは販売会社なので、販売を伸ばしていくことです。

 例えば、販売会社がミーティングばっかりってありえないと思っているのですよ。良いかどうは別にして、SCEKって定例ミーティングないんですよ。月曜日に集まってどうとか。部とか課レベルではやっていると思いますが、私が入ってそこでやるための資料を作るって一切必要ないのですよ。

ハ氏:仕事のための仕事ってあるじゃないですか。その仕事をするためにしないとけない仕事がないですね。川内さんとは、仕事だけすればいいですね。

川内氏:必要な時にいつでもミーティングをやれるように、私は部屋も持っていません。オープンなところにみんなと一緒にいます。みんなが私の所に来るときにノックとか要りません。

――いわゆる社長室がないのですか?

川内氏:ないです。

ハ氏:川内さんが赴任する際に、もちろん社長室を作ろうとしていたのですけども、川内さんに怒られました。「こんなのいらない」と。

――アジアって、形が大事というか、見てくれから入るので、何はともあれ立派なものをどんと作ってしまうところがありますよね。

川内氏:そうですよ。作っちゃうのですよ。実際、作っちゃうような図面になっていたのです(笑)。部屋に入ってエラそうに踏ん反りかえってやっている場合じゃないだろと。

――川内さんらしいですね(笑)。川内さんの取り組みにより、アジアにおける韓国の立ち位置はどう変わりましたか?

川内氏:向上したように思いますけど、そういうのは私の口からは言いにくいでしょ。言っちゃダメなんだ。だからまったく向上してないです。相変わらずの体たらくです(笑)。ちょっとだけ真面目な話をすると、人口比率から見るともうちょっと売り上げがあっていいんです。台湾の倍あっていいんです。でもまだ台湾と同程度。それがPS4の週販で比較するとかなり上回ってきましたね。

――ゲーム大国韓国の視線がようやくPSに向き出したという感じですね。

ハ氏:韓国はゲーマーの人口でいうと世界トップレベルの数いますからね。

川内氏:そうなんです。そういう人たちをPSに持ってこないといけない。いまその過程の中にいますけれど、今で言うと5,000~6,000億円くらいの市場がPCゲームにあって、それをいくらかでも持ってこれるともっと韓国でのプレイステーションのポジションが上がる気がしますね。

――そこはちょっとやり残したところですか?

川内氏:まあそうですね。たくさん種を植えて、芽がちょっと出てきている。花が咲いているのもちょこっとはありますけど、まだもっと大きなものにこれからなっていくように仕掛けていかなければなりません。これは東京にいる私のこれからの役目でもあります。

SCEJAでソフトウェアビジネス担当VPとして日本に帰任する川内氏。その手腕に引き続き期待したい

――川内さんは、G-STAR後にSCEKのプレジデントを退任されて、日本に戻られるということですが、新たな担当業務について教えていただけますか。

川内氏:現在兼務する形ですでに担当しているのですが、ソフトウェアビジネス部のVPです。ソフトウェアビジネス統轄役員みたいな。SCEJAのソフトウェア全般を見ることになります。

――担当としてはファーストパーティ、セカンドパーティ、サードパーティ全部ですか?

川内氏:ということになりますね。

――ソフトウェア全部というとSCEWWSとの関係はどうなりますか?

川内氏:SCEWWSは開発チームで、吉田修平が担当しています。私がやるのはタイトル獲得です。例えばSCEWWSが開発したファーストパーティタイトルをちゃんと日本、アジアに向けて出すということです。実はどこまでがファーストパーティなのかという区切り方が難しくて、帰ってからその辺の定義を決めなければならないと思っていますが、まずはセカンド、サードから入っていって、特にサードパーティさんと今までのお付き合いをさらに広げてさせていただいて、それは欧米のタイトルも含めて世界のタイトルを、日本アジアに向けてちゃんと市場に出していくという役目です。

――川内さんに白羽の矢が立ったのは、ずっとアジアを担当し、日本とアジアの両方がわかるからということですか?

川内氏:それはわからないです。

――でも、SCEJとSCE Asiaにわかれていた時代ならともかく、今はアジアも含めたSCEJAですから、日本市場しかわからなかったら、ソフトウェアビジネスVPは担当できませんよね。

川内氏:それはまあそうですね。私は18年目か、19年目なんですが、東京でやっている時に、アジアに出すときに当然ライセンシーさんを回っていますから、アジアに出すときに全部私がやっていたので、皆さん1度はお会いしたことがあったのです。昔いた方はだいたいわかってますね。そういうのもあるし、アジアのことは1番わかってる中の1人であることは間違いないと思います。

――ファーストとサードはわかりやすいですが、SCEさんのいうセカンドパーティとはどういう定義なのですか?

川内氏:例えば、スクウェア・エニックスさんは日本ではサードパーティさんとしてお付き合いさせていただいていますが、アジアではすべて我々がパブリッシュさせていただいてますからセカンドパーティとなります。

――なるほど。ということは日本の大手さんは、アジアではほぼすべてセカンドパーティ扱いということですね。

川内氏:アジアだけでなく日本でも増えていますよ。たとえば、「コール オブ デューティ ブラックオプスIII」とかは日本ではセカンドパーティです。私が東京にいたときに、セカンドパーティディールというものを作りました。契約書も作りましたし、セカンドパーティって何ぞやというご説明もさせていただきました。そこは内部で私が1番知っているでしょうね。

――今後、川内さんが担当役員として、再びフロントに立ってどんどんやっていく形になりますか?

川内氏:そうですね。セカンドパーティディールの良さを理解していただいた上で、どんどん使って下さいと。我々はプラットフォームホルダーとして、非常に効果的にお使いいただけるインフラもあるし、各々の国にスタッフがいてマーケティング活動もできる。こういうG-STARみたいなイベントでもそうですが、これ1社ではできないですよね。我々がやるところにどんどん乗っかってきてもらえればと思いますね。

――最後にSCEKプレジデントとして韓国のゲームファンの方にメッセージをお願いします。もう1つはソフトウェアビジネスのVPとして、SCEJAの担当エリアである日本とアジアの皆さんに向けてメッセージをお願いします。

川内氏:まず、韓国のゲーマーの皆さんに向けては、私が韓国へ来て、やることがいっぱいあったのですが、皆さんにサポートいただけたおかげで割と自分が思っていたことがたくさんできたと思っています。それで結果がついてきたというので、本当にありがたいですし、これからも私の仕事の領域の中で当然韓国も中に含まれていますから、継続して韓国のユーザーも、もちろん韓国のユーザーさんだけではないですけれども、韓国のユーザーさんにもこれからも楽しんでもらうために、最適な状況を作っていくというのは必ずお約束していきたいなと思っています。

 これからの自分のミッション、役割は、日本がさらにこれからどんどんいい作品、大きなタイトルも含めて作品が揃って来るので、それを日本とアジアに届けることです。私が販売会社にいて、そこから見た日本の良いところと悪いところがあるので、そういったものを、良いものはもちろん伸ばしつつ、良くないところは改善していくというか是正していくことをやって、日本を含めたアジアトータルで、いい相乗効果を出していきたいと思っています。社内的にも、今まで日本しか見ていなかった人もアジアをちゃんとわかるような体制にしていきたいですし、アジアから見る日本というのも、もっと知ってもらえるような機会を作っていきたいなという風に思います。

――ありがとうございました。

(中村聖司)