インタビュー
「セガ3D復刻アーカイブス」インタビュー
再び生まれ変わった!?「スペースハリアー」
(2014/10/22 18:00)
再び生まれ変わった!?「スペースハリアー」
さて、ここでなぜ、今回この倉庫で収録が行なわれたのかをご説明しよう。今回、倉庫に保管されている「スペースハリアー」を改めて取材することになったのだ。理由は、「コインの投入音」をはじめとした環境音の追加収録。
「3D スペースハリアー」において、画面の立体視化とあわせ、筐体を再現した「ムービング筐体」モード、そして、ボタン音や筐体駆動音を再現した「環境音」の導入に驚いたり、ニヤニヤした方も多いと思う。
その「環境音」に、さらにクレジット投入時のコインがコインシューターを通って集金ボックスに落ちる音などを入れてしまうという、筐体を再現するためにさらに1段手を加える仕込みが行なわれていたのだ。
さらに、「セガ3D復刻アーカイブス」の製作中のROMを触らせていただいたのだが……。
―― そういえば、先ほど製作途中のROMをプレイさせていただいてびっくりしたんですが、「スペースハリアー」が……変わってるじゃないですか! またなんでここまで……。
奥成氏: はい。今回、収録タイトルを決めた後に、エムツーさんから「1つ問題が……」と言われたのが「スペースハリアー」なんですね。これまでのインタビューをご覧いただいている方ならおわかりの通り、これはシリーズ第1弾のタイトルなんですよね。
堀井氏: 「3D スペースハリアー」の時点では、ゲームをスタートするボタンがXボタンではなくYボタンになっていたり、ゲームデータのリセットボタンが文字でなくアイコンになっていたりとか、イコライザーのボタンがわかりにくかったりと、他のタイトルとまとめて収録するときに統一性がないのは問題になって。
奥成氏: それだけじゃないです。「セガ3D復刻プロジェクト」の初期の進歩を簡単におさらいしますと、まずリリース前、「ショットボタン1つだから、コンフィグはいらないよね」って言ってたら、リリース後に、「それでもボタンコンフィグが欲しい」って声があって、次回作の「3D スーパーハングオン」で一部付けたら、「全部のボタンが変えられたほうがいい」って言われて、ギガドライブタイトルでは全部のボタンに対応して……というように変わっていって。
――そうでしたね。
奥成氏: それで、「他と並べた時に違いの多い『スペースハリアー』は何とかしよう」という話が出て……、そのための予算を確保しようという話になって、いろいろ進めた結果、結局、エムツーさんにもう1度、「セガ 3D復刻プロジェクト」の中の、「3D サンダーブレード」までの蓄積した知見を使って、これがある意味第14弾として「スペースハリアー」ができてしまいました。
奥成氏: ガンプラで言えば、最初の「3D スペースハリアー」は初代MG(マスターグレード)なんですよ。そして今回は、「Ver.2」みたいなものですね。何年か経つと出るじゃないですか。
―― でも、予算も時間も限られているとなると、コンフィグ周りを修正したら、「それでいいんじゃない?」って話になりません?
堀井氏: それはそうなんですが、今回のメインプログラマーの齊藤(※)が、「3D スペースハリアー」の制作時にも試していた、キャラ絵の立体化について、リリース後もずっとちまちまと作業を続けていて……。これまでのタイトルで高速化などの技量も蓄積されましたし、今回はそういった改良を加えつつ、60fpsも狙えるんじゃないか? ということもありましたし。奥成さんから提案いただいた、ユーザーインターフェイスまわりの作り変えに乗る形で、全体的に手を入れることになりました。
※齊藤彰良氏……M2所属のプログラマ。「3D サンダーブレード」のメインプログラマ。
奥成氏: 堀井さん、ズルいんですよ。「全体をまとめるメニューを作るのにこれぐらいかかります」って予算を提示してきて、「さらにそれぞれのタイトルの調整にこれぐらいかかります」って出してきたんですけれども、それがソフト1本分ぐらいかかる予算で……「トータルでこれぐらいかかります」と。でも、「今回急ぎだし、エムツーさん総出でやるんだろうな」と思っていて、「『スペースハリアー』も直さないとね」という話をして、ROM見たらこれですよ(一同笑)!
堀井氏: 「スペースハリアー」に関しては、齊藤が気にして動いてくれていたので、技術的な目星はつけていたんですが、立体視向けのキャラクターのデータを作るのは、やはりデザイナーの手が必要なんですよ。ここで一気にデザイナーを動員できたのは大きかった!
―― ……ということは、配信されている「3D スペースハリアー」に修正プログラムを当てる、というレベルじゃすまないレベルの修正になっているんですか?
堀井氏: パッチじゃ全然無理ですね。セーブデータも互換性ありませんし。
奥成氏: ソフトをまるっきり作り変えているので、リプレイの互換性とか持たせられないし。任天堂さんのリマスター条件を大きく逸脱しているほどの変更ですね。
―― どれぐらい変わったのか、改めてご説明いただけます?
堀井氏: 走っているハリアーのかかとが、自分のお尻を蹴っているところが立体で見えますよ、という。こんな感じで各キャラクターに立体化を施しました。
奥成氏: そこをわかりやすくしたものを図解してお見せします。
―― 要は、どこを立体化させて前後に膨らませるか、というところからガラッと変えちゃってると。「3D ファンタジーゾーン」の時の手法で、キャラクター自体をさらに立体化しているんですね。
堀井氏: 2年前の「3D スペースハリアー」のときは、大まかに似た形のポリゴンに(テクスチャーを)貼って立体化を表現する、というテストをやっていたんです。けれども、実際に入れてみたら、処理が重くなって、60fps出なくてあきらめたという経緯があって。……今回リベンジできてよかったです。
―― 「スペースハリアー」はやっぱり最初に手がけられたタイトルで、それから「サンダーブレード」にいたるまで、いろんなテストやトライをされてきて、かなり立体演出に関してグレードが上がってきましたものね。とはいえ、やっぱり最初に「スペースハリアー」をやったから、シリーズとして実績ができて、ここまでやってこれた、ということもありますし。
奥成氏: そうですね。最初が他のタイトルだったらどうなったのかはわかりませんが。でも、あの当時は、みんなが見たかったのは立体視化した「スペースハリアー」だったと思っているんで……そういう意味で、僕は、「3D スペースハリアー」を商品として不完全なものだとは思っていないんです。あれはあれで、当時のクオリティとしてベストなものを出しているので。今でも自信を持って言えます。
堀井氏: リリース後にいろんなご意見をいただいた、音周りの部分に関しても、もし処理速度が空くなら(余裕が出るなら)なんとかしたいんですけれども、それに関しても、FM音源に関しての割り込みの粒度を上げてしまうと、「スペースハリアー」は動かない、という技術レベルの追い込みの結果、ああいった形になっているので……。選べる範囲では当時、選べる範囲でベストな手段をとったと思っています。なくなくあきらめた部分でもあるのですが、当時の選択に悔いはないですね。
奥成氏: その一方で「セガ3D復刻アーカイブス」に収録される「スペースハリアー」は、「3D サンダーブレード」までチューニングしてきたエンジン……「3D ギャラクシーフォース」で1回レベルが上がって……。
堀井氏: 「3D ギャラクシーフォース」のときに足回りを含めて総とっかえしてますね。
奥成氏: 今回の「セガ3D復刻アーカイブス」の「スペースハリアー」は、「3D サンダーブレード」まで、ずーっとこつこつ仕上げてきたエンジンに、もう1回「スペースハリアー」を載せた、というものなんですよね。
例えば、3D立体視に関する見せ方なども経験値を積んだ分の調整をしています。……どこまでの立体視の深度にするか。人間の目に負担にならないように、奥行感を出すかは毎回議論になっているんで。ギガドライブタイトルも含めてですね。スタッフ全員で……堀井さんは結構キツくしても平気、という人なんですが、同じものを見て僕はちょっとキツいなっていうレベルだったりして、いろいろ調整してきた結果の深度の付け方の試行錯誤があったんです。
堀井氏: 「3D ベア・ナックル」は、試作段階ではもっとキツくなってましたね。僕は平気だったけれど、普通の人には遊べないレベルだった。
奥成氏: 「3D サンダーブレード」までを経たクオリティで、今回の「スペースハリアー」の深度を決定しています。「3D スペースハリアー」のときは比較的浅めだったんで人によっては少し印象も変わりますね。
―― 新たに立体化されたビジュアルもありますし、効果もかなりありますね。
奥成氏: そうですね。それと、サウンドの部分に関しても、エンジンを載せ換えたことで、今のところほぼほぼフルに鳴らせるようになっていますね。最初は「やっぱり、ダメなものはダメ」というところからスタートして、開発途中ですが「鳴ってるじゃん」というところまで(最適化されて)来ました。
堀井氏: 実機と比較して細かくチェックしていますが、そのレベルであともう少し、というところまで来てますね。
―― 個人の感覚ですが、2つを比べてプレイしてみて、「鳴り方が違うな」という気がしました。設定でBGMとSEも切り分けられて、ショット音も別扱いになりましたし、聞こえ方が違います。それと、オリジナルのアーケード版にもあった、BGMとSEでチャンネル競合が起こったときにどの音が消えるのか、といった部分も変わっていると思います。新旧それぞれをまったく同じ状態にはできないので、あくまで感覚ですが。
堀井氏: BGMとSEのボリューム調整も最初は「できない」って言ってたのになー。
―― (笑)。
奥成氏: これも8割程度のできばえのバージョンなんで、最終的には並木学さんがカリカリにチューニングされるんで(笑)。また変わっていくと思うんですが。
―― これからまだ(笑)。
奥成氏: それと、一部やっていたアニメーションの省略も、元通りに復活しています。「テトラ」のグラフィックとか、左右非対称の部分を対称にすることで簡略化していたんですよね。3面あるうち1面だけちょっと水色が入っているんです。これはほとんどの人は気づかなかったと思うんですけど、プラチナゲームズの神谷(英樹)さんが真っ先に気付かれて(笑)。
―― すごいなー。
奥成氏: 私も後から「テトラいじった?」って齊藤さんに確認したら「実は……」と。
―― そこまで見られているんですね(笑)。
堀井氏: 今回、この仕事を引き受けた理由って、「スペースハリアー」をもう1回作り直せて、それを世に出せるからなんですよ。個人的には。それを出すためだけに、「どうしても何か要るんだよ」って言われたら、マスターシステムのタイトルも入れますし、「なんでもやりますよ」って。SEも復活させられて、キャラクターに対しての立体化も入れられて、思った以上の効果が上げられることが検証でわかったので……約4,000円という価格はお財布には痛い価格なんですが、ここまでできれば俺なら買う! と。あとは同じように喜んでくれる方に喜んでいただけたらいいな、と。
―― 「サンダーブレード」の時と同じですね(笑)。
堀井氏: そうなんですよ。結局「俺得」なんですよね。
―― (笑)。制作サイドが「これはいい!」というものに仕上がって、ユーザーさんがそれに共感できればそんなハッピーなことはないですよね。それにしても、なかなかないですよね。同じソフトを同じプラットフォーム向けに2度作るなんて……。
堀井氏: 俺が知っているのは、X1の「マッピー」ぐらいですよ。
―― (笑)。
奥成氏: ファミコン ディスクシステムの「アイスクライマー」や「クルクルランド」とか「帰ってきたマリオブラザーズ」?
堀井氏: でも、ディスクシステムになってハードウェア構成が変わりましたからね(アダプタに拡張音源などが搭載されてパワーアップしている)。同じゲームがまったく同じハードに2回出る、ということはあまりないですね。だから僕は、それを作る口実ならいくらでもお手伝いしますし、その間にスタッフがキャラを輪切りにしてくれているので、ウハウハしています(笑)。
奥成氏: ただ、こういった部分は一部のお客さんが気づいてくれれば、というところであって、面白さの根幹はオリジナルの「スペースハリアー」の移植である、というところは変わっていなくて。3Dボリュームを2Dにした時点で、ほぼ変わらないという。
堀井氏: 「3D スペースハリアー」の時点で、「スペースハリアー」って立体にすると奥行が付いて物体の前後関係がわかりやすくなるから、より遊びやすくなった、というところは変わらないわけですよ。
奥成氏: そして「HAYA OH」を追加で入れることができて。今回もその部分は変わりません。ゲームの面白さの根幹に関わるところはまったく同じです。
―― 完成度がさらに向上したという感じですね。
堀井氏: 「パッケージにする予算が出たよ」ということで手を入れまくって。しかもあまつさえコイン投入音を収録に行くという……。
―― 今回、またセガさんの倉庫に永久保管されている「スペースハリアー」に会いに行く、というお話を伺ってご同行させていただいたんですが、そこまでやるとは思いませんでした(笑)。
ダウンロード版をひとまとめにしてパッケージとして販売する、というのもあるようでいてあまりないですしね。そういう意味ではどこまで手を入れて、どういった形で発売するのか、というのも難しいですね。
奥成氏: 普通は手を入れることはしないでしょうね。
堀井氏: ですね。
―― そういった意味で、パッケージ版1作に対して、ここまで手を入れて作られる、ということ自体が破格のことだとは思うんですよね。そういえば、パッケージ版になるにあたって、オープニングやスタッフクレジットはどうなるんですか?
堀井氏: オープニングは新規で作りました。奥成さんは前々からオープニングを付けたかった感じがしていて(笑)、それに応えられるものにしようとスタッフで話をしていました。クレジットもね……。
―― あ! クレジットは「3D スペースハリアー」のときは第2期タイトルみたいになっていなかったですものね。今回のクレジットってどうなるんですか?
奥成氏: ランダムで、「スペースハリアー」と、「アウトラン」、「ファンタジーゾーン」のものが再生される、という感じになると思います。ギガドライブタイトルもクレジットはありませんでしたからね。一方で、ダウンロード版でタイトルを選ぶときに見えるHOME画面の筐体モデルは、残念ですがパッケージ版では見られません。
―― タイトルごとにHOME画面に表示されるわけじゃないですものね。それと、「スペースハリアー」は画面モードも他のものと違いましたよね?
奥成氏: 「3D サンダーブレード」準拠になります。「3D スペースハリアー」の時は処理速度の問題があって、ワイド画面も左右を消していたりしていたんですよね。
―― こうしてお話を伺っていると、やっぱり(笑)結構変わってますねー。
奥成氏: 「3D スペースハリアー」がリリースされてから2年、ずーっと作り続けてきましたからね。それは技術もノウハウも蓄積されてきますから。
―― 「セガ 3D復刻プロジェクト」が配信タイトルだったから、1作ごとにクオリティも上がって、技術も蓄積されてきたんですよね。そういった意味ではダウンロードタイトルで1作づつ作られてきてよかったんですよね。これが最初からパッケージ版だったら、この蓄積は無かったし、そもそもスペハリ以上のゲームは技術的に移植不可能っていう話で終わってましたね。
堀井氏: 今のご時勢、移植タイトルで1本づつパッケージにするのはありえませんし。
―― 先ほどのガンプラの話でいえば、初代1/144の「量産型ザク」と「旧ザク」の違いみたいなものですね(笑)。フォルムの再現度やパーツ分割や稼動箇所が段違い、という。
奥成氏: 13本作ってきたクオリティで、こうしてパッケージ版が出せるという。