インタビュー

【タイトー特集】タイトー代表取締役副社長大和一彦氏インタビュー

「タイトーの根幹はアーケードゲーム事業」。大和氏のアーケードにかける想いとは!?

「タイトーの根幹はアーケードゲーム事業」。大和氏のアーケードにかける想いとは!?

海外展開ということでスマートフォンがメインのインタビューを想定していたが、大和氏はアーケードビジネスに対する想いが人一倍強かった
アミューズメント施設のページは、日本語、英語のほか、中文やハングルにも対応している
大和氏が好調だというプライズのページ

――今回大和さんにインタビューさせていただいて非常に印象的なのはアーケードゲーム事業に対するこだわりです。アーケードゲーム事業に関して、中国再進出はありえますか?

大和氏: アーケードゲームの再進出についてはストレートに言って現段階では考えづらいです。なぜかというと規制がまだ外れておらず、様々な規制が残っているため、そこがなくならない限りビジネスにならないです。ですから、今はこちらにあるメーカー、中国のメーカーも非常に厳しい状況になっている。中国にあるアーケードゲーム機器のメーカーでありながら、今一時の勢いをなくしていらっしゃるという状況もありますから。そこに我々のような日本サイドのアーケードゲームの制作会社入っていってどうかというと、難しいと思いますね。それよりも、ヨーロッパが面白そうな感じがしていますね。

――北米ではなくヨーロッパですか。

大和氏: 北米は広すぎるんですよね。E3に合わせてロサンゼルスへ連れていってもらいましたが、アメリカのマーケットは広すぎますね。ヨーロッパは物理的な距離感がちょうどいいですよね。だいたい1時間から1時間半でほとんどの所が回れるという辺りがいい。

――アーケードゲームを事業として考える場合、基本的な考え方として、やはり物流、物理的な距離で考えるのですか?

大和氏: 物流で考えますね。物流の額というのは馬鹿にならないですから。ご存知だと思いますが、機械は当然1カ所に置いたままではないので、ある程度ローテーションをかけながら考えなければいけない部分があります。そうすると物流コストというものは、それは景品の物流もそうなのですが、かなり大きなウェイトを占めるのです。ビジネスモデルとして成り立つか成り立たないかという判断をするファクターとして。だからそれを考えると、アメリカというところまでは行けないです。

――最初のアーケードゲームの海外展開としてはヨーロッパを目指すわけですか?

大和氏: はい。まずヨーロッパを考えていきたいなと思っています。

――ヨーロッパもEUという単位だとかなり大きくなってしまいますが。

大和氏: フランスとかドイツとかイタリアとかイギリス。その辺りでしょうね。やはりある程度国民所得が高いところ。当然エンタメの世界ですので、ある程度所得があるところでやっていかないとビジネスにはかなり辛いかなと思っています。

――日本のアーケードコンテンツを、どういった形でヨーロッパに持って行くのですか?

大和氏: それをまさしくこれから開発陣と相談していこうと思っています。

――いつくらいからヨーロッパに?

大和氏: 来年を一応考えてはいるのですが、ただそれまでに開発陣が間に合うかどうか。現場には「冗談じゃない」と言われていますが(笑)。

――言語のローカライズも?

大和氏: もちろん必要なものはありますし、ものによっては言語のローカライズがあまり必要ではないものもありますから、どういった形で入っていくのか今候補がいくつかあがっていますので、それについてはこれから検討していきたいと思います。やはりあのマーケットはまだまだあると思いますね。

 たとえばジャパンエキスポに行ってあれだけ何十万人の人が集まって、コスプレの人があれだけ集まって、あの中にアーケードゲーム機器が1台も置いていないという恐ろしさ。なぜ置いていないのだろう? 国の規制から調べ直さなければなりませんね。まだ7月に帰って来たばかりで、わからないのですが、規制があるかどうかを見た上で、行けるようならば絶対に1つのマーケットになります。

 さらにカジノです。カジノ法を通して、2020年に日本に3カ所のカジノを作るとなるとどういうことが起きるかというと、コナミさんやセガさんにしてもそうでしょうけど、皆さん急速に軸足をアーケードゲームの機械開発からカジノ機にシフトされるはずです。そうなるとアミューズメント施設への機械供給というものが急速に先細っていくリスクがある。新しい機械が出てこないので、新しいアーケードゲームのジャンル、例えば音ゲーとか、ああいうジャンルもなかなか生まれにくくなってしまう。そうすると機械も無い新しいジャンルも無いとなるとお客様が引いていってしまう。という危機感を強く持っていますね。

――タイトーさん自身がカジノ事業に参戦することは?

大和氏: それはないです。今からでは実力的に間に合わないと思いますので。

――それは機材の開発がということですか?

大和氏: いえ。今の陣容からすると、そちらまで戦線を広げるということはちょっと難しいと思います。よほど腹をくくって、それ一本で勝負するというなら別でしょうが。タイトーも、先ほど申し上げたとおり、いくつもの事業展開をしていますのでこちらを集約してそちらにというのは難しいです。それにコナミさんやセガさんとは、いままでかけてきた時間とノウハウに開きがありすぎるので、タイトーはむしろ、そういう流れの中で、このアミューズメント施設の中でいかにきっちり勝ち残っていくかが、経営の最大の主眼になっています。じゃあどうやって勝ちのこっていくのか、ということで今、色々と指示を出しています。実際にアクションをとり、この1年半できちっと利益が出る構造に変えてきていますので、それはこの業界の中ではトップだと思いますよ。

 例えば店舗事業の採算構造というものは、ある程度売下がったとしても、必要利益を確保できる構造になっています。例えば原価のコントロールをきちっとしていくシステムを作っています。これに4年ぐらいかかっています。昨年ぐらいにだいたい仕上がってきたので、後はマーケットが厳しくなってもその構造を壊さないような手当をきっちりとしていけば、それなりにタイトーという会社はオペレーションでの利益は確保できるようになっています。

 これに対し、同業他社さんはこれからです。これから皆さん多くの数の店舗、不採算店を整理されていきますから。タイトーも実は5年前にやったわけです。不採算店を整理して目指すところは高利事業構造に持っていこうという所をターゲットにして様々な施策を打って、今の一定の営業利益率にたどり着くことができるような体制にもってくるまでに4年かかっているのですよ。ここはタイトーの強みなのです。そう簡単に追いつけない部分だと思います。ここは自分がやってきましたから自信を持って言えます。

――今ある144店舗(FC店含む)は非常に筋肉質の経営状態で、それぞれしっかり利益が出せる構造になっているということですか?

大和氏: 全部とは言いませんし、若干のブレはありますよ。人の流れが変わったりということもありますから。全部ではないのですが、少なくとも直営店のうち100店舗はしっかりと利益が取れる体制の店舗になってきています。ここは今のタイトーの強みですね。マスコミの取材などでも既存店の前年度の売上比はどうだとか、「売上が昨年比90何パーセントになっていて、やっぱりきついんじゃないですか?」と聞かれるのですが、確かに売上はきついですが、利益という目で見ると弊社は比較的余裕を持った事業展開ができているということです。

――5年ぐらい前だと思いますが、まだ和田さんがタイトーの社長をされていた時に、アミューズメント施設事業については5分でも10分でも歩いて行って立ち寄れるような魅力のある店舗を作っていきたいんだという話を伺ったことがあります。大和さんのゲームセンター事業に対するストラテジーはどういったものでしょうか?

大和氏: 1番は立地ですね。和田さんに近いところもあるかもしれませんが、ただ和田さんが言っていたのは一等地でなくてもいいと。道から1本、中に入っていてもいい、2本入っていてもいい。ですから必ずしも一等地を目指す必要はないという話でした。でもやはり私の実体験から言うと、最終的に行くのは店長さんの腕だとかクルーさんの熱意だとかいろいろありますけども、やはり立地ですよ。やはりお客様が来てくれる立地をどう確保するか。これを3年なら3年、5年なら5年というスパンで考えた時に、やはり立地がいいところは安定的に利益を出しています。そうではないところにある店舗は、例えばいい景品が出たとき、いい機械が出たときにはそれなりに上がります。しかしそれが不足したときにはお客様が来ていただける数がドンと減るのです。

 例えばJRの駅の中とかいうところなら、ある程度安定した数のお客様が来てくださいますから、それほどひどく売り上げが落ちないということになります。タイトーの場合はそこをどれだけ確保していけるか、そういう視点から見ていた時に、また来期消費税の増税がありますが、もう1度お店の絞り込みが出てくるかもしれません。もう1つ事業体制を強くするために。

――新規店舗の開拓は考えているのですか?

大和氏: 当然です。これは生きる道ですから、スクラップ&ビルドは絶対に続けていかなければならないので。

――その際のファーストプライオリティというのは?

大和氏: 立地です。立地。

――タイトーには立地ばかりを考える部署が存在するのですか?

大和氏: 事業開発部という、立地や物件を専門的におこなっている部隊がありますので、毎日すごい数の物件が来ていて、それを1週間に1度まとめさせて報告を受けながら決めていっています。

――アミューズメント事業をそのレベルからやっているメーカーさんはもうほとんどないですね。

大和氏: でもナムコさんがやっているんじゃないかな? アミューズメント施設はタイトーの基幹部門ですので、そこで利益を稼いで、開発部門にお金をまわしていくと。でなければ回らなくなるのです。

――アミューズメント施設で日銭を稼いで、その稼ぎを開発部門に回すという見方はとてもユニークです。タイトーの基幹事業というのは、コンソールでもモバイルでもなくアミューズメント施設事業ですか?

大和氏: アミューズメント施設です。日銭も稼ぐし、安定的な利益も打ち出してくれる。会社の根幹です。そこで出た利益をアーケードゲーム機器やモバイルの開発に振り向けていって、良いものを作っていく。そのすべての源泉です。

――往年のゲームファンは、タイトーさんに対して“アーケード屋”という印象でいる人は多いと思うのです。実は今でもアーケード屋なのですね。

大和氏: はい。DNAは。昔はそちらのDNAがぐわーんとデカかったわけです(笑)。でも今はモバイルコンテンツとの両輪の時期が来ていると思います。だから今はこちらがどんどん大きくなっていくというのをやっている段階ですね。正直言って2年ぐらい前まではこちらは死んでいたので。非常にうまく両輪が少しずつかみ合いだしてきたかなという感じですね。

――コンソール事業はタイトーさんに限らず国内では今全般的に元気が無い状況ですが、こちらについてはどのような展望をお持ちですか?

大和氏: 川島がやりたいという希望は持っているのですが、僕の中ではまだプライオリティはかなり低いです。

――「低い」とまで言ってしまいますか?

大和氏: 低いですね。これはまた論議しなければならないところでしょうが、私の中で全社のいろいろなプライオリティがあります。その大きさ、企業に与える利益のインパクトを考えると、今はまだ他にやることがあるかなという感じがします。

――それでは直近でPS4やXbox One向けにタイトーからもの凄いタイトルが発表されるということはないですか?

大和氏: 残念ながらそういうのはないかな。

――ここ1、2年というスパンではいかがですか?

大和氏: ないと思います。

川島氏: えっと、話したいことがたくさんあるんですが(笑)。僕の中ではアーケードゲームを作ることと、コンソールゲームを作ることと、モバイルゲームを作ることは同じなので、必ずしも「ない」というわけではないと思います。

――コンソールに関しては、中国市場でようやくコンソールゲームが解禁されますが、こちらに関してはどう見ていらっしゃいますか?

大和氏: ビジネスチャンスが増えるということは間違いないです。

――コンソールを展開するという可能性はありますか?

大和氏: それはあります。マーケットがオープンになって解放されてくると、手をこまねいて見ている必要はないので、チャンスがあればやっていきたいですね。

――大和さんの中で今優先されている事業は何ですか?

大和氏: アーケードとモバイルですね。まずはメインはこの2つですよ。この2つに力を入れていきます。集約ですから。店舗の事業が中心にあって、それに付いているアーケードゲーム機器の事業、これは一体じゃないですか。それからクレーンゲームの景品を供給しているキャラクター・トイ事業、これはひとつのアーケードの事業です。それとはまたまったく違うという意味で、このモバイルコンテンツの事業がもう1つという言い方をしています。

 そして次のステップとして、タイトーがやろうとしているのはアーケードゲームの開発とモバイルコンテンツの開発、これを一本でやっていくことができないかという動きですね。これは是非やっていくべきであろうと。お互いが固定観念で固まっちゃうといけないので。お互いが刺激し合う中で垣根を外して、思い切り色々議論して面白いものを作っていこうという形で。組織が分かれているとどうしても分かれてしまうので、どこかでスパンと垣根をはずして自由にディスカッションしていこうと。これだけ若い人がたくさんいますから、色々なものが出てくる可能性はあるので。

――これから海外展開に力を入れていくとして、国内と海外の割合はどのくらいを考えていますか?

大和氏: 私の中でわかりやすく売上的なイメージで言うと、もう国内は限界点に来ているわけで、できることならば将来的には国内6の海外4くらいにしていきたい。そのくらいはないとタイトーが成長し続けることはできないです。国内だけをあてにしていては先ほど言ったような状況で、ますます戦線は縮小していくでしょうから。今のタイトーの陣容を確保してやっていけるかというと、厳しくなってくる。その分はグローバルから売上にしても利益にしても引っ張ってこられるような体制を作っていかなければならない。それはステップバイステップで、最初は8:2、7:3とステップを踏んでいきます。(インベーダーのアイコンを指さしながら)このマークは世界中で通用しますから。知らない人はいませんからね。

バイタリティ溢れる印象だった大和氏。タイトーの今後の展開に注目したい

――そのほかに、今後やっていきたいと考えている事はありますか?

大和氏: 私はとりあえず代表取締役になって1年3カ月です。とにかく会社を立て直して、次の事業展開についてある程度方向性を作ってきました。というところでまだ手一杯ですね。これが落ち着いてくれば今おっしゃったようなことも考えられると思います。とにかく会社を1つにする、まとめ上げるということを最優先にやってきましたので。だいたいそれは仕上がってきたかなと。高尚な事を考える前に、体を動かして現場をまわってくる方が先でしたから。海外に出てみんなと色々なディスカッションが出来るのが楽しいですね。体だけは丈夫にできていますから(笑)。

――ゲームファンに対してメッセージをお願いします。

大和氏: これからもタイトーは頑張って、皆さんに期待されるような面白いゲームをどんどん開発していきたいと思いますので、よろしくお願いします。

――ありがとうございました。

(中村聖司)