インタビュー

【タイトー特集】タイトー代表取締役副社長大和一彦氏インタビュー

海外展開について。「俺はもう2度と北京の、中国の土は踏まん!」から一転して中国再進出へ

海外展開について。「俺はもう2度と北京の、中国の土は踏まん!」から一転して中国再進出へ

タイトーの海外展開の現状を「お粗末」と語る大和氏。言葉の端々から現状に対する強烈な不満が窺えた
単独では初となるChinaJoyへの出展

――今回のメインテーマである中国展開についてお伺いしたいのですが、まずタイトーさんの現在の海外展開はどのような状況ですか?

大和氏: 現在は非常にお粗末なものです。これからです。1年半かけて何をやっていたかというと、まずは国内マーケットの建て直し、各事業の建て直しをして、そういうものがある程度方向性が見えてきましたので、ようやくここから海外展開なのです。だから先日フランスで開催されたジャパンエキスポに視察に行ったのです。

――なるほど、海外視察は最近の話ですか。

大和氏: そうです。この7月に行ったのが初めてなのです。さて次のフェーズに行こうと、動き始めたちょうどそのタイミングでした。そこに今回のChina Joyも入ってきているということもあって、アーケードゲーム関係を含めた見方としては、ヨーロッパのマーケットを見てきたし、コンテンツ関係では中国のマーケットをもう1度見るということで実際に拝見させていただいて、また色々な方に接していくことで、それぞれの事業におけるビジネスをどう進めていくかについての基本的なイメージ作りは8月頃からし始め、下期からはそれを具体化させるような形で動き、準備を行ない、今期中に仕込んで来期からいよいよ形になるかどうか。といったタイムスケジュールのイメージで考えていただけるでしょうか。

――過去に中国でアーケードゲームの事業をやっていて、なおかつ一旦クローズまでしていたということは知りませんでしたが、全体として中国市場に対してどのようなイメージを持っていますか?

大和氏: 正直いいますと、イメージは悪かったですね。コンテンツと違ってアーケードゲームの事業については規制事業でした。一時期、規制法がころころ変わりましたから、その時期はもうアーケードゲームビジネスは解放するといった感じでした。どんどん日系の企業が入ってくれという流れがあったので、それでタイトーも中国の投資会社と組んで、合弁を作って、北京に10店舗近くのお店も作ったんです。

 それで日本で余った古い世代の機械も中国へ持っていき販売して、マーケットも広いし、これはビジネスになるなということで動いていたのですが、ある日突然関税が倍になるわ、ある日突然規制が厳しくなるわ、で、賭博機みたいなものは一切置いてはいけないということで、どんどん二の矢三の矢で事業を制限されてしまいました。その結果、全然儲からない事業になってしまい、挙げ句の果てに、営業税は取られるといったことで話になりませんでした。

 それならば、もう閉鎖しようという流れになり、いざ、閉鎖しようと思ったところ、やはり中国というところは色々と規制がありました。閉鎖するために機械を販売したお金を日本に持っていってはいけないといった規制が多々あって、それもいろいろあって最終的には日本の方で回収はできたのですが。そういうこともあり中国という所は、ビジネス展開をして利益を取るのが非常に難しい。特に固定資産を持ってやるビジネスの国としてはきついなと思っています。そのリスクが大き過ぎますね。

――そういう意味では今回Qihoo 360さんというパートナーと一緒に事業展開するというのは、過去の苦い経験を活かされている部分がありますか?

大和氏: そうですね。中国人のビジネスに対する考え方を、身を持って体験してきていますので、昨日まで「ミスターヤマト!」と親しげに言ってくれていた人が、突然の如く机を叩いて「これは違う違う!」と言い出したりして、こういうことは経験してみないとわからないです。これはもう信じられなかったですよ。「私はもうタイトーのために死ぬまで働きます」って言っていた人が「現地の合弁会社を畳もうと思っているんだ」と言ったら、あっさり裏切るんですからね。これだけはやってみないとわからない。

 そう言ったことから、やはり資産とかそういうものを持ってやっていると、いろいろなしがらみができてしまって、クイックなアクション、最適なコミュニケーションが取りづらくなってしまいます。その点モバイルの方は在庫の心配もないし、そういった意味ではフットワークが軽く動けるだろうと。あと1つはやはり人だと思っているので、今回のQihoo 360の方と会って話をさせていただき、どんな方なのか勉強させていただきたいと思っています。相手を十分に理解したうえでないと、われわれのカルチャーと合うかどうか、そこの価値観が合わないと絶対にパートナーとして長くはやっていけないので、そこだけは見極めたいなという風に思っています。

――今回Qihoo 360を選んだ決め手になったのは何ですか?

大和氏: 1番の理由は彼らの提案が良かったからです。細かい所はまだわかりませんが、先ほどもお会いしてお話しをさせていただきましたが、非常にコミュニケーションがとりやすい会社だなという印象を受けました。そういった意味では非常に頼りになる会社なのかなとみています。

――しかし、なぜ今のタイミングで中国進出を計ろうと考えたのですか?

大和氏: もう本当は遅いんです。本来であればもっと早くに準備をしておかなければいけなかったのですが、残念ながらタイトルがなかった。おかげ様で現在、ちょうどタイトルも出てきており実績も出てきている。それがなければパワーバランスが偏ってしまいますので、それを待っていたというのが実態ですね。

――「パズルボブル」の完成を待っていたということですか?

大和氏: というよりヒット作です。ヒット作を持つということが、現地のパートナーとの力関係をいい形に持っていく。きっちりとしたビジネスコンディションを勝ち取ることができるベースになりますので。アーケードゲームの時に私はしみじみと感じたのですが、いくら日本にある機械を中国に売り込んでも買ってくれないのですよ。足元を見て買い叩かれるのです。その代わり日本でヒットしたアーケードゲームを作ると、別に売り込んでいかなくても中国人は是非売ってくれという形でガンガン来るんですよ。それと同じ発想です。タイトーとしてのスタンスをきちっとつけて、それからでも遅くない。そのタイミングをきっちりと待つということです。開発が頑張ってくれてその席ができて土壌ができたので、それなら行ってみようかと。

――中国展開に関する事業規模は、どれぐらいの絵を見ているのですか?

大和氏: どこまでいけるかというのは、まだまだ考えていないです。もちろん安定的にコンスタントに数タイトルを出せるようになって成長していけばベストですが、それはまだこれからだなと。

――モバイルの分野でヒット作というと「パズルボブル」に限らず、たとえば「グルーヴコースター」などいくつかありますが、これらも将来的には中国に展開していくのですか?

大和氏: もちろん出していきますよ。まだ何タイトルもありますから。それにタイトーの過去の資産にも良いものがございますので、これを機会に中国マーケットの中で展開していくか、そこはすごく楽しみです。コンテンツビジネス時代の中国での伸びしろはまだ十分にあります。タイトーとしては優れた力も持っている。だからタイトーとして「パズルボブル」を出して、良い製品としてご評価いただけたのであれば、皆さんからの期待感も高くなってくるはずなので、いろいろな形での提携が組みやすくなってくると考えています。自分たちのポジションはきっちりとしながら、イーブンな関係での契約を結ぶことができるという形になるかなと思っています。

――数あるタイトルの中でなぜ「パズルボブル」が第1弾だったのですか? 他のタイトルでも良かったように思うのですが?

大和氏: それは私にはわからない(笑)。なぜ「スペースインベーダー」でも「アルカノイド」でもなく「パズルボブル」だったの?

ON!AIR事業部事業部長 川島健太郎氏: スマートフォンの市場が非常に大きくなってきたので、そこでお客様がすぐに遊べて、すぐに面白さがわかって、説明が不要で見た目でわかるという意味では「パズルボブル」が最適だろうと考えました。

――なるほど。現時点で、「パズルボブル」以降の展開戦略について何かお話できることはありますか?

川島氏: 具体的なタイトルはまだお伝えできないですが、スマートフォン向けに国内では数タイトルを年末に向けて仕込んでいますし、それぞれ全てがワールドワイドに展開できるコンテンツだと思っておりますので、早いタイミングで中国大陸で第2弾、第3弾と展開していきたいと考えています。

――当然ご存知だと思いますが、中国市場では、ユーザーの嗜好の違いなどもあり、そのまま売ってもうまくいきません。このあたりについてどのように対応しようと思っていますか?

大和氏: それは今回もそうですが、提携したQihoo360さんからいろいろなご意見ご指導をいただきながら進めて行くということだと思います。正直我々だけでは判断できないところがたくさんありますので。それはやはり現地の方のご意見を参考にさせていただければと思っています。

(中村聖司)