インタビュー

【タイトー特集】「LINEパズルボブル」プロデューサー西脇剛志氏インタビュー

「ガチャを入れるつもりはない」。「LINE パズルボブル」のゲームデザイン哲学について

「ガチャを入れるつもりはない」。「LINE パズルボブル」のゲームデザイン哲学について

「LINEパズルボブル」のゲーム画面
モバイル向けパズルゲームの代表作である「Candy Crush Saga」
何度かゲームオーバーになると、アイテムが値引きになる。クリアするチャンスだ

――ソーシャルゲーム版「パズルボブル」は、日本ではLINE、韓国ではカカオトークとSNSへの繋ぎ込みがひとつの特徴になっていますが、中国ではどのSNSに繋ぐ予定ですか?

西脇氏: どこにというのはまだ調整中なのでお話しできないのですが、ソーシャル機能については、友人との競争やランキングなど、「LINEパズルボブル」で形は出来上がっているので、あとはソーシャルグラフが出来上がっていて、ユーザー数の多いところであればSNSを入れ替えるだけでいいかなと思っています。

――韓国ではどのようなカルチャライズを実施したのですか?

西脇氏: まずは当たり前ですが言語の部分と、マネタイズの部分。日本サービスでは、途中からは導入しているんですが、ゲームのスタート段階では、島から次の新しい島へ移る際、課金は入れていません。韓国サービスでは最初から課金の要素を入れています。「Candy Crush Saga」のようなイメージですね。

――ユーザーからのヘルプが集まれば無料で行ける、というシステムですか。

西脇氏: ステージクリア時の★の数を規定数集めか、それが面倒くさかったらお金を払ってねというものです。

――しかし、日本語版ではお金を使わずともさくさく次の島に行けて、これはお手軽でいいなと思ったのですが、なぜこのようなシステムにしたのですか?

西脇氏: 1つは継続して長く遊んでもらいたいということ、パズルゲームで、最初の何十ステージのところでガチガチに締めてしまうと、そこがひとつ離脱要素になってしまうということ、そして初期の段階はしっかり遊んでいただいて、まずはゲームの楽しさをわかっていただくといことを重視したということです。

 「Candy Crush Saga」を研究して、パズルゲームではマップを移動する際に99セントぐらいの課金を取り入れるのは当然というところがあったのですが、確かにそこは稼ぐ要素ではあるんですが、お客様の視点から見ると、そこが1番の離脱要素ですから、まずはゲームとしてのおもしろさをしっかり伝えた上で課金していただきたいと。

 その課金についても1番多いのはアイテムではなく、コンティニュー課金です。事実、コンティニューとハートの回復が全体の7割ぐらいです。そこは狙ったとおりのマネタイズの設計ができたかなと思っています。

――ARPUもそんなに高いゲームではなさそうですよね。

西脇氏: 具体的な数字はちょっと出せないんですけど、パズルゲームなのでそんなに高くはないです。ただ、ソーシャルゲームの平均的なところよりは上だと思います。

――今後、マネタイズに関してガチャのような新機軸を導入する予定はありますか?

西脇氏: ガチャを入れるつもりはありません。ガチャを導入して無理矢理高いARPUにして稼ぐという考えはありません。それは本来のゲームのおもしろさからも外れていると思うので。それよりは1人でも多くの人に長く楽しんでもらうような施策を打ちたいですね。

――そのアプローチだとユーザーを増やすために海外展開は必要不可欠ですね。

西脇氏: そうですね。ワンソースでどれだけ広い地域や国に展開できるかが大事だと思っています。

――お話を伺っている限りだと、「LINEパズルボブル」は打つ手打つ手がすべて当たっているような印象ですが、逆にこれは失敗したなというお話はありますか?

西脇氏: リリースする前に、ステージ追加のアップデートが必須なのはわかっていて、リリースした時に90ステージ用意していました。しかし、僕らが考えているよりもお客様が求めるスピードが早くて、最初のうちはアップデートが追いつきませんでした。今は月2回アップデートを実施してます。これはネイティブアプリとしては高い頻度だと思うのですけど、しかも強制アップデートなので起動したら更新される形を採用しています。それでも離脱はされずに、遊んでいただいていますね。

――1回のアップデートで追加されるステージ数は?

西脇氏: 1回あたり15なので、1月に30ステージずつ追加しています。これが通常のステージで、それ以外にイベントステージも6つずつ追加していますので、こちらも計12、合わせて42ステージを毎月追加しています。

――新しいステージのデザインは誰が担当しているのですか?

西脇氏: 社内と、外部の開発会社の方にも入っていただいています。

――担当の方はクイズやパズルを作るイメージで、そればかり作っているわけですか?

西脇氏: 基本的に新しいステージでは新しい遊びを提供したいので、新しいエリアを追加する時に、次はどういうギミック、つまりパズルを難しくおもしろくする要素をどうするかと、それと同時にそれを打破するためのアイテムをどうするか。このサイクルが、このゲームを作る上でおもしろいところですね。

――そういう意味では「パズルボブル」史上、新しい領域に突入しつつあるわけですね。

西脇氏: そうですね。そこがまさに冒頭でもお話しした“今までに無い「パズルボブル」”なんですね。1つ1つステージをデザインして、単にバブルの配置だけではなく、そこにどういう新しい遊び方を盛り込むか、お客様にどう頭を使ってもらって、どうスキル、テクニックを使って攻略をしていくかです。

――「パズルボブル」のステージデザインのコツとか、“伝来”のこうあるべし、みたいなものはありますか?

西脇氏: 今回のものに関しては、ゼロからです。作っては壊し、作っては壊し、ですね。

――それを川島さんを含めいろいろな方に触ってもらって、面白いとか、つまらないとか判断して……、これは結構、つらいけど楽しそうな作業ですね(笑)。

西脇氏: スケジュールも含めてつらいですねえ(笑)。でも1番楽しい部分です。

――パズルゲームにおいてステージデザインは1番キモとなる要素だと思いますが、気を遣っているのはどのあたりですか。

西脇氏: 難易度のバランスです。ステージをデザインするだけじゃなくて、難易度のバランスも考えなくてはいけない。単にデザインするだけではなく、難しいだけではだめなので、ギミックを作って、その最適の難易度はどういうのだろう? というところに時間を一番かけています。

――難易度はイージーやハードなどの選択はできず常に1つですよね。適切な難易度というものはどうやって作っていくのでしょうか。

西脇氏: そこもある程度の人数をかけて遊ばせて、初回のクリア率や、アイテムを使わずどのくらいクリアできるか、アイテムを使えばどのくらいクリアできるか、こういったデータを数字で出して、バランスを見ながら実装しています。リリース後もお客さんのクリア率を見ながら、必要があれば再度調整もしています。アップデートで難易度を調整し直すこともあります。

――ちなみに初回のクリア率がどれくらいかというのは門外不出ですか?

西脇氏: そうですね(笑)。1回のアップデートで15ステージ追加しますが、全部が全部難しいというバランスにはしていません。簡単なのもあるし、難しいステージの後は簡単なものを配置したりする。

――なるほど、緩急を付けるわけですか。

西脇氏: そうです。お客様の気持ちも考えながらというところです。単に難しくなるだけだとやはり心が折れてしまいますので。

――攻略が楽になるお助けアイテムについてですが、その設計思想について教えて下さい。

西脇氏: ただ単に簡単になるアイテムという設計にはしていないつもりです。やはり対価をお支払い頂いて購入頂くので、有利になるのは事実ですが、買ったら必ずクリアできるという風には作っていません。

――確かにお助けアイテムがなくても遊べる設計になっていますよね。

西脇氏: はい、そうですね。スキルゲームでもあって、思考力も求められるので、工夫次第でノーアイテムでクリアできるようには当然なっています。難しいステージは相当のスキルを求められますけどね(笑)。

――私はプレイしていてうまいなと思ったのは、何回かクリアできない時に「アイテムいかがですか?」という絶妙なタイミングでの手のさしのべ方ですね。あれはなかなかインテリジェントな仕組みだと思ったのですが、どういう設計になっているのですか?

西脇氏: あれは裏側で、ユーザーがどういう形でゲームオーバーしたかを見ています。どういう形というのは単純に手数がなくなって、スカルに接触してゲームオーバーになっているのかとかですね。スカルの場合は、スカルをガードしてくれるアイテムを提案してどうですかと出すということを、裏でロジックを走らせています。

――そう、しかもランダムで適当なアイテムを勧めてくるんじゃなくて、最適なアイテムを勧めてくれるんですよね。

西脇氏: はい、そこは見ています。あと「パズルボブル」は250ステージありますが、ステージ毎に売っているアイテムが違っています。販売アイテムもステージデザインのひとつになっていて、このステージを効率よくクリアする上で最適なアイテムは何だろうということを考えて、アイテムを選んでいます。ゲーム開始前に4種類、ゲーム中にも買えるようになっています。

――うーむ、これも深い話ですね。さらに上手いと思ったのが、アイテムを買わないでいると、アイテムのディスカウントが来る(笑)。あれはついつい誘惑に負けそうになりますよね。

西脇氏: あれも何回か続けてゲームオーバーになった方に対して、ある程度の確率でアイテムのディスカウントが発生するようになっています。

――なるほど。しかし、それだけ工夫されているのに、コンティニュー課金やハートの回復に比べると、購入率は低くて、それでも良いというスタンスですか?

西脇氏: はい。お客様の立場としては、できるだけアイテムを使わないでクリアしたい。自分の実力だけでクリアしたい。だから達成感があるわけです。だから私は、今のバランスでいいと思ってます。逆にアイテムを使わないとどう考えてもクリアできないようなバランスにはしたくないですね。

 順番としては、何度かクリアできなかったら、まずはコンティニューですよね。それでもダメならアイテムという感じです。それは悔しいから、もっと遊びたいから利用していただけるわけで、それだけ楽しんでいただいているということだと思います。

――ステージデザインについてもう少し伺いたいのですが、クリア時間についてはどのような設計になっているのですか? 短いステージだと1分以内でクリアできるものも結構ありますよね。あのお手軽感がとても好きなのですが。

西脇氏: ステージによって意図的に長さを変え、15ステージの中でバランスを取っています。15ステージの中で3段階ぐらいにわけていて、ショート、中くらい、ロングの3段階で、基本的に長いほど難しくなります。ショートはその分ギミックにこだわって、それなりの難易度に仕上げています。そこも緩急ですね。

(中村聖司)