コーエーテクモゲームス、PS3/Xbox 360「TROY無双」
ゲームデザイナー・ボンド氏とディレクター門脇氏に直撃インタビュー!

5月26日 発売予定

価格:各7,560円

CEROレーティング:C(15歳以上対象)

 

  株式会社コーエーテクモゲームスは、プレイステーション 3/Xbox 360用アクション「TROY無双」を5月26日に発売する。価格は7,560円。CEROレーティングはC(15歳以上対象)。今回は、ゲームデザイナーのマイケル・ボンド氏とディレクターの門脇宏氏にお話をうかがう機会があったため、ここに特別インタビューをお届けする。

 「TROY無双」は、世界中で語り継がれているギリシャ神話の「トロイ戦争」をテーマに描かれたタクティカルアクションゲーム。プレーヤーは、神の子“アキレウス”、トロイ軍総司令官“ヘクトル”、アマゾネスを率いる“ペンテシレイア”ら英雄となり、物語を体験していく。各チャプターにはそれぞれ主人公が設定してあり、「ボスを倒す」、「目的地にたどり着く」といったミッションをクリアする形式でゲームは進行する。ゲームを通して、ギリシャ軍、トロイ軍合わせ8名のキャラクターを操作可能となっている。各チャプターは1度クリアすれば、選択して何度も遊ぶことができる。

 私事で恐縮だが、筆者は昨年の東京ゲームショウ2010で体験版をプレイして以来、日本語版の発売を心待ちにしていた。従来の「無双」シリーズとは異なる重厚なタッチとテイスト、雑魚相手にも決して気を抜けない名作古典に通じる王道アクション。海外市場をメインターゲットに据えているが、ジャンプさえ廃した硬派なゲーム性は「最近、じっくり腰をすえて挑むような渋いアクションゲームがない」とお嘆きの国内アクションゲーマー諸氏にも十二分にアピールする内容となっている。ちなみに、欧米で先行発売された英語版と日本語版はほぼ同内容で、豪華声優陣による吹き替えが行われている。気になる人は、本作ともども是非チェックしていただきたい。



■ 海外市場に本気で取り組んだ、初めての「無双」

ゲームデザイナーのマイケル・ボンド氏
ディレクターの門脇宏氏

GAME Watch編集部: 今回「ギリシャ神話」の「トロイ戦争」をゲーム化するにあたり、最初から無双エンジンベースでいくと決まっていたのでしょうか?

門脇宏氏(以下:門脇氏): ベースの技術、3Dエンジンは、完全に何もない状態から始まりました。プロデューサーの鈴木(亮浩氏)からの指令は「欧米市場における無双フランチャイズの存在感は年々下がってきている。欧米になじみのあるテーマを使って、欧米市場に十分にアピールできるゲームを作ってくれ」と。そのなかで、技術に関しては、その時点で決まっていませんでした。欧米市場でいかに露出していくか、アピールしていくかと考えたとき、今まで出ている無双エンジンを借りて、上のテーマを変えただけでは、とてもではないが欧米市場にアピールしていくのは無理だろうと。

 なぜなら、向こうの家庭用ゲーム機ユーザー……我々のターゲットとするハイティーンから30代半ばまでのゲーマー層は、確実に“技術=最新表現”が好きなんですね。その時点で、一世代とか一作前のエンジンをそのままもらってきて、テーマだけをリスキンしたものでは、まずダメだろうということで、コーエーテクモグループの基礎技術を共有し使用しながらも、フレームワークは再構築していくことになりました。

編: 昨年の東京ゲームショウで、鈴木さんが「海外に本気で挑戦する、初めての『無双』シリーズ」という表現を使われたのは、そういうことですよね。

門脇氏: このゲームは最初から英語で開発しておりますので、今回発売する日本語版は、逆に英語版を日本語版として開発の最後に移植したものなんですよ。そういう意味では、これが無双フランチャイズとして初めて欧米市場に、真っ向から真剣に突撃したものです。

編: では、ゲーム作りの工程もコーエーテクモカナダのスタイルでやられたのでしょうか? それとも日本のスタイルを持ち込んで作られたのですか?

マイケル・ボンド氏(以下:ボンド氏): プロセスとしては、両方のいいところ取りです。ただ、リーダー的な存在(プロデューサー、ディレクター)は日本人ですので、スケジュール管理という意味では日本のスタイル。方向性の決定や仕事の進め方は、コーエーテクモカナダのテイストがかなり強く入っていると思います。

門脇氏: 元々コーエーテクモカナダでは、次世代機の作品として、ボンドもデザイナーで関わっていた「Fatal Inertia」でUnrealEngineを使っているんですね。そのときの経験を活かしながら、ツールや軽いエンジンライクなものを起こして開発を始めました。どちらかというと、マネージメントそのものは日本スタイルなんですが、実際の現場は企画が仕様書を書いてプログラマーにわたして実装するというよりは、ツールを使って企画書をダイレクトに実装していくという形です。だから、全体を見たらハイブリッドですね。

編: 基礎のエンジン部分を作って企画の人が……というのは、完全に海外の手法ですよね。

門脇氏: 私が日本を離れる3~4年前、ちょうどカプコンさんのMTFRAMEWORKの頃からトレンドにはなってきていたので。どの開発者も、スケジュールと予算に余裕があったらチャレンジしたい(笑)。1度はやってみたいっていう感じですね。

ボンド氏: これはたぶん、北米のデザイナーは自己主張やこだわりが強いことが影響しているのかもしれませんが、デザイナーがデータを入れて、自分で見て、その場で調整して、すぐゲームを作る。そういうフローがないと、デザイナーとして満足できない。たとえばゲームを出して見て、ちょっと違うからプログラマのところにいって話をして、また待って……そんなプロセスは踏めない。すぐ結果を見て、すぐ直す。それがデザイナーです。

編: リニアなところが全然違うし、時間の節約にもなると。

門脇氏: 実際にお金もかかってますので(笑)。最初からエンジンを持っていれば安くできますが、フローを確立する投資で、時間とお金のコストがかかります。

ボンド氏: 確かに初期投資のコストはすごくかかりましたが、今後はこういう経験が活かされていくと思います。

門脇氏: 次のプロジェクトでも有効活用する事は、当然考えなくてはいけませんが、恐らく今後……どの開発でも、ひとつの有力な方法として考えていかなくてはいけないワークフローにはなっていると思います。

編: 今回、技術的なチャレンジで特に難しかった部分、問題点などはありましたか?

ボンド氏: まず、表現部分ですね。欧米ユーザーはかなりこだわるので、従来の「無双」シリーズにない色々なチャレンジを試みましたが、そのかわり処理コストがかかりました。まずは、物理演算のラグドール。キャラクターの死亡モーションなどは、モーションを持っていなくて、物理演算で完全に動いているんですよ。坂をころころと転がったり……。

編: 手付けは一切ないんですか?

ボンド氏: 負荷オーバーしたときに一部例外処理は入りますが、ほぼ完全に物理演算で動いています。ラグドールは処理コストがかなりの負担で、従来の「無双」シリーズでは、たぶんあきらめるところですが、我々は凄くこだわりました。敵が全員同じようなモーションでとんでいくのは我慢できない。あと、フィルタリング、シャドウ(影)にも本当にこだわりました。

編: 陰影表現は、東京ゲームショウでプレイさせていただいた際にも強く印象を受けました。映画的、フィルム的な陰影と申しますか。

ボンド氏: 本当は、もっとやりたかったんですけど。

門脇氏: フレームレートと登場キャラクター数のトレードオフ。従来の無双だと、ゲーム性の観点から、どうしても大勢のキャラクターを表示するということを優先せざるを得ない部分があります。今回我々は技術を重視していますが……見た目のプレゼンテーションでアピールできなかったり、「このゲームはやる価値がないな」と思われたら、まず欧米ユーザーにプレイしてもらえない。だったら、1画面に出てくる登場人物を減らしてでも、こっち(グラフィック表現)を上げておかないと。遊んでもらえなければ、意味がないわけですから。

編: それは相当なジレンマだったんじゃないですか? キャラクター数を減らして表現的なクオリティアップを最優先にしたい、という考え方も凄くよくわかります。

ボンド氏: 次に難しかったのが、欧米ユーザーに受け入れられるAIの開発です。従来の「無双」シリーズは「AIがあまり賢くない」と常に欧米で言われていて「じゃあ今度は賢くしてみようか」と凄く賢くしたプロトタイプを作ると、1回殴られたら延々と殴られ続ける状態になるなど、強すぎてゲームにならないことがありました。やはり「無双」には「無双」の理由があり、ゲームの落としどころとして、自然と現状の仕様に落ち着けることができたと思います。

編: 今回プレイしていて1番感じるのが、その「敵のAI」の部分です。先ほどおっしゃられたように強すぎるとイライラしますが、その按配がきちんと考え抜かれている。バリエーションも多いですし、相当な手間をかけられたのではないでしょうか?

ボンド氏: 本音を言えば、もっと手を加えたかったのですが……本作は、欧米ユーザーには受け入れられるレベルに達していると思います。ただ、将来的にはもうちょっと賢く……。賢いというのは相当難しくて、プレーヤーにとってはストレスになることもある。でも、大切なのはプレーヤーの経験。プレーヤーがいかに楽しめるかが重要であって、将来的にもそこには力を入れていきたいですね。

門脇氏: AIを賢くするジレンマは常にありましたね。AIを賢くすると、ゲームバランスも難しくなるし処理負荷も増える。なによりも、AIができることを増やすということは、モーションが増える。モーションが増えると作らなくちゃいけない、そうすると予算も増える、スケジュールも伸びる、でもうまくいく保証がない(笑)。

編: その「うまくいく保証がない」っていうのが1番ツライですね。話を戻すと、AIに関する調整は、海外に挑戦する大きな柱でもありますよね。

門脇氏: そうですね。海外のゲーム批評家はズバッ! ときますから。

編: そういう意味では、本作は日本国内の「無双」シリーズファンのニーズとはやや離れている部分もあるかもしれません。

門脇氏: 敷居が高いと感じてしまう「無双」ファンの方々も、きっといると思います。ただ、すべての敵に対して弱点や攻略法を用意しています。最初は多少ストレスに感じたとしても、解を見つけたとき一気に「いける!」と爽快になる仕組み。元来アクションゲームが持っている面白さが詰まった戦闘システムを作れたと思っています。

ボンド氏: 従来の「無双」シリーズを期待すると「ちょっと難しい」と感じてしまうかもしれません。ただ、難易度を下げれば全然ゲームも変わってきますし、チェックポイント制を採用したので、ミスしても何回でも簡単にチャレンジできます。チュートリアルも多めに用意していますので、それでぜひ操作を学んでください。従来の「無双」シリーズは、ボタンを押しているだけで敵を倒せてしまう。これは、欧米ユーザーにとって満足を得られるものではないんです。それに対して、攻略法を自分のやりかたで見つけたときの爽快感。こちらのほうが、彼らにとって満足感が得られる。最初に難しいと感じられるかもしれませんが、必ず答えがあります。「こんなの『無双』じゃない!」と思われるかもしれませんが、がんばってチャレンジしていただきたいと思います。

門脇氏: 我々としては、「無双」ファンのみなさまに「これは『無双』じゃない!」と言われてしまうのは、ちょっと辛いですね。そんなことはないですから。

編: 国内のファン向けに事前にニュアンスを伝えやすい例としては「北斗無双」でしょうか。他のシリーズ作品は最初から大暴れできますが、「北斗無双」はステップアップ形式の構成で、少しずつアクションが増えていく。ゆえに、とっつきにくさみたいな部分で不安は感じられましたか?

門脇氏: 「無双」という名前を冠していながら、その命である戦闘部分に大胆に手を加えたわけで……たとえばジャンプがありませんし、回避という動きがとても重要になるとか。結構大胆なメスを入れましたから、ディレクターとしては大変な決断でした。

ボンド氏: ジャンプは、私はカットしていい派でした。

門脇氏: 1番最初にプロトタイプを作って出したら「ジャンプがないの!?」って(笑)。「あっ、みんな最初にジャンプボタンを押すんだ」って思いました。

ボンド氏: 従来のジャンプボタンの位置は盾ボタンになっているので、盾をグイッと押し出すモーションが出る。私たちも最初はジャンプを入れていました。ただ、従来の「無双」シリーズは2~3mを軽く跳んでしまいますが、欧米ユーザーはそれを認めない。「人間は跳べても1~1.5mくらいだ」って。

編: 東京ゲームショウで鈴木さんにインタビューした際、ジャンプがないことに「戦場でジャンプする奴なんかいないからですか?」とつっこんだんですが、本当にそのとおりなんですね。

ボンド氏: 特に鈴木が述べたのは「戦場で3mもジャンプする奴はいない」ってことだと思うんですよ。攻撃モーション中で1mくらいのジャンプは今でも入れていますが、プレーヤーが自分の意思で1mジャンプすることは、このゲームではないな、と。

編: ジャンプできないということは、レベルデザインに大きく影響しませんか?

門脇氏: レベルデザインにとってはプラスの方向に働いています。理屈をつければ「彼らは超人なんだから、2~3m跳べたっていいだろう」と。でも、そうするとステージに色々な制限がでてきます。たとえば塀を作っても、最低何m必要だと。当時そんなに高い塀ってトロイの城壁くらいしかなかったはずなのに、普通に戦場にある塀が5mないと困るとか、現実離れしたスケールになってしまう。ボンドは特に“現実にあるスケール”に凄くこだわっていました。そうしないと没入感が得られない、という理由です。その点で、ジャンプをなくしたというのは凄くプラスに働いています。

ボンド氏: 欧米ユーザーが従来の「無双」シリーズを見たとき、四角く区切られた区切られた空間のなかに、また城門で囲われた四角い空間があるとか、ちょっと信じがたい世界というか「これはリアルじゃない」と言われることが多かったです。そこだけは気をつけて、自然な高低差、坂、マップの端にしてもピタッと四角く区切るのではなくて「まだ先が続いているんだな」と思わせるようにこだわりました。次のチャプターでは、今のステージのすぐ隣で戦っていることもあります。トロイという広大な地域の中で特定の戦場で戦っているが、実はそれぞれの場所が繋がっていることを感じ取れるデザインにこだわりました。

編: 戦場という空間の雰囲気作りが大切なんですね。

ボンド氏: 雰囲気作りは、凄く重要です。当時のものとして信じられる空間、生きた空間、自分がなかに入って「ここは本物の世界なんだ」って感じられる空間作りが1番重要だと思っています。欲をいうと、もうひとつやりたかったとしたら、関係ない道に入ったりするような探索要素。崖を登れたり、森のなかを分け入って敵のキャンプを襲う、みたいな。これはぜひ将来的にやりたいと思っています。何でもできる自由度というか、自然な世界ですよね。

門脇氏: 欧米ユーザーだけではなく、クリエイターもそれを求めている。

編: 凄く手間がかかって、限りなく負荷も高い方向性なんですけど、欧米は迷わずそこを目指しますよね。

門脇氏: 我々も途中まではトライしたんですけど、戦闘のレベルデザインをするときに、それらが意外と例外になっちゃうんですよね。AIが崖から落ちちゃうとか、迷い込んじゃうとか。我々はストーリーの枠にそって戦闘をデザインしているので、そこに自由度を入れすぎちゃうと、一気に敷居が高くなってしまう。技術など色々な理由があって、開発の中盤手前あたりで方針を転換しました。

編: 最初は、できる方向で作られていたんですか?

門脇氏: まず、そういうワールドを作れたらいいな。じゃあトライしてみよう、という感じで。


■ 随所に盛り込まれた「TROY無双」ならではのこだわり

編: 本作は、味方が結構積極的に戦ってくれますよね?

ボンド氏: 1番注意したのは“一緒に動いている感”を出そうとしていて、わりと近くにいてくれるんですよ。ただ、一緒にいるんだけど、あまりに積極的すぎると味方が戦って全部終わらせちゃうので、そこまで積極的にしない。

編: それで、プレーヤーの視界の端あたりで戦ってるんでしょうか?

ボンド氏: そうなんです、これはわざとです。

門脇氏: (視界の中央にいると)プレーヤーの戦闘の邪魔になるんですよ。

編: 製品版をプレイさせていただいた際、気になっていたんですよ。「彼らは戦ってるんだけど、絶対にプレーヤーキャラクターの前に出てこないよなあ」って。

門脇氏: プロトタイプのときは、必殺攻撃をやろうとしたら味方が斬っちゃうとか(笑)、そういうことがありました。

ボンド氏: センチメートル単位で調整をしていて、一緒に走っているとき、カメラの視界の端っこギリギリに映るようにしているんです。一体感を味わいつつ、邪魔をしない。

編: 視界に入らないと、一緒に戦ってる感じがしませんものね。で、プレイ画面中で死ぬのはトロイの市民だけと。

門脇氏: あとはミッションで護衛対照となるキャラクターとかですね。

編: トロイ市民が殺される表現で、倫理的に難しい部分などはありましたか?

ボンド氏: ギリシャ神話では、ああいうことが行なわれます。神話は残虐な話だったりしますので、それは仕方がない。ただ、子供が殺されるシーンはありません。

編: それは海外ゲームで絶対のタブーですからね。危険な目にあわせることさえ無理っていう。

門脇氏: そこはもう、凄く気をつけました。市民のくだりも、プレーヤーの手で敵兵以外の一般民を傷つけられるようなファンクションは絶対に入れるな、と。ただ、どうしても戦場やストーリーの紹介、ドラマチックな流れを作るうえで、避けられないところはありましたが……。

編: でも「トロイ戦争」や「ギリシャ神話」というテーマ自体、ドロドロしたものですから。そこは避けるというか、むしろ避けたら不自然ですよね。

ボンド氏: 「トロイ戦争」は悲劇で、トロイが破壊された話。もちろん破壊のなかで市民は殺されるわけで、それを忠実に伝えるのがコンセプトですから、それは避けられないかなと思っています。もちろん限界はありますが、できるところまでは神話に忠実に作りました。

編: 「トロイ戦争」、「ギリシャ神話」は海外でメジャーな話ですが、ゆえに「この話がないとまずいよね」、「これ鉄板でしょ」というエピソードはあるんでしょうか? 源義経でいう「ひよどり越えの坂落とし」みたいな。

ボンド氏: 「ギリシャ神話」は欧米の人にとってなじみのあるもので、みんなが知っている。イメージも持っている。ただ「トロイ戦争」に関しては、みんながディティールまで知っている話ではありません。最近ではブラッド・ピット主演の「トロイ」という映画もありましたし、「アキレウスの弱点」とか「トロイの木馬」などのエピソードを知っている人は多いです。でも、やっぱり全体のディティールまで知っているというわけではない。ゆえに、私たちは知らない人を前提に作ろうと。そういう意味でストーリーを丁寧に作りました。トロイ戦争は10年にわたり色々なエピソードがあるなかで、それでも有名どころを集めてシンプルにみんなが知っているものを入れようとしたのは確かです。

編: ストーリーはオリジナルに忠実ですが、プランニングの段階で独創性を盛り込むとか、そういった欲求はありませんでしたか?

ボンド氏: 最初に日本人からあがった意見ですが、この物語ってほとんどのプレイアブルキャラクターが死ぬんですね。「そもそも、これがいいのか?」 と。「なんとか、もうちょっとハッピーなストーリーにできないか?」というアイデアもありました。実は最初の段階では「ギリシャ」と「トロイ」で(ストーリーを)ふたつにわけていました。

門脇氏: それだとどうしても、遊びながら両編で起こったエピソードを脳内補完していかないと、なかなかストーリー全体が見えないし楽しめない。それに、そもそもギリシャ編で、トロイを滅ぼしますからね。トロイ編の最後までいったって、やられちゃうじゃん! って。

ボンド氏: そこをハッピーに変えるか? というアイデアもあったんですけど、結論としては「神話はあまり変えるべきものではない」と。神話ファンというか、そういうところにこだわる人にとって「冒涜」に映るかもしれない。

門脇氏: やはりそこは、かのホメロスの「イリアス」ですよね。西洋文学のなかで最古の叙事詩で、最大の文学作品。細かい演出を変えるぶんには構わないと思うんですけど、プロットを変えるというのは作品に対する冒涜であり、先人に対するチャレンジ。だから、逆にちょっと批判されるだろうと。実際、ブラッド・ピット主演の映画「トロイ」は、完全に神の要素を排除したので、欧米の一部批評家から叩かれています。

編: その点、日本は凄く自由なんですかね……女体化とか萌え化とか普通にやりますから。

ボンド氏: 深刻に捉えてませんからね。こっちはシリアスにからんでくる。

門脇氏: カルチャーへのチャレンジになってしまいかねない。そこにこだわったのは、よかったなぁとは思っています。

編: 逆に、チャプターごとに操作キャラクターや陣営が変わる点は、日本人の感覚として違和感があるかもしれません。

門脇氏: 最初、やはり開発現場ではぶつかりましたよ。

ボンド氏: 最初の段階では、まずキャラクターを選んでそれにストーリーがあるという形にしていたんです。ただそれだと、どのキャラクターでプレイするかでストーリーがいったりきたりしてしまう。今回はまず「トロイ戦争」を知らない人にも、ストーリーをわかってもらう、紹介するくらいの感じで用意しています。今でも賛否両論あるのは、ひとつのキャラクターに慣れないうちに、新しいキャラクターになってしまうこと。それに関しては批判もあるかもしれませんが、逆に毎回新鮮な印象を与えられるというプラスの面もあると考えています。

編: Kleos稼ぎで同じステージを複数回プレイするでしょうから、個人的にはあまり気にならないポイントです。

門脇氏: Kleosを貯めてアイテムを購入するために“チャレンジモード”を用意しています。そこでKleosを稼げます。1番最初にアンロックされるチャレンジモードは「連闘」というステージで、いわゆる決闘ですね。あれのいい練習になります。このゲームは多くのボタンを駆使しないとなかなか先に進めない仕掛けになっていますので、チャレンジモードを有効活用してプレイスキルを上げて挑んで欲しいと思います。

編: 私の主観なんですが、プレイしていて「真・三國無双2」の最高難易度を思い出しました。立ち回りが凄く重要。ザコを倒していくときも突っ込んだら死ぬので、どこから切り崩していくか、当然弓も意識しますし。それが還ってきたようで、凄く嬉しいです。そういえば、敵が槍を投げてきますが、その到達距離がやたらリアルですよね。敵に刺さった槍は、抜いて再利用したくなります。

門脇氏: 刺したら終わりですね(笑)。

編: 私は槍が1番お気に入りで、ずっと使いたくて仕方ないんです。槍が見つからないと「どこにあるんだ!」と。

門脇氏: 意図的に強くしてあるので、寿命をつけたっていう側面もあるんです。

編: 武器の寿命は、ゲームバランスのなかでも重要なポイントですよね。

ボンド氏: 特に武器は、効果的な場面を想定しています。たとえば槍は相手の防御を無条件で崩してしまうので、相当強い。だから槍は、完全にゲーム的なルールではありますけど、折れるんです。逆にいえば、拾う武器にはそれだけの効果が与えられている。それを覚えると、またちょっとひとつゲームが変わるってことですね。

編: そういう意味では、落ちている武器をもっと目立たせてもよかったのかもしれません。これは恐らく、落ちている武器がピカピカ光るのはリアルじゃないから、という理由と推察しますが……。

ボンド氏: まあ、確かに。最終仕様が完璧だとは思っていません。一時は、凄く丸く大きなエフェクトを作ったんですが、世界の表現があのような感じなので、それには合いませんでした。

門脇氏: 機能をとるか、表現をとるか。今回は全体的に演出を優先しているので、ゲームとしての必要性よりは、最低限のところで抑えて、ビジュアル、雰囲気作りを徹底しました。

編: 本作は、そういう細かいこだわりがプレイしていて凄く嬉しくなります。前述のラグドールに関しても、倒された兵士が壁にもたれかかる様子も、物凄く自然でリアル。そういった部分は、今までの「無双」にあまりなかった要素です。ゆえに、本作に向けられる「『無双』っぽくない」という評価は、ある意味“褒め言葉”として受け取っていいのではないでしょうか。

門脇氏: 重要な点は、我々は「無双」と違う何かを作ろうとしたわけじゃなくて、「無双」が欧米市場向けに進化したらこうなるということなんです。「無双」は色々な方面にフランチャイズが進化してますよね。まず「三國」があり、そして「戦国」があります。そして「ガンダム無双」のように他のフランチャイズと結びついて展開していくものもあります。そのなかで、欧米市場向けに進化した「無双」を作ったらしたら、こういう「無双」になりましたっていう。あくまでも「無双」ですよっていうところは、ご理解いただきたいと思います。

編: 日本語版の吹き替えは、配役などにもこだわりが感じられます。特に緑川さんのパリスとか。

門脇氏: 1番は演出ですね。「無双」シリーズのキャラクター音声をお願いしているかたもいらっしゃいましたので、「じゃぁ、いつもの『無双』のように」となると、我々の演出と変わってきてしまう。我々はあくまでもシリアスに。キャラの性格づけにしても、遊びすぎない、弾けすぎない、抑えたドラマにと。たとえばアキレウスの声は神奈(延年)さんなんですが、最初ヒーローの格好いい声でいただいたんですが、我々のアキレウスは従来の「無双」的なヒーローじゃなくて“ダークヒーロー”なんですよ。スタジオとカナダをSkypeでつなぎまして、実際に声を出してもらって「すいません、それは凄く格好いいんですけど、我々の考えるアキレウスは自分の名誉の為なら残虐な人殺しも厭わないような戦士なんです。ですから、もっと抑えたドスの利いた声でお願いします」、「じゃぁこんな感じですか?」というように。

編: Skypeで収録現場とやりとりしていたんですか?

門脇氏: もう最後の繁忙期だったので、一時帰国して現場で見ることができなかったんです。時差があるので、深夜2時半とかにオフィスにひとり残って(笑)。おかげさまで、日本語版も本当に凄くいいものができました。イメージをまったく損ねず、いいドラマができました。非常に満足しています。

編: 通常の工程では、絵を見ずに音声を収録するじゃないですか。本作は移植ですから……。

門脇氏: ムービーに関してはアテレコです。アテレコなので、本当にいいドラマができました。

編: 雰囲気の違いが伝わってきました。一般的なゲーム製作だとモーションやムービーより先に声を収録しますよね。それだと、どうしても細部の違和感が生じるじゃないですか。ムービーからそれがまったく感じられなかったのは、正しかったんですね。

門脇氏: アテレコは本当にうまくいきました。それから、日本語の台詞を考えるのに、結構時間をかけましたね。尺の問題もあります。英語と日本語の尺をあわせないといけない。日本語も、台詞は3回くらい書き直しましたね。

編: やはり、元のニュアンスを伝えたいわけですよね。

門脇氏: 元のニュアンスがまた、結構凄い。どちらかというと映画的というよりは、演劇で演じる芝居の感じ。監督さんも、そこを狙って作ってくれたんです。

編: 演者さんも、アニメ的なケレン味で声を出しておられませんよね。

門脇氏: そこは本当に、現場で指揮を取ってくれたサウンドディレクターが「そこだけは気をつけてくれ」って。

ボンド氏: アキレウスの通常アクションも「えい!」、「やぁ!」ではないんです。「あ”っ!」、「う”っ!」こういう声だってことで。

編: 声優さん目当てに買う人もおられるでしょうから、そういう方々はあまり聞いたことがない新鮮な声が聞けるかもしれませんね。

門脇氏: 凄くいい演技をいただいて、本当に満足しています。唯一アガメムノンだけ「遊んでください」とお願いしました。「悪代官でいいです」って(笑)。アガメムノンだけは、日本人がドラマを見ても、全員が「憎い!」と思ってもらわないと困るキャラですから。

編: 海外的にも、そういうキャラで定着しているんでしょうか?

ボンド氏: うーん、どうでしょう…。そもそも、この物語の登場人物は全員が、それぞれ人間として「善」と「悪」の両面を持っていますし、そもそもの神話も、そういった人間の傲慢さや欲深さなども含めた、人間というものの本質を描いていますしね。

編: それがドロドロした部分でもあり、人間の弱さみたいなところ。劇場作品しかり、ゲーム中に出てくるキャラクターもしかり。

門脇氏: 英雄を描くにしても、完璧な英雄は描かないですしね。アキレウスも、1番のヒーローのくせにダークーヒーローでどうしようもない面がある。

ボンド氏: 彼は弟のために戦争に参加しているわけで、完全な悪ではないんですよね。彼なんかは、そういう側面も入れていきたかったな。実際そういうのはちょっと見えてますし、アガメムノンを完全な悪とは思っていないですね。

編: 家族的なテーマが入っていることが、欧米で認知が高いことの1つの理由でもあるのでしょうか?

ボンド氏: そうですね。家族については、神話のなかではもっと深く描かれています。実際彼は、弟のために出陣したというのもありますが、それを口実にトロイを奪おうという欲も持っていました。また、彼がトロイにいくときに、神から「娘を犠牲にしなければならない」と言われ悩む。結局殺してしまうんですが、そのことを妻に言わなかったため、帰ってきたら妻に殺される。ギリシャ神話は版によって細部が異なりますが、そういう家族間のやりとりが含まれているものもある。つまり、人間の本質ですよね。色々な人間の素みたいな、悩みとか。それがすべて描かれているのが神話、ということです。

編: プランニングや、本編、ムービーを作っていくなかで、認識が変わったキャラクターはいますか?

ボンド氏: 一般的にイリアスを完全に読んでいる人は少ないので、開発に携わる前は劇場作品「トロイ戦争」のイメージが強かったですね。パリスが1番いい例だと思うんですが、映画では本当に弱々しい女たらし、ファイターではないような描かれ方をしていましたが、実際の神話では……私たちのゲームでもそうですが、十分闘えるファイターなんです。実際の神話ではヘクトルとレスリングマッチをして勝つくらい。我々のストーリーでは「悲壮」というチャプターから勇敢に戦いはじめます。映画「トロイ」のオーランド・ブルーム版パリスをイメージされると「こんなに闘えるパリスは、パリスじゃない」と思っちゃうくらい。他にはメネラオス、ヘレネの元夫ですよね。彼も映画では本当に情けない男として描かれていますが、実際の神話では勇敢な戦士ですし、神のいたずらで理不尽に妻を奪われた同情できる男でもあります。ヘレネも、実際には彼のことを愛している。

門脇氏: 成熟した、理性的な大人なんです。ただ、映画では、かなり野蛮な戦士。弊社ふうに言うと「知力低め」な感じ(笑)。

ボンド氏: パトロクロスなんかも、映画ではアキレウスの可愛い弟分みたいな感じですけど、神話では実は年上で、人格的に未熟なアキレウスを抑える役割。今回のゲームでも、アキレウスをたしなめるというか、抑えるようなキャラクター。私たちのゲームでは、あえてそういうところを描きました。アガメムノンとかメネラオスはダークサイド寄りですが、なるべく神話に忠実にしました。

編: そこはデザイナーの腕の見せどころですよね。最後に発売を楽しみにしているユーザーのみなさんにメッセージをお願いします。

ボンド氏: まず、アクションゲームファンのかたがたには、このゲームをぜひプレイしていただきたいと思います。特に日本の方々は「トロイ戦争」のディティールを知らない方も多いかもしれませんが、私たちはストーリーを丁寧に作りましたので、これでぜひ「ギリシャ神話」と「トロイ戦争」を知っていただきたい。ストーリーを追うだけでも楽しめますし、アクションゲームとしても他の日本のゲームにはないものに仕上がっています。

 もうひとつは、あまり「無双」が好きではない人、やりつくしたと考えている人、「こういうのは苦手だなぁ」と思われていた方々。そういう方々の不満を、我々はまさに改善したつもりです。ぜひチャレンジして、新たな「無双」が好きかどうか試してください。私たちは、そういう人たちが好きになってくれるアクションゲームだと思っています。最後に、「無双」シリーズのファンの方々。完全な従来型の「無双」を期待されてしまうと、私たちは心配してしまうのですが……色々なチャレンジをしていますので「こんなの『無双』じゃない!」と決め込まず、まずは慣れていただいて。そうではない部分にも面白い部分がたくさんありますし、最終的には「無双」らしい面白さ、爽快感、満足感が味わえる作りになっています。

門脇氏: アクションゲームファン、「無双」シリーズファンにも十分楽しんでいただけるものに仕上がったと思っています。自信を持って、ぜひプレイしていただきたいと申し上げます。

 本作を担当するにあたり「ギリシャ神話」を勉強しましたが、これが実際、本当に面白いんですね。人間の業などを描いてますし。また、「ギリシャ神話」の“むき出し”の部分、たとえば人間の本質、本能、神の強欲さをリアルに描いている部分は、実際に欧米で暮らしてみて思ったんですが、ちょっと通じるものがあるというか。欧米文化の根底に流れている“さわり”を知るキッカケにもなるくらい。完全にカルチャーの根っこで、日本と違うんだと。あれが欧米の文学の始まりで最高傑作だと思うと「なるほど、根っこでこういう方向性が違うんだな」というのもわかりますし。そうやって「ギリシャ神話」に興味を持っていただいて、知識を得たあとにもう1度「TROY無双」をプレイしていただけると、また違ったストーリーの見方ができると思います。ぜひ「TROY無双」をキッカケに、「ギリシャ神話」の世界、欧米文学の世界にも興味を広げていただければ、と思います。

編: 本日はお忙しいところを、本当にありがとうございました。


(2011年 5月 25日)

[Reported by 豊臣和孝 ]