グラスホッパー、能丸督之氏特別インタビュー
iPhone/iPod touch/iPad「FROG MINUTES」
グラスホッパーの新たなる挑戦。絵の暖かみを大切にした癒しのゲーム

4月12日収録

会場:グラスホッパー・マニファクチュア

 

「FROG MINUTES」のディレクターを務めた株式会社グラスホッパー・マニファクチュア・デザイン企画室の能丸督之氏

 株式会社グラスホッパー・マニファクチュア(以下、グラスホッパー)は、3月にiPhone/iPod touch/iPad用タイトル「FROG MINUTES」の配信をApp Storeで開始した。

 水彩画で描かれたフィールドの中、ぴょんぴょんと跳びはねるカエルに捕まえた虫をえさとして与え、お腹がいっぱいになったところで捕まえる。ゲームとしてはシンプルだが、自然のせせらぎが聞こえる中、虫を捕まえ、可愛らしい声でなくカエルと戯れていると、ついついプレイし続けてしまう、癒しを伴った不思議な作品に仕上がっている。また、絶妙のタイミングで坂本真綾さんのナレーションが入り、このナレーションを聞くだけでもこのアプリケーションを起動する意味があるだろう。

 この度、「FROG MINUTES」の制作を担当したディレクターの能丸督之氏にお話を伺う機会を得た。このタイトルはグラフィックスを手がけた能丸氏無くしては生まれ得ない作品だった。能丸氏のこれまでの経歴から始まり、「FROG MINUTES」誕生のきっかけから、ゲームの制作過程。そして細かい内容まで伺った。



■ 「iPhoneやiPadは絵がキレイなので、僕の絵を最大限に活かすことを考えました」

能丸氏には、制作の経緯からアップデートのアイディアまで色々とお話を伺った

GAME Watch編集部: まず最初に、能丸さんはこれまでどのような作品に携わっていらっしゃったんでしょうか?

能丸氏: グラスホッパー・マニファクチュアとしては、発表されたタイトルだと「killer7(カプコン)」から携わらせてもらっています。それはアルバイトで、学生のときに外注というかたちで関わりました。2Dの絵素材を手がけました。そのあとは「サムライチャンプルー(発売当時バンダイ)」とかでしょうか。学生の頃にしっかり携わったのはそれくらいですね。入社してからは、「零~月蝕の仮面~(任天堂)」と「ノーモア★ヒーローズ(マーベラスエンターテイメント)」の2作品に少し関わっています。間もなく発売となる「Shadows of The DAMNED」は、かなり関わっています。

編: では、学生時代からグラスホッパー一筋なんですね。

能丸氏: ゲーム業界に入ったと言うよりは、須田(剛一)と直接関わらせてもらっている感じです。ですから、他のゲーム業界はあまりよく知らないんです。

編: それはやはり、須田さんの作品などをごらんになって惹かれたと言うことでしょうか?

能丸氏: そうですね。元々ゲームはするほうなんですけど、実はグラスホッパーのゲームは全然知らなかったんです。グラスホッパーの社内に同じ大学の先輩がいるのですが、私が在学中にその人づてでバイトの話がきたんです。それでグラスホッパーと関わらせてもらうようになって、魅力に取り付かれたといったら言いすぎかもしれませんが(笑)。わりと仕事を任せてもらえてると感じていますね。

編: では、「FROG MINUTES」のお話しに移りたいと思います。制作のどういったきっかけでスタートしたのでしょうか?

能丸氏: 最初は須田から話があったんです。須田が「がっつりとコンシューマゲーム機で遊ぶようなゲームじゃなく、あまりゲームを知らない人でも軽い感じで入っていける“絵本”のような、本当に操作も簡単でどんどん楽しめるようなiPadのゲームを作ろうよ!」っていう話をしていて。で、僕の絵を活かしたゲームにしたいという風に話していたんです。色々な案があったんですけど、結局は僕の絵を1番活かせると思ったのが「“自然”をテーマにした作品の方向でいこう!」という話になり、制作に入りました。

編: アイデアはご自身で出されたのですか? 他のスタッフと一緒にみなで「こんなのもあるよね」みたいな風に出し合ったのですか?

能丸氏: あまり多くのスタッフは関わっていないので、ほとんど僕がひとりでアイデアを出して、須田と話をして練り上げていきました。制作前のアイディア出しの段階では、変なのもありました。例えば、最初はグラスホッパーっぽい、殺人現場で犯人を探していくといったゲームですとか、「FROG MINUTES」よりももっとおとぎ話っぽい絵本のような物語が展開していくようなものもあったりしたんです。

編: グラスホッパーさんは過激なゲームが多いイメージがありますが、そういうなかでは「FROG MINUTES」は異色という印象を受けました。須田さんから「絵本みたいなグラフィックスを活かして」というのは、制作開始当初からあったんですね。


須田氏が気に入ったという、能丸氏が学生時代に描いたカエルの絵。よく見ると小さなカエルの集合体となっている。このアイディアはそのまま「FROG MINUTES」にも活かされている

能丸氏: 僕がバイオレンス的な方向ではなく“癒し”の方向で作ろうと言い出したわけではなく、須田のほうから「女性でも気軽に遊べるような」という話しがあり、制作が進んでいきましたね。

 なぜカエルのゲームになったかというと、ぼくが学生のときに作品の元になったアイディアを描いた絵があるんです。実物大くらいのカエルの大きさで、すごく大きなカエルを描いたものがあるんです。実は須田がその絵を気に入ってくれていて、それを元に「あのカエルのやつでいこうよ」と言われたんです。

編: そこから「カエルのゲームでいきましょう」という風にゲームの制作がスタートしたんですね。では、一般層をターゲットに据えた時点で、プラットフォームとしてはiPhoneやiPadというのが前提としてあったのですね?

能丸氏: そうですね。iPadというのは最初にありました。ちょうど発売されたばかりだったので、ちょうどいいタイミングじゃないかと思いました。

編: では、制作期間は1年くらいでしょうか。

能丸氏: 結局半年くらいかかったんです。

編: コンシューマーのゲームは制作に比較的時間がかかりますが、iPhoneやiPadのゲームはアイディアを出して、すぐに制作に取りかかり比較的短時間で作り上げてしまうことがありますが、そういったスパンでのゲームの制作スタイルもまた魅力と感じましたか?

能丸氏: そうですね。そういった制作スタイルも面白いと思いました。

編: 「FROG MINUTES」は図鑑もついてますし、プレイしていてエデュテイメント・ソフトのような雰囲気も持ち合わせていますから、ゲームなのか教育物なのかジャンル分けに困るところもありますね。これは初めからゲームと教育ものの境界線は曖昧なままでいたのですか?

能丸氏: ゲームを作ろうということとか考えずに「どういうことがやりたいか」というところから制作がスタートしていますから、ゴールとかはあまり考えずにやりはじめました。


編: その根源にある「これがやりたい」っていうのは、何なんですか?

能丸氏: iPhoneやiPadは絵がキレイなので、僕の絵を最大限に活かすことを考えました。「ゲームをプレイする」というよりは、絵だけでも楽しめる感じを大切にしました。

編: たとえば釣りのゲームで実写を背景にした作品などもたくさんありますし、実写の背景を使う方向性もあるかと思うんです。1番初めにプレイした時は、エデュテイメントに近いのかなと感じ、それだったら、なぜ写真を使わないのだろうと思っていたんです。図鑑にも写真が出ないんですけど、それは絵を大切にすると言う想いからだったんですね。

能丸氏: はい。やはり写真だと……ぼくの感覚だとインターネットなどで誰でもいくらでも探せるし、手書きの温かみが絶対に大事だなと思ったんです。制作の途中で1度「写真を使おう」という話になったことがあったのですが、それだけは止めたいという風に話し合いました。全部、手で書くことにこのアプリの意味があるという風に思っているので。そこだけは外れないようにと思っていましいた。ゲームの内容自体も、あまりゲームということに入り込んでいかないように、わざと軽い感じにしたいなと思っていました。

編: ゲーム的ではない雰囲気を持ちながらも、細かいところでゲームの気持ちのいい感じ(カエルを捕まえるタイミングなど)を大切にしているソフトだなと感じたのですが、それは試行錯誤のなかで調整されたのですか?

能丸氏: そこは、画面の中のものに触れたことに対し、反応したりすることがプレーヤーとしては無意識のなかでも喜びだったりすると思うので、そこは結構調整しました。もっとここは反応したほうがいいとか。わりとそれは、作っていく段階でツメていきましたね。

編: たとえばApp Storeの意見などを呼んでいると「カエルに虫を食べさせようとした瞬間にカエルが動いてしまうことがあるので、カエルにターゲッティングしたほうがいい」と言う意見もあるようですが、我々のようなゲームばかり遊んでいるものから見たら、絶妙なタイミングで飛び跳ねるカエルたちを捕まえる……ちょっともどかしいところがゲーム的で面白いと感じました。私もプレイし初めの頃は、カエルに直接虫を持っていってましたが、実はカエルが欲しいと思っている虫が大きく表示されますが、その円のところに虫を持っていっても食べてくれますよね。

能丸氏: はい、そこでも食べさせることができます。与えられる範囲は実は大きめに設定してあるので、ポイッて投げる感じでやっても、あげられるようになっています。それは、プレーヤーがプレイしていく中で気づいてもらえればいいかなと思います。難易度が高いと思われるかもしれないと思うこともありますが、カエルにターゲッティングしたり、ずーっとカメラがついていくといったことは、色々なシステムの問題とかもありやめました。社内でも色々な意見があったんですけど。(少し難しい方が)難易度のキープにもなるし、カエルにターゲットしてカメラを固定すると、カエルにやる餌が足りなくなった時に、虫をつかまえにいけなくなってしまう問題があるんです。

編: 確かにプレイ中に虫が足らなくなることがあります。なにかシステム的にシミュレートしているわけではなく、出てくる虫、出てこない虫はランダムなのでしょうか?

能丸氏: そうですね。ランダムです。

編: 大きく揺れる茂みのなかにはカエルが隠れていて、ほんの少しだけ揺れている茂みの中からは、カタツムリやバッタなどエサとなる虫が飛び出てきたりしますね。

能丸氏: 実はあまりアピールはしてないのですが、最初のチュートリアルのところで「茂みをタッチすると餌も出ます」とコッソリ出しているんです。激しく揺れるときは必ずカエルが出てくるのですが、茂みが動き始めるとあちこち触っていれば、一定の確率でポンポンと虫が出てきます。

編: 「新しい生物がいるところがオープンしたよ」って言われはじめのうちはカエルが出てきたのですが、木の上のほうとかだとカエルが出てこなくて「あれ、ここじゃないのかな?」と思ったりしたんです。システム的にオープンになる場所からは必ずカエルが出てくるという期待感があったんです。でも、カエルだけではなくハエとか生き物が出てくる場所という意味なんですよね。

能丸氏: 確かに、木の上などからも「カエルを出そうか」と話し合っていたこともありました。カエルが出てきてポトッと落ちてくるのを、やるかやらないかで迷ったのですが、「少し変かな」と思ってやめましたね。

 ゲームを進めて行く段階で、出てくるカエルが徐々にオープンになっていきますが、虫の出る確率もわりとカエルが出てくる段階ごとにちょっとずつ変えてあるんです。新種のカエルが出ると、出現率が少し変動しているんです。虫も色々な種類が順々に出てくるようになるのですが、その時々で変わっているんです。

 でも、だいたい平均的に出るようになっていて、人によっては「ハエが全然出ない」といった話しもあります。確率自体は、カエルが要求してくるのも、虫が出る確率も、だいたい平均的にそろえてはあるんです。

編: 今はトンボの出現率が少ないんですけど、言われてみれば最初の頃はトンボがたくさんいて「あんまりたくさんいてもなぁ」と思っていました。1度捕まえた虫を逃がすこともできるんですよね。あれはなぜ逃がすことができるのですか?

能丸氏: 実は名残り……といいますか。最初、実はカエルにダイレクトに与えるのではなくて、虫をカエルの目の前あたりの食べられるようなところに放してやり、カエルがパクッと食べるという仕様もあったんです。その名残で「虫を自然に戻す」のも別に面白いから、戻してまたとってという遊びもできるんじゃないか? ということで残してありますね。現状はゲームとしては、ほとんど関係ないんですけど。

編: カエルに食べさせるというか、前に置いてという仕様が採用されなかったのは、ゲームとして難しいからでしょうか?

能丸氏: 捕まえようとするときに、反応する範囲……カエルがこの範囲に餌があると反応するといったように設定していたのですが、なかなか上手くいかなくて。それに、食べるモーションが必要になってしまうため、素材を用意する工程がかかってしまうというのもあります。

あちこちの茂みが揺れ始めるが、必ずしもカエルが現われるわけではない。それぞれ「生き物のすみか」なので、トンボやチョウ、ハエなどが住んでいる

編: プラットフォームは当初iPadと言うことで、画面の大きさがiPhone/iPod touchとiPadでは違いますが、難易度の調整なども行なわれているのでしょうか?

能丸氏: はい、かなり調整しました。iPadとiPhone/iPod touchで難易度の差が出ないように、指のサイズとかも考えながら調整しました。iPhone版だけをプレイしていると気づかれないかもしれませんが、iPadをやると「画面サイズにゆとりがあるなぁ」と感じるはずです。自然を見渡す感じになるんです。iPhoneだと、カエルと虫がアップになるので、そこに注力しがちですが、iPadでプレイすると自然のなかでゆったりと見渡しながら、そのなかにカエルがいて、そのカエルに餌をあげるという感じになります。

編: (プレイしながら)見渡せる範囲が圧倒的に広くなりますし、これだとiPadでプレイするのもいいという気がしますね。

能丸氏: プレイしている絶対数はiPhoneのほうが多いので、少しでも多くの方にプレイして欲しいというのはあります。

編: iPhoneとiPadでは、カエルのターゲッティングの大きさであるとか。そういった所は変えてあるのですか?

能丸氏: 背景の絵と出てくる生き物の絵は変えてあります。iPhoneはかなりカエル自体を大きくして、背景の絵は小さい感じにしています。iPhoneをやったあとにiPadをやっていただいても、新鮮な感じだと思います。音とかも一緒に楽しんでいただくと、より癒しが感じられると思います。iPhoneはどうしても画角が狭くて、ハエが動くとそれを追いかけて、餌もあげてみたいな感じで、ちょっと忙しいのですが、それも面白いと思います。

編: それくらいがゲームっぽいかなと私は思いました。でも、iPadでプレイすると、窓から箱庭を眺めているようで、また違った雰囲気を楽しめますね。

能丸氏: 色々な楽しみ方があると思います。このゲームは「何かをしなくてはいけない」という強制力があるゲームではありません。ゆったり自分のスタイルで楽しんでいただければと思います。

編: カエルを捕まえたときの演出ですが、音符ですよね。これは何か意味があるのですか?

能丸氏: 最初は意味があったんですけど、今は喜びを表すだけの意味になっています。「カエルが餌をもらって喜んだよ」という意味をあらわすだけのエフェクトになっています。企画段階ではちょっと仕様が違っていて、餌をやるごとにカエルのサイズが変化するようになっていました。製品版では、捕まえる過程では大きさは変わりません。

編: iPadでやっていると、自然のなかにたくさん生き物がいるなって感じがしますね。

能丸氏: iPhoneでプレイすると忙しく感じるためか、シューティングみたいに、虫が出てきたらすかさず捕まえる人もいましたね。それはそれでいいのかなって思います。

上段3枚がiPhoneのスクリーンショット。下段のiPad版のスクリーンショットと比べていただければわかるが、圧倒的に画角が狭い。その分、カエルや虫にフォーカスされる
iPad版は画面が広く、遠くまで見渡せるため背景を楽しむ心の余裕ができる。プレイしてみると、全く同じゲームでありながら、デバイスが変わっただけで、ここまでプレイの印象が変わるものなのかと感心する

■ 「カエルを描くための資料集めには苦労しました」

「Killer 7」を初めとしたグラスホッパーの様々なタイトルに関わってきた能丸氏。これまでの過激な作風とは異なる、チャレンジングなタイトルとなった

編: 「FROG MINUTES」にはカエルがたくさん出てくるのですが……カエルがお好きなんですか?

能丸氏: はい、大好きです(笑)。カエルだけじゃないのですが、小さな頃からカエルは特に好きですね。

編: カエルだけじゃないというのは、虫とかもお好きなのですか?

能丸氏: はい、生き物全部ですね。

編: では、カエルを飼っていらっしゃったりするのですか?

能丸氏: 今は、カエルは飼っていませんが、エビを飼っています。淡水でも飼える、川とか池にいる小さいエビですね。

編: 出てくるカエルの選定というのは、もう膨大な種類の中から図鑑をめくっていき選んでいったのでしょうか?

能丸氏: カエルの種類は、見栄えとかバリエーションを考えて選びました。大きいやつとか小さいやつとか。色とかも。国は……だいたい南米が多いでしょうか。

編: でも、日本アマガエルなども収録されていますよね。そこはやはり日本のカエルも入れておかないといけないという判断からでしょうか?

能丸氏: 最初からあまりインパクトのある、変なカエルが出てきてもキツイかなと思ったからですね。

編: でも、基本的にどれもカワイイですよね。

能丸氏: ありがとうございます(笑)。ぼくも、どれもカワイイなと思って描いていたんですけど。女性の方にやってもらったりすると、ヒキガエルが出てきた瞬間に「もうムリ!」って言われたこともあります。あと「虫がムリ」という方もいらっしゃいますね。

編: なるほど。グラフィックスのタッチはリアルにしようと意識して描かれたのですか?

能丸氏: そんなに写実的に描こうとしたわけではないのですが、キャラクター化したりデフォルメしなくても水彩の感じを活かして描写しようと思いました。

編: カエルのモーションは、実際に動いているものを見て描かれたのでしょうか?

能丸氏: はい。スタッフの知り合いで、東京の橋本にある爬虫類専門のペットショップ「蛙葉堂(けいようどう)」というお店をやってらっしゃる方がいて、その方のところにお願いして、ビデオを持って動きを撮りに行きました。固定カメラを設置して「次はそれを動かしてください」と、ツンツンとしながら(笑)。餌を食べるところとかも、色々撮らせてもらいました。そのあたりのカエルの動きはこだわりました。インターネットとかでも調べたのですが、なかなか全てを調べることはできませんでした。飛び跳ねないで歩くばかりのカエルもいるし、逆にはねることしかしないカエルもいるし。

編: 登場するカエルを決め、制作する段階で資料にしようとしたペットショップに行っても「いない!」っていうこともあったのですか?

能丸氏: まぁ、ほとんど(ペットショップには)いないですね。

編: ほとんどいない? それでは資料が手に入らなかったわけですよね。では、別の方法で調べられたのですか?

能丸氏: あとは、同じ種類で形を参考に当てはめて「こいつだったら、こういう動きになるだろう」というのを手付けのモーションで再現したりもしました。そこは手書きの絵を使ったので逆に助かりましたね。

編: そういうふうに聞いてみると、やはりエデュテイメントというよりエンターテインメントソフトってことですね。

能丸氏: もちろん間違っていない情報にしよう、というのはあります。図鑑に書いてある情報とかは、結構調べて作ってますね。ただ、まぁ……「FROG MINUTES」では世界中のカエルが1カ所に集まっているという時点でファンタジーな世界ですので(笑)。そこは、悩んだのですが、今回は楽しんでもらい、癒されてもらいたいなと思いました。

編: たとえば、ある種類のカエルは本当はカタツムリを食べないけどゲームの中では食べているといったことはあったりするのでしょうか?

能丸氏: 小さいカエルは、カタツムリはあまり要求してこないように設定はしています。しかし、基本的にカエルは自分で食べられる大きさと判別すると何でも喰らいつくらしいんです。1回、カエルを研究されてる方に「登場する虫とかカタツムリを、このカエルに食べさせるのは変ではありませんか?」ときいたら「別に不思議なことではありません」という返答をもらっています。

編: カエルたちの鳴き声が収録されていますが、音声の収録は大変だったのでしょうか?

能丸氏: 最初、音声は自作した鳴き声をいれようかなと考えていたのですが、こだわるんだったら、徹底的にということで、日本で1番カエルの種類が集まっているという「あわしまマリンパーク」さんにお願いしたところ「いいですよ」と快諾いただいたので、とりあえず下見でいったんです。夜にならないと寝ない鳴かないとか、電気を消さないと鳴かないとか、どうしてもお客さんがくる時間帯は音声の収録はムリなので、マリンパークの方にお願いして、鳴く時間帯に録音機を設定してもらい、そのデータを送ってもらうという形を取りました。結局、ほとんどはマリンパークの方に録ってもらったと思います。

編: 半分くらいは、ご自分でも録られたんですね。

能丸氏: 初めに下見にいったときも「こうやったら鳴きますよ」みたいな感じでやってくださって、鳴いた声を録りました。そのときに4種類くらい録れたと思います。

タイトル画面の元となった能丸氏の絵。水彩画の淡い色合いが暖かい雰囲気を出しているゲーム中のカエルは全て手書きで描かれ、絵を取り込んで手付けでモーションが作成されている。今回掲載したこの絵は、実際に使用される一歩手前のもので、インタビューにあるようにカエルが目の前のえさを食べるモーションの絵
フィールドの背景の元となった絵。絵の具を重ね塗りして色味などを調整しているため、日曜日に出社し1日がかりで仕上げたのだという。この絵をコンピュータ上でさらなる加工を施し、使用しているフィールドにある草など。川のせせらぎなどに合わせて草花が揺れ始めると、本当に風が吹いているかのように爽やかな気持ちになる

■ 「坂本真綾さんのナレーションには癒しを感じます」

iPad版のスクリーンショット。画角が広いため、窓からゲームの世界を見ているような雰囲気になる。スクリーンショットではちょうどハエを捕まえたところ

編: 「FROG MINUTES」において、もうひとつ印象的だったのは、坂本真綾さんの声が起用されていたことです。私自身はこういう自然を舞台としたゲームでは「自然の音だけ流れていればいい」という感覚があったのですが、坂本さんの声が入ると「この声を聞くためにプレイしたい」という想いが大きくなりました。最初から坂本さんにお願いするつもりでいらっしゃったのですか?

能丸氏: 1番最初は、須田から「ナビゲーションというか、常に一緒にやってくれている感じで女性の声を入れたい」といったアイディアが出たんです。そこで「坂本真綾さんがいいと思う」という話になったので、お願いしてみたらOKをいただきました。癒しを感じますし、全体的に優しい感じでありながら、図鑑の説明文などではキリっとした所もある。そういうあたりもちょうどピッタリという感じです。

編: 「遠くがキレイだね」とか「せせらぎが~」など様々な台詞が色々なタイミングで流れますが、そのタイミングなどもこだわられましたか?

能丸氏: 本当は「坂本さんがずっと言い続けるくらいやって!」みたいな感じで須田からは言われていたのですが、あんまりやりすぎると、機械的に感じたり、タイミングによっては変なバグに聞こえたり、うっとうしくなるだろうということでタイミングよく流れるよう調節しました。ちょっと控えめで、ある程度タッチしないと話しかけてくるようにしています。

編: 音声を入れるタイミングは、色々と試行錯誤がありましたか?

能丸氏: そうですね。入れる数とか、みんなで話あって……台詞の選定とかも色々と悩みました。

編: 台詞で面白いなと思ったのは、だいたいカワイイ感じの台詞なのですが、たとえばハエをたくさん集めたときなどは「たくさんのハエ!」といったように、少し嫌そうに仰っている。嫌そうなんだけどイヤミじゃないというか、カワイイんですよね。そういった演出は、坂本さんと話しながら何度か録り直しをしたりもしたのですか?

能丸氏: 収録のときは、ニュアンスをつかんでくださるのが凄く早くて、かなりスムーズにいきました。ただ、あんまり嫌そうに話すと「そんなに嫌なんだ」といった風にとられてしまうので、台詞自体を控えめにしたんです。

 ですから、そういったニュアンスに関して、NGを出したり録りなおすといったことはありませんでした。むしろカエルの名前とかが言いづらかったようです。それと、イントネーションがよくわからないといった点ですね。

編: たしかに、「ミナミマダガスカルインドガエルを、どこで区切って話せばいいのでしょうか?」と聞かれても困りますよね。

能丸氏: 名前で、カタカナだけ並んでるのでわかりづらいようですね。たとえばシンジュメキガエルなどは、字面だけで見ると何が書いてあるのかよくわからない。シンジュメキ+カエルなのか、シンジュ+メキガエルなのか、そういった点がパッと見でわからない。シンジュ(真珠)、目が大きい、木に棲んでるというのが入ってる名前ですよ、という説明をさせていただきました。

編: 英語のニュアンスまで理解できないのですが、英語の方のナレーションだと“萌えない”という気がするのですが、いかがでしょうか?

能丸氏: 外国の方がきいても、ちょっと堅く感じるようです。

編: やはりそうなんですか。坂本さんのカワイイというか、凄くいいイントネーションに比べると普通な気がします。

能丸氏: 英語のほうは、ちょっと学術的な感じがしますよね。実は坂本さんに台詞を録っていただく前に、普通にもうちょっと堅い台本のバージョンがあったのですが、それをそのまま英訳してもらい英語音声を収録したので、どうしても堅い形になってしまいました。


■ 「アップデートを考えています。水中や地中を表現したい」

グラスホッパーの普段あり得ない自然を現わしたいといった想いと、実際のガラパゴス諸島を引っかけて設定したシリーズ名「グラパゴス」のロゴ

編: まだ出て半月しか経っていないのですが、プレーヤーさんはどんどんプレイされていて、すでに100%を達成された方もたくさんいらっしゃるようです。「FROG MINUTES」のバージョンアップは考えていらっしゃいますか?

能丸氏: いま色々な方向性で考えてまして、次回作やバージョンアップも含めて考えています。

編: 「FROG MINUTES 2」になるのでしょうか? それともどんどんアップデートしていくのでしょうか?

能丸氏: 新作を作れればいいなと思っています。まだまだ紹介したいカエルがたくさんいますし、カエルの生息地も今は一種類ですが、数多く作っていきたいですね。カエルの世界は様々ですのでどんどん広げていきたいなという感じです。水中を舞台にしても良いですし。結構土のなかに潜っているカエルも多いので、そこいらへんも上手く表現していきたいと考えています。

編: たとえば、「FROG MINUTES」とは別にゲームを作りたいといった想いなどはありますか?

能丸氏: ゲームを始めると「グラパゴス」シリーズのロゴが表示されます。この意味というのは、「グラスホッパーの普段あり得ない自然を……といった想いと、実際のガラパゴス諸島を引っかけて設定したシリーズ名なんです。今までのグラスホッパーとは違う方向性というか、自然をテーマにしたシリーズを考えています。

編: 誰でも遊べるような、グラスホッパーとしてこれまでとは違ったブランドイメージでしょうか?

能丸氏: そうですね。気軽に遊べて、自然を楽しんでもらえるようなものを考えています。

編: 本日はありがとうございました。


(2011年 5月 6日)

[Reported by 船津稔 ]