突然のサービス休止、そして再スタートを目指す「CODE NAME STING」
休止の理由、サービス再開に向けた開発プランをプロデューサーに聞く



「CODE NAME STING」。開発は韓国のYNK GAMES

 YNK JAPANが8月より正式サービスを展開しているオンラインFPS「CODE NAME STING(以下『STING』)」は、11月2日よりサービスを休止する。休止する期間については発表していないが、サービスの終了を意味する無期限の休止ではなく、近い将来の再開を前提とした再開発が行なわれる。

 オンラインゲーム市場には無数のオンラインFPSが溢れているが、その中にあって「STING」の存在感はまだ希薄だ。米Valveのゲームエンジン「Source Engine」を採用し、対戦型FPSとして手堅い内容に仕上がっていることや、プレイ中に様々な「スキル」を使って戦略の幅を広げられるといった特徴もある。しかしそれだけでは、飽和状態にある市場で独自の存在感をアピールすることはできなかった。

 クローズドベータテスト、あるいはオープンベータテストの段階で「仕切りなおし」を選択するオンラインゲームは珍しくないが、とはいえ、既に正式サービスを開始した段階で休止を選択するというケースは珍しい。いったんビジネスを開始したものを「休止」するというのは、そのまま「終了」と受け取られてもおかしくなく、ゲームタイトルのブランディング戦略として非常にリスクが高いからだ。

 だとすれば、YNK JAPANが決断をした理由とは何だろうか? また、休止中に何をし、「STING」をどのようなゲームに仕上げていくのだろうか? このあたりを明らかにするため、YNK JAPANで「STING」運営プロデューサーを勤める康 詩温(こう しおん:HAC)氏に話を聞いた。



■ ユーザーの期待に応えられなかった「STING」。
 サービス休止に至った理由と、日本側スタッフ主導の「再開発」計画

インタビューに答えてくれた「STING」運営プロデューサーの康 詩温氏。ゲームネーム「HAC」として対外活動を行なっているため、本記事でも「HAC氏」として表記する

──:まず、休止に至った経緯について聞かせてください。

HAC氏:はい。「STING」の運営チームとして、お客様へ提供するべきサービス内容や、そのために計画してきたロードマップが9割方実現できていないという状態があります。そういう、やれるはずだった、やるべきだったことができなかったという点について、解決するためには休止という選択が良いだろうという結論に至りました。

 もちろん、サービスを続けたまま問題を解決していくというやりかたもあります。ですが、現在の開発状況や日本の運営チームの状況を総合的に判断した結果、サービスを提供しながらというのは難しいだろうと。このままズルズルと続けていても、お客様のご期待を裏切ってしまうことになりますので、いったん仕切りなおそうということです。

 改善していくべき内容は沢山あります。例えば、公式サイトのほうに「物申す掲示板」というのを設置していまして、そこに1,000件を超えるご要望を頂いています。その全てにお答えすることはできませんが、多くのフィードバックを取り入れさせて頂きたいと考えています。そういった形で、休止に向けた下積みは完成しております。

──: サービス休止前の現状としては、ユニークユーザー数を見る限りはまだまだビジネスにならない数字ですね。

HAC氏:そうですね。少ないです。

──: そういった少ないながらも熱心にゲーム支持してくれるロイヤルユーザーから意見を集めたとのことですが、不満の表明と要望の提案、どちらが多かったですか。

HAC氏:こうして欲しい、という要望の方が多かったです。不満点についても、代替の提案を含むものがほとんどでした。具体的には、今「STING」に無いものを入れて欲しい、という意見が多かったです。いわゆる「修正」ですと、今あるものをベースに変えていけば良いのですが、新規要素の「要望」となれば、イチから作らなければならないことが多くなります。そのためにも開発に専念する必要が出てきたわけです。

──: なるほど。そこで聞きたいのが、サービスを休止して開発に専念することによって「何を実現するのか」ということです。現状でどのようなプランがあるのでしょうか。

HAC氏:やはり、オンラインFPSとして後発タイトルであるにもかかわらず、既存タイトルにも当然あるものが「STING」には無さ過ぎる、という現状がありました。まずそこを改善していきたいと考えています。

 例えばユーザーインターフェイスの部分です。現状ではフレンドシステムや、クラン戦システム、クランチャットといったものが欠けており、ユーザーの皆様にご不便をおかけしています。例えばフレンドを検索するシステムや、ゲーム内でクラン同士のコミュニティが活性化するようなシステムを充実化させていくつもりです。それも、既存ゲームのものより付加価値の高いシステムを考えています。

 また、「STING」ならではの機能の充実化も図りたいと考えています。例えば称号システムです。現状では武器の使い込み度に応じて単純に「○○マスター」の称号をつけるようなものなのですが、これをより複合的なものにして、例えばAという武器とBという武器の両方が得意なら「ニンジャ」という称号にする、といったものを考えています。また、そのために1つの武器だけで数千キルしろ、というのはあまりに厳しすぎますので、そのあたりも複合的な条件に変え、よりプレイの実態に沿うシステムにしていきたいと思います。

 そういった形で、「STING」に備わっていなければならない機能やコンテンツの実装と、もともと備わっていたものの強化・多様化という2点が、開発の基本路線になります。

──: ちなみに、今回のサービス休止期間はどれくらいを見込んでいますか?

HAC氏:スケジュール的なことはまだ詳しく発表しておらず、正確にはお答えできないのですが、大体の目処として来春の再スタートを予定しています。

──: その際には再度「ベータテスト」的な状態からスタートするのでしょうか?

HAC氏:ベータというような、試験的な形ではやらないつもりです。形としては正式サービスの1個手前、プレオープンサービス的なところからユーザーの皆さんにお披露目していきたいと考えています。アイテムについてもオーソドックスなものはご提供させていただきますし、限りなく正式サービスに近い形とご理解いただければと思います。

──: なるほど。そこで気になるのがゲームシステムそのものの完成度についてなのですが、現在までにいくつか問題点があったとも聞いています。そのあたりを具体的に教えて欲しいのですが。

HAC氏:はい。少し前までは、ゲームを起動するランチャーの不具合で、うまくサーバーに接続できないといった問題や、ゲームのローカライズの問題で日本語がうまく入力できないといった現象が一部ありましたが、そのあたりは現時点で解決しています。

 ゲームエンジンのシステムそのものの完成度については我々としても自信を持っています。特にゲームサーバーには十分に余裕のある設備を構築しています。我々が把握している限りでは、これまでにゲームサーバーやゲームエンジンの能力に由来してゲームが重くなったりといった状況は全くありませんでした。

──: ゲームの基本の部分は十分に完成していて、その上で、十分なコンテンツや機能が提供できていなかったところに今回の問題が集約されているというわけですね。

HAC氏:そうです。

──: そういった意味では、ゲームの動作といった基本部分に致命的な問題がないのにもかかわらず、敢えて休止の決定をしたということになりますね。その際には韓国サイドの意思も調整する必要があったんだと思いますが、今はどのような関係なのでしょうか?

HAC氏:実は、ビジネスのスケール的に「STING」はまず日本ありき、という体制になっています。ですので、日本側と韓国側の状況というのは実は同じになっています。今回開発に集中する期間に実装されるものが、そのまま韓国版にも実装する予定です。

──: 日本での成功が韓国での成功に繋がる、という期待もあるのでしょうか?

HAC氏:それがまさに私達が望んでいることです。また特に、FPSというジャンルに関しては国ごとに求められるものがそんなには違わないと思うんですよ。基本の打撃感といったゲーム性が良いことがまず大前提で、その上のプラスアルファをどうするか、ということがテーマになると。

 そのあたりも韓国サイドとすり合わせていますけれども、おおよそ求めているものが同じですので、それで今回は開発を日本側が主導してもよい、という意見が出ました。


現状の「STING」は、手堅い作りながら特筆すべき点もないFPSという域を脱却できておらず、多くのユーザーを獲得するだけのオリジナリティに欠けていた。それに加えてHAC氏は、フレンド機能やクラン機能など、コミュニティ支援関連機能の不備を追加の開発項目として掲げている


■ ゲームイメージの刷新、新ゲームモードの投入に起死回生を掛ける

新ゲームモードの話題ではHAC氏の顔に満面の笑みが見られた。説明そのものは具体性に乏しかったものの、計画段階のアイディアが沢山浮かんでいるようだ

──: 前回、正式サービスを始める前にお話しを伺った際に、新しいゲームモードの話題などもありましたが、そのあたりは今回の休止で何か変化があるのでしょうか。

HAC氏:はい、既存のオンラインFPSには無いものを取り入れたいと考えています。ただ、前回お話をした内容とはだいぶん変わりまして、いくつかのモードが既に製作に入っています。

 その中で今回、いちばんご紹介したいのは、「お遊びモード」というか、通常のゲームのように銃を撃って勝ち負けを競うのではないゲームモードです。旧「Counter-Strike」の「Surf Map(※低重力・低摩擦の空間を、地面を滑りながら特殊な移動テクニックを駆使するMOD)」のような感じで、マップの構造を利用して特定の条件をクリアするとか、タイムアタックで競うといった要素を強めたモードです。

 そういった、普通に撃ち合って戦うだけではないゲームモードを使って、上位プレーヤーに毎週何らかのアワードを提供するような定期的なイベントができるシステムも考えています。

──: わりとシングルプレイ傾向の強いゲームモードということになりますか。

HAC氏:そうかもしれません。もちろん複数人で共同してプレイすることもできますが、ひとりでプレイすることもできます。

──: なるほど。そのモードが実装されれば、かなりゲームのイメージが変わってきそうですね。

HAC氏:実は、既存の世界観、キャラクターのイメージについても要望を頂いておりまして、今回の改変に合わせて全面リニューアルをしたいと思っています。これまで少し「国」を打ち出す表現が強かったのですが、この焦点を「部隊」に変えていきます。

──: 確かにここ日本では、北朝鮮という国のイメージが前面に出ていると、ちょっと近寄り難いというか、手を付け辛い雰囲気ってありますよね。そのへんのイメージを変えていこう、というお話になりますか。

HAC氏:そうなります。これまでは、韓国で製作されたゲームそのものを忠実にラウンチングした、という状況にありました。それを今回は、方向性のリメイキングをやるということで、その中の一部としてキャラクターのリメイキングがあります。女性キャラクターの計画もありますよ。

──:そうなると、既存のマップについてもテーマの見直しが行なわれることになりそうですね。

HAC氏:いや、私としては既存のものは、そこまで神経質に変える必要は無いと思っています。むしろ追加のマップが凄く多くなると思いますね。

 これはゲームシステム面の話になるのですが、マップの大きさに比べて同時プレイ人数が少なさ過ぎる、という意見が結構ありました。そこで従来8対8の16人対戦だったゲームシステムを、最大で15対15の30人対戦ができるように変えます。それに応じてマップのバリエーションも、大人数向けのもの、少人数向けのものとバリエーションを増やすつもりです。

──: 対戦人数がほぼ倍増するというわけですか。大人数向けの特別なゲームモード的なものも考えていますか?

HAC氏:考えてますね。それは先ほどご紹介した「お遊びマップ」的なものもそうです。通常のゲームモードでは撃ち合って勝敗を競いますので、極端な話、1対1の2人の関係が成立すればゲームになります。ですが、銃を撃たないモードではそうはいきませんので、人数が少ないと楽しくない、ということにもなります。

 あともうひとつ、これはまだ確実な話をお伝えできる段階ではないのですが、企画を進めているものがあります。他の既存のFPSと同じような企画をやっても失敗すると思っています。ですからこれについては、サービス再開時期までに他タイトルの動向を見つつ、内容に多少の変更を加えていく可能性があります。

 概要だけお話させていただくと、対モンスター戦が基本となるゲームモードです。特定の条件を満たすというミッションを用意して、達成者に何らかのリワードをご提供するというものを考えています。

──: 家庭用ゲーム機用のFPSで流行している「協力プレイ」的なものですか?

HAC氏:近いですね。方向性としては2つあると思っていまして、戦う相手を大きくすることでMMORPGのレイド的なわかりやすいものにするか、あるいは人型の敵を設定して、より対人戦に近いものにするかです。このゲームモードの第1回目をお披露目する際にはこのどちらかになっていると思いますが、現段階でどちらになるかはお話できません。

──: 目指すところとしては、対人戦ではない、対NPC戦をベースとしたゲームモードということですね。

HAC氏:そうですね。

──: そうなると、プログラマーの方は新ゲームモードの開発に、アーティストの方は新キャラクターや新マップの製作にと、相当忙しくなりそうですね。

HAC氏:はい。そこで実は、マップの製作について考えていることがあります。私自身、今回の開発期間にあたって韓国の開発チームのところで仕事をしてくるのですが、その際に、マップ製作のためのツールやノウハウを全て手に入れて、日本に持ってこようと思っています。

 そこで現時点で言えるのは、お客様がこういうマップが欲しい、と言ってきた時に、いちはやく対応できる体制を、日本側に整えることです。なので、再開にあたってどれだけのマップをご用意できるかは、かなりの部分、私自身が責任を負うところです。

 その上で、従来のFPSとは毛色の違うマップ、例えばRPG的なイベントの発生を前提としたマップ作りなども考えています。そういったものが新ゲームモードに生かされると思います。

新キャラクターのコンセプトアート。従来のリアル系のキャラクターから一転して、フィクション色の濃いアニメ的なキャラクターに転換するようだ


■ 既存ユーザーがあっと驚くようなサービス再開後の姿を約束

「STING」の開発専念にあたり、10月末より韓国に飛ぶというHAC氏。サービス再開時には既存ユーザーがあっと驚くようなゲームにすることを約束した

──: 「STING」の開発について、日本側に主導権が移るにつれてHACさんの責任も重大になっていきますね。やりがいは感じていますか?

HAC氏:そうですね。今はやりがいというか、責任の重さを感じています。ユーザーの皆様の中には、私がプロデューサーであることで「もっとやってくれるんじゃないか」とか、「何も変わらないだろう」とか、色々なお考えを持つ方がいらっしゃると思います。ただ、ひとつ言えることは、私もゲームプレーヤーのひとりでありましたので、プレーヤーとしての思いは決して忘れずにやっていきたい、ということです。

 もっと大きなところとしては、FPSのユーザーそのものを増やしていきたいなと思っています。ここ数年日本のFPSユーザーの絶対数は増えていないのですが、潜在的なユーザーはもっと沢山いらっしゃると思いますので、どんどん新しい層をとりこめればと。そのために「STING」でできることをやるしかない、という感じですね。

──: ユーザーを増やす、市場を広げるということは、オンラインFPSを提供している各社が共通して望んでいることですね。過去の成功例としては「サドンアタック」が挙げられますが、今また同じような方法ではうまくいかないと言うこともいえます。「STING」ではどういった方法を考えていますか。

HAC氏:そうですね、後発のタイトルとしては、これまでのFPSではできなかった遊び、多様性を持ったゲームモードを提供することが有効だと思います。例えば、現実世界では空き缶ひとつで「缶蹴り」という遊びができます。

 「STING」には物理エンジンが搭載されていますので、そういった柔軟な発想が活きてきます。FPSという表現にこだわらず、そういったカジュアルゲームに近い遊びも提案していくことが今後大事になってくるかなと思います。だからサービス再開にあたっては、新しいゲームモード1つだけではなく、少なくとも「いくつか」は用意することが条件になると思いますね。

 また、キャラクターのカスタマイズ面など「STING」が持つ特性をさらに伸ばしていくことも、今後サービスしていく上で続けていきたいですね。

──: 最後に、サービスの再開に向けて、既存ユーザーの皆さんにメッセージをお願いします。

HAC氏:来春のサービス再開に向けて、今まで「STING」を楽しんでいただいた皆さんには、必ずあっと驚くようなシステムや遊びをご提供したいと思っています。今までのサービスでできなかったことを、必ず実現に移すという姿勢で開発に取り組んでいきます。

 今後とも順次情報を公開して参りますので、長い間お待たせしてしまうことになりますが、どうか「STING」の再開を楽しみにお待ちいただければと思っています。よろしくお願いいたします。



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(2009年 10月 29日)

[Reported by 佐藤カフジ]