SCEJ、PS3「HEAVY RAIN -心の軋むとき-」開発者ショートインタビュー
“ゲームは成熟しないといけない”本当の大人向けを目指した作品

今冬発売予定

価格:未定

CEROレーティング:審査予定

 

 株式会社ソニー・コンピュータエンタテインメント(以下、SCEJ)より発売予定のプレイステーション 3用アドベンチャーゲーム「HEAVY RAIN -心の軋むとき-」。大人向けのシリアスな人間ドラマを描くアドベンチャーゲームで、4人のプレーヤーキャラクターが「折り紙殺人鬼」と呼ばれる連続殺人犯を追っていく。キャラクターが死亡してもゲームオーバーにはならずにそれを反映した物語が展開されるという、インタラクティブな作りが魅力の作品だ。

 開発は、PS2「Fahrenheit(ファーレンハイト)」などを過去に手がけたフランスのQuantic Dream。今回はQuantic DreamのCo-CEO、エグゼクティブプロデューサーのGuillaume de Fondaumiere氏へのショートインタビューの模様をお伝えしていこう。

 なお、9月24日に掲載した前回の記事ではプレーヤーが操作する4人のキャラクターのうち、シェルビーとジェイデンを紹介している。ゲーム内容について詳しくは前回の記事をご覧頂きたい。また、後日には残る2人のプレイ模様もお伝えする予定だ。




■ いかなる結末になってもそれは、プレーヤーの選択でたどり着いた“物語”

インタビューに応じて頂いたQuantic DreamのCo-CEO、エグゼクティブプロデューサーのGuillaume de Fondaumiere氏

Guillaume氏:「HEAVY RAIN」にはゲームオーバーがありません。キャラクターが死んでしまってもストーリーは続いていきます。ですがもちろん、キャラクターが死んでしまった場合、そのキャラクターが調査した結果は失われてしまいます。残った3人のキャラクターでストーリーが続いていきます。

 死んでしまったキャラクターと他のキャラクターとが他のシーンで出会っていた場合は、そのキャラクターが死んでしまったことを知ります。そしてストーリーが変わっていきます。

GAME Watch編集部:操作キャラクターが全員死んでしまった場合はどうなるのでしょうか?

Guillaume氏:それでもゲームオーバーではないです。単純に、物語の終点にたどり着くだけです。ゲームオーバーなのかエンディングなのかは些細な違いかもしれませんが、それもまたゲームオーバーではないです。

 普通のゲームの場合、ゲームオーバーになったらそれは失敗であり終わりですが、「HEAVY RAIN」はそうではなく、全員が死んでしまったという結果にも物語があります。4人が死んでしまうのはすごく悲しい結末ですが、それもひとつのエンディングです。ちなみにそのエンディングはディレクターのお気に入りのエンディングです(笑)。

編集部:なるほど。プレーヤーはその悲しいエンディングを最初に見る可能性が高いのでしょうか?

Guillaume氏:それはどうでしょうね。プレーヤーがたどり着くエンディングはたくさんあります。プレーヤーの方には、自分が選んだ行動が招いた結果というものに対して、責任を持ってもらいたい。もちろん、ひとつのエンディングを見た後に、その少し前のシーンからやり直すこともできます。エンディングは20種類以上あります。さらにエンディング以上に、そこにたどり着くまでのプロセス、旅路もさらに多様な紆余曲折が用意されていますから、とくにそれらを楽しんでもらいたいですね。


■ テーマは“愛”。感情や心理といった奥深い要素を描く

海外版のキービジュアル

編集部:「HEAVY RAIN」のテーマはどんなものでしょうか?

Guillaume氏:テーマは“愛”です。息子に対する父親の愛を軸に描いています。大人向けのストーリーを作りました。

編集部:キャラクターは4人いますが、どのキャラクターも愛がテーマなのでしょうか?

Guillaume氏:4人のキャラクターそれぞれが常に問われるのは、「愛する人のために、自分はどこまでやれるのか?」というものです。愛がテーマで、それぞれのバリエーションがあります。

編集部:タイトル名やキービジュアルにありますが、“雨”を象徴的に使っているのはなぜでしょうか?

Guillaume氏:それについて詳しく話さなければいけないのであれば、私はあなたを無事に帰らせるわけにはいかなくなります(笑)。“雨”や“折り紙”などいずれも本作の重要なキーワードです。全ての事柄に意味があります。折り紙殺人鬼と呼ばれる殺人者は犠牲者の手の中に折り紙を残していきます。なぜ折り紙を残していくのか?それにもちゃんと理由があります。それは彼の心理にもとづいています。


雨をキーワードに、被害者の手の中に折り紙を残していく折り紙殺人鬼を追う物語。テーマは愛を描く

■ リアリティとライブ感にこだわった開発プロセス

キャプチャーの手法からこだわって制作されているモデリング

編集部:キャラクターのモデリングについてお聞きします。非常にリアルですが、実際の人間をモデルにしたのでしょうか?

Guillaume氏:そうです。62人の俳優と協力して制作しました。フェイシャル(顔)もフルボディ(体全体)も両方ともキャプチャーしています。「HEAVY RAIN」は既存のどのゲームよりも、1番モーションキャプチャーを使っていることでしょう。撮影には170日間もかかりました。

 キャプチャーしたものから、3万5千パターン以上のアニメーションを作成しました。俳優さんがすごく優秀でラッキーだったところもあって、リサーチして意見を集め、何度も開発を繰り返しました。モーションキャプチャーでは新しい技術を使っていて、目の動きまでもキャプチャーしています。

 撮影では、実際にゲーム中のシーンを動いて再現してもらいました。目の動きをもキャプチャーする都合上、台本のテキストを目で追ってしまってはこまりますし、やはり実際に演技したものを使いたかったからです。それによってリアルなライブ感を出しています。そのため4人のキャラクターを担当した俳優たちは、120ページもの台本を暗記しなければいけなかったのですが。みんな苦労はしましたけどもいい経験になりました。楽しかったですよ。

編集部:見た目だけでなく動きや声も、リアリティにこだわって作られたのですね。顔のバランスが、例えば目の大きさが左右で違っていたりするのも見ていてわかりました。そうしたところもリアルです。

Guillaume氏:本当の人間の顔はアシンメトリー(左右非対称)ですから。下手に整えずにそのままにキャプチャーして再現したことで、これまでにないほどにリアルなグラフィックスになりました。


操作できる4人のキャラクターのフェイシャルCG。生身の人間らしい左右非対称な作り、肌や眼の質感など、非常にクオリティが高い。また外観ばかりでなくその動きや声に関しても、リアルなライブ感が出るように収録された

■ 前タイトル「Fahrenheit」の批評も活かしながら、今作はリアリスティックにこだわったタイトルに

シビアな現実の世界や、生々しい感情や心理なども隠さずに描ている本作だけに、レーティングは高くなる予定だ

編集部:現実的なヒューマンドラマを描いているということですが、ファンタジーな、非現実的な展開は出てくるのでしょうか?

Guillaume氏:あまりありません。夢を見たりはしますけどね。本当に実際に起こりえるストーリーにしています。私たちが手がけた前のゲームPS2「Fahrenheit(ファーレンハイト)」では、物語に非現実な展開があることに批評をもらいました。なので「HEAVY RAIN」ではリアルなものを心がけました。「Fahrenheit」はご存じですか?

編集部:プレイしました。そのため「HEAVY RAIN」の物語に非現実的な展開があるのか気になりました。

Guillaume氏:なるほど。プレイされたのは日本語版でしょうか?「Fahrenheit」のローカライズはどうでしたか?

編集部:当時のローカライズはまだ不慣れでこなれていなかったかもしれません。ですが、今は当時よりもローカライズのクオリティが上がっていますし、SCEJが手がけるローカライズは、私は良いと思いますよ(このとき私は、PS3「アンチャーテッド」のローカライズなどを代表に思い浮かべて答えた)。

Guillaume氏: 安心しました(笑)。


■ レーティングは現在未定だが、オリジナルに忠実にしたい

編集部:レーティングについて決まっているところはあるのでしょうか?

Guillaume氏:日本のレーティングを決めているのはCEROですよね。まだ決まっていないですよね?

SCEJ広報氏:まだ決まってはいないです。審査自体がこれからになりますが、日本国内で発売できる形を取りつつ、できる限りオリジナルに忠実にしたいと思います。


■ ゲームでも奥深い大人向けのテーマを描ける。より多様に、繊細で、奥深く。成熟していかなければいけない

当日はGuillaume氏にプレイをしてもらった後のインタビューとなった。後日、まだ紹介していないイーサンとマディソンのプレイ模様をお伝えする予定だ。お楽しみに

Guillaume氏:私たちにとって重要だったのは“リアル”であり、“大人向け”であることです。本当の意味で大人向けのゲームというのはなかった。大人向けというと、シューティング(FPS、TPS等)だったりでゴア表現(いわゆる残虐表現等)が見られるものを指すことが多いですが、私たちが目指す大人向けとはそういうものではないのです。

 ゲームはもっと今まで以上のことができるのではないか? 小説や映画のような表現ができるのではないか?文化表現の本当にあるべき姿を求めました。“大人向け”をキーワードに、メインテーマを“愛”として開発してきました。愛する人のためにどこまでできるか?今まであまりゲームでは取り上げられなかったテーマだと思います。

 1番重要なのは人の感情を描くことです。それにはゲームの設定や世界観も重要ですが、それも大人向けになっています。連続殺人鬼、誘拐事件という、とてもシリアスな物語ですが、本や映画のようにゲームでも、そうしたテーマを奥深く描いていけると考えています。ゲームは成長しないといけない。そして、ゲーム業界も成熟しなければいけないと思います。

GAME Watch編集部:ありがとうございました。

(C)Sony Computer Entertainment Europe. Published by Sony Computer Entertainment Inc. Developed by Quantic Dream S.A..


(2009年 10月 15日)

[Reported by 山村智美 ]