インタビュー

賞金500万円のeスポーツ大会「GALLERIA GAMEMASTER CUP」いよいよ開催!

「エポックメイキングな大会になる!」。大会の仕掛け人に決勝戦の抱負を聞く

【GALLERIA GAMEMASTER CUP】

9月16日、17日開催

会場:スターライズタワー5F[Studio EARTH]

9月16日、17日の日程で開催される「GALLERIA GAMEMASTER CUP」

 国内のeスポーツ大会としては過去最大規模となる500万円の賞金総額が話題となったGALLERIA GAMEMASTER CUPがいよいよ9月16日、17日に開催される。企画・運営共に、サードウェーブデジノス自体が行なっており、PCメーカーとして前例のない取り組みとして注目される。

 GALLERIA GAMEMASTER CUPは、8月に3種目の競技(「Counter-Strike Grobal Offensive」、「World of Tanks」、「フィギュアヘッズ」)でオンライン予選が行なわれ、本戦に進むチームが決定した。各種目には、同ジャンルで名を馳せているプロ/アマチュアのチームも参加し、大番狂わせもあるなど盛り上がりを見せた。

 今回は、3月の発表からこれまでの手応えや反省点、決勝大会の抱負について、本大会の仕掛け人であるサードウェーブデジノス コミュニケーション開発部部長の大浦豊弘氏に話を伺った。

紆余曲折の末に誕生した「GALLERIA GAMEMASTER CUP」

サードウェーブデジノス コミュニケーション開発部部長の大浦豊弘氏
大浦氏が視察に訪れたeスポーツ大会のひとつ「Intel Extreme Masters」

 大浦氏は、前職の日本マイクロソフトで、新たなマーケットを創出することに力を注いでいた人物だ。その経験を買われ、1年前にサードウェーブデジノスに入社。まさにPCゲーム市場における“新たなマーケットの創出”を目指してeスポーツ事業を手がけることになる。

 ただ、GALLERIA GAMEMASTER CUPのアイデアを思い付いたのは、大浦氏ではなく、尾崎健介氏(サードウェーブデジノス 代表取締役社長)だという。言わばトップダウンの形で大浦氏が担当することになったようだ。

 大浦氏は、1年ほど前に実際に担当することが決まってから、海外のeスポーツイベントを視察したり、海外のeスポーツ関係者と情報交換をする中で、eスポーツそのものの有望性と、近い将来に日本にもeスポーツの波が来ることを確信したという。

 しかし、実際に日本で活動を始めて感じたのは、eスポーツに対する拒否感の強さだという。それは社外のみならず、サードウェーブ社内もそうで、eスポーツは、これまで何度も来るぞ来るぞと言われておきながら実際には来なかった。大浦氏はどこに行っても「今回も訳の分からない新参者(大浦氏のこと)がやってきて、騒ぐだけ騒いで、ダメだとわかったらすぐ辞めるつもりじゃないか」という猜疑のまなざしで見られ、日本ではeスポーツが凄くネガティブに捉えられている実態を知って驚いたという。

 先人達に相談すれば諸手を挙げて全員が歓迎してくれると思いきや、意外な抵抗に遭遇し、「かなり厳しいな」と感じた大浦氏だが、とはいえ新規事業の立ち上げのためにサードウェーブデジノスに入社し、会長と社長から直々にeスポーツ事業を任された以上、尻尾を巻いて逃げるわけにはいかない。そこで大浦氏は、大胆に方向転換を図ることを決意する。それは、eスポーツの花形であるトッププロが活躍する世界規模のeスポーツ大会の実施から、eスポーツに関心を持ってくれる層を増やす、eスポーツの裾野を拡大するために、PCゲームで対戦を楽しむゲームファンを増やす活動に力を注ぐことにする。大浦氏は、「そういう意味では、世間で言うeスポーツと、当社が考えるeスポーツは若干定義が違うかもしれません」と語る。

 具体的には「eスポーツを手軽にワイワイ楽しむ場を提供すること」ということで、この構想をメーカーや関係者に伝えたところ、やや風向きが変わり、少しずつ賛同者が増えていったという。

 実は大浦氏は、GALLERIA GAMEMASTER CUP以外にも多くの企画を走らせていた。その多くは残念ながら、調査不足、時間不足、調整不足などの理由で実現しなかったのだが、大浦氏の構想がよく理解できるのでここで紹介しておきたい。

 1つは、GALLERIA GAMEMASTER CUPの予選大会を、オンライン予選ではなく、ネットカフェを使って全国で地区予選を実施しようと考えていた。そのネットカフェ大会の参加者は、その代表選手を応援するという構図を作ること、そしてゆくゆくはオンラインで店舗対抗戦を開催して地域のコミュニティを活性化させ、eスポーツに関心を持つPCゲームファンを一気に増やすという構想だ。

 この構想は実際にネットカフェ事業者とも基本合意までは至ったというが、大浦氏が望む環境が整備されたネットカフェが全国に少なかったため、最終的にこの案は断念したという。1年目ということで知名度も実績もないため、この案は来年以降に持ち越したという。

 もう1つは、大浦氏自らが全国のネットカフェを周り、PCゲームの楽しさを伝道していく全国キャラバンを実施しようとしていた。ただ、こちらも想定していた規模のネットカフェの数が少なかったため断念したという。

GALLERIA GAMEMASTER CUPの「CSGO」部門は、アジア大会「ZOWIE ASIA eXTREMESLAND CS:GO 2017」の日本予選を兼ねている

 結局、1年目の今回は、eスポーツ大会をオンライン予選、オフライン決勝の2段階で実施するという、もっともスタンダードな方法に落ち着いてしまうことになったが、先述したようにGALLERIA GAMEMASTER CUPは実績も知名度もない。そこでどのように話題性を作ろうかと考えたときに2つのアイデアを思い付いたという。1つは、日本のeスポーツチームが喉から手が出るほど望んでいる世界大会の日本予選を兼ねること。もうひとつは多くのメディアに取り上げて貰うために、賞金額を高く設定することだ。

 これらはほぼ計画通りとなり、大浦氏の狙い通りに推移した。ただ、大浦氏は本音でいえば、高額賞金を設定することは反対だったという。理由は、Intel Extreme Mastersの際に実施したインタビューでも語っているように、日本のeスポーツ環境は、賞金以前の問題が山積しているため、それらを未整備のまま、参加者をお金で釣るようなことをしても、真の意味でのeスポーツの普及に繋がらないと考えていたからだ。

 ただ、大会に参加する選手達のモチベーションを考えたときに、安いより高い方が良いとシンプルに考え直し、顧問弁護士に相談した上で、法的に問題のない形での賞金付きの大会の検討に入った。法的な問題については早期の段階で解決の目処が付き、次に賞金額の検討に入った。

 当初の予定では1,000万円規模の賞金も視野に入れていたというが、賞金額に頼りすぎるのも風景としてあまり良くないことと、GALLERIA GAMEMASTER CUPは1年で終わりではなく、今後継続して実施していく大会にすることを考えているため、初年度を1,000万円にして、2年目以降、金額だけが話題になり、どんどん高額設定せざるを得ない状況にはしたくなかったため、無理なく継続できる額として500万円にすることを決定した。

 種目については、世界大会の日本予選を兼ねるという当初の計画から、BenQが主催するeスポーツ大会「eXTREMESLAND」の公式種目である「Counter-Strike Grobal Offensive」を入れることは早い段階で確定し、それだけでは十分な盛り上がりを作ることができないため、よりカジュアルに参加できる種目も追加することを決めた。

 追加種目はタイトルの人気やユーザー数の規模だけでなく、大会の趣旨に賛同し、協力的なメーカーと組むことにもこだわったという。今回実施された「World of Tanks」と「フィギュアヘッズ」以外にも、複数の有力候補があり、最終段階で外れることになったタイトルもあったという。ちなみに、この3種目は基本的に来年以降も継続する方針だということだ。

「『大会を開いてくれてありがとう』という温かいコメントが嬉しかった」

「CSGO」予選大会は、MamE氏とnoppo氏によるプロフェッショナルな解説が展開された
「フィギュアヘッズ」予選大会は、一条さん氏と小澤氏の楽しい解説が繰り広げられた
「WoT」予選大会は、「WoT」ファンにはお馴染みの元B-Gaming所属のsamo選手が1人で実況解説を担当していた

 GALLERIA GAMEMASTER CUPは7月に賞金と大会スケジュールを発表し、8月にオンライン予選が行なわれた。このオンライン予選については、多くの収穫と、反省点があるという。

 まず収穫については、「CSGO」のオンライン予選が、当初の想定よりも遙かに多くのチームに参加して貰うことができ、盛り上がったことだという。3月の発表以降、「CSGO」のチームのみならず、DeToNaTor、DetonatioNといったプロチーム、そのほか他のFPSタイトルのユーザーもチームを作って参加してくれたということで、ちょっとした異種格闘技戦のような様相を呈したという。実績のある有力チームについては直接声を掛けて参加を要請したようだが、それでもここまでの盛り上がりは想定できなかったということだ。

 eスポーツ振興は、“大会が先か、人気が先か”が常に議論になるが、「CSGO」の例で言えば、大会を企画すれば、ユーザーはチームを作って参加してくれる、ということが言えそうだ。

 また、「フィギュアヘッズ」では、下馬評ではそれほど強いとは目されていなかったチームがどんどん勝ち上がり、ダークホースとして大会を大いに盛り上げてくれたという。大浦氏は、「まるで高校野球の甲子園のように、勝ち上がる度に強くなっていくんです」と興奮気味に語り、運営側から見たeスポーツの醍醐味を実感したという。大浦氏としては、こうした機会を増やすことで、PCゲームを1人で楽しむものから、仲間と一緒に楽しむものへとゲームファンの意識を半歩でも一歩でも進めたい考えだ。

 反省点としては、日本国内に多くの有力チームが存在し、大きなコミュニティが存在する「World of Tanks」の大会が、想定より参加チームが少なかったことだ。大浦氏はその理由について、告知不足と、Tier VIIIという高Tier帯を対象にしたためという理解の仕方をしていたが、そうではなく、実際の理由は大会のレギュレーションがおかしかったことだと思う。

 具体的には、賞金の出るようなeスポーツ大会では前代未聞の、“自分のアカウントで出場する”という摩訶不思議なレギュレーションになっていたことだ。何故こうしたのかは大浦氏自身も「私の勉強不足で、大きな反省点」と語っていたが、「WoT」の大会では課金弾(ゴールドで購入する砲弾)での運用が基本となるため、全力で戦えば戦うほど大量の現金(もしくは同等の大量のシルバー)が飛んでいくことになる。これでは安心して戦えないし、そもそも現金を大量投入したチームが、現金を投入をケチったチームより有利になるというのはeスポーツ精神に反する。

 次に開催日程についても大きな反省点だという。大浦氏としては、参加しやすいだろうと考えて、予選大会の実施をお盆の時期を合わせたところ、コミケや帰省により参加できないという声が多く、それを認識してから「そうなのか、しまった」と思ったという。次回の開催時期については検討しなおすということだ。

 それからもう1つは、当たり前の話だが、オンライン予選の全試合の配信ができなかったことだ。大浦氏によれば、全体の半分ぐらいしか配信できなかったということだが、大会の途中から少しでも見たい試合を中継できるように、配信中に視聴者にあらかじめ希望を聞きながら希望の多い試合を中継するようにしたということだ。これはTVではない、オンラインだからできる試合中継の醍醐味で、大浦氏は「番組を配信する側と視聴者が一体ととなって盛り上がることができたのは良かった」と語っていた、来年は1試合でもより多くの試合を配信したいという。

 もっとも「WoT」の日本予選については、嬉しい誤算もあった。参加チームが少なかったことで、結果としてWargaming.net Leagueでゴールドリーグに所属し、優勝候補筆頭のCaren Tigerに対戦できる機会が増え、実際に対戦して敗れたチームからは、「彼らと対戦する機会を作ってくれてありがとうございました。チームメンバー同士で感動して泣きました」というメールが届いて、運営側として非常に嬉しかったという。

 ともあれ、いかにも初年度の大会らしい、反省点の多い予選大会となったようだが、全種目の予選大会の配信を現場で視聴していて、「大会を開催してくれてありがとう」という感謝の声が多く聞かれたのが嬉しかったという。同時に、それだけ大会に参加できる機会の少なさを実感し、やっていることは間違っていなかったと確信したという。大浦氏は予選大会を通じて、eスポーツそのものの有望性と、場を提供することの有効性を改めて実感したようだ。

「まずはeスポーツの選手やファンにその存在を認めて貰う大会」

決勝大会ではこの3種目が行なわれる
9月16日と17日のスケジュール
会場では動作拡大型スーツ「スケルトニクス」が体験できる

 さて、9月16日、17日に実施されるオフライン決勝大会は、東京タワーにほど近い港区芝公園のスターライズタワー5階の「Studio EARTH」で開催される。会場のキャパシティは150人ほどで、2日間で3種目の決勝大会を行なう会場としては若干狭いような気もするが、大浦氏はまずはこのサイズを満杯にして手応えを掴んでから少しずつ大きくしていきたいと慎重だ。もし、満席になってしまった場合は、入場制限をかけつつ順次入れて行くということなので、確実に観戦したいPCゲーマーは少し前に来ておくのがオススメだ。

 ちなみに、なぜサードウェーブのホームであり、日本でもっともドスパラが集中している秋葉原で実施しないのかというと、単純に空いてなかったということもあるようだが、eスポーツイベントといえば秋葉原という常識を払拭し、新しいイメージを提示したかったからだという。

 このため、当初の計画では表参道のような、ゲームイベントとは縁遠い場所を候補に挙げていた。ただ、本大会は、「CSGO」アジア大会の日本予選を兼ねており、10月のアジア大会開催から逆算して、日程的に東京ゲームショウ直前のシルバーウィークしかなかったという。このため、会場選定のプライオリティはやや下げられ、9月16日、17日の日程での開催が重視された結果、今回の会場に決まったという。

 スケジュールについては、1日目の9月16日は、「CSGO」の準決勝と、「フィギュアヘッズ」の決勝、2日目の9月17日は、「CSGO」の決勝と、「WoT」の決勝を行なう。ステージは1つで、順番に実施していく。

 来場者向けのアクティビティとしては、昨年の東京ゲームショウのインテルブースで出展された動作拡大型スーツ「スケルトニクス」が展示され、実際に搭乗することができる。アクティビティとしてはそれぐらいで、基本的にはeスポーツに特化した、純粋にeスポーツを楽しむイベントとなるようだ。

 試合の模様は、オンライン予選と同様に、実況解説も行なわれ、オンライン配信も行なう予定。総合MCや実況解説などの情報は今後随時発表していくとしている。

 「CSGO」の優勝チームには賞金150万円、準優勝チームには30万円がそれぞれ贈られ、さらに大会MVPにも10万円が贈られる。「WoT」と「フィギュアヘッズ」の優勝チームには賞金100万円、準優勝チームには30万円、大会MVPに10万円がそれぞれ贈られる。

 本大会の位置づけについて、大浦氏は「まずはeスポーツの選手やファンにその存在を認めて貰う大会」だと話してくれた。サードウェーブとして自社単独でeスポーツのオフライン大会を開催するのは初めてということで、当日は大小様々なトラブルが発生する可能性があるとしつつも、「試合が終わり、会場を後にしたときに『良い大会だった』と言って貰えるような大会にしたい」と抱負を語った。

 なお、「CSGO」の優勝チームは、何度も繰り返し紹介しているように、10月19日より中国上海で開催される「ZOWIE ASIA eXTREMESLAND CS:GO 2017」への出場権を獲得する。賞金総額は10万ドル(約1,100万円)で、優勝チームは4万ドル(約440万円)。もし日本チームが優勝すれば全額受け取ることができるという。

 大浦氏をはじめサードウェーブ関係者も、日本予選の主催者として大会に参加する予定で、日本チームの試合は、サードウェーブが責任を持って実況解説を行なう予定だという。

 ちなみに昨年はJESPAの推薦で、RascalJesterがアジア大会に出場していたが、同チームは2016年で惜しくも活動を休止。しかし、所属メンバーが主力となって新たに設立されたSZ.Absoluteが今回決勝まで勝ち上がってきており、「CSGO」名門チームとして2年連続の出場を決めるかどうかが注目される。

 最後に少し気が早いが、来年の計画について話を伺ってみた。大浦氏は、まずは9月のオフライン大会をキチッと仕上げることで、eスポーツ業界に対するプレゼンテーションになると考えているという。これによって業界関係者がどのような反応を示してくれるのか、まずはそこを見定めるのが先だという。

 それと同時に、もともとの狙いである、eスポーツ人口の裾野拡大のための活動も始めて行く。正直なところ、初年度はeスポーツ人口の裾野拡大に繋がる活動は諸般の事情で行なえなかったため、2年目はキチンと結果が出せるように動いていくつもりだという。具体的な内容については、キチンと決まってからお話ししたいということだった。

秋葉原にあるGALLERIA LOUNGE。ここがeスポーツ施設になるかもしれない

 筆者が食い下がると、大浦氏はしばし沈思した上で「では1つだけ、小さなネタですが」と断った上でアイデアの1つを教えてくれた。サードウェーブが秋葉原に展開しているPCゲーミングに特化した施設「GALLERIA LOUNGE」をeスポーツファンに集まって貰えるような施設に改装して、そこで実況配信ができるような設備も整えて、eスポーツユーザーに自由に使って貰うプランを検討しているという。

 サードウェーブの今後の方向性としては、サードウェーブ自体が、大小のeスポーツ大会をホストするのではなく、eスポーツに関心を持っているユーザーを支援することを考えており、その具体的な計画のひとつがGALLERIA LOUNGEの“eスポーツラウンジ化”となる。

 大浦氏は、インタビューの締めくくりとして日本のeスポーツファンに向けてメッセージを寄せてくれた。「手前味噌になりますが、日本のeスポーツの歴史において、エポックメイキングな大会になると思います。選手の皆さん、観戦者の皆さんに、良いイベントだったと言って貰えるように精一杯頑張りたいと思います。大会当日はぜひ会場で、オンラインで楽しんでください」