インタビュー

【Tankfest 2017】「戦車が持つストーリーが大事」ボービントン戦車博物館館長David Willey氏インタビュー

6月23日収録

 ボービントン戦車博物館の取材では、「Tankfest 2017」や「The Tiger Collection」を実現した様々な関係者にインタビューすることができた。いずれもゲームから直接離れた話題が多く、興味深い取材となったが、中でも印象的だったのが、ボービントン戦車博物館館長David Willey氏とのインタビューだ。

 軍歴はないものの、幼少の頃から戦車が好きで、子供の頃にTiger 131に乗った写真をオフィシャルカタログに掲載されるという珍しい実績を持つ。今回は限られた時間ではあったが、戦車博物館の館長の仕事内容や、コレクションについて興味本位で様々なことを尋ねてみた。

技術だけでなく人間的なストーリーも含めてレストアしていく

ボービントン戦車博物館館長David Willey氏
Willey氏がイチオシしたTiger 131

――ボービントン戦車博物館にはたくさんの車輌がありますが、これまででレストアが一番大変だったのはどれですか? また個人的な思い出などはありますか?

David Willey氏:まず博物館としては、ティーガー131がレストアされた中で一番素晴らしい車輌だと思っています。これには理由があります。ティーガーをレストアしたことによって、世界中から多くの方が博物館に足を運んでくれるようになりました。世界的に有名な車輌でもありますし、戦車博物館に来るような方がぜひ見たい車輌でもあります。ご存じのように世界で唯一の稼働状態でのレストアということでニュースにもなりますし、そういう意味では博物館としてはこの131がもっとも印象深い車輌です。

 個人的な話をしますと、これは博物館で販売されているもので、日本語版や中国語版もありますが、この写真に写っているのが若かりし頃の私です。自分が幼少の頃からこの車両はこれだけ有名だったわけです。レストアを行なう上において、戦車そのものも重要なのですが、そのバックグラウンドストーリーもとても大切なものだと思っています。この戦車が鹵獲されて、この博物館に持ってこられた時には、実際鹵獲に立ちあった方々がまだ生存していて、そういうった方々から様々なお話を聞くことができました。この本自体様々なバックグラウンドストーリーがありまして、どうしてこの戦車が選ばれ、どういう風にレストアされたのかもありますし、どういう方々が関わってレストアされたのか、そういった話も全てここに含まれています。

 こちらの写真にある方ですが、この戦車の正面に立たれている方、こちらは実際にこのティーガー戦車と戦場で対峙された方です。ですので、私たちとしては技術的な問題だけではなく、こういった人間的なストーリーがあるからこそ多くの方々がこの博物館に足を運んでくださると考えています。

【ストーリーを重視】
ティーガーの公式ガイドブックに掲載された自分の子供の頃に撮った写真を見せるWilley氏
Tiger 131と戦った戦車搭乗員が数十年後に改めて向き合う写真。Willey氏はこういったストーリーの存在が、人びとを博物館に足を運ばせる原動力になっているという

――戦車博物館の館長とはどういった仕事なのでしょうか?

Willey氏:まず、この博物館のコレクションが素晴らしい状態にあるように維持することと、新しいコレクションや入れ替えなどをすることを考えます。ですからよりよくするにはどうしたらいいかを考えます。ただ、もう1つ、私の中で一番大切な仕事は教えることです。その理由は、この博物館は駐屯地と隣接しているので、そこの兵士の方々が勉強にくるのです。過去の歴史上であった戦いであったり、戦車の扱いであったり、こういったことが過去にあったということを彼らに教えて、それを未来に向けて生かせるように。そういった風に兵士の方々を訓練したり、教えたりするのも私の重要な仕事の1つです。

 また館長として非常に大切なのは、自分がやっていることに興味を持つことと、想像力です。これらがないと、例えば今回お越しいただいている皆様をどうやったら楽しませることができるか、どうしたらまた来たいと思っていただけるか、そういったアイデアも出てこないと思いますので、それも私の仕事の中では非常に大切だと思っています。またそれらは私だけではなく、ここで働いている博物館スタッフの多くから読み取れるものだと思います。なぜかというと、彼らはお客様たちに話かけて、自分はこういうことを知っているというのを情熱的に説明したり、お客様からの質問に答えたりしています。来場されている方がたくさんおられますので、そういった方がいかに楽しめるかを自分たちなりに考えて、自分たちが情熱を注いでいる仕事を誇りを持ってやっているかということを皆さんが博物館を見て回っていただければ、分かっていただけると思います。

――館長は軍隊経験があるのですか?

Willey氏:軍歴はありませんが、昔から戦車や装甲車に興味を持っていて、ここの館長になる前にも個人的に装甲車を買ったりしていました。本当に子どものころから大好きなので、こういった博物館の館長というのは私にとっては夢のような仕事でしたので、夢がかなったという形です。ただ、スタッフには、多く元軍人の方がいますので、そういった方からは興味深い話が聞けると思います。

――先ほど、ティーガーはそんなに好きではないということでしたが、それでは館長が一番好きな戦車は?

Willey氏:ハンバースカウトカーという、いわゆる偵察車輌が大好きです。車輌自体に魅力的な何かがあるわけではないのですが、以前その車輌に乗っていた方がこの博物館を訪れて、その車輌の前で話をしました。その方はノルマンディーで上官を乗せて走っていたそうです。ノルマンディーには戦車用の駐車場が何カ所かあったのですが、1回入ったときに上官にエンジンを止めるなと言われたそうです。で、気付いたらそこは自分たちの施設の駐車場ではなく、ドイツの施設の駐車場で、周りは敵の戦車に囲まれていたそうです。エンジンをかけたままだったので、急いでそこから脱出して一命をとりとめたそうです。そういった素晴らしい物語が、私の中で各車両に対する印象であって、その物語で車輌の好き嫌いが左右されます。

【ハンバースカウトカー】
いかにも館長らしいチョイスのハンバースカウトカー。Tankfest 2017でも装甲展示された

――この博物館は年々コレクションが増えているという話ですが、ここ数年で、一番魅力的なコレクションは何ですか?

Willey氏:今フィンランドからT34/76を借りています。その車両が私の中ではいま一番印象深い車輌です。なぜかというと、もともとイギリスでは、ロシアからT34/76を借りてきて使用したり、それを研究したりしていたのですが、後継のT34/85が出た時には、イギリスではもうT34/76は必要がなかったのですべて処分してしまったのです。ですからイギリスの博物館ではT34/76がなかったので、それを新たにイギリスの方々にお見せすることができるのが、ここ最近持ってきた車輌の中では印象深い車輌だと考えています。

【T34/76】
T34/76といえば、比較的ありふれた車輌のひとつだが、Willey氏が好む理由にはやはりストーリーの存在があった

――ティーガーは敵の車輌だったわけですが、「敵の兵器を多くの予算と手間暇をかけてレストアするのか?」という反対意見は出なかったのでしょうか? 日本でB29を東京に飾ったらたぶんものすごいことになると思うのです。

Willey氏:特にそういった反対の声はあがっていません。どちらかというと、これをレストアすることによって、実際にティーガーと戦っていた人たちが、どのようなものと戦っていたのかということをイギリスの方々が知ることができますし、博物館としても新たな歴史の物語を提供できることから、反対の声は上がりませんでした。どちらかというと、このレストアのためにドイツのティーガーを生産していた工場の方々に話を聞いた時に、向こうの人々はむしろ知りたくなかったようです。これをレストアされるということが恥ずかしい感情があったそうです。

――私はTankfestに初めて参加するのですが、どういう楽しみ方をするのが正しいですか?

Willey氏:博物館自体には非常にたくさん見るものがあるのですが、このTankfestにおいて一番の目玉は稼働車輌の多さだと思います。午前中では現代車輌たちが走り回ったりもしますし、午後のお昼くらいの時間からは過去の歴史的な車輌が多く動いている状態で走り回りますので、その際にはぜひアリーナで車両が動いているところを見逃さないようにしてください。博物館自体はいつも10時から5時まで開いていますので、いつでも見ていただけますが、こういった車両を動かすということは非常に貴重なイベントとなっておりますので、これだけは見逃さないようにしてください。

 また余裕があればぜひ実際に来られている観客の方々の顔も観てください。本当に実際動いている戦車をみてどのような表情をしているか、どのような感情をもって見ているか、そういうことを見るのも1つの楽しみだと思います。また私が個人的に好きなのは、博物館には小さなお子様もよく来られますが、「World of Tanks」のようなゲームをされたり、プラモデルを作ったり、そして実際に本物を見た時の興奮、それが私として忘れられない、仕事をやっていてよかったなと思う瞬間でもあります。

――ありがとうございました。

【Tankfest 2017】
来場者は自前のイスやビニールシートを持ち込み、食事やビールを楽しみながら装甲展示を楽しんでいた