インタビュー
「CoD学生大会」運営を担当する「学生FPS部」とSIEに聞く!
「より多くの方に『オフラインで試合することの楽しみ』を味わっていただきたい」
2017年6月22日 12:00
- 5月4日~7月4日23時59分 参加募集
- 【第3回Call of Duty Undergraduate Championship】
- 8月5日、6日 オンライン予選
- 8月25日 オフライン決勝大会
- 決勝大会会場:秋葉原e-sports SQUARE
マルチプレイモードを用意しているゲームタイトルでは、しばしばプレーヤー自身が主体となって行なう「大会」が実施される。運営体制やローカルルールはそれぞれだが、共通しているのは、同じタイトルを楽しむプレーヤー同士の交流の場としても機能している点だ。
最近では、決勝戦をオフラインのローカル会場で実施するという本格的な大会も出てきており、プレーヤー主催の大会に、タイトルの販売元や運営元が協力するケースもあるようだ。
本記事で紹介する「第3回Call of Duty Undergraduate Championship」(以下CoD学生大会)もその中のひとつで、日本のパブリッシャーをつとめるソニー・インタラクティブエンタテインメントジャパンアジア(以下SIEJA)が大会運営に協力している。
競技タイトルとなるプレイステーション 4用ソフトウェア「コール オブ デューティ インフィニット・ウォーフェア」(以下CoD:IW)は、Activisionが開発する近未来の戦場を舞台としたFPSタイトル。マルチプレーヤーモードでは、合計で20を超えるゲームルールが存在し、個人あるいはチームとしての力を様々な形で競い合うことができる。
本大会は、8月に開催予定で、出場募集は7月4日まで。学生が主体となって開催する大会としては珍しく、決勝戦をオフライン会場で行なう本格派だ。
本記事では「CoD学生大会」の運営主体となる「学生FPS部」代表の三橋裕也さんと、副代表の山本史記さん、そして本大会の支援を行なっているSIEJAの鈴木氏にお時間をいただき、大会運営や学生大会へ協力として参加するに至った経緯、競技シーンのeスポーツに関する現状などについてお話を伺った。
学生自ら運営に取り組みつつ、プレーヤーとしても活動
――SIEでは、「CoD学生大会」とは別に「CoD:IW 全国大学対抗戦」という大会も主催されていますが、パブリッシャーとして「CoD」の大会を運営する目的はどういったところにあるのでしょうか?
鈴木氏: シンプルに「CoD」の販促という目的はもちろんありますが、「CoD」の最も楽しい部分は、オンラインで対戦するマルチプレーヤーモードです。これを競技として楽しむ主旨で開催しています。
大会の予選はオンラインで、決勝戦はオフライン会場でそれぞれ実施します。その目的は「相手の顔が見える距離で、敬意を払いながら対戦する」という、かつてゲームセンターにあった土壌を再び根付かせて、ゲームの楽しさを伝えていくことです。
それを実現する上で、オフラインの試合がある大会企画を持つことは、意義があることと考えています。
顔を合わせて対戦するという流れは、ゲームセンターが土壌にある日本のゲーム文化では昔からあった風景です。でも最近、そういった流れは以前よりも薄れてきてしまっていました。
――「顔を合わせて対戦する」文化が薄れてきたというのは、どういうところから感じましたか?
鈴木氏: 1番大きいのは、携帯ゲーム機の普及ですね。そういった家庭用ゲーム機の発展、特にオンラインプレイの発達で、ゲーマーの層は拡大しましたが、お互いの顔を見ながら対戦する文化は広く普及するには至りませんでした。
当のゲームセンターでは、業界としての取り組みもあって、場内のマナーや環境、ゲームを楽しむ風土は、以前よりも大きく改善されてきています。ただ、ゲームセンターで遊ぶ人たちはコアゲーマーだったりもするので、今に残る「顔を合わせて対戦する」文化も、一部の層に限られてきました。
――オフラインで試合をすることの良さは、どういうところにあるのでしょうか。
鈴木氏: 「手応え」の違いだと思います。まずゲーム体験としてのスピード、レスポンスが、オンラインとは比べ物にならないくらい速いのです。オンラインだとどうしてもある程度のラグが発生しますが、オフラインでは近距離で通信することもあって、真のスピード感が味わえるといっていいでしょう。それは画面内のレスポンスだけではなくて、対戦相手の生の反応がすぐに返ってくるところも含みます。相手の顔が見えるので、相手が悔しかった時、楽しかった時の様子が見えるわけです。
大学対抗戦でも、選手たちの「どこに敵がいる」とか「ナイスショット!」といった掛け声が聞こえるんですよね。画面を見て黙って遊ぶのがゲームではなく、お互い、画面の前で面白さや喜びを表現しながら遊ぶものだというのがはっきりとわかるのがオフラインの場なのです。
それは見ている側も楽しいし、「自分もあんな風にプレイしたい!」、「あんな仲間がほしいな」と思うきっかけになりえます。ここが、オフラインの最大の魅力です。
――子どもの頃に、友達の家に集まって、一緒にゲームをプレイしました。それをもっと大きな規模でやっているイメージですね。
鈴木氏: 大筋ではその通りですが、それに加えて、当時とはまた違う事情があるのです。
子どもの頃は、ちょっとしたミスを揶揄するような動きがあっても、相手の顔が見えているから、冗談であることがわかったし、自然に限度をわきまえることができました。家ですから親もいましたしね。
これがオンラインゲームだと、相手の顔が見えないし、自室で1人でプレイしてるケースも多いことから、人によってはマナーの面で問題のある行為に及ぶことになりがちなのです。これが常態化してしまうことで、いつの間にかオンラインプレイが必ずしも気持ちの良いもの、とは言えなくなってきたのではないでしょうか?
これは我々が大学生対抗戦を運営する中でも課題だし、学生たちが運営している大会でもすごく気を遣って設計しているところです。ところが参加者の側も、こちらがどれだけ準備をしても、法の網の目をくぐり抜けるように、たちのわるい行為を差し込んでくることもあって。ルールの整備には毎回とても苦心していますよね。
山本さん: モラルのレベルを一定にするのは難しいもので、本人たちは本当に楽しんでいたとしても、その結果出てくるものが、大会的にはあまりよろしくない表現だったこともありました。オンライン上ではそういうことが起きてしまいがちです。
その点、実際に顔を合わせていれば、お互い、なんとなく迷惑をかけてはいけないなと思うものなので、オフラインだと問題なく進行できたりしますね。
――SIEは学生選手権を企画しましたが、なぜ対象が「学生」だったのでしょうか?
鈴木氏: 元々は、FPSというジャンルのファン層を拡大するために企画した大会でした。FPSって、すごく反射神経がものをいう世界ですよね。これは通説なんですが、人間の反射神経のピークは24歳くらいにくると言われています。なので、1番バリバリに戦えるのが大学生の層だなと思ったのがきっかけです。
ゲームのレーティングも18歳以上であり、必然的に大学生の層になるので、大学生に戦ってもらって、その様子を広く見ていただければ、このゲームの面白さを楽しく伝えられるのではないかと考えました。
――「CoD:IW」は複数のプラットフォームでリリースされていますが、学生大会を実施するにあたり、使用するハードをPS4としたのはなぜでしょうか?
鈴木氏: 大会で選手が気にすることのひとつに「公平性」があります。言い訳のきかない環境を作る必要があるので、その意味で、すべてが標準化されているPS4は、大会を開催するうえで抜群に合致する機材でした。
もちろん、PCでも大会をすることはあって、機材を揃えはするのですが、どうしてもその時々でスペックやメーカーも違ってくるので、環境が変わってしまう。そうすると、負けた選手は、あの時、あの環境だから勝てた、あるいは負けたと言えてしまうのです。
PS4は標準機なので、ルールをきちんと整備すれば、どこであろうと同じ大会環境を構築できる。PS4は大会用の機材としてもうってつけなんですよね。
――学生さんとして、大会のプラットフォームとしてPS4を選んだ理由は何だったのでしょうか。
三橋さん: 「CoD:IW」はPC版も出ていますが、学生の中にはノートPCしか持っていない人もいるので、大会のためにプレーヤーを集める観点ではPS4版の方が都合が良かったのです。
山本さん: 大会運営を始めた当初は、PC版でやってみようかという話もありました。けれども大会を運営する上で、失敗のリスクを避ける意味では、自分たちが使い慣れているPS4を使うことでトラブルにも対応しやすい。鈴木さんもおっしゃっていましたが、環境がすべて同じ、というのも機材としてPS4を採用した大きな理由です。
――試合環境に関連して、操作デバイスについては何かしらの規制があるのでしょうか?
山本さん: 操作方法そのものが変わってしまうので、マウスとキーボードは使用できないルールにしています。ルールを決めるのが難しかったのは、純正のPS4コントローラーではなく、サードパーティ製のゲームパッドやボタンを押しやすくするアタッチメントなどの扱いを許容するかどうかでした。大会運営をする側として、それらの仕様をどこまで、どのような基準で認めるのか。
スタッフの間で色々話し合った結果、僕らの大会では、選手が1番パフォーマンスを出せる状態でプレイしてほしかったので、使用を認めることにしました。
もちろん、オンライン予選の段階でマウスとキーボードを使っているかもしれないことは予想できましたが、これは誰も証明できないし、決勝戦だけ慣れないパッドでプレイしても勝てるわけがないので、ルールに対する突っ込みをなくすという意味でも、最終的にオフラインで決勝をすることには効果があると思います。
――大会を運営する中で、印象的だった出来事はありますか?
山本さん: オンライン予選を勝ち抜けて、オフライン大会に上がってくるチームは、とにかく「勝ちたい」という強い動機を持って試合に臨みます。でも、勝敗が決して大会が終わった後の選手たちはみんな口々に「楽しかった」と話していて、「勝ててよかった」、「負けて悔しかった」という気持ちは二の次になっているんですよね。そこが僕には不思議で、面白いな、と感じた部分でした。
個人的な考えなのですが、オフライン大会が参加選手たちにもたらす最も大きな効用は、参加するすべてのメンバーが顔を合わせることで、チームがオフライン決勝にいたるまでに費やした時間や積み重ねた努力が「経験値」として昇華されることだと思います。
三橋さん: 僕は昨年の大会に選手として出場して、オフライン決勝では敗けてしまったのですが、山本さんの言うことは確かにその通りで、僕の時も「負けて悔しかったね」と言っているメンバーは1人もいなくて、むしろ「この後、どこか行こうぜ」という流れができて、そのまま食事に行って大会の話で盛り上がったりもしました。
メンバーとはその時初対面だったにもかかわらず、ずっと友達だったような関係が自然とできていたので、そういった経験をする場として、オフライン大会は面白い企画だと思っています。
学生による学生のための「大会」とは?
――学生が主体となって大会を開催した経緯を教えてください。
山本さん: 学生FPS前代表がものすごくFPSが上手なんですが、彼が「自分が優勝してトロフィーをもらえる大会がやりたい」と言っていたのが1番最初の発端です。
当時は「コールオブデューティー アドバンスド・ウォーフェア」を遊んでいた頃で、色々な大会に参加していた時期でした。僕らも選手として大会に出場していたのですが、残念ながら負けてしまって。その時に前代表から出た言葉でした。あるとき、「CoD」の大学対抗戦を通して知り合った方に「自分で大会を開いてみたら?」とアドバイスをいただいたのですが、それを真に受けたのが、学生FPS部として大会を主催するようになった直接のきっかけになりました。
自分たちでやるからには、ほかの大会に出場してみて気になったところを自分たちの納得のいくように調整した大会にしたいね、と話していて、同じ大学生向けの大会としてはすでに「大学対抗戦」があったので、必然的に対抗戦をライバル視して、僕らの大会にしかない強みを出していきたいと考えて運営を始めました。
「CoD学生大会」と「大学対抗戦」の大きな違いは、チームメンバーを別の大学からも加えられるようにしたことです。「大学対抗戦」は大学ごとの出場でしたが、その枠組を取り払いました。
――そこから、学生FPS部の大会にSIEが協力する流れができた経緯はどのようなものだったのでしょうか?
鈴木氏: 学生FPS部の大会は、企業主催の大会にはない魅力がありました。目指している姿は僕らの取り組んでいる学生対抗戦と同じで、拡大したい流れだったので、声をかけて、お互いにノウハウを共有しています。
一主体だけではなかなか拡大できないことなので、こういう流れを増やすことによって、より多くの方に「オフラインで試合することの楽しみ」を味わっていただきたいと考えています。最高に気持ちのいい大会の形だと思っています。
そういうことで、当社としても今回初の試みとして、学生FPS部と密にコミュニケーションを取る形で一緒にやらせていただいています。
――学生FPS部による過去2回の大会運営を経て、得られたノウハウや苦労話をお聞かせください。
山本さん: 苦労話とはまた少し違うかもしれませんが、「大学対抗戦」を意識してきた以上、常に意識してきたことは「やるからには大学対抗戦と遜色ないクオリティにしたい」ということでした。
僕は「学生だから」、「学生なのに」という2つのキーワードを大事にしていて、学生であることを言い訳にしない、そして学生であることで軽んじられないことを目指してきました。
自分たちで「学生だからこそできる告知の仕方」や「学生なのにオフライン大会を開く!」という驚きを作り、結果として「学生なのにすごい!」という形に仕上げたくて、ゴールがオフライン大会にあったのも、その方向性に基づくものでした。
イメージとして「学生」であることが軽んじられる部分もあるかもしれないので、大会ルールもできるだけ穴がないように作るように意識しました。実際に読んでいただければおわかりいただけると思うのですが、できるだけ誤解なく伝わるよう、シンプルかつ正確に記載しました。少なくとも「ノリで作った」とは思われないように心がけています。
□「CoD:IW 全国大学対抗戦」の大会ルールのページ
http://gakuseifpsclub.wixsite.com/coduc/caution
学生が出場する大会なら、学生が運営もやることが1番説得力がある
――ほとんどすべてを自分たちで用意しているんですね。
山本さん: 1番妥協しなかったのは、学生だけでできることは極力自分たちでやることでした。例えばノウハウのある企業の方を頼ることもできたとは思うのですが、学生ができる範囲のことであれば、自分たちでやると決めました。その方が選手も出場しやすいと思うし、結果として、学生しかいない大会というのは結構すごいことなんじゃないかと思っています。
苦労話としては、昨年、大会のルールを決めるとき、ひとつ印象に残った話があります。「CoD:BOIII」には自分のアイコンとしてエンブレムを作成できる機能があるのですが、それに絡んでちょっとした事件がありました。
「CoD:BOIII」において、IDやエンブレムは自分らしさを出すカスタム要素のひとつですが、同時に不適切な表現ができてしまう要素でもあります。
僕らは大会の模様を動画配信サイトで中継もしているので、見ている側が不快になることは絶対に避けたかったし、大会を運営する上で、参加者のモラルレベルを一定にすることは必ずやらなければいけないことだと思っていたので、参加者のモラルに関するルールを決めるとき、ものすごい分量のルールを書きました。ゲームなので自分のニックネームは自分で決められるのですが、公序良俗に反する名前を禁じる主旨のルールを作りました。それに抵触した方は即失格とする、といった内容です。
それ自体はルールとして問題なかったのですが、予選が始まる前日に、そのあたりのルールの穴をもう1度しらみ潰しにしておいた方がいいんじゃないかという話になりました。そこでエンブレムに関する規制が抜けていることに気付いたのですが、そのタイミングではすでに参加チームにメールを送ってしまっていたし、改めてメールを送るのもどうかと思ったので、「たぶん大丈夫だろう」とルールの周知を見送ってしまった事がありました。その時点でも、例えば自分のゲーム内IDを、他人から見て不快なものにしないとか、チャットで煽ったりしないとか、そういうルールは盛り込めていたので、楽観的にみてしまっていました。
そうしたら、本番の中継でとんでもなく卑猥なエンブレムが映ってしまって、運営内部では結構な騒ぎになりました。
そのエンブレムを使ったチームは参加チームが少なかった第1回大会から出てくれていたチームだったのですが、そこで贔屓するわけにはいかなかったので、即失格としました。
この出来事で僕も大いに反省しましたし、運営と参加者の意識を統一することの難しさを学んだ場面でもありました。なので今回、第3回大会を開くにあたっては、そのへんは徹底しないといけないし、「そういうことが起きたときにどうする? という話はきちんとした方が良いと思うよ」と現代表の三橋くんにも話しています。
――ルールに書いていないことは察してくれない、起きてほしくないことが本当に起きてしまうわけですね。
山本さん: そうですね。そういうこともあるので、学生による大会だけれども、企業主催の大会に遜色ないルール設定をしようというのは意識しました。
とはいえ、最低限やってはいけないことはみんなわかっているはずなので、選手を縛るようなルールは作っていないつもりです。
鈴木氏: エンブレムに代表されるように、「CoD」はユーザー側で作れるコンテンツがとても多いタイトルなので、モラル部分において運営側が規制しなければいけない範囲がものすごく広くて、それを仕切るのはすごく大変で、手間のかかることです。
自由度の高い遊び場なだけに、オンライン上のマナー、モラルという観点で、同じ志を持つ仲間を増やすことは、将来的なファン層の健全な拡大を目指す上でも非常に大切だと考えているので、我々としても「CoD学生大会」を支援させていただいている面はあります。
――「CoD学生大会」について、SIEはどのような形で協力しているのでしょうか?
鈴木氏: 会場選定後に、開催資金の援助要請があった場合に一定金額の資金援助を行なうほか、機材の貸与を行なっています。また、活動の拡大に寄与する広報関連のアドバイスなどもしていますね。
――大会の告知は、どのような形で行なっているのですか。
三橋さん: 基本的にはTwitterの繋がりから広めていくような形です。動画配信を行なう場合は「Twitch」を使っていますね。あとは、僕らの熱意を買ってくださる企業さんにご連絡して、なんとか告知いただけないかを地道に交渉しています。
山本さん: ニュースサイトさんにリリースを送ることもありますね。あとは、運営メンバーの横の繋がりを使って、いろんな大学に出場を呼びかけたりもしています。大学というくくりだけでなく、面識の有無にかかわらず、プレーヤーコミュニティの中で積極的に告知を行なったことも、参加チームが集まったひとつのきっかけになったのではないかと考えています。
動画配信サイトの存在も大きいですね。始めに申し上げた通り、大会のターゲット層は18歳から22歳くらいの学生なんですが、プレーヤー層を見るとそれよりも広くて、高校生や社会人の方も観てくださっている。
こうした方々は、大会という形式に則ると出場はできないのですが、一緒に同じタイトルをプレイをする仲間で、競技レベルの大会を大事にしている人たちです。そういう人たちにも僕らの熱意を知ってほしいし、同じゲーム体験を共有したいと考えている。動画配信は、そのための強力なツールになってくれています。これは実際にやってみて初めてわかったことだったので、強く印象に残っている話です。すべてが終わった後に彼らから届く感想も励みになっていますよ。
――今後、「こうできたら理想」という大会の形はありますか?
鈴木氏: 「ゲームはユーザーのもの」という面もあるので、ユーザー自身が自らの手で、このような大会をどんどん立ち上げてくださるような状況になったらいいな、と思います。「オフライン大会」という楽しみ方は「CoD」というタイトルだけのものではないので、ほかのタイトルにも拡大し、ゲームのシーン全体として、この楽しみ方をユーザー自身の手で成長させていってほしいと思います。
三橋さん: 現状、学生がゲームの大会に参加する機会は限られているので、まずは大会に参加してもらって、試合をする機会を増やし、そのタイトルに対してより深い理解を得て、いずれは自分たちで企画し、大会を立ち上げるところまで行っていただけたらいいなと考えています。
「所詮はゲーム」というイメージを払拭したい
――近年、競技としてゲームをプレイする「eスポーツ」という概念が注目されています。いま、皆さんが取り組んでいる「大会運営」も世間的にはeスポーツの領域にある活動ですが、日本における「eスポーツ」の現状について、思うところはありますか?
鈴木氏: 日本のeスポーツに関しては、2つの動きが混ざって認知されてしまっていると考えています。1つは勝者がお金を稼ぐ「賞金モデル」、もう1つは「オフラインイベント」です。
今はプロの競技ゲーマーとして勝者を目指すイベントの方が「eスポーツ」として目立っている印象があります。でも、そこで頂点に立てる人は限られているので、それは万人に向けたエンターテイメントであるところのゲームの在り方としては、ちょっともったいないのかな、とも思います。
オフラインイベントは、実際に顔を合わせて、プレーヤー同士の関係性を推していく楽しみ方。我々が目指しているゲームの姿はこっちです。みんなで楽しむゲームの在り方として、オフラインで直接顔を合わせて対戦したり、一緒にプレイをする土壌を持った「eスポーツ」が広まっていくといいな、と考えています。
山本さん: 僕個人としても、「eスポーツ」という単語は独り歩きしてしまっていると思いますし、ゲーム体験を知らない方たちから見たら、「所詮ゲームでしょ?」と言われてしまう傾向は本当に強いです。
「eスポーツ」という言葉がどれだけ広まっても、世間のゲームに対するイメージは変わらないと思っています。僕らはそこを変えたい。
僕らがオフライン大会を通して参加者に本当に体験してほしいことは「試合に勝つ」という成功体験ではなく、試合が終わった後の、参加者同士の交流です。ゲーム仲間を増やしてほしいと思っています。大会はそのきっかけにすぎません。
極端な例かもしれませんが、履歴書に「趣味はゲーム」と書ける世の中っていいなと思っています。今、ゲームなんて所詮、という認識は根強いと思いますが、今はスマートフォンでもゲームをやるし、PS4はゲーム機であると同時に黒物家電でもあって、ゲーム以外の使い途がたくさんある中からゲームに入れる。ゲームに入りやすい世の中ができていると思うのです。
まずは何でもいいのでゲームというコンテンツに触れてもらって、ゲームのイメージに少しでも変化が生まれ、やがて「ゲームは楽しいもの」という認識が広まったら、みんなゲームが上手い人のプレイを見るようになると思うんですよね。上手い人のプレイを参考にしたりとか。
プレイ人口が増えれば上手い人も増えてくるはずなので、そうなって初めて「eスポーツ」が成立する土壌が整うのだと思います。言い換えれば、今ちょっとしかいない上手い人を競わせるのではなく、プレーヤー人口を増やした中で世に出てくる、たくさんの上手い人を競わせる。そうすることで、初めて賞金をかけて戦うような競技が成立すると思っています。
だから、僕らの大会を通して参加者や配信の視聴者にしてもらいたいことは、もっともっと仲間をゲームの世界に巻き込むことです。まずはゲーム仲間を増やして「ゲームって楽しい!」というイメージを広めるための交流を進めてほしい。それができていないうちは「eスポーツ」を謳うのは、少し急ぎすぎなんじゃないかと感じます。
鈴木氏: 現在の「eスポーツ」に意義を見出すならば、ゲームに「公平性の観点」を正式に盛り込んだのはものすごく大きな功績だと思います。
これはプレイスタイルに磨きをかけたからこそ生まれた楽しみ方だと思うので、その観点ではeスポーツという概念が生まれたのは、すごく良いことでしょう。そこからどのように派生していくのかはまだわかりません。でも、これから先、ユーザーがこの概念をどう育てていくのかには注目したいですね。
山本さん: いま、世間から「所詮ゲームじゃん」と思われてしまうのは仕方ないかもしれませんが、僕らプレーヤー側が、世間からそう見られているから、と迎合してしまったら終わりだと思っています。自分たちが取り組んでいるからこそ、その時間や体験を無駄にしてほしくないです。自分の努力だからこそ自分が1番認めるべきだと思います。
一生懸命何かをやっているやっている人って、何をやってもかっこいいと思うので、そういう人が増えてくれば、周りもバカにはできなくなってくるんじゃないかと期待しています。
鈴木氏: 「学生時代にeスポーツを頑張ってました!」と言ったとき、聞いた側がサークル活動や部活を頑張っていたのと同じレベルで「こういうことを頑張っていたんだろうな」と具体的にイメージできる世の中には徐々になってきていると思うので、所詮ゲームでしょ、と言われない、ひとつの「型」を作ったという意味で、「eスポーツ」という概念が広まっているのはすごく良かったと思います。
――日本と海外の「eスポーツ」の違いについて、どのように認識されていますか?
三橋さん: 日本のeスポーツでは、プロと呼べる立場の人はまだ少ないと思うのですが、ゲーマーとしてプロに憧れるというのは当たり前だと思っています。でも「プロゲーマー」というイメージが一人歩きしてしまっていて、ある意味で神格化されすぎている気もしているのです。
知り合いのゲーマーのTwitterを見ていても、プロになりたいと言っている人は何人かいます。では、なぜプロになりたいのかを聞いた時「日本で1番強いという称号がほしい」とか「賞金で食べて行きたい」といった答えが返ってきます。
でも、海外のプロを見ていると、プレーヤーだけが楽しんでいるのではなくて、試合会場には普段ゲームをやらないような人まで足を運んで、プレイを見て盛り上がるという文化が根づいていますよね。今のままでは、普段ゲームをやらない人がまだついて来られていなくて、プレーヤーたちが勝手に盛り上がっているだけ、という段階のように感じています。
鈴木氏: 実際に海外の大会を見ると、選手の若さも、スキルのレベルも日本とあまり違わないように感じます。では何が1番違うかというと、そもそもの「土壌」が違うんですよね。それは法律とか、企業がどこまでサポートするかの違いです。その違いだけで、彼らの見え方、ひいては在り方が全然違っている。
ただ、プレーヤー自身は同じゲーマーだし、同年代の若者なので、会えば仲良くなれるとは思うんです。そこに何か隔たりを感じてしまっているのは、もったいないなと思っています。
山本さん: 僕は三橋くんとは逆で「プロゲーマー」という言葉が安上がりになってしまっていると感じています。
海外の競技シーンには大会がたくさんあるし、スポーツとして成立しているのでシーズンがあるんですよね。なのでオフシーズンの間にはメインで活動しているタイトルとは別のタイトルをプレイして、その模様を動画配信サイトで流して、収入を得ていたりする。またシーズンが始まれば、もとのフィールドに戻ってプレイに集中するというサイクルができています。
でも日本では自分で「プロ」と宣言してしまえばプロだという状況になってしまっていて、たとえプロと宣言したところで、その人の生活は何一つ変わらないわけです。例えばプロと宣言して以降、シェアハウスに入ってチームメンバーと一緒に練習に明け暮れるということもないし、スポンサーがいるわけでもない。もちろん、そういう方もいるのは確かですが、ほとんどいません。
それは単純にプロをプロとして評価する環境がコミュニティの中にないことが原因だと考えています。
まず大会の絶対数が違うので、日本の選手は試合でどんどん勝って結果を出し、チームの評価を上げてみせる、という目的意識が持ちにくいのかな、とは思います。
鈴木氏: 日本と海外のプロの1番大きな違いは、「プロ」としての在りようを定義する環境だと思います。
よく言われているのは、海外のプロには監督が付くんですよね。つまりそれは「組織に所属すること」です。組織の規律に則って活動をするからこそ、人前に出ていいし、お金を稼ぐことができる、スポンサーが付くという流れがあるのですが、日本には目指すべき規律を掲げる土壌・組織がないので、「言った者勝ち」になってしまう。そこから人が育っていかないのは、人前に出られるような組織の規律による後ろ盾がないので、どこかで折れてしまうという部分があると思います。
山本さん: 例えばMOBAタイトルの「League of Legends」(以下LoL)では、それなりに大きな大会があるので、プロゲーマーとしてちゃんとしている方がたくさんいるのですが、日本にはプロゲーマーが活躍できるゲームは本当に少なくて、「LoL」くらいしか思いつかないんですよね。
「CoD」部門を擁するプロチームもあるにはあるのですが、実質枠組みを作っただけに近い状況のチームもあって、選手の側も単に「プロゲーマー」という肩書きへの憧れだけでチームに入って、漫然とゲームを遊んでいるだけ、という状態で捨て置かれているという状況があります。
でも、この状況は大会を増やすことで解決すると思っています。大会の数は、それだけスポーツが注目されている度合いに比例すると考えていて、注目されないのは、注目される場がないからです。人が目を向けられる対象としての場を用意して、もっと人の目につきやすくすることが必要だと思います。
鈴木氏: これは表裏一体の問題で、大会が増えることで競技と選手が人の目につきやすくなる一方、チームとしては組織の規律でもって人の目についても恥ずかしくない人を育てる必要が出てくるわけです。同時にやらなければいけないことがたくさんあるんですよね。
プレーヤー同士の関係性を結べる場を作りたい
――今回は「CoD:IW」を競技として大会を開きますが、最新作が出ても、過去の作品で大会をすることはあるのでしょうか?
鈴木氏: 我々の立場としては、販売者として、最新作で様々な展開を仕掛けていく意向があります。ですが、様々な形の大会があっていいとも思っていますので、過去作が好きな方が集まって、過去作をベースにした大会が盛り上がってもいいと思っていますし、そういう姿が、我々の目指しているところでもあります。
山本さん: 過去作の大会は難しいかなと思います。もちろん、人それぞれ思い入れはあって、過去作の方が好きな方はいるし、過去作で大会をしたいという人もいますが、基本的には最新作で大会を開催していきたいですね。
今回、大会の時期を8月に設定した理由のひとつは、「CoD:IW」の締めのイベントのひとつという位置付けということもあります。夏の間に思い出を共有しながら、11月に発売される最新作のスタートを待つ時期になればいいなという感じです。
――学生は入学・卒業による世代交代がありますが、学生サークル内でのチームプレイのノウハウなどは、どのように継承しているのでしょうか。
三橋さん: FPSサークルの活動はまさに部活のような感じで、上級生が下級生を誘って新しいゲームを渡っていくような、ゆるいサイクルが形成されています。サークル活動では全員が普段から一緒にゲームをプレイしているので、その過程で自然にサークルのやり方が上から下に伝わっていくような感覚です。
山本さん: 全員ではないですが、一緒にチームを組んでいた人とは、知人ではなく友人という関係なので、時々一緒に食事をして、いろんな話をすることはあります。
三橋さん: そういう繋がりは、わりとしっかり残るものですよね。
――最後に、今期の抱負がありましたらお聞かせください。
三橋さん: 僕は大会運営自体初めての経験で、さらに代表という立場にいるわけですが、まずはしっかりと大会を終えることが第一目標です。その中で、これまで選手として出場していた身として、試合の先にあるプレーヤー同士の関係性を結べるような場を作りたいと思っています。後で「参加してよかったな」と思ってもらえるような大会にしたいですね。
山本さん: 過去3回大会運営に関わってきて、今回は運営内部で世代交代もおきているので、これにともなって、どこまで仕事を伝統化できるか、長く続けられる体制をつくるというのもひとつの課題ですし、大会運営の経験も大事にしてほしい。僕らだけでなく出場選手も自腹を切ったり、大切な時間を使っているので、その努力が報われるような大会にしていきたいと思っています。
鈴木氏: 今年出る予定の「CoD」も、発売前からかなり話題になっていて、今まで以上に人を集めることになると思いますので、これからファンが増えて、大会がファンベースでしっかりと根付いていくような土台を作る意味合いでの大会開催をますます意識して作っていきたいです。
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