インタビュー
Nintendo Switch「聖剣伝説コレクション」インタビュー
ゲームボーイ&スーパーファミコンの聖剣伝説をエムツーとのタッグでこだわり再現!
2017年6月2日 20:45
2017年6月「聖剣伝説」25周年を記念し、「聖剣伝説 -ファイナルファンタジー外伝-」、「聖剣伝説2」、「聖剣伝説3」の3作品を収録したNintendo Switch用アクションRPG「聖剣伝説コレクション」が発売された。
Nintendo Switchで初めてゲームボーイ用タイトルとスーパーファミコン用タイトルが動作するという、初めて尽くしなオムニバスタイトルだ。開発はレトロゲームのこだわり移植でお馴染み、有限会社エムツーが手がけている。
そんな本作について、プロデューサーであるスクウェア・エニックスの小山田将氏にインタビューさせて頂いた。開発の経緯や工夫、さらには「聖剣伝説」シリーズの今後の展望なども伺ったので、そちらをお伝えしていこう。
おすそわけプレイでマルチプレイも手軽に楽しめる! 25周年記念の「聖剣伝説コレクション」
――発売されたばかりの新ハードNintendo Switchにシリーズ3作品を収録した「聖剣伝説コレクション」を発売するというニュースは、予想外だったこともありファンの皆様も驚かれたと思います。本作の企画はいつ頃から始まったのでしょう?
小山田氏:昨年の6月28日が聖剣伝説の25周年の始まりというタイミングで。そこで何かしら25周年向けに出せないかなと、それ以前からずっと検討はしていたんですよ。
ただ、例えば「聖剣伝説2」が3人プレイで遊べたりするのが個人的に醍醐味だと思っているのですが、それを手軽に楽しめるハードがあまりなく。ニンテンドー3DSなどでもできなくはないのですけど、人数分ハードを持ち寄ったりと用意が少し大変ですよね。
どうしたものかと悩んでいると、Nintendo Switchという新ハードの情報が出てきました。Joy-Conというコントローラーでマルチプレイもすんなりやりやすいということで、「これだ!」となったんですよね。決め手になったのは「おすそわけプレイ」の存在です。
――標準のコントローラーの数といい、当時のスーパーファミコンで遊ぶ雰囲気を再現しやすいハードと言えますね。
小山田氏:そうなんですよ。当時、「聖剣伝説2」を友達と一緒にマルチプレイで遊んだ記憶が強くありまして。友達と一緒に遊んでこそ、より楽しめるという気持ちがあるんです。そこで、マルチプレイで一緒に遊ぶのが手軽なNintendo Switchで「聖剣伝説コレクション」を出したいとなりました。
――ターゲットのハードがNintendo Switchに決まって、そこからはどのような流れだったのでしょう? 昨年の夏ぐらいから動き始めたという感じでしょうか。
小山田氏:そうですね……実は、去年の春頃にはエムツーさんと別の件でお会いしていたんですよ。それからしばらくしてNintendo Switchの情報が入ってきてエムツーさんに再び伺うと、Nintendo Switchであれば、エミュレーションはかなり速やかにできるはずというお話だったので。これ幸いと、今回のお話をさせて頂きました。
――そうすると、Nintendo Switchより以前からシリーズ作をオムニバス収録したいという構想があり、それをエムツーさんにお願いしようというのも、すんなりと見えてきてという感じだったんですね。
小山田氏:そうですね。とにかくもう、ゲームボーイとスーパーファミコンのオリジナル版をきちんと再現することが命題だと思っていたのですが、そうすると専門的にそういった開発をされている会社さんでないと危なくてお願いできないだろうなという考えもありました。
「聖剣伝説2」などは、倫理問題の対応が必要なこともあり、一部改編作業がありました。また、今回収録するに当たっては大きなバグはつぶしたいと考えていました。
――なるほど。Nintendo Switchというプラットフォームで初めてゲームボーイとスーパーファミコンを動かすゲームになったわけで、バグ周りにも手を入れることも考慮すると、かなり慣れている会社さんにお願いしたいところですよね。
ちなみに、3作品の中でも「聖剣伝説 -ファイナルファンタジー外伝-」のゲームボーイ版を収録しているのは本作の大きなポイントであり魅力と思えます。初代はPS Vita/iOS/Androidのリメイク版もありますが、ゲームボーイ版を収録するというのは最初から決めていたのですか?
小山田氏:このコレクションにはゲームボーイ版を収録したいと考えていました。というのも、リメイク版を昨年にリリースしたときにも「あらためてゲームボーイ版もやりたい」という声がありましたし、当時出たハードのオリジナル版を1度きちんと収録したかったんです。
――確かに、ファンの人でリメイク版をプレイされた人だとなおのこと、同じリメイク版ではなくゲームボーイ版を収録して欲しいとなりますよね。
ちなみにゲームボーイ版の初代と、スーパーファミコンでの2作品をNintendo Switchで動かすという企画は、エムツーさんの反応はどうだったのでしょう?すんなりと開発は進みましたか?
小山田氏:さすがエムツーさんとしか言いようがないのですが、かなりのハイペースでできあがってきましたね(笑)。先ほどのバグに対しての対処など、オリジナル版のままではマズイものもいくつかあったのですが、それらの対応についても「1カ月程度でできますよ」といった感じにスピーディーに対応頂けました。
あと、拡張機能として今回入れているものについて、例えばクイックセーブやクイックロードなどの「実装できると嬉しいんですけど技術的にどこまでできますか?」というものに関しても、エムツーさんはいずれも「できます」というお返事でした。逆にエムツーさんから今までの経験則で「こういう機能も入れられますし、あると良さそうですよ」という提案を頂いて実現しているものもあるんですよ。
――なるほど、お話を伺う限り開発はかなりスムーズだったのですね。ただ、その中でもオリジナル版にあったバグをどう扱うべきかというのは考えどころだったのでしょうか。
小山田氏:そうですね、そのあたりの対処をどの程度すべきかというのは考えました。
――「聖剣伝説2」ですと、Wiiのバーチャルコンソール版だといくつかバグFIXされていたりと違いがありましたが、今回収録しているものではどのような判断を取られたのでしょう?
小山田氏:基本的にはバーチャルコンソール版と同等のものにしています。有名なボス部屋から抜けられなくなるバグなどは直っています。ただ、「バグ」と言っていいのか「裏技」と言っていいのか微妙な、細かなバグもあるんですよね。そういうものは対処せずに残しています。ゲーム進行が止まるレベルのものを優先して対応しています。
――使い方次第で楽しいバグというのもありますよね。
小山田氏:そうですね(笑)。自己責任でお願いしますとしか言えず、狙って使ってみてくださいとは言えないのですけど……(笑)。
――バグを利用した有益なテクニックは「裏技」であり、ユーザーさんによってはそれが思い出のひとつだったりもするでしょうし。
小山田氏:そうですね、そのあたりはユーザーさんが思うところでいろいろと楽しんでもらえるようにしてありますので。
――「聖剣伝説3」はバーチャルコンソールでの配信もされておらず今回が初の移植ということになりましたが、それにはなにか理由や事情などがあったのでしょうか?
小山田氏:機会がなかったというのもありますし、作品の規模が大きくてボリュームもあるゲームなので、リメイクするにしても開発規模が大きくなるんですよね。そういうところからタイミングの問題でもあるのですが、今回のコレクションに移植が収録されるのが1番早いタイミングにたまたまなったという風に思いますね。
あの色、濃さを再現! 各種画面モードのなかでも、こだわりの“GAMEBOYモード”
――ゲーム画面の各種モードなどの、今作に搭載されている工夫についてお伺いします。先ほど、エムツーさんにお願いしたもの、逆にエムツーさんから提案されたものなどがあったということですが、それはどのようなものでしょう?
小山田氏:「画面モード」がエムツーさんから提案されたものですね。実際にテレビでプレイしたときにテレビの大きさ次第によってはドットがかなり大きく見えますので。そのあたりの見え方を調節するために画面サイズの大/小をつけたりというのは考えていたんですよ。
ただ、ゲームボーイ版はそれに限らず、エムツーさんからの提案もあって画面モードを用意することになりました。まずは基本になる白黒の「デフォルトモード」ですね。次の少し色がついたこちらがスーパーゲームボーイでプレイしたとき「スーパーゲームボーイモード」です。そしてこれが……初代ゲームボーイで遊んだときの色味を再現した「GAMEBOYモード」です。
――この「GAMEBOYモード」はいいですねー。このパネルの色味、描画の濃淡、まさに初代ゲームボーイです。電池が減ってきたらさらに描画が薄くなるのまで思い出せますね(笑)。
小山田氏:当時ゲームボーイでプレイされた人にとってはたまらないものですよね。エムツーさんのこだわりが入っているところです(笑)。
――画面外の背景も同じくゲームボーイの液晶風になるんですね(笑)。この画面モードはいつでも変えられるんですね。
小山田氏:いつでも変えられます。プレイしながら気分や好みで切り替えてもらえれば。
――スーパーファミコンの「聖剣伝説2」と「聖剣伝説3」の画面モードはどのようになっているのでしょう。
小山田氏:この2作については画面の大/小を切り替えできるようにしています。というのも、大きなテレビに映すと“大きすぎる”んですよね。
――あ、なるほど。テレビサイズ次第では大きすぎて見づらいという人も出てくるので、画面中央に小さめに表示するのも入れたと。
小山田氏:そうなんです。携帯モードの時は画面いっぱいのフィット表示でいいと思うのですが、テレビ向けに表示サイズを用意してみたという感じがあります。
――そのあたりはテレビモードと携帯モードのあるNintendo Switchならではという感じがありますね。
調整の末に、Nintendo Switchでゲームボーイやスーパーファミコンの音源を再現
――「ミュージックモード」を搭載しているのも嬉しいですね。
小山田氏:「ミュージックモード」ではゲーム内部で実装されている音源を聴けるようになっています。なので、実は販売されているサウンドトラックCDとはちょっと音に違いがあるんですよ。
――なるほど、サントラと実機の音源とだと音色やバランスに違いがあるというのは、昔のタイトルでたまに耳にするお話ですね。
小山田氏:そうなんです。このミュージックモードではゲーム内の再生音だとこういう鳴り方をしているんだというところを楽しんで頂けます。
――サウンド周りのお話ですと、そもそもNintendo Switch上でゲームボーイの音源やスーパーファミコンの音源を鳴らしている初のタイトルです。音源周りのエミュレーションはスムーズにできたのでしょうか?
小山田氏:最初はやっぱり鳴り方が違っていました。
――とりあえず鳴ってるけど……ぐらいの時期があったんですね。
小山田氏:「なんか違うしノイズも強く混ざってるような気がするんですけど、これが正しいの? 正しくないの?」みたいな話はありましたね。スーパーファミコン当時にテレビで聴いていたものでも、ヘッドフォンで聴くとノイズに気づくところもあったりするわけで。スピーカーの違いもあるなかで、どのあたりの感覚にあわせるべきか、というのがありました。
一応このあたりについてはエムツーさんにコメントを用意頂いています。
エムツーコメント:ゲームボーイはシンプルな構造なのでエミュレーションそのものは大変ではなかったのですが、出す音の精度を高くしなければ「正しい音が鳴ってくれない」という問題がありました。この精度向上の部分に注意して開発しました。
スーパーファミコンは、当時としては本当に高度なサウンド機能で、メインCPUとの通信処理も特殊だったため、以前から研究を続けていたのですが、それが今回のプロジェクトで役に立ちました。
――なるほど。ゲームボーイの音源はモノラルパルス波2chと波形メモリ音源1chとノイズ1chということですから、音色の調整にちょっとアナログ的な調整が必要だったということでしょうか。そのあたりで“出す音の精度を高くしなければ「正しい音が鳴ってくれない」”という言い回しになったのですね。
小山田氏:それを鳴らすスピーカーの違いというのもありますので、聞こえ方の印象も考えて調整してもらいました。
もうひとつエムツーさんからのコメントがあるのですが、苦労されたのはやはり「聖剣伝説2」だったようですね。
エムツーコメント:「聖剣伝説 ‒ファイナルファンタジー外伝‒」や「聖剣伝説3」ではサウンドドライバに対してリクエスト番号のみを通知すればBGMが鳴る仕組みになっているので、サウンドリクエストルーチンに対して、リクエスト番号を変更しながらどのBGMが鳴るかを調査するだけで良いのですが、「聖剣伝説2」ではリクエスト番号に加え、BGMによって個別に指定値が違うパラメータ情報が必要な作りになっておりました。
小山田氏:その特殊な仕様によって、ミュージックモード作りは苦労されたそうです。曲のリクエスト番号だけではダメで、パラメータ情報を正しく設定しないとゲーム中のBGMとは鳴り方が変わってしまうと。これはだいぶ調査されたそうです。
……しかも、「個々の場所ごとにプログラムが直接書かれていて追う事が困難でした。」と(苦笑)。
――曲の鳴らし方のパラメータ情報が付与されている上に、その鳴らし方もシーンごとに個別で直接プログラムが書かれていたから、解析が非常に大変だったと……。曲の鳴らし方でいろいろ工夫をしようとした跡なのかもしれないですが、これを解析するのは大変だったでしょうね。
小山田氏:そうですね。解析してもらっている段階のときに「バグと言われているものを丁寧に全部直すとしたら、どこまでできますか?」と聞いたことがあって。「大部分に手をつけると他のデバッグが大変になりますけど、やります?」っていう話にはなりましたね。
――いじればいじるほどリスクも高まる……というところですよね。
小山田氏:影響している範囲がどこまでに及ぶのかを把握してもらうのが、解析で大変であり重要なところですよね。
――把握したうえで適度に手を入れるぐらいにしないと、新しいバグが出たり、そのために1からデバッグしていかないといけなくもなりかねないと。
小山田氏:それこそ、オリジナル版からあったバグなのか、移植で出てきたバグなのかとか、混乱も生まれかねないですし。どこまでどの程度手を入れるのかが難しいですから。そのへんのノウハウを得ているエムツーさんにお願いできて良かったなと思いますね。
倫理面の対応など今の時代に合わせた調整をするなか、工夫されている良さを実感することも
――スクウェア・エニックスとしては、ゲームボーイタイトルの移植はバーチャルコンソールでもリリースされなかったのですが、今回はコレクションという形で「聖剣伝説 -ファイナルファンタジー外伝-」が登場することになりました。本作とは少し違った話になりますが、他のゲームボーイ作品の配信や移植というのは今後期待できるでしょうか?
小山田氏:それはタイトルごと、プロジェクトごとのお話になってしまうので。私の方からはなんとも言えないですね。
ちなみに「聖剣伝説 -ファイナルファンタジー外伝-」は、倫理問題の対応が必要な箇所があって、これまでは移植などをしていなかったんです。そこをPS Vita/iOS/Androidのリメイク版を作ったときに対応したので、今回も同じところを対処してCEROを通しています。
同じような対応や確認は必要ですので、各シリーズやタイトルのプロデューサーがどう判断するか次第になっていきますね。
――なるほど、倫理問題や健康面のガイドラインなど、昔にはなかったけど今は必要になるものへの対応が必要ですよね。光の点滅などもありますし。
小山田氏:当時は市場にガイドラインが確立されていなかったので。今ですと倫理問題、光過敏問題、色盲などの配慮があります。当時の色味のままでは引っかかるものもやはりあるんですけど、そうした色の判別が効きづらいところでは音で判断できるように作ってあったりして。よく考えられて作られているなと思えるんですよ。
――音ですか。
小山田氏:例えば、ボタンなどのスイッチがあるところで、見た目だけだとわかりづらいところでも、正解だとそれらしい効果音が鳴って、不正解ならダメな効果音が鳴るようにしてあったりですね。表現としてはコミカルなんですけど、同時に遊びやすさやわかりやすさになっていて、今のガイドラインにも合うんですよ。
――なるほど、そうした今の規定の目線でゲーム内容を見直すことで、工夫されているのをあらためて実感できたところもあったというわけですね。
今後の展開は「聖剣伝説コレクション」を楽しみつつ“新しい情報を伝えられるタイミングをお待ち頂きたい”
――小山田さんから見た、Nintendo Switchというハードの印象や感想はどのようなものでしょうか?
小山田氏:非常にいいハードだなと個人的には感じています。最初に試験的に手に取らせてもらった時から、携帯するにもそれほど重くなく、PS Vitaよりは大きいですけどタブレットほどは大き過ぎず。ドックに刺してテレビで遊ぶときにも何も不満を感じませんし。タイトルごとに遊びやすいスタイルを選べるハードだなと思えますね。
コントローラーのJoy-Conも、1人プレイのときも、おすそわけで誰かと一緒に遊ぶにしても良くて。そのあたりも魅力的です。ガジェットとして所有したくなる魅力もあって。多様性をすごく感じるハードだなと思っています。
――「聖剣伝説 LEGEND OF MANA」や「聖剣伝説4」も収録して欲しかったという声もあったとは思うのですが。そこはやはりプラットフォーム的な区切りでわけたというところでしょうか。
小山田氏:その声はたくさん頂きましたね。ですがおっしゃる通りで、今回はスーパーファミコン世代までのシリーズを収録しています。「聖剣伝説 LEGEND OF MANA」や「聖剣伝説4」はPlayStationのプラットフォームになりますし、それもコレクション内でエミュレーションさせて動かすとなると、だいぶ難しくなるだろうと思えます。なので、今回はとりあえずこういう区切りでやらせて頂きました。
――わかりました。今後の展望についてですが、小山田さんは以前から「いつか聖剣伝説5を作りたい」とお話されています。今はそのあたりについてどのようにお考えでしょうか?
小山田氏:そうですね、今回はあくまでも「聖剣伝説」3作品を遊べる記念的なものですが、「聖剣伝説5」を含めて、新作の方もご期待頂ければと思います。ただ、まずは「聖剣伝説コレクション」もたくさん売れてくれないと困る……というのはありますが(苦笑)。
新しい情報をお伝えできるタイミングを皆様お待ち頂ければと思います。
――最後に読者の皆様に一言お願い致します。
小山田氏:原作を遊ばれた人も、遊んでいない人も、今でも面白い3作品がひとつにまとまってNintendo Switchでプレイできるようになりましたので。ぜひとも手に取って頂けましたら幸いです。そして、「聖剣伝説」を応援頂ければありがたいです。よろしくお願いします。
――ありがとうございました。
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