インタビュー

ピポサルがスマホに登場する日が来るのか? フォワードワークスの戦略とは?

川口智基エグゼクティブディレクターに聞く「プレイステーション」フォーマットとスマホ

10月5日 収録

フォワードワークスの川口智基エグゼクティブディレクター

 ソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)は4月1日付けでスマートデバイス市場に向けたサービス事業を展開することを目的とした新会社「株式会社フォワードワークス(Forward Works)」を設立した。

 SIEは言わずと知れた「プレイステーション」フォーマットの拡大に尽力してきた会社だ。すでに、スマホと連携することでプレイステーションでよりゲームを楽しめるコンパニオンアプリ「PlayStation App」がリリースされているが、あくまでもアプリケーションであって、ゲームではない。

 ソニー・インタラクティブエンタテインメントジャパンアジアの盛田厚プレジデントが代表取締役社長に就任したフォワードワークスは、SIEのジャパンスタジオのIPを使用し、真っ向からスマホ向けゲームの制作を行なう。これまではSIEの社内に事務所があったが、10月には新オフィスに引っ越し、この秋から、事業の拡大を更に加速させる。

 フォワードワークスはどういったゲームを生み出そうとしているのだろうか? それは「プレイステーション」フォーマットとどう関連していくのだろうか? 同社のエグゼクティブディレクターを務める川口智基氏にお話を伺った。

オフィスには、スマートフォンを持って遊んでいる写真が飾られている。ちなみにロゴは「Forward Works」の頭文字を取ったデザイン。そして、スマートフォン用ゲームアプリを制作するということで、画面を指でなぞるイメージをデザインしている。また、“楽しい体験を提供したい”ということで、ロゴには「Fun」の文字が隠されている

来年度中には5~6タイトルをリリース! 年内にラインナップを発表

9月に行なわれたソニー・インタラクティブエンタテインメントジャパンアジアの発表会で盛田氏がスマートフォン用コンテンツを制作する会社「フォワードワークス」に関してコメントした場面

――まず最初にフォワードワークスとしての方針をうかがえますか?

川口氏:フォワードワークスは4月に設立し、モバイル向けのゲームアプリケーションを提供する会社として準備を進めております。4月に設立して以降、アナウンスはできていないのですが、コンテンツの制作準備は非常に順調に進んでいます。タイトル名については具体的にお話しできませんが、来年度中には5~6タイトルくらいをリリースする予定で準備を進めております。また、年内にはラインナップの発表を行なわせていただきますので、期待してお待ちいただければと思います。

――基本的にはSIEさんのIPを使うというのが前提なのでしょうか?

川口氏:SIEのジャパンスタジオが持っているIPをモバイル化するというのがひとつですし、それだけではなく様々なことにチャレンジしていきたいと思っています。

 これまでプレイステーションのビジネスをやってきている中で我々の強みとしては、SIEのIPがあるということもそうですが、プレイステーションのプラットフォームは、いろいろなソフトウェアメーカーさんと一緒に作り上げてきたプラットフォームなので、私たちはいろいろなソフトウェアメーカーさんやクリエイターさんとの繋がりというのがあります。そういった方々と何か新しい遊びの創出といったことにもチャレンジしていきたいですね。

――PS4やPlayStation Vitaとの連携なども考えられるのでしょうか?

川口氏:大前提として、できるだけ多くの方々に遊んでいただけるようなゲームを提供していきたいと考えておりますので、連携は可能性としてはありますが、必須とは考えておりません。スマホを持っている多くの人に、広く私たちのコンテンツを届けるということを大事なゴールにしています。

 ただし、ゲームによっては連携した方が面白くなるものも出てくると思いますので、そういったゲームにもチャレンジしてみたいとは思います。

――これまで「PlayStation App」がリリースされていますが、フォワードワークスさんとしてはゲームアプリにこだわると言うことでしょうか?

川口氏:「PlayStation App」はあくまでもコンパニオンアプリですが、私たちは純粋なスマートフォン用ゲームを提供していこうと考えています。フォワードワークスはいわゆるコンソールのビジネスからいったん切り離された立場で、スマホ用のゲームに専念するということです。

――フォワードワークスは大きな見方をすればソニーグループですが、SIEグループでもあります。モバイルアプリのみを展開するという思い切った決断を下した意図は?

川口氏:フォワードワークスはプレイステーションプラットフォームのビジネスをやるのではなく、モバイル市場に向け、いちコンテンツパブリッシャーの立場でアプリをリリースしていくと言うことですね。

 私たちがこれまでやってきた中で培ってきたものはたくさんあって、1つはゲーム性にこだわったコンテンツ制作のノウハウです。そしてゲームを作るだけでなく、いかにユーザーさんに知っていただくか、伝えるかというノウハウもあります。後は実際に遊んでくださっているユーザーさんとどうやってコミュニケーションを取って長く遊んでいただくか、周りに広めていただけるかという点のノウハウもあると思います。今回プレイステーションプラットフォームとは切り離したところでの展開となりますが、今まで培ってきたものは存分に生かしていけると思っています。それが我々の強みですね。

――私などは面白いゲームが遊べれば良いので、特にプラットフォーム的な観点ではこだわりはないのですが、見方によっては「なぜ、プレイステーションを展開しているグループなのにスマートフォン用コンテンツをやるのか?」と考える人もいます。

 実際に、あの任天堂でさえ、スマートフォン用タイトルをリリースしたとき、「コンテンツのみのビジネスに転換か?」と言われて株価が変動しました。そういった見方をする層に対して明確に、「何を大事に考えてSIEグループの中でスマートフォン用コンテンツを展開するのか?」の答えがゲームユーザーは欲しいと思うんです。

川口氏:戦略的に言えば、なぜいま、「プレイステーションを掲げずにスマートフォン用コンテンツを手がけるのか?」と言う点については皆さん、不思議に思っている方もいらっしゃると思いますが、モバイル市場には非常に多くのユーザーさんがいらっしゃいます。となると、プレイステーションのことをあまり知らない人もいらっしゃるのも事実です。さすがに「プレイステーション」という言葉は知らない方はいらっしゃらないと思うのですが、そこで遊ばれているゲームのことは知らなくて、でもスマホでゲームをしている人は多いと思います。

 我々はどちらかと言えば、そういった方々に私たちのゲームが遊んでもらえるようになることを大事なゴールの1つにしています。スマホでカジュアルにゲームを楽しんでいるユーザーさんに対して、我々のコンテンツを通じて、より深くゲームの本質的なおもしろさとか楽しさみたいなものにふれ、ゲームに対する想いやイメージを強くしていただきたいと考えています。

――なるほど。より大きくゲームという範疇で考え、ゲーム人口を増やしたいと言うことなんですね。

川口氏:我々はこれまでもエンタテインメントを提供してきた立場として、より多く、いろいろな方に我々の提供するエンタテインメントを楽しんで欲しいという想いが強くあります。もちろん、ただ参入するわけではなく、我々には豊富なIP資産があり、ゲーム作りのノウハウや面白いものにチャレンジするDNAがありますので、そういった我々の強みを携えて、多様なモバイル市場のユーザーの方々にゲームを届けていきたい。そう考えています。

――以前、盛田さんにインタビューさせていただいたときに、「ゲームをプレイしていただいていることが重要だ」といったことを仰っていました。ゲームに親しんでいることが、より高度なゲーム体験を求めていくでしょうし、ゲームのプレーヤーが新たなゲームプレーヤーを生み循環していくことは、確かにゲーム事業全体として考えると重要ですね。

川口氏:PS4にしてもPlayStation Vitaにしてもモバイルにしても、遊ぶシチュエーションは異なると思いますが、いかなるシチュエーションにおいても我々のエンタテイメントをきちんと提供して楽しんでもらいたい。いま、日本の市場においてはモバイルのユーザーさんはたくさんいらっしゃるので、そういった方々に向けて我々の面白いゲームを届けることが重要だと考えています。

――その昔、「プレイステーション」の頃はクリエイター発信のとがったタイトルも多くリリースされていました。フォワードワークスではそういったクリエイターさんと一緒になって作っていくという、クリエイター発掘という要素は考えておいででしょうか?

川口氏:そうですね。我々のSIEのIPという点では攻めたIPも含め様々なタイトルがあります。シリーズとしてはお休みしているIPもたくさんありますが、特に変わったゲーム性のものは、すごく斬新にとらえられたように、そのIPを知らないユーザーの方にも新しさを感じていただくことができると思いますので、そういったタイトルもスマートフォンで展開していきたいと思っています。また、ソフトウェアメーカーの方々やクリエイターの方々とも今のスマートフォンに向けた一歩先を行く面白いものを一緒に提供することにもチャレンジしていきたいと思いますね。

 できるだけたくさんの方に……特に日本やアジアの市場ではモバイルの市場が大きいく、ユーザーの方々もたくさんいらっしゃるので、できるだけたくさんのそうした方達に遊んでいただけるものをリリースしたいと思います。

川口氏「準備は非常に順調です」

――すでにゲームの開発が進んでいるということですが、これだけは作る上で大切にしたいとい考えているものはありますか?

川口氏:それはとにかくゲーム性ですね。本格的なゲームを提供したいと思いますし、繰り返しになりますが、なるべく多くの方に手に取っていただきたいので、安心して安全に遊んでいただけるということも大事にしてきたいと考えています。2016年の4月に会社を設立して来年度にはもう5~6タイトル出すのは結構早いという印象をお持ちになるかもしれませんが、実は2015年からプロジェクトとしてはスタートしており、準備は進めていました。そしてどこか一社と組んでやっているわけではなく、タイトルごとに最適なパートナーさんと一緒に進めています。来年度に出すタイトルも、タイトルごとにいろいろなパートナーの方々と並行して開発を進めていますので、割とスピーディに進行していますね。

――企画はフォワードワークスの社内で立てられて開発会社さんと組んでという形でしょうか?

川口氏:企画の段階からパートナーの方々と組んで一緒に進めるケースもありますね。

――同時に何本ほどラインを動かしていきたいと考えておいででしょうか?

川口氏:リリースしたタイトルはできるだけ長く遊んでいただきたいので、常時、何ラインと具体的な数はお伝えできませんが、とにかくできるだけ早くコンテンツのリリースを目指して、来年度中に5~6本はリリースを実現していきたいと思います。

 会社としてはオフィスも移転しましたし、これからいっそう事業の拡大を加速させていきたいと考えています。

――これまでのコンシューマーゲームとは違ったフィールドになるわけですが、勝手が違うと感じることはありませんか?

川口氏:基本的にパートナーの方々は、モバイル系のゲームの制作実績があるメーカ ーの方々でして、確かに我々には(スマートフォンのゲーム制作は)経験の浅い領域ですが、だからこそいろいろな強みを持っている様々なパートナーの方々と組んで、良い相乗効果を出していけると思っています。

――最近のモバイルゲームはフルHDで動作するタイトルまであって、グラフィックス的な進化もすさまじいものがありますが、フォワードワークスとして注力したいところなどありますか?

川口氏:昨今、モバイルゲームにおいても質を重視するユーザーの方々が増えていますが、先ほど仰ったグラフィックスなどで言えば、ゲームによって求められるレベルが違います。ゲーム性という言葉を繰り返し使っていますが、必ずしもグラフィックスのクオリティだけがゲーム性ではなく、カジュアルだけど手触りが良くてずっと遊び続けられる、というのも大事なゲーム性だと思っています。したがって、どれかひとつの方向性に限るのではなく、IPやコンテンツの魅力を最大化するゲーム性の部分に注力したい考えています。

――コンテンツリリースは日本とアジアを目標にされていると言うことですが。もっと広げてワールドワイドという考えはないのでしょうか?

川口氏:まずは日本です。次いでアジア地域に展開していきますが、それ以外の地域につきましてはコンテンツごとに検討していきたいと考えています。

――たとえば日本に向けてだけのタイトルや、中国でしかサービスしないタイトルが登場することもあるのでしょうか?

川口氏:可能性としては否定しません。逆にリリースしたタイトルを、すべからくすべての地域で展開するというわけでもありません。コンテンツごとに検討していくことになります。

――用意されている5~6タイトルはすべて日本でサービス予定でしょうか?

川口氏:そうです。すべて日本で展開予定です。そしてサービスが安定してきたらできる限り早いタイミングでアジア地域も展開していきたいと思います。

――海外を初めゲームメーカーさんの一部は「Pay to Win(課金したユーザーが勝つ)」を嫌う傾向があります。フォワードワークスさんとしては、課金方法に関してのポリシーなどはございますか?

川口氏:販売方法や課金については、コンテンツごとに最適な方法を選んでいきますので、特定の方法に限定するつもりはありませんが、どんな方法であれ皆さんに安心して安全に楽しんで欲しいというポリシーはあります。どういった方法であれ、本質的なゲームの楽しさを感じていただいて、それに対して対価をお支払いいただくというのが綺麗なのではないかと考えています。

インタビュー時に出していただいた、フォワードワークスのロゴ入りのお水

――少し話はずれますが、モバイルでゲームは普段プレイされるのでしょうか?

川口氏:はい。かなりプレイしています。

――最近の印象なのですが、「Vainglory」や「ハースストーン」など海外でヒットしたタイトルが日本でもユーザー層を増やしているとように見えるのですが、海外タイトルは日本の国内のゲームタイトルのゲーム性とは全く違うと思うんですね。ああいったタイトルが国産でも登場したら良いなと思います。

川口氏:そうですね、ゲーム性重視した作りになっていますよね。そこにユーザーの方々のニーズがあるからこそそういったタイトルがランキングに登場する状況になっているのだと思います。

 各メーカーさんがそれぞれの強みを生かして展開した結果、それがユーザーの方々にも受け入れられている。ですから、我々も我々ならではの強みを生かし、ゲーム性を重視して展開しユーザーの方々にアピールしていきたいと思っています。

――では、ゲームのリリースを待っているユーザーの皆さんに一言いただけますでしょうか?

川口氏:プレイステーションで培ってきたノウハウを存分に生かして、ゲーム性にこだわった面白いタイトルを出していきたいと思っています。まだあまり情報を出していませんが年内にはタイトルなどを発表しますので、期待してください。

 また、みなさんからの声も聞きながら、今後のラインナップも拡充していきたいと思いますので、ご期待ください。