インタビュー

「龍が如く6 命の詩。」横山昌義プロデューサーインタビュー

“常識を破り、常に攻めの気持ちで”プレイ体験を高める「龍が如く」の想い

9月15日~18日 開催

会場:幕張メッセ

入場料:一般前売券 1,000円(税込)

一般当日券 1,200円(税込)
小学生以下無料

 セガゲームスより12月8日発売予定のシリーズ最新作「龍が如く6 命の詩。(以下、『龍が如く6』)」。今作が桐生一馬の最終章になるという衝撃の発表から約2カ月。東京ゲームショウ 2016にあわせての発表では、さらに驚きの情報が待っていた。

 遥の子供とされる赤ん坊「ハルト」の存在。その1歳ほどの赤ん坊を抱いて尾道を歩く桐生の姿。主題歌をはじめとした楽曲提供にはなんと山下達郎氏。グラフィックスエンジン「ドラゴンエンジン」によりローディングのない世界になった歓楽街と田舎町。PS4専用タイトルとなった今作で、これまでにないドラスティックな進化&変化を見せている。

 そこで、今作について詳しいお話や思惑を、「龍が如く」のプロデューサーであり、脚本/演出を手がける横山昌義氏に伺わせて頂いた。

「龍が如く」プロデューサー、脚本/演出、横山昌義氏

――「龍が如く6」タイトル発表時の“桐生一馬最終章”というだけでも、かなりのインパクトがあったのに、今回東京ゲームショウで明かされた情報はそれを上回るアグレッシブなものばかりで。すごいことになっていますね。何から聞けばいいやら困っちゃうほどです。

横山氏:溜めといたからね(笑)。

――やはり大きいのは“遥に子供がいる”という話ですよね。アグレッシブ過ぎる展開にファンの皆さんも騒然としたかと思います。感想などを見たりはしましたか?

横山氏:見ましたよ。やっぱり、「怒ったり」、「悲しんだり」、「喜んだり、「それでいい」って言ってたり、「俺の子、俺の子ッ!」って言ってたり(笑)。いろいろ面白いんですけど、それはある意味で想定の範囲内でもあったんです。でも、改めて「みなさんそこに興味を持ってくれてるんだな」って思えたのがありますね。

 TGSで発表しようと溜めていた情報のなかで1番のものは、やはり「遥の子供の話」。実はこれまではそれを必死に隠してきたんです。最初のタイトル発表時に公開したPVも、遥の子供が映っていたのを消したんですよ。

――遥の交通事故のシーンですか?

横山氏:そうそう。あれは今のものだと子供を抱いているけど、以前はそれを消したものを別で作って公開していました。あと、桐生が南雲に呼びかけられて振り向かえるシーンでも、実はハルトを抱えているんですけどそれも取って。わざと隠してきたんです。

 今日はようやく話せますけど、今作は澤村遥の子供“ハルト”と桐生一馬との父親探しの旅というのが柱の話になります。遥は危篤状態になってしまうので、1歳の男の子であるハルトを抱えた桐生が父親を探すという話です。

 それをTGSで明かしたわけですが、ここまで反響が大きいというのは……想像以上でしたね。そこで改めて“愛されてるんだな”って感じて。例えば、「澤村遥って誰だっけ?」みたいに言われるのが1番キツイわけです。同じく桐生一馬最終章って言っても「誰だよ、それ」って言われるのはきつい。僕の場合、常に過信はできないところがあって、「桐生一馬とか、そんなに知名度ないよな」とか思っちゃう。

――控えめというか、慎重に考えるところがありますか?

横山氏:作品の内容には自信を持っているんだけど、知名度とかを勘違いしちゃうと、手前味噌な感じになるというか。

――ファンと歩調のあっていない一人歩きしたようなゲームになりかねない?

横山氏:そうそう。それはやっぱり避けたい。だから、情報を伝えるにしてもこれまでは今回のような伝え方(大きな秘密をわざと隠して後に明かす)というのは、してこなかったんですよね。今回だって「こんなことをフックにしようとしても、どうなのかなぁ……」とも、思っていたりしたぐらいで。でも、反響はすごく強くて、怒ってくれる人がいたこと、ネットとかに書き込みがあることに安心しました(笑)。

――それだけ、その人にとって関心のある大事なことなわけですよね

横山氏:当然、僕らにとっても大切なので。「龍が如く」での大切なポイントをファンの方と共有できているということかなと思います。

――遥と、遥の子供ハルトの存在から、ストーリー作りは始まっていったのですか?

横山氏:完全にそうですね。最初にタタキとなるストーリーの企画書みたいなものを作るのですが、1ページ目には「桐生と遥が並んでいる写真」がある。2ページ目には「桐生だけ」になって。3ページ目は「遥の代わりに子供」がいる。企画書はそういう絵から始まっています。

――……なるほど……そのお話だけでもいろいろと想像してしまいますね

横山氏:最初は、桐生と遥が一緒にいるのが当たり前の状態。これが今までですよね。そこから「龍が如く5」のあとに桐生は逮捕されて服役するので、1人になる。そして、刑務所から出てきたら子供がいた。そういう絵ですね。

 それがきっかけであり、前提にして全体を作っているので。広島の「尾道」という舞台も“遥にふさわしい街”というコンセプトで選んでいます。登場人物もみんなそうですね。

――登場人物ですと、ビートたけしさん演じる「広瀬徹」、藤原竜也さん演じる「宇佐見」、宮迫博之さん演じる「南雲」のいる「広瀬一家」が印象的で。

 今回は、主要な新しいキャラクターのほぼ全員が芸能人の方がモデルになっているように思えます。しかも、話の中心的な立ち位置の人物も多いのかなとも。これまでのシリーズよりも芸能人の方がモデルになっているキャラの出番が多いのでしょうか?

横山氏:多いかもしれないですね。桐生と常に一緒にいるような人達もそうなので。

――特に「広瀬一家」の登場人物は、桐生と一緒に行動するようになるのでしょうか?

横山氏:そうですそうです。今回は「龍が如く」の歴代キャラクターを使って面白く描こう……というコンセプトではないんですよね。あくまでも「龍が如く5」のあとの「龍が如く6」というのを意識して作っています。メインストーリーで無駄に歴代キャラクターを楽しませたりみたいなことはしていないです。サブストーリーや「クランクリエイター」という遊びでは、そういうのもあるんですけどね。

 あくまでも、桐生がハルトの父親を探すなかで出会った人達。それを描いたら新キャラクターばかりになった……という感じですね。

――広島の尾道という土地でもありますし。

横山氏:そうそう。そこに今までのキャラクターが実は住んでいたとか、桐生に会いに来たとか、そういう無理のある展開にはしていないです。すごくストレートな話を作っているので。それを脚本に書いていったときに新キャラクターが必要になって、それを誰がやったら1番似合うのだろうというのを当てはめていったら、そのままキャストになってもらえたという感じなんですよ。

 宇佐美勇太とかは、藤原竜也さんをイメージして書いちゃってるので、違う役者さんが演じることには違和感があって。「でもなぁ、藤原竜也さんは『龍が如く3』で力也とかもやってたしなぁ……」とかも思いつつ、でもイメージはもう藤原竜也さんになっちゃってるから。やっぱりお願いしてやって頂いて。

――自然な流れでキャスティングのイメージができているんですね。そうするとキャラクターと俳優さんによっては、すごい量のセリフを大物な方にやってもらうことにも。ビートたけしさんのメイキングの映像には、リテイクもかなりあったし収録する量もすごかったというお話がありました。

横山氏:収録の量は凄かったと思います。あんなに喋るたけしさんを見られるのはうちだけだと思いますよ。ご本人も「おれ、こんなにいっぱい喋んないよ?」って言ってましたからね。

 たけしさんが自分で実写で演技をしたり、監督をされるときもありますが、うちでやってもらっているのは、それとはまた違うんですよね。体や顔の演技はたけしさんではない人でモーションアクターが演技していますし、いろんな人のセンスが合わさった「広瀬」というキャラクターになっています。

 でも、見る人からすればビートたけしさんの顔や声だから、たけしさんに見える。たけしさんらしさもあるけど、たけしさんらしからぬ動きをするときだってあるから、たけしさんが好きな人ほど驚けると思いますよ、全然違う新しいものを生み出したような感じがありますね。

上から順に、ビートたけしさん演じる、尾道の広瀬一家総長「広瀬徹」、藤原竜也さん演じる、広瀬一家若衆「宇佐美勇太」、宮迫博之さん演じる、広瀬一家若頭「南雲剛」。ご本人そのままというクオリティの高さだ

――先ほども少しありましたが、「これはたけしさんだな」とか「これは藤原竜也さんだな」と、イメージがあってからキャラを書いていくのでしょうか?

横山氏:書くときにどうしても“アテて”書くようになっているところがありますね。顔を使うケースでなかったとしても、例えば「龍が如く4」で秋山駿を書いた時も「声は山寺宏一さん」というイメージで書いちゃってた。

 でも、結構それをそのままキャスティングしてもらえたりしているから、うちのシリーズは幸せですよね。書き手と演出のズレがないままにキャスティングできているから申し分ない。うまくいくに決まっているという感じで。ブレが少なくて確度が高い。大きいエンターテイメントには勝負の前に大きい確度が求められますから。成功の確率を高めるにはイメージ通りに作っていくのが1番いいと思います。

――良い作品を手がけられている方は同様のことをおっしゃられますね。「最初に作ったとおりに完成までできるのが1番いい」と。「何かの事情で変えなきゃいけなくなると厳しくなる」というような。

横山氏:まぁ、それが功を奏するときもあるんですけど、なかなかね。そういう意味では「龍が如く」シリーズは、今回の山下達郎さんの楽曲を使わせてもらえるのもそうですけど、“ゲーム”っていう枠組みではできないことをできているというか。“ゲームに出る”というより“「龍が如く」という作品に出る”という考え方でトライしてくれる役者さんが増えたので。得しているなあ、実力をストレートに発揮しやすい環境が整ったなぁと思いますね。

――シリーズを振り返ると、以前よりキャスティング等で希望を叶えやすくなりましたか?

横山氏:いやもう、格段の違いですよ。100倍とかいうレベル(笑)。昔はまぁ“ゲーム”っていうところから説明しないといけなかったし、「ぴょんぴょん跳ねたりするの?」みたいなところからでした。そこから「ゲームのシナリオでこんなのがあるなんて知らなかった」って言われるのがあって、「本は面白かったけどゲームはやってない」とかね。

 最近はもう「龍が如く」っていう名前は知ってもらえていて。それでも中身を知らない人はまだまだたくさんいますけどね。

――そうして理解をしてもらえるようになって、やれる幅も広がったというところで。今作ですと、宮迫博之さんの演じる「南雲剛」や藤原竜也さんの演じる「宇佐美勇太」はもう桐生の仲間のように一緒に行動しているシーンがありました。あの2人は桐生と一緒にいる時間がかなり多いのでしょうか?

横山氏:一緒にいる時間は多いです。ほぼ……かなりの割合い。お話的に言うと、桐生がハルトの父親を探すためにまず「遥がなにをやっていたか」を調べるわけです。すると広島の尾道にいたらしい、と。今回のTGSでの試遊台は本編での3章冒頭で、桐生がハルトを連れて初めて尾道にやってきたところ。そこで南雲と出会うわけです。

 そのあと、南雲といろいろな経緯があって、仲間になっていくんですよね。遥が何をしていたのかわかっていくなか、同時にいくつかの事件も動いていて巻き込まれていく。桐生の1番の目的である父親捜しにも付随する別の謎が出てきて……と、ストーリーは展開していきます。桐生にはそのなかで“仲間”がどんどん増えていきます。1番初めは南雲であり、宇佐美勇太が、そして広瀬も登場していきます。

よそ者である桐生に敵意を向ける南雲。だが、次第に桐生との関係性が変化していくようだ

――そこからほぼ一緒に桐生と行動していくとなると、中心人物のひとりぐらいの立ち位置ですね。

横山氏:桐生の弟分的な感じになりますね。

――桐生は主人公であり、わりと寡黙なキャラクターですよね。そうすると南雲や宇佐美といった弟分のほうが周りでよく喋るようなところもあるのでしょうか?

横山氏:うーん、今回の桐生は喋っているように思いますね。実は今回は“究極の一人称視点な物語”にしようと考えたんです。“複数主人公の作り”を捨てて。実は単独主人公というのは「龍が如く3」からやっていなかったことで、「4」、「5」、「0」とずっと複数だった。桐生だけというのはすごく久しぶりなんです。

 実際のところ、感情移入してもらうには単独主人公なほうが良いに決まっているんですよ。複数にするとキャラクターが変わるわけで、ユーザーさんは複数のキャラクターを通して物語を見ていくから、全体を把握している俯瞰視点になっていきます。それは客観的な目線にもなって感情移入がしづらくなるので。単独主人公の方が本当はいい。

 でも、これまでが複数主人公でうまくいっちゃってたんですよね。「龍が如く4」でやってうまくいってなかったら単独に戻していたと思うんですけど。うまくいったから逆にそれを捨てられなくなった。主人公を1人削るというのは、いろんなミニゲームとかサブシナリオとかを捨てるのと同じなんですよね。ステージを丸ごと1つ捨てるのと同じ。

 例えば、秋山だと街金融っていう特徴があるから、お金に関わるサブシナリオをたくさん作れるじゃないですか。でも、主人公を桐生のみにしたら、そういうのを全部捨てないといけない。桐生単独にするというのは結構、大きい決断なんですよ。

 桐生のみにすると決めたからには、単独主人公だからこその“究極の主観視点的なドラマ”を描かないとつまらない。だからこそ、ドラマ作りをがんばろうともなっていけて。単独にすることの良さにはドラマ作りが良くなることもあるし、バトルアクションも1人を集中して作り込めるところもありますね。今回は改めてそういうトライをしています。

――なるほどー。そんな桐生さんですが、今作では48歳ですよね。キャラクター像もいろいろと変化していっているのかなと思うのですが。

横山氏:そうですね。面白いのは、作っているチームや黒田さんという声優さんに、脚本を作っている僕も。みんな11年の年をとったんですよね、桐生一馬も。誰一人欠けることなく11年老けていけたというのがすごく良くて。黒田さんも意識しなくても老けた桐生の演技ができるし、無理がない。リンクしているんですよね。

 例えば、ハルトという1歳の子供に接するというのも、11年前では想像ができなかったと思う。でも、今は黒田さんに演出を預けてるんですよ。「どんな風にやるかな?」って思って、お任せしたんです。すると、「本当に子供のことがかわいいんだろうな」っていうのがわかる演技をしてくれたんです。ただ、かわいすぎて桐生じゃないなとも思ったんですけど(笑)。黒田さんも桐生になりきって11年やってきましたからね、その黒田さんがどうやるのかを1回見させてもらうというのがすごく楽しいんですよね。

――特別に意識することなく、自然に11年を生きたキャラクターが演じられるし、作ることもできる。

横山氏:できますね。あと、今作の桐生のパーソナリティというのも赤ちゃんと触れあうことでまた変わっていくんですよ。そこも見て欲しいですね。

――赤ちゃんと接するというのは、内面に変化を起こすな大きな出来事ですよね。

横山氏:ある意味、最強ですからね。言うこと聞かないし、お世話もしなきゃいけないわで。それによって桐生も劇中でまた少し変わっていくんです。

桐生のみの“単独主人公”となる今作。そんな桐生が右も左もわからない土地へ行く今作は、プレーヤーが主観で楽しめる物語になりそうだ

「『ドラゴンエンジン』でこれからやってやるぞ!」っていう一歩なんです。

――ゲームのシステム方面を伺わせてください。今作は何もかも新しくなっていて。変な話ですが“桐生一馬の最終章”という区切りのイメージよりも“これから新しいシリーズが始まっていく”みたいなモデルチェンジの手触りを感じたんですよね。

横山氏:合ってますよ、その通り。いやもうね、みんなに「最後なんだよね」みたいに言われるから頭にきちゃって(笑)。でも、やってることは新しいチャレンジなんです。僕らゲームを作っている立場からすると、お話的には「桐生一馬伝説の最終章」ですけど、ゲーム的にはPS4用制作エンジン「『ドラゴンエンジン』でこれからやってやるぞ!」っていう一歩なんです。

――「新シリーズがこのモデルをベースに始まっていく!」みたいなモデルチェンジ感がありますね。お話的には一区切りなんですけど。

横山氏:ドラゴンエンジンは裏でずっと作ってきたんですよ。2~3年かけてきています。「龍が如く0」のあたりから作ってましたね。

 ベースを作り替える上で、いくつかポイントがあって。まず、今までのウィークポイントだった「店に入るときに暗転が入る」のをなくす。それと、歓楽街を描く処理が重いのをなんとかする。

 言い方は悪いですが、だだっ広いオープンフィールドなら作れるんですよ。なんもないから。でも日本の歓楽街って人が多くてごちゃごちゃしていて、看板もたくさんあって。日本の歓楽街ぐらいグラフィックス的な処理が重いシチュエーションなんてないんですよ。

 それを最高に面白くできるエンジンを作る……そういう設計思想で作っています。でも、そんな特化した設計思想のエンジンって他になくて、うちのチームしか作らないですよね。だって必要ないですからね。

――もっと汎用的に幅広く対応できるものにしますよね、普通は。

横山氏:そうそう。うちの場合はそれで神室町を作るのはわかりきっているから、神室町に耐えられること、シームレスに繋いで今までのウィークポイントをなくすこと、しかも新しい遊びを作れる下地も作れるようにしよう。そういうことに特化したエンジンになってますね。

 それは“やらなければいけないこと”としてずっと取り組んできたので。やっとお披露目できたという感じです。作っていたプログラマーとかは感慨深いと思いますよ。

――衝撃的でしたね。お店のなかに暗転なしでそのまま入っていける、あの感じ。

横山氏:そうなんです。“グラフィックスの衝撃”って1番強いとは思うんですけど、それ以上に最後に勝つのは“プレイの衝撃”だと思うんです。

――手触り的な、体験的な。

横山氏:お店にそのまま入れるって言っても、やっていること自体は今までと変わらないんです。「外からお店の中に入る」ときに途中の暗転があるかないかの違いだけで、操作も一緒。でも今回はシームレスになって暗転がなく店内に入って、コンビニ内でもバトルが起こって、店のなかを壊しちゃって、しばらく出禁にもなっちゃったりもする。

 そのひとつひとつは今までのシリーズにも同じことや近いことはあったんです。やってることもそれほど新しいわけではない。だけど、それが今作では全部がシームレスに繋がっている、連続して起きる、関係性がある。それを実現すると体験が全然変わるんです。

――要素は一緒でも、トータルの体験が全然違っていく。

横山氏:体験を新しくしていかないとコンソールのゲームって死んじゃうと思うんです。これ以上グラフィックスだけが良くなっても、それももちろんいいけど、それは1枚の絵のインパクトでしかなくて。それよりもプレイの体験全体を底上げしていかないと未来がないな、と。

――単一のグラフィックスだけにスペックを使うよりも、ゲーム体験のためにスペックを使うべき。

横山氏:そういうことです。

――プレイスポット(ミニゲーム)も今後に詳細が伝えられるのだと思いますが、シアターで見たものだけでも、「猫カフェ経営」、「草野球シミュレーションゲーム」、「素潜り漁」、「ライブチャット」、「クラブセガ」、「キャバクラ」、「子守り」などなど、定番のものから驚きのものまでたくさん公開されましたが、単純にバリエーションが豊かですし数も多いですよね。「RIZAP」とかもありました。

横山氏:うーん、まぁでも数だけを単純に比較すると、実は「龍が如く5」とかの方が多いかもしれないんですよ。というのも、今までの「龍が如く」はスピンオフ作品も含めて“歓楽街”しか描いてこなかったので、人の集まる場所を描いてきたぶんプレイスポットの数は多かったんです。

 ただ、裏を返すと「神室町」にあるようなスポットが他の都市にもあった、ということなんですよね。今回の「尾道」にはそれはないんです。

――先ほどドラゴンエンジンのときに「神室町」はビルだらけ人だらけオブジェだらけという話がありましたが、「尾道」は逆ですよね。素朴さのある田舎町で。

横山氏:そうなんですよ。なので、プレイスポットも神室町のような繁華街とは異なります。共用してないんですよね。尾道では違った遊びや体験、感動を入れようと、「素潜り漁」ですとか、「草野球」とか。せっかく仲間ができるのだから野球でもやろうとかね。「クランクリエイター」(「組育成」モード)というのも仲間が増えていくというコンセプトですね。

――「クランクリエイター」(「組育成」モード)はオンライン対戦もできるということですが?

横山氏:リアルタイム対戦というわけではないんですよ。自分の作った組のデッキをアップロードして、他の人のデッキをダウンロードして対戦する、という形式です。まぁすごい強いデッキを作って公開する人はたくさん出てきそうですけどね。

自分の組を作り、他のプレーヤーのデッキと対戦もできる「クランクリエイター」。画像を見る限りだが、お馴染みのキャラクターもたくさん登場しそうだ

――なるほど。今プレイスポットのお話でもちょっと感じたのですが、今作には「仲間」というキーワードが感じられますね。草野球をするのも、自分の組デッキを作って対戦するとかも。「広瀬一家」に慕われるというのもそうですが、これまでの身内みたいなものとはちょっと違ったもののような気がします。

横山氏:仲間……絆。初代作品から大事にしているものでもありますが、桐生自身が“絆を再構築していく話”でもあります。

 真島とか堂島大吾もいますけど、彼らが力を振るえば桐生は何も困ることなんてないんですよ。何もせずともお金が入ってくるでしょうし、遥の芸能界引退後のことだってモミ消せたとも思います。でもそれをしてしまったら……本当の意味でのカタギにはなれない。

 そのために桐生は彼らには頼らない。遥も頼らないんです。頼らずにちゃんとやっていこうという選択をしたがゆえに、苦しい道を歩むわけで。真島や大吾も力を貸さないですし、貸せない。それが実は「龍が如く6」のストーリーの背景になります。

 桐生は言うなれば人間関係をリセットしたような状態から、1から始めていく。見ず知らずの広島・尾道に行き、1から人間関係も作っていく。そこでできた仲間はかけがえのないものなので、ファミリーが育っていくわけです。

シンガーソングライター・山下達郎さんの楽曲が使用される。使用されるのは主題歌の「蒼氓(そうぼう)」のほか、「希望という名の光」、「飛遊人-Human-」、「片想い」、「アトムの子」の全5曲

――今作の主題歌に山下達郎さんの楽曲を使用する、というのも驚きでした。意外というか。アップテンポな曲ではないんだな、というのも含めて。

横山氏:確かに、今回のトレーラーがそうですよね「蒼氓(そうぼう)」を使っているから尚更かもしれません。

――今作の物語であり世界観には、合いますか? 僕らはまだ想像ができないんですよね。どんなシーンで流れ、どんなマッチの仕方をするんだろう、と。

横山氏:合うか合わないかだけで言うと“衝撃的なほど合いますよ”。ただ冷静なことが言えないところがあって、僕も山下達郎さんのただのファンなんですよ。

――大好きなんですね。

横山氏:ずーっと好きなんです。好きが故に「龍が如く」で使うなんてことをイメージしたことがなかったんです。そこに名越が「山下達郎さんでいかないか?」と切り出してきて、僕は「まぁ、良いと思いますけど……」ぐらいになって。そう言いつつもイメージがつかないぐらい。

 別なんですよ。僕にとっての山下達郎さんの曲は、僕の人生の中のトピックに流れる曲だったので。

――使うっていう発想がでない(笑)。大切なプライベートなもの、みたいな。

横山氏:そうそう(笑)。使うっていっても例えるなら、結婚式とかで振り返り映像みたいなの作るじゃないですか。そこに使うとか。そういう感じ。自分の人生を飾ってくれるBGMなんですよね。

 でも、名越が曲を選んで交渉もして、いざゲーム中のシーンに入れてみましょうとやってみると……「ありがとうございましたっ」ってお礼を言っちゃうぐらいの出来になったんですよ。意外な使い方もしているというか。ここでこの曲を流すか的なこともあったり。

――うーん、なるほど。山下達郎さんの曲から「アトムの子」とかも入っていますよね。なんとなくキーワードが……。

横山氏:そうなんですよ、その通り!“アトムってどこ?”とか考えて欲しい。

 もう僕はね、泣いちゃったんですよ。初めて客観的にね、山下達郎さんの曲が流れるなかにスタッフロールに自分の名前が出てきたときにね、泣いちゃって。こんな最後の話をしてもしょうがないですけど。

――いやでも、スタッフロールの喜びに本当に好きなものがあわさるというのは開発者冥利に尽きるというか。グッときますよね。

横山氏:ちょっとそういう想いもあって冷静ではないんですけどね。でも、無理やり入れて合ってないみたいなことは絶対ないと思いますよ。僕は山下達郎さんは天才だと思っていますが、あの人の曲はどんな画にでも合わせちゃうんです。

 実際、トレーラーの構成や編集をしていたスタッフが曲を入れてみたら、死ぬほど良くなる瞬間がたくさんあるって言ってきて。なんでこんなに良くなるんだろうって不思議になるぐらい。倒れてきた燃えている柱を支えている桐生のシーンに山下さんの曲のサビが流れてきても、合うわけないって思うじゃないですか。でも、合う。……この人の曲はすごいっすねみたいな感想になってました。

――山下達郎さんの曲も合っていくと、なにかこう今までと違う1ステップ高いものになっていそうにも思えます。限界をひとつ超えるような。

横山氏:うーん、そうですね。限界というか……常識。自分たちで勝手に決めてしまっている常識って、どこかあるじゃないですか。「東京ゲームショウはこういうものだ」とか、「ゲームってこうだ」とか。「これぐらいでちょうどいいんだ」というような。

 例えば、たまにどこからか聞こえてくる「ゲームは暇つぶしぐらいでちょうどいいんだ」みたいなものとか。

――あー、あります。嫌ですね。

横山氏:そういう“ちょうどいい”ってのを破壊していかないと、ゲームの次の立ち位置がなくなっちゃうんだと思うんですよ。今のゲームでいいよっていう立ち位置も中途半端だと思うんです。これまで通りのモノをこれまで通りでいいよっていうね。それこそ「龍が如く」なんてシリーズとして安定してますから。数字も見えやすいわけです。

――僕も自分の連載に書いたことがあります。「龍が如く」はすごく安定感のあるシリーズと。でもそれは、褒めてないことにもなりかねないですね。

横山氏:商業的に褒めて頂いたんだと思うんですけど、安定したものは……先があまりない。安定したものはダウントレンドでしかなくて、右肩下がりが待っていますよね。

――緩やかに。重力で自由落下していくかのように。

横山氏:それこそ乱高下したっていいので、常識を破っていきたい。破り方っていろいろあると思うんです。キャスティングもそうだし、歌もそう。ただ、歌については名越が、僕の常識の上を行ったわけですよね。僕は山下達郎さんは考えられなかったけど、あの人はそれを持ってきた。そして合っていた。そうやって1個1個、常識みたいなものを越えていけたらな、と思います。

 そういうものがまたひとつ、1パッケージになりますので。皆さんにこれがどう捉えられるのか。今までの「龍が如く」とはちょっと違ったものに見えるかも知れないです。

――現在の開発状況ですが、まだ各種の調整をされている時期かなと思います。バトル周りとかを触っている感じでしょうか?

横山氏:バトルはそれほどではないですね。今回のTGSの試遊も一部の技しか入っていないですから。どちらかというと、バトル前の敵との出会い方とか、逃げるときとか。今だと逃げてもひたすら追いかけてくるので。もうちょっとまきやすいようにします。

 あと通行人の制御とかも。例えばビルの屋上とかでバトルをしてたら、気づいた通行人が上を見ているとか。そういうのをもっと調整したいですね。

――今までにないシームレスがゆえの部分ですね。

横山氏:そうですね、今回はなにしろ死角がないんですよ。リアクションとかも見えますし、そこにアクセスもできるので。

――画面の切り替わりがないのでゲーム的なごまかしの処理とかができないんですね。

横山氏:そうそう。あとは透明なコリジョンで囲んで移動できないようにしたりとかも、今作ではどこにでも行けるようにしているから、そうもいかない。さすがにボス戦とかでは周囲を封鎖したりしますけど。普通の街中ではどこでも行けちゃうので、それに対しての正しいリアクションを取らせたりとかもですね。

――今回は主観視点でも街を歩けますし、通行人のリアクションとかもより見えるんですね。

横山氏:そうですね。主観視点についてももっと自然に歩いている感じに、カメラの揺らぎとかをつけたいなと思ってますね。

――主観視点にしてみたのですが、「桐生さん背が高いなー!」って感じました。

横山氏:あれはちょっと思うところがあって、実際にキャラクターモデルの眉間のあたりにカメラをつけているんですけど、実際の人間の視点ってもうちょっと足下を見ていると思うんですよね。

――あ、なるほど。本来はもうちょっと下斜め方向を見ている感じですよね。

横山氏:そうそう。でも今は本当に前の正面を見ちゃってるんです。でも、そんなに正面見ている奴はいないですから。みんなちょっと下方向を見ているはず。そうでないとなんか踏んだりいっぱいしますから。そこも、もうちょっと調整したいなと思います。

――発売は12月8日を予定されていますが、現在の開発状況はいかがでしょう?

横山氏:名越はTGSのステージで毎日「延期しませんよ」って言ってます(笑)。僕らももちろん、やりきるつもりでいますよ。

――時期的にはプレイステーション 4 Proの対応は検討されているかどうかも気になるところなのですが。

横山氏:そこはまだなんとも言えないです。申し訳ない。

――わかりました。それでは最後にファンの皆様へ向けて、一言頂けますでしょうか?

横山氏:“ゲーム”なんですよね。僕らが作っているものは。ドラマではないんです。でも、ゲームを楽しくするにはドラマが必要で、ドラマを盛り上げるには優れたバトルやアクションが必要で。このゲームを遊んで良かったと思ってもらうには、本筋以外のたくさんのミニゲームとかプレイ体験も必要です。

 メシ喰っているときに「このおかずのこの調味料がすごい美味かったから良かった」なんてならないじゃないですか。全部をまとめて、もっと大雑把に美味しいっていう感想になる。1個だけ美味しい食材があってもそれだけじゃダメなんですよね。トータルでバランス良く、「龍が如く」っていうものが素晴らしい体験でしたと言ってもらえるものを目指していきます。

 今回の試遊で結構いろいろ伝わったかと思いますが、東京ゲームショウには来られなかったという人にも各都市を巡って体験してもらうような機会を設けたいなと思っています。触ってもらえるとよりわかってもらえるかな、と。

――今作の新しさは触るとよりわかりますね。

横山氏:思いました?

――思いました、思いました。

横山氏:毎日触っているとわからなくなっていくもので。そう言ってもらえるのはありがたいです。

――今回のエンジンレベルからのリニューアルって、「今まで積み重ねてきたものがあって、今回のタイミングが良かったから」なんでしょうか? それとも「攻めよう、できる限り新しくしてしまおう」という気持ちからですか? 両方ですか?

横山氏:攻めの気持ちからです。やるって決めたからにはやる。こんなに大きく変えられるタイミングなんてないですから。ハードの移行期だからこそできることですし。

 それに、中途半端に移行したってしょうがないですから。内容も本当に攻めてます。守りに入って安定するつもりなんてサラサラないです。

――戦ってますね。試遊からも、このインタビューからもそう感じました。

横山氏:そうそう。桐生一馬最終章とストーリー的には銘打っているものの、クリエイターとしては“それがどうした”という気持ちだってあるんです。このエンジンを使ってさらに新しいものだって、いくらでも作っていけると思います。

 ただし、望まれないなら作る意味もないので。まず「龍が如く6」が評価されなければならない。望まれるものにしなければならない。なので……そういう意味では次作は全く考えていないです。まず今作です。

――わかりました、楽しみにしています。ありがとうございました。