Windows 10 ゲームマラソン

ついに完走! 「Windows 10ゲームマラソン」フィナーレ

本当の旅路はこれから。Windows 10がつくるゲームの未来を展望する

 Windows 10の正式リリースとともに走りだし、毎日更新でお届けしてきた本企画、Windows 10ゲームマラソンがついにフィナーレを迎えた。およそ2カ月にわたってご紹介してきた、Windows 10で快適に遊べる各ジャンルのトップゲームタイトルや、Windows 10で実現する数々のゲーム機能についてなどなど、GAME Watch入魂の記事の数々、お楽しみいただけただろうか?

 Windows 10はリリースからの2カ月で、デスクトップ&ノート型PCにおけるWindows 8.1の普及率に迫り、超えつつある。現時点で最大シェアを誇るWindows 7(全デスクトップ型PCの半分!)の牙城を崩すまでにはまだ時間がかかりそうだが、将来の見込みはとても明るい。

 実際の所、Windows 10はまだ成長の途上だ。現代のコンピューティングシーンの大半を握るモバイル向けのWindows 10の展開はまだまだこれからだし、Windows 10で実現するアプリレベルの新機能や最適化についても、ようやくOSレベルでの実装や安定化が完了した段階の物が多く、広く活用されるまでにもうしばらく時間がかかりそうな塩梅。

 特にゲーム界隈では、Windows 10に標準搭載されたDirectX 12に正式対応するゲームタイトルがまだリリースされていないなど、最新ゲーミングOSとしての真のポテンシャルは未だ発揮されていない。いわば現状のWindows 10は、ゲーマー的に言えば“アーリーアクセス版”。冒険心に溢れるゲーマーから先に普及が進んでいるという現状だ。そういったコアユーザーの厳しいチェックに晒されつつ、Windows 10の新しいビルドが今日も開発され続けている。

 とはいえ現状でも、動作の軽量さ、UIの使いやすさなどOSとしての基盤部分の素性の良さは体感できるし、ユニバーサルアプリや、AIアシスタントCortana(日本語版もインサイダープレビュー版のビルド10532で提供開始)といった、Windows 10で結実するとされてきた各種コンセプトも急速に実現されつつある。それらのメリットが実際にアプリレベルでも活用されはじめ、誰の目にも明らかな優位性を発揮しはじめるとき、Windows 10の普及は弾みを付け、一気に加速していくはずだ。

 Microsoftによれば、Windows 10は“最後のWindows”とされ、長きをかけて進化していくOSだ。その旅路はまだ始まったばかり。いまはまだヨチヨチ歩きの赤ん坊だが、骨格はできた。これからも成長を重ね、パーソナルコンピューティングとゲーミングの大変革を促す、中心的な存在になっていく。

 というわけで今回は、2カ月にわたってお届けしてきた総力特集【Windows 10ゲームマラソン】のフィナーレ。これまでお伝えしてきた各記事を振り返りつつ、それを踏み台に、近い将来、遠い将来にに向けて、Windows 10がもたらすゲーミングシーンの姿を考えてみよう。

短期展望:パフォーマンス面の真価はDirectX 12正式対応タイトルで発揮される

 まずゲーマー的に1番気になるのは、手持ちのゲーミングPCの能力を、Windows 10がどこまで引き出してくれるか、というところだろう。これについて検証した記事がこちら。

【Windows 10特別企画】Windows 10でゲームは本当に速くなるのか!?

 この記事で解説しているのは、DirectX 9~DirectX 11世代、つまり、従来のWindows向けに作られたゲームでも、ほとんどのケースで動作パフォーマンスが微増しているという事実だ。OSそのものの軽量化が功を奏しているのか、差は大きくないものの、少なくともOSを更新して既存ゲームが遅くなるということがまずないという安心感は大きい。

 しかし、Windows 10の強みが本当に発揮されるのは、DirectX 12を活用したタイトルが現われてからのことになる。DirectX 11の登場から6年ぶりに刷新された新グラフィックスAPIをコアとするDirectX 12は、最新のCPUとGPU構成において、OSやドライバレベルのオーバーヘッドを極限まで減らし、ゲームの動作パフォーマンスをググッと引き上げてくれる存在となる。これについてはゲームマラソンの開幕記事でも簡単に触れているが、最新情報も含めてもう少し深く見てみよう。

【Windows 10応援企画】「Windows 10ゲームマラソン」開幕式!

 DirectX 12で強化される具体例としては、アプリケーションのグラフィックス描画単位であるDrawCallの発行にかかるAPIオーバーヘッドの劇的な削減が挙げられる。最新の3DMarkベンチマークでは、それのみを全力で回した場合において、DirectX 11比で10倍近いという、猛烈なスピードアップが確認できている。

 無論、これはAPIオーバーヘッドを削減するという話であって、CPUやGPUの能力そのものを高めるわけではない。DirectX 9~DirectX 11世代では汎用性維持のために用いられていた細切れの馬力を、DirectX 12ではかき集めて活用できると理解するといいだろう。ゲームジャンルによってその多寡は違うが、特にハイエンドグラフィックスの次世代ゲームや、PCならではの大規模なストラテジーゲーム、来年本格始動するVRゲーム等で、APIオーバーヘッドの削減は大きな効果を発揮すると考えられる。

【Ashes of the Singularity: DirectX 11 vs DirectX 12 Benchmarks】

 こういった最適化によりPCの潜在能力を限界まで引き出してくれるDirectX 12だが、ゲーム側の対応の難しさが弱点だ。描画エンジンやアプリそのものについて、DirectX 11以前とは全く違った作り方をしないと、潜在能力が発揮できないのだ。例えば、同じような作り方をすると、パフォーマンスは変わらず、単に実装が面倒なだけになる。だから目下、多くのゲーム開発者にとってDirectX 12事実上の正式ローンチは、Unreal Engine、Unity、CryEngine等のメジャー系ゲームエンジンがDirectX 12に正式対応するタイミングとなる。

 喜ばしいことにいずれのメジャー系エンジンも、DirectX 12への対応予定は確定事項。特に先進性をウリとするUnreal Engine 4やCryEngineは対応に積極的で、エンジンレベルのサポートを既に進めているほか、実際のゲームプロダクト(『Fable Legends』、『King of Wushu』等)での先行実装も進行中。UnityもDirectX 12対応に着手しており、来年春までのマイルストーン内で対応予定だ。

 多くのゲーム開発者がそれらのエンジンを用いれば、DirectX 12による恩恵を自前の製品に組み込んでいくことができる。各エンジンのDirectX 12対応が完了する2016年春からは、今とはうってかわってDirectX 12対応ゲームがドカドカとリリースされるようになっていくだろう。そのトレンドが明らかになれば、今現在主流のWindows 7ユーザーも、Windows 10への移行に大きなメリットを感じられるようになるはずだ。

【DirectX 12 Demo Unreal Engine 4】

【Fable Legends: DirectX 12 vs DirectX 11】

【King of Wushu DirectX 12 Demo】

中期展望: ユニバーサルアプリがもたらす、新しい形のゲームマーケット

 Windows 10が競合OSに対して手にした最大の武器のひとつ、それがユニバーサルアプリ。Windows 10がサポートする全ての形態のデバイス、つまりデスクトップPC、ノートPC、タブレットPC、スマートフォンまで、全く同じプログラムが動作するという、デバイスの垣根を根本的にフラット化するプラットフォーム技術だ。

 このユニバーサルアプリの概念は、ゲーマーにも大きなメリットを与えてくれる。好きなゲームをデスクトップやモバイルを問わず、自由にプレイできるようになるからだ。あるゲームのデスクトップ版とモバイル版、というものではなく、全く同じものをだ。

【Windows 10特別企画】Xbox Appとユニバーサルアプリがゲーマーの未来を作る!

 こういったコンセプトについては上記の記事で詳しく触れたが、その後MicrosoftからWindows 10ユニバーサルアプリ版「Minecraft」がリリースされるなど、コンテンツの拡充が急ピッチで進行中。なにしろ、従来のモバイル(Windows RT)向けバージョンからの展開がしやすいため、あっという間に普及が進みそうだ。あとはWindows 10 版のSurfaceタブレットPCや、Windows 10 Phoneといったスマートデバイスの普及が進むことで、ますます身近な存在になっていくだろう。

【Windows 10検証】「Minecraft」 誰もが楽しめるものづくりゲーム!

 ちなみにユニバーサルアプリ版のゲームについて現時点での難点を上げるとすれば、PC上においてエクスクルーシブ・フルスクリーンモードに対応していないところが気になっている。ウィンドウ表示をフルスクリーンに拡大する、いわゆるボーダレス(仮想)フルスクリーンでの動作は可能だが、描画→表示の間にOSのシェルを経由する分、若干の入力遅延が発生する。このため、ガチのスポーツ系FPSなど、Eスポーツ系のハイエンドタイトルでの活用には抵抗があるのも事実だ。

 このため、より手軽にエンジョイするゲームはユニバーサルアプリ化が進みつつも、もっとガチに勝負したり、突き詰めたプレイをしたいゲームはネイティブアプリで、というすみ分けが当分続くことになるはずだ。

 ただ、その先、いつ頃になるかはわからないものの、表示遅延などの細々とした問題がひとつひとつ解決していけば、最終的に残るのはユニバーサルアプリのほうだ。デバイスの形態やプロセッサの仕様に強く結びついたネイティブアプリは、今後、多くのシーンで不便な印象を醸し出すことになる。逆に、よりユーザーフレンドリーな形で遊べるユニバーサルアプリの形に各ゲーム製品が集約されていく将来像は、わりと容易に想像できる。

 いまはデバイスの垣根に分断されているPCゲーマーとモバイルゲーマーのコミュニティも、Windows 10が統合する将来に向けてゆるやかにつながりを深め、最終的には1つの巨大なゲームマーケットとなっていく。

長期展望: バーチャルリアリティ(VR)とホログラフィックコンピューティングの未来へ

 さまざまな新機能を持つWindows 10だが、やはりその本質は、上記で触れてきたようなOSとしての軽量性と堅牢性、DirectX 12による高パフォーマンス出力、ユニバーサルアプリによるゲームマーケットの統一化、といった骨組みの部分にこそあるように思う。

 この強力な骨組みをもとにパーソナルコンピューティングの大きな進化を目指すMicrosoftだが、数々の取り組みの中でもVRへの注力ぶりは注目に値する。ゲームをテコに技術革新が進むVRをOSレベルで積極的に取り込むことで、Microsoftが自社開発を進めるAR(強化現実)/MR(混合現実)システム「Microsoft Hololens」の進化を早めようとしているのだ。この事実については以下の記事で詳しく論考を加えた。

【Windows 10特別企画】来たるべきVRゲーミング時代を加速するWindows 10

 「Hololens」が目指すのは、ホログラフィック・コンピューティングの世界。人とコンピューターの関わり方そのものを革新する、近未来のキー技術だ。その実現のため、OSの軽量性や、DirectX 12や、ユニバーサルアプリの仕様が縦横無尽に活用されようとしているのだ。Microsoftが長年をかけて整備してきたすべての道は、「Hololens」に通ず。

 ホログラフィック・コンピューティング。その本格的な実現は5年後か、10年後かわからないけれども、その基礎工事はWindows 10という形で出来上がっている。来年にはOculus Rift、HTC Viveが牽引するPC向けVRゲーム市場が本格ローンチ。それがさらに進んでいくこれから2~3年のうちには、「Hololens」が目指す将来像や実際に得られるコンピューティングの形も、具体的に見えてくることだろう。

 そのためにであっても、MicrosoftがOculus VRやValveと積極提携し、Windows 10を最高のVRゲーミングOSに仕立てようとしている姿勢は、ゲーマー的にも大歓迎だ。まだまだ多くの実験や技術革新が求められるVRの世界。未来志向のOS、Windows 10がその進化を加速していく。

(佐藤カフジ)