【GDC2012】西川善司の3Dゲームファンのための「Unreal Engine 3」講座 Ver.2012
EPIC GAMES、NVIDIAの新GPU「Kepler」を用いたデモを公開。UnrealEngine3はFlash対応へ
ライセンシーには次世代機向けゲームエンジン「UnrealEngine4」を披露
■ EPIC GAMES、NVIDIAの新GPU「Kepler」を用いたデモを公開。UnrealEngine3はFlash対応へ。ライセンシーには次世代機向けゲームエンジン「UnrealEngine4」を披露
GDC2012会期3日目からは展示セクションであるGDC EXPOも開幕する。
また、日本のゲーム関連イベントではあまり見かけないリクルーティングブースもオープンする。リクルーティングブースでは、各ゲームスタジオがブースを構えており、各来場者は、就職希望先のスタジオのブースに履歴書と見本作品を持ち込んでその場で面接をうけるという仕組みだ。
今年は、事前にKONAMIの小島プロダクションがFOX ENGINEの開発者を募集したことが話題になった。興味本位ながら、ブースを覗いてみたところ、なかなかの混雑ぶりで、面接希望者の列ができていた。
リクルーティングブースの様子 | かなりの賑わいを見せていたKONAMI DIGITAL ENTERTAINMENTのリクルーティングブース。奥の画面には「メタルギアソリッド」の映像が |
■ GeForce GTX 580の3倍の性能を持つNVIDIA Kepler。単機でSAMARITAN DEMOを1080p/30fpsで動かす様を公開
人出……という意味では、UNREAL ENGINE(UE)を有するEPIC GAMESのブースにも大勢のマスコミ関係者が詰めかけていた。NVIDIAから業界の記者に対して一斉配信でEPIC GAMESブースで開催されるプレスカンファレンスにて新技術を先行披露するというメールが届けられたからだ。
EPIC GAMESブースの様子 |
EPIC GAMESのブースは、リクルーティングブースが設けられているEXPOセクションと同じ西ホールにあり、他と比べれば大きなブースだったのだが、詰めかけた記者達を全員収容することができず、プレスカンファレンスはギュウギュウの立ち見状態となった。
お目玉は、予想通り、NVIDIAの次世代デスクトップPC向けウルトラハイエンドGPUの開発コードネーム「Kepler」だ。
Keplerは発表前のプロダクトであるためか、プレスカンファレンスなのにプレスカンファレンス中は撮影が禁止され、プレスカンファレンス後に撮影の許可がなされるという一風変わった段取りとなった。なので本レポートは、プレスカンファレンス開催中の写真は一切ないことをあらかじめお断りしておく(写真はプレスカンファレンス前と後に撮影されたもの)。
さて、現行のNVIDIAのDirectX 11世代プログラマブルシェーダ5.0仕様(SM5.0:Shader Model5.0)対応のGPUコアはGeForce 400/500シリーズだが、これはFermiコアと呼ばれる基本アーキテクチャであった。昨年発表されたウルトラハイエンドクラスのGeForce GTX 580シリーズも、Fermiコアのリファイン版だ。
今回、EPIC GAMESブースで公開されたKeplerは、このFermiから2年ぶりにアーキテクチャが刷新された新コアとなる。
電源コネクタには8ピンの姿がなく6ピンのみ。駆動電源ユニットは400~600W程度の一般的なものとなる。
NVIDIAがまだ未発表としているため、スペックは非公開となったが、EPIC GAMESのVice PresidentのMARK REIN氏は、実際にこのKeplerが搭載されたマシンで、SAMARITAN DEMOをリアルタイムに動かせて見せた。
SAMARITAN DEMOとは、昨年のGDC2011で公開された、EPIC GAMESが「次世代ゲーム機へのラブレター」というコンセプトを掲げて開発したテクニカルデモだ。このSAMARITAN DEMOに関しての詳細については、筆者の連載記事「西川善司の3Dゲームファンのための『Unreal Engine 3』講座 Ver.2011」で解説しているのでそちらを参照して欲しい。
昨年公開された次世代UE3ベースで開発されたリアルタイムテクニカルデモ「SAMARITAN DEMO」 |
SAMARITAN DEMOは、DirectX 11フィーチャーのテッセレーションなどを積極的に活用しただけでなく、表面下散乱を駆使した人肌表現、オーバーキルともいえる負荷の高い多重ポストプロセスなども盛り込んでいたため、昨年の時点ではGeForce GTX 580を3枚同時駆動させる3Way SLI状態でやっと動作できるというものであった。
ところが、今回のKeplerでは、たった1基だけで、このSAMARITAN DEMOを、1,920×1,080ドットの解像度で30fps以上で動作させていた。
Keplerのデモに使われたSAMARITAN DEMOは、昨年とほぼ同じランタイムで、違いはアンチエイリアスモードだけだという。昨年のGeForce GTX 580×3のランタイムではアンチエイリアス処理にMSAAを用いていたが、今回のKeplerのランタイムでは、処理負荷の軽いFXAAを採用している。
デモ自体の画面も撮影禁止だったので、直撮り映像を見せることはできないのが残念だが、上に挙げた映像がそのまま1080pのクオリティでリアルタイムレンダリングされていたことは筆者も確認している。
このデモだけでKeplerの性能を決めつけることはできないが、ある一定の状況下においては(≒高負荷なDirectX 11世代グラフィックスレンダリングにおいては?)、KeplerはGeForce GTX 580×3程度の性能があると言う推測がなり立つ。
今回のEPIC GAMESブースでのデモの現場には、NVIDIAスタッフもいたので、Keplerについての詳細は近日中に明らかになることだろう。
Keplerを掲げるEPIC GAMESのMARK REIN氏 | デモに用いられたKepler搭載パソコン。CPUやチップセットなどのスペックは不明 | 2010年、かつてNVIDIAは、KeplerコアはFermiコアの3倍近いパフォーマンスがあると予告した。今回のデモはそれを裏付ける格好に。写真はNVIDIAが開催したGPU TECHNOLOGY CONFERENCE 2010の基調講演のもの |
■ プレイステーション 4や次世代Xboxなどの次世代ゲーム機向けゲームエンジン「Unreal Engine4」をライセンシー向けに先行公開
UE4のデモを見たライセンシーに配布されたUE4プリントTシャツ |
EPIC GAMESブースが、混雑していたのにはもう1つ理由があった。
それは、EPIC GAMESが開発中のUNREAL ENGINE4のテクニカルデモをライセンシー向けに公開し始めたためだ。
MARK REIN氏によれば、詳細な仕様については2012年後半に公開されるとのこと(別のEPIC GAMES関係者はE3の時期に公開する可能性もあり……とのこと)。
公式な情報はないが、関係者によれば、レンダリングエンジン自体は、DirectX 11ベースになっているそうで、SAMARITAN DEMOで使用された技術のほとんどがエンジン側から使えるようになっていると見られる。
PS3もXbox 360も登場する前の2004年当時に、EPIC GAMESが「次世代ゲームグラフィックス」として公開した映像。後に「Gears of War」として実際にこれが実機で動くことになる |
最近、海外のゴシップサイトなどで「PS4のコアプロセッサはAMDのFUSIONベースに決定した」と報じられて物議を醸したが、その真偽はともかく、UE4が動き始めたということは、そろそろ次世代機も現実味を帯びてきたということなのだろう。
思い返せば、プレイステーション 3が登場する2年前、Xbox 360が登場する1年前となる2004年に、EPIC GAMESが「次世代ゲームグラフィックス」として次世代Unreal Engineとして公開したのが右の映像だった。次世代Unreal Engineは、Unreal Engine3(UE3)と命名され、公開されたリアルタイムテクニカルデモは、ほぼそのままのクオリティでEPIC GAMESの自社開発看板ゲーム「Gears of War」シリーズで実現された。この時のことを踏まえれば、次世代機の表現クオリティがSAMARITAN DEMO以上になるという彼らの主張には、それなりの信憑性がある。
SAMARITAN DEMOに用いられた新技術の数々。これらは新版UEで標準機能として利用できるようになるはず |
■ Wii UやPlayStation Vitaに向けてのUE3ベースのタイトル開発が進む
今後、話題の中心は、Unreal Engine4になっていくと思われるが、今回のGDC2012では、EPIC GAMESはUnreal Engine3(UE3)に関しての2つの大きなアップデートを発表している。
その1つは、UE3の新ハードへの正式対応表明だ。具体的にはPS VitaとWii Uへの対応と言うことになる。
PS Vitaに関しては「Doctor Who The Eternity Clock」や「Mortal Kombat」が、PS Vita版UE3で現在、開発が最終段階にあることが告知された。
【Doctor Who The Eternity Clock】 |
---|
Wii Uに関しても採用が進んでおり、直近の例としては、「Aliens: Colonial Marines」が挙げられた。同作はPS3、Xbox 360、PC向けにマルチプラットフォーム展開されるUE3ベースのタイトルだが、現在、Wii U版UE3で快調に動作しているとのこと。ちなみに、昨年のE3で公開された同作の映像は、Wii U版UE3の実動映像だったことが今回のプレスカンファレンスで裏話として明らかになった。
PS Vita版 UE3やWii U版 UE3の映像も見られる2012年版UE3映像集 |
■ UE3がAdobe Flashに対応。WebブラウザでPS3、Xbox 360クラスのゲームがプレイ可能に!?
UE3アップデートネタのもう1つは、UE3がAdobe Flashに対応するというニュースだ。
これによりUE3ベースのゲームがクロスプラットフォームで、なおかつWebブラウザで動作するようになる。
「UE3がFlashに対応する」という字面だけを取ると理解が難しいかも知れない。具体的には、CやC++で開発したプログラムを中間言語バイナリにコンパイルしてAdobe FlashないしはAdobe Airで動作できるようにするメカニズム「Adobe Alchemy」を利用しての対応となる。なお、対応Flashバージョンは11.2以上。
EPIC GAMES関係者によれば、3DグラフィックスはGPUアクセラレーションが効かせられるため、まずまずのパフォーマンスが出るとのことだ。問題はCPUコードで、それなりに高いCPU性能がないとUnreal Tournament IIIクラスのリアルタイムゲームは、プレイアブルパフォーマンスが得られにくいようだ。
3Dグラフィックスの表現能力自体はOpenGL ES2.0に準拠するものとなり、DirectX世代でいうとDirectX 9/SM3.0相当クラスと言うことになる。これは丁度PS3、Xbox 360などと同世代表現能力ということであるため、UE3のターゲットプラットフォームとしても申し分がないということになる。
現在、iOS版UE3テクニカルデモとして開発された「CITADEL」、無料版UE3であるUDK作品の「Dungeon Defender」、Xbox 360用1人称シューティング「Unreal Tournament III」などが実験的にflash版UE3のデモとして動かされており、その映像も公開された。なお、「Dungeon Defender」のFlash版UE3版に関しては、プレスカンファレンス内でフル画面、Webブラウザ内画面の両画面モードでの実演プレイを披露。Flash版UE3が実動レベルにあることが示された格好だ。
Flash版UE3上で動作している「Unreal Tournament III」のSanctuaryステージのフライバイデモ |
Flash版UE3上で動作している「CITADEL」デモ |
「CITADEL」と「Unreal Tournament III」はテクニカルデモなので直近のリリース予定はないが、「Dungeon Defender」については、2012年末にFlash版UE3のリリースを記念して無料配布を計画しているという。「Dungeon Defender」のFlash版UE3バージョンは、フルスペックでの動作を目標にして開発が進められており、ネットワーク対戦/協力プレイなどにも対応する予定となっている。
ついに、Webブラウザでも家庭用ゲーム機のハイエンドコアゲームクラスのものが動作できる環境が整いつつあるというわけだ。“マシンパワーさえあれば”という条件付きながらではあるが。
UE3ベースでゲームを開発すれば、Webブラウザプラットフォームにまで展開できるとなると、商用エンジンとしての訴求力はこれまで以上に強くなる。
ハイエンドゲームをますます身近にする一方で、ゲーム専用機の存在意義についての議論にまで発展しそうなFlash版UE3。果たして、Webベースのゲーム開発プラットフォームとして中心的な存在になり得るのか、注目されるところだ。
Flash版UE3上で動作している「Unreal Tournament III」のSanctuaryステージのゲームプレイ |
Flash版UE3上で動作している「Unreal Tournament III」のSanctuaryステージのフライバイデモ |
(2012年 3月 8日)
[Reported by トライゼット西川善司]