西川善司の3Dゲームファンのための「Child of Eden」講座(前編)
シナスタジア理論を支えるモーション&エフェクトリッチなゲームグラフィックスの極意とは!?



水口哲也氏(キューエンタテインメント株式会社COO)

 「スペースチャンネル5」シリーズや「REZ」、「ルミネス」シリーズなど、映像と音楽のシンクロニシティをテーマにした斬新な名作ゲームを数多く手がけてきた水口哲也氏率いるキューエンタテインメント。

 2011年10月に発売された最新作の「Child of Eden」も、水口氏が得意とする映像と音楽を融合させたリアルタイムシューティングゲームとなったわけだが、この作品では、ゲームシステムをモーション入力に対応させたことで、映像と音楽、そしてプレーヤーのアクション(モーション)までをも三位一体でシンクロさせる新しいエンタテインメントの可能性を切り開き、話題となった。

 この作品は、一方で、本連載のテーマであるグラフィックスに目を向けても今作は興味深いところが多い。素材表現のリアリティというよりは、コンピュータグラフィックスならではの映像表現とそのグラフィックスの動きそのものをリッチにすることを目指しており、非常にユニークなのだ。

 今回は前後編の2本立てでじっくり「Child of Eden」の魅力に迫っていく。前編では「Child of Eden」というゲームの本質とグラフィックスの関係性に付いてみていくことにしたい。


【著者近影】
「Child of Eden」で、とにかく感動が大きかったのは3D立体視との相性の良さ。取材時点ではXbox 360版しかなかったため、取材の帰りにPS3版を買って帰り、大画面☆マニア用で借りていた3Dプロジェクタでプレイしてみたところ、感動ものであった。腫瘍摘出手術前に行なったので、筆者の表情にも精気がある(笑)。ブログはこちら




■ 「Child of Eden」とKinect対応について

Xbox 360とKinect

 「Child of Eden」は通常のゲームコントローラーでもプレイできるのだが、やはり「Kinect対応ソフト」というイメージが強い。キューエンタテインメントとしても初のKinect対応作品と言うことで、その開発にはだいぶ苦労したようだ。

 まず最初の難関となったのが、伸ばした手で画面内をポイントするという基本操作の認識。ポイントした先が揺れノイズが乗ってしまい安定しなかったという。そしてレーザーを放つというアクションのジェスチャー認識を同時に高精度に行なわせることも難しかった。

 Kinectの初期コンセプトがそもそも、プレーヤーの動きを仮想空間内に表示されているキャラクターに投射反映させるようなゲームを想定されていたため、精度の高いポインティングアクションの取得と、ジェスチャーコマンドの連続認識というものは、本作の開発が始まった頃のKinect黎明期にとっては新しい挑戦だったに違いない。

 この「Child of Eden」開発チームが直面した問題に際して、Microsoftは、Kinectのコア開発を担当していたプロジェクトマネージャーとプログラマーを、通訳付きでキューエンタテインメントに派遣し、問題の解消に当たらせたそうだ。期間限定ではあったが、実際に「Child of Eden」のプログラマと肩を並べてコーディングを行ない、開発初期に直面したKinect特有の問題は無事解決されたのだという。おそらく、Microsoftからの派遣スタッフは、ここでの経験を本国に持ち帰ったと推察され、これが後に提供される高パフォーマンス、高認識精度の新バージョンKinect SDKのリリースにも活かされたと思われる。

 また、「Child of Eden」と言えば、水口氏が指揮者のように両手を振りかざしてプレイするプレゼンテーションが印象的だったわけだが、ああいった手を閉じたり開いたりするアクションまでを、本作では認識しているのだろうか?

高梨真氏(キューエンタテインメント株式会社、グラフィックデザインセクションリーダー)

高梨真氏(キューエンタテインメント株式会社、グラフィックデザインセクションリーダー)「あれは水口のプレゼンの巧さです(笑)。実は、当時のKinect SDKでは、かなり近づかないと指の動きまでは取得できなかったので、「Child of Eden」では、指の動きの取得は採用していません。ゲームシステム上は握り拳のままで肘から腕を横に振り出せばレーザー発射のコマンドとして認識はされます。ただ、水口のようにプレイした方が爽快で楽しいですし、見栄えもよく、本作の面白さが一目で理解して貰えますから。プレゼントしては最高だったと思います(笑)」

 技術的な問題は解決できても、どこまでを正解として認識して、どこまでをエラーとして認識しないかのゲーム性にまつわるチューニングは結局のところかなり難しかったようだ。

 ゲームは適度なストレスがないと、「障害に挑戦してそれを達成して得られる爽快感」をプレーヤーに与えられないし、ストレスを与えすぎてはゲームとしての面白みがなくなってしまう。こうした“落としどころ”は、技術というよりは、ゲームデザインチームが中心となって、徹底的に調整を行なったという。

高梨氏「結果的には、正解の動きを完全にトレースしなくても自由度の高い動きでプレイできるようにしましたし、我々のデバッグチームなどに居る達人クラスのように(笑)、最低限の腕の動きだけでプレイすることもできます。かなりプレイスタイルのダインミックレンジは広めにとってありますね」




■ 「Child of Eden」とPS3 Move&3D立体視対応について

PlayStation Move

 「Child of Eden」は、Xbox 360のKinect対応が全面的にプッシュされ、メディアでの露出もXbox 360版のほうが多かったので、イメージ的にはXbox 360専用ソフトというイメージがあるかもしれないが、実はPS3版も発売されている。

 海外向けXbox 360版は2011年6月、海外向けPS3版は2011年9月、日本では両版共に2011年10月に発売されている。なお、PS3版はPlayStation Move(PS Move)に対応し、Xbox 360版のKinect対応と同様にモーション入力システムをサポートしている。

 本作は、海外向けXbox 360版の発売時期が早期に設定されたため、基本的にはXbox 360版の開発を集中先行して進められたが、元々PS3版への発売も予定されていたため、デザインチームが製作するアートアセット群は、Xbox 360版用だけでなく、自動的にPS3版用のデータも同時に生成される仕組みが構築されていた。

高梨氏「最初、Xbox 360版は最適化よりも時間に追われた開発だったこともあって、最適化が不十分でした。しかし、Xbox 360版はその高いGPU性能でなんとか動いていたんです。しかし、これをそのまま持ってきただけの開発初期のPS3版は、速度が出なくて泣かされました(笑)。その意味ではPS3版ではグラフィックスの最適化を強く押し進めましたね。また、どうしてもGPUの性能差で力不足になる部分については見た目に違いが出ないようにグラフィックスを調整して速度を稼いでいます」

 その具体的な調整だが、エフェクトグラフィックスの解像度は下げるようなことは極力行なわず、エフェクトがエフェクトを生むような階層表現に制限を加えるなどしてフィルレート不足や過剰なバス消費を避けたようだ。

高梨氏「PS3版の開発は、実質Xbox 360版完成後に行なわれたので、グラフィックスの調整はパフォーマンスを上げるための調整だけではなく、見た目のかっこよさや洗練度を上げるためのアレンジとでもいいますか、自分が1人で時間のある限りこっそりいじりまくりました(笑)。なので横に並べて見比べると結構、違う箇所がありますし、PS3版の方が格好良くなっている部分とかも多いですよ」

 また、PS3版の開発で最後まで開発チームを悩ませたのがバス消費が最大に近づいたときに挿入されるノイズ音だったという。この問題を回避するため、PS3版はXbox 360版よりも若干、サウンドのミックスチャンネル数を控え気味にしている。ただ、サウンド面でXbox 360版よりも劣るかというとそういうわけでもなく、部分的に曲のアレンジが変わったように聞こえるくらいの違いだそうだ。

 開発スタッフの間でも、PS3版肯定派、Xbox 360版賛同派にほぼ均等に分かれるほど人気を二分しているそうで、今回のXbox 360版の開発を先行させ、PS3版でブラッシュアップするという開発スタイルは、図らずも結果的には作品に対して良い影響を与えたと振り返られている。

 さて、もうひとつ。PS3版は、3D立体視にも対応する。これはXbox 360版にはないPS3版特有のフィーチャーになる。

高梨氏「PS3版の開発で挑戦のしがいがあったのは“3D立体視”ですね。Xbox 360版の開発では『立体的にどう見えるか』というのは度外視してデザインしていたんです。だから初めて3D立体視化して見た時にペラペラに見えていて(笑)。3D立体視対応を推し進める段階では、エフェクト群の1つ1つに奥行きを与えるというか、立体的に見せる工夫を盛り込んでいます」

【3D立体視向けのチューニングが行なわれたPS3版のグラフィックス(1)】
上段がXbox 360版で、下段がPS3版。奥から手前に伸びるBISHAMONエフェクトを敵に追加することで、3D立体視時の迫力を増強させていた

 Kinect対応からPS Moveへの対応に関しては、最初のKinect対応への取り組みの調整の難しさと比較すれば、技術的な苦労は殆ど無かったとのこと。Kinectは赤外線深度センサーで捉えた深度データからユーザーのボーン/姿勢を取得し、そうした情報から腕が指し示している先の画面座標系を算出したり、あるいはアクションやポーズを認識してコマンドを発動したりする高度な処理が必要になるが、PS Moveは、かなり技術的安定性の高いポインティングデバイスとして機能するので苦労は少なかったようだ。

高梨氏「PS Move版ではレーザーリリースの方法を2タイプ用意しています。『ボタンでレーザーをリリース』と、『ジェスチャーでレーザーをリリース』です。デフォルトではジェスチャー型になっています。開発当初はレーザーをボタンで発射できるようにしていたので、効率の良い『狙って撃つ』が可能になってしまい、ゲームがとても簡単になりすぎてしまいました(笑)。適度なストレスというかゲーム性を盛り込まないとつまらなくなってしまうので、『手首を返す動きを入れないとレーザーが発射されない』といった感じで調整を行ないましたね」


【「Child of Eden」3D立体視モード(動画)】

今回特別にPS3の3D立体視モードの実際のプレイ動画をYouTube3Dで公開する。一般的な3Dテレビや3Dモニタで視聴する場合は、この動画を「3D」モードではなく、「2D」モードにて全画面再生し、テレビ側の3Dモードを「サイドバイサイド」に設定すればOK。
画質モードは「720p」とした方がより鮮明な3D映像が得られる。詳細な操作方法や設定手法についてはYouTube3Dのヘルプを参照して欲しい



■ 「Child of Eden」のグラフィックススペック

 「Child of Eden」のレンダリング解像度は1,280×720ドット(720p)。フレームレートは60fps。PS3版もXbox 360版もこれは同一仕様だ。メインのレンダーターゲットはXbox 360版がαRGBが2:10:10:10の整数32ビットフォーマット、PS3版が8:8:8:8の整数32ビットフォーマットを採用する。

 PS3版は前述したように3D立体視に対応しており、3D立体視時は、レンダリング解像度は1,280×720ドットのフレームパッキング・フォーマットの30fpsを採用している。よって左右の眼用の各フレームは2D時と同じ1,280×720ドットが維持されるが、フレームレートは左30Hz、右30Hzでの表示となる(テレビ側としては60Hz表示相当)。解像度を維持してフレームレートを半分にしたことで、GPU側のレンダリング負荷は2Dの720p/60fpsとほぼ等価に据え置くことができる。

 フレームレートを維持して解像度を半分にするトップアンドボトム、サイドバイサイドを選択する道もあったはずだが、3D立体視時は映像の鮮明な見え方の方を重視し、解像感の方を優先するディレクションが選択された。なお、3D立体視時は、さらにパフォーマンスを稼ぐために、エフェクト系のテクスチャ解像度を半分に下げる工夫も盛り込まれているとのことだ。

 映像と音楽のリアルタイムシンクロニシティを楽しむゲームであること、シューティングゲーム的なゲーム性が本作のコア部分になっていることから3D立体視においても解像度よりもフレームレートが最優先されたのだろう。なお、3D立体視時は、さらにパフォーマンスを稼ぐために、エフェクト系のテクスチャ解像度を半分に下げる工夫も盛り込まれているとのことだ。

【圧倒的な物量のエフェクト その1】
エフェクトリッチな「Child of Eden」のグラフィックス

 シーンあたりのポリゴン数は、シーンによって振り幅があるが、およそ30万から60万ポリゴン程度。この値はオンスクリーン(表示)されているジオメトリ量と、オフスクリーン(表示外ジオメトリやリアルタイム素材生成などに割かれるもの)のジオメトリの総計となる。最近のゲームグラフィックスにしてはかなり少なめの値に思えるかも知れないが、これは「Child of Eden」というゲームのグラフィックスの主役が複雑なジオメトリで構成されるキャラクターグラフィックスではなくエフェクト描画、すなわちフィルレート重視で設計されているためだろう。

 言い方を変えれば本作は頂点シェーダーよりもピクセルシェーダー負荷の高いグラフィックスになっていると言うことができるかもしれない。テクスチャ総容量は約400MB。シーン当たりはの平均テクスチャ容量は20~30MBほど。こちらもかなり小さいように思える。

【圧倒的な物量のエフェクト その2】
絶対的なジオメトリ量は同時代の他タイトルと比較して少なめだ

高梨氏「一般的なゲームよりは圧倒的に小さいです。『Child of Eden』の場合、コンパクトな複数のテクスチャ素材を組み合わせて新しいマテリアル表現を作ったり、あるいはサウンドに合わせて複数テクスチャを動かすと言った方向性で多彩な表現をしていますからね」

 「Child of Eden」の場合は、一般的なフォトリアル系ゲームグラフィックスとは違い、ディテール表現のために大きな写実テクスチャを広域に貼り付けることは行なわれていないのだ。それよりもむしろ、テクスチャ素材を新たにエフェクトやマテリアルを表現するための“タネ”として利用しているというイメージなのだ。

【シンプルなテクスチャ素材で表現しているマテリアル・エネミー1】
スクリーンショット
使用されているテクスチャ素材
実際のゲームシーン(動画)

【シンプルなテクスチャ素材で表現しているマテリアル・エネミー2】
スクリーンショット
使用されているテクスチャ素材
実際のゲームシーン(動画)

【シンプルなテクスチャ素材で表現しているマテリアル・エネミー3】
スクリーンショット
使用されているテクスチャ素材
実際のゲームシーン(動画)




■ 「Child of Eden」のグラフィックスパイプライン

 「Child of Eden」のグラフィックスは、これまで掲載してきたスクリーンショットや動画を見てもわかるように、まるで発光生物が深海で踊るような、あるいは何十億年規模の天体ショーを早送りで見ているような、登場オブジェクトの全てが光源になっているかのような、幻想的かつ独創的なグラフィックスになっている。

 一見異質なグラフィックスの本作のグラフィックスだが、実はライティングやレンダリングのパイプラインそのものはオーソドックスだ。基本的には古典的なフォワードレンダリングメソッドが採用されている。

 特殊な状況や特別なオブジェクトへのスペシャルケースを除けば、シェーダーは基本的に拡散反射(ディフューズ)、環境光(アンビエント)、法線マップ、環境マップ、そしてそれらを法線と視線の角度に応じてミックスを変えるようなフレネル制御などで構成される。レンダーターゲットへの描き込み(出力)に関しては乗算、加算、減算などの合成条件が自在に設定できるとのことだが、基本的にはシンプルなシェーダー設計になっている。

 シーン当たりに設定される光源は基本的には平行光源が1つのみ。シーンによっては動的な点光源等を複数発生させているところもあるが、実際のライティング計算に影響を及ぼす動的光源の数はそれほどは多くない。きらびやかに見える、総天然色ならぬ総天然“放射”色に見える本作のグラフィックスだが、光をエミットしているように見えるのは、デザインとエフェクトの妙によるものなのだ。

 また、「Child of Eden」のグラフィックスでは、あえて一切の影生成が行なわれていないという点も、独特なビジュアルテイストの1つになっていると思われる。

高梨氏「もうひとつ『Child of Eden』のグラフィックスで面白いのは、表示されている約半分のオブジェクトにデザインデータがないという事実ですかね」

 これは補足が必要だろう。わかりやすく言えば、画面に表示されている様々なグラフィックスの半分は、アーティストがDCCツールで製作した3Dモデルのデータが存在しないということだ。

 例えば、最初の練習ステージの背景では、無数のルービックキューブのような立方体がトンネル状に並び音楽に合わせて回転しながら有機的なダンスのような振動ウェーブを披露してくれているが、アーティストが製作したデザインデータは、このルービックキューブを構成する1ブロックのみ。ルービックキューブ状のオブジェクトに構成して見せているのはプログラムによるロジックの方であり、同時に、有機的なダンスやウェーブのような動きもプログラムロジックから与えられている。

高梨氏「アーティストからプログラマにはオブジェクトを構成するパーツのモデルデータと、NULL設定されたパラメータ群だけです(笑)」

 つまり、「Child of Eden」では、プログラムロジック側からプロシージャルに登場オブジェクトを構成し、動きを与えているということだ。これは、プログラマに相当なアートセンスを求められるということでもある。自然現象を簡略モデル化してリアルに動かすというのは一般的なゲームプログラマの得意とするところだが、「Child of Eden」の場合は表現される主題が幻想空間なので、物理法則を超越した表現までもが求められる。ある意味、「Child of Eden」のプログラマはアーティストチームの1人だったといえるのかもしれない。

【Matrixアーカイブ・Area1の背景データ】
「Child of Eden」における大量のパーティクルエフェクト表現では、実際に表示するポリゴンモデルではなく、パーティクルパーツの集合体の配置データをプログラマに受け渡していた。例えば、ステージ「Matrixアーカイブ」の「Area1」では、この画面に出ている1つのリングだけを配置データとしてアート/デザインチーム側で用意しており、プログラム側でこれを複製表示している。ただし、配置間隔、リング間の動きの遅延、色の強弱などの詳細なパラメータ調整は、アート/デザインチームなどの手によって実機上にて行なわれる
実際のゲーム中の映像(動画)

 なお、さすがに全ての登場オブジェクトを直接プログラムで駆動するような設計ではコンテンツ製作の効率が悪くなるので、基本パーツを組み合わせて構成されるオブジェクトがどう動くか、どう色を変えていくか、といった制御はスクリプトで制御される設計としているということだ。

高梨氏「プログラマがとてもクリエティブで、プログラマからアートチームに『これでいいのか?』という逆突っ込みが入ることもしばしばありました。制御スクリプトは、プログラマ、アーティスト、企画の人間などが適宜分業して担当しました。それと、今作ではプリビズは相当活用しました」

 ボスとの対決シーンのような特殊演出シーンでは、オブジェクトの動き自体がゲームロジックと密接に関わっているため、制御スクリプトの範疇を超越してしまう。こうしたシーンの作り込みなどは、やはりプログラマに頼る必要があり、企画/アート/デザインチームが想定した動きを正確にプログラマに伝達する必要が出てくる。その際に、利用されたのが「プリビズ」(Pre-Vizualization)だ。

 プリビズは映画製作でも広く活用が進んでいる手段で、簡単に言えば「動く絵コンテ」だ。具体的に言えば、アーティストが使い慣れたDCCツール(MaxやMaya,XSIなど)で、素案となるCGムービーを作ってしまい、それをお手本や目安として、本製作を行うのだ。

【Matrixアーカイブの中ボス】
ステージ「Matrixアーカイブ」の中ボスも、その構成パーツをプログラム的に配置している。この画面は3dsmax上で作成した中ボスの初期配置状態。シェーダーパラメータの調整などの見栄えのチューニングは実機上で行なわれる
実際のゲーム中の映像(動画)

【Matrixアーカイブの中ボス撃破後のイベントシーン】
粉々に飛び散ったジオメトリが任意の形状に再構築されるための配置データ。各ジオメトリひとつひとつの座標を指定せずに、スプライン上にジオメトリが吸着するような制御としている。ジオメトリの大きさや、色、配置間隔などは全て実機側の方で調整する
実際のゲーム中の映像(動画)

 レンダリング結果をレタッチする工程とも言えるポストエフェクトも、「Child of Eden」では、高輝度部分からの溢れ出し効果を与えるグレア効果やブルーム効果など、シンプルなものの採用に留まっている。

高梨氏「ここも議論が交わされた部分ですね。空気感を出すならば被写界深度表現とか、あるいは揺らぎのような空気遠近効果のポストエフェクトを入れる案もあったのですが、『“空気感”はいらない、むしろ“真空”のイメージが欲しい』というデザイン・ディレクションが有ったために今のようなスタイルになっています」

 確かに「Child of Eden」のグラフィックスは、プレーヤーからかなり距離の遠い先にまで深淵の闇が広がるイメージで、どこまで遠くを見てもオブジェクトがクリアに見える。筆者個人の感想としては、過度にポストエフェクトが盛り込まれない本作の映像のタッチは3D立体視との相性がよいと感じる。プレーヤーは、視界中の任意の見たいところに自由に両眼視差を合わせて、自分本位の3D立体視覚が行なえるので、空間への没入度が高いのだ。

 3D映画などでしばしば見受けられる、演出的にメインの被写体以外をポストエフェクトでボカしてしまった3D立体視映像では、自分の意志で両眼視差を合わせて見てもボケてしまっていて混乱することがある。視野を広く取って、なおかつ同時多発的に遠くから迫ってくるような敵に対処していく本作では、このディレクションは正解だったと思える。

 ただし、ゲームの遊びやすさをある程度度外視し、ユニークなポストエフェクトを噛ませたお遊び的なモードが、ゲーム進行成果とともに解放される「Extras」要素に隠されている。本編を堪能したあとは、こうしたモードをゲームオーバーにならない「Feel Eden」モードなどで楽しむといいかもしれない。

 次回、後編では、パーティクルエフェクト主体の「Child of Eden」特有のグラフィックス表現を支える新開発技術と、今年初回の本連載で取り上げた3Dエフェクトツール/ミドルウェア「BISHAMON」と「Child of Eden」の関係性に触れていくことにする。

【3D立体視向けのチューニングが行なわれたPS3版のグラフィックス(2)】
飛び散り飛散するエフェクトパーティクルをPS3版では立体的に飛散する。あえて全てのエフェクトパーティクルをクリアに描いており、プレーヤーは任意のエフェクトを目線で追うことができるので、3D立体視時はパーティクルに包み込まれている感が増強される
【エクストラモードに隠されたユニークな画調モード その1(動画)】
サイケデリックなようで、ネガフィルムのようなレトロテイストもおり混ざった独特な画調モード

【エクストラモードに隠されたユニークな画調モード その2(動画)】
エフェクト以外は色調を失ったモノトーン風画調モード

【エクストラモードに隠されたユニークな画調モード その3(動画)】
1990年代初頭の超低解像度・フィルタリング無しのソフトウェアレンダリングテイストのエフェクト

(C) 2010 Ubisoft Entertainment. All rights Reserved. Child Of Eden, Ubisoft and the Ubisoft logo are trademarks of Ubisoft Entertainment in the US and/or other countries.

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(2012年 3月 1日)

[Reported by トライゼット西川善司]