PS Vita「夜廻」レビュー

夜廻

得体の知れない“夜の怖さ”、物語の繊細な魅力が楽しめる、味のあるタイトル

ジャンル:
  • 夜道探索アクション
発売元:
開発元:
  • 日本一ソフトウェア
プラットフォーム:
  • PS Vita
価格:
5,143円(税込)
発売日:
2015年10月29日

 日本一ソフトウェアより10月29日に発売された、PlayStation Vita用夜道探索アクション「夜廻」。

 少女が、消えた愛犬と姉を探し夜の町を探索しながら謎を追っていく物語で、「夜闇に潜む恐怖」をテーマに、幼い少女がひとりで夜道を彷徨う探索型のアクションゲーム。

 その独特な和風ホラーのテイスト、主人公の少女をはじめとしたかわいらしいキャラクターなど、注目している人も多いであろうタイトル。実際どんなゲームになっているのか、レビューをお伝えしていこう。

いなくなってしまった愛犬と姉……大切なものを探して少女は“夜の闇”へ

【ストーリー】

幼い少女は、飼い犬と散歩していました。

しかし、彼女の不注意によって犬は事故に合い、どこかへいなくなってしまいます。

からっぽのリードを引いて帰ってきた彼女を見た姉は、犬を探しに外へ飛び出していきました。

ひとり残された主人公も遅れて家を出ますが、そこに広がっていたのは、見知った昼間と全く異なる不気味な夜の街でした……。

 「夜廻」の冒頭はなんともショッキングだ。事前情報を見る限り、かわいらしいデフォルメされたキャラクターの主人公であり、薄暗い夜の世界とは言え、そこに待つ恐怖……ここではお化けとするが、お化け達もポップなデザインとなっている。なのに、プレーヤーを揺さぶる物語は結構ショッキングで、本作のCEROレーティングがC(15歳以上対象)というのもうなずける。

 いなくなってしまった飼い犬の「ポロ」、そして、妹の様子を見てポロを探しにいき、そのまま帰ってこなくなった姉。事情をうまく話せないままに姉までも帰ってこなくなってしまった……そんな後悔の気持ちを抱きつつ、主人公である少女は夜の街へ愛犬と姉を探しに行く……その先には、プレーヤーの心を締め付けるような繊細な物語が待っている。

愛犬ポロの事故から、姉も姿を消してしまう……かわいらしいグラフィックスとは裏腹に、物語のそこかしこには、えぐさもある

 ゲームとしては、斜め見下ろし型の画面で夜の街やその周辺を探索していく、アクションアドベンチャーのようなスタイル。片田舎の少し昭和レトロな風情を感じさせる街並で、学校や商店街もあれば、林や山に峠、崖などもある。少女が出かけるのは常に真っ暗な夜闇であり、懐中電灯の細い光だけが頼りだ。

 道ばたのお地蔵さん、怪しく光る自動販売機、明滅している電灯……昼間に見たらなんてことのないものも、少女にとっては夜にそれらと出会えば、どれも不気味なものに見えてくる。

 誰しも小さい頃には、夜の街、ひいては夜という時間そのものに、得体の知れない気持ち悪さや怖さを感じた覚えがあるのでは……と思うが、「夜廻」の世界はそれがうまく表現されている。日本の、田舎町の、夜が持つ、独特な不気味さだ。

うらぶれた田舎町、公衆電話もある商店街など、昭和レトロ的な街。そこには“夜の怖さ”が漂う

 そんな夜の世界には“得体の知れない不気味な存在”がいる。いわゆる「お化け」なのだが、それらは少女に襲いかかってくる。もし捕まれば……血みどろの世界が待っている。ゲーム的にはセーブポイントからのやりなおしであり、お化けに捕まれば1発アウトだ。

 お化けには様々な種類がいて、不気味に佇む人ではない黒い影、子供を思わせる小さい影、顔に包帯を巻き付け血を流して徘徊するもの、捨てられさまよい歩く人形、首なしの馬、人面犬……日本ならではなの“怪”的なものもいれば、なんとも表現のしがたい異形も徘徊している。

 そうしたお化けに捕まらないよう、草むらや看板の裏などに“隠れて”やりすごしたり、Rボタンで走って逃げ切ったりしつつ、探索していくのが本作の基本だ。

 「心臓音システム」という、お化けが近くにいるときに少女の心拍数が上がって、心臓音と共に画面が脈打ち始めるという仕掛けがあり、お化けに捕まれば1発アウトというシビアさとともに緊迫感を高めてくる。走るとスタミナのゲージが減る(時間ですぐに回復する)のだが、心拍が高まっているときだと、ゲージの減りが早く、長くは走れない。

人の気配のない夜の街には、得体の知れない存在が徘徊している。それらは少女に気づくと襲いかかってくるので、草むらや看板の裏などに隠れてやりすごす

 操作そのものはシンプルで、通常の移動のほかに、Rボタンで走る、Lボタンで平行移動だ。街中では懐中電灯を照らすと「?」マークが出て、そこに何かがあるのがわかり、近づいて「!」マークに変わると○ボタンで調べられる。そうして手に入れたアイテムのなかには、「石ころ」や「10円玉」など、□/×ボタンで投げて、お化けの気をそらせられるものもある。ときにはそうしたアイテムを使いながらお化けを回避していくというわけだ。

街の至る所には何かが落ちていることも。光に反応する岩のお化けには火の点いたマッチを投げて、そちらにおびき寄せるなど、拾ったものを上手く使うのがポイントだ

 街を探索しているときはBGMはなく、少女の足音が響くのみ。懐中電灯で照らしているところ以外は真っ暗で、お化けの存在も光を当てないと基本的には見えない。真っ暗で何が突然出てくるかわからないなかを進むのはドキドキもの。お化けが見えていないのに心臓音が鳴り響いたときなどは「……! どこだ!? お化けどこだ!」と一気に緊張感が高まっていく。

 お化け以外にも、風に吹かれて音を立てるビニール袋や空き缶、不意に光の消える街灯、地面や壁から突如湧き出る無数の手などなど……他にも探索中のこちらを驚かせる、不思議で不気味なものがたくさん。

 キーアイテムや投げたりして使うアイテム以外にも、いわゆる収集アイテムがあるのだが、それもなかなか不気味なものが多く、ちらほらとダークさを感じさせる。

収集アイテムからは、少女が目撃した得体の知れないものの手がかりになるようなものも。それらから連想されるものは、結構ダークだったりする

 説明やストーリー描写のようなもののほとんどないゲームだが、街中の掲示板(特にその裏)や、落ちている物、そして少女が目撃する光景から、プレーヤーの頭の中でそれらが関連付き、物語が浮かび上がってくる。その“説明し過ぎず、想像させる良さ”はなかなかに絶妙。

 プレイの流れとしては、一定の探索が済むと、少女が遭遇した出来事、今の気持ちなどを日記という形にまとめ、帰宅。また別の場所へと家から出発していくことになる。その日記をはじめ、ゲーム中のテキストやマップは少女の手書き風になっていて、それも味がある。

具体的な説明や物語が出てくるわけではないのだが、落書きなど、断片的な言葉を繋げると、ひとつの物語が浮かんでくるような作りとなっている

 至る所にいるお地蔵さんに10円玉をお供えすることで、途中セーブも可能で、1発アウトの本作ではこまめなセーブは大切。また、10円玉をお供えせずとも、発見した別のお地蔵さんの場所へとショートカット移動もできる。

 お化けにやられてしまったあとはお地蔵さんか家からのリスタートとなるのだが、やられる前に見つけたアイテムや進行したイベントなどは保存されている。単純に場所だけリスタートとなる仕組みだ。

 難易度の話をすると、これがなかなか厳しい。複雑さのないシンプルなゲームなので誰でも挑める反面、迫るお化けをギリギリでかいくぐっていくゲームになっている。

 お化けは至近距離まで近づくとうなり声をあげつつ掴みかかってくるのだが、その瞬間を走って避けられれば、お化けが追ってこなくなったり、距離を稼げたりする。シンプルな操作性だけに、それを上手くやるのが1番のテクニックになってくる。すごいスピードでまっすぐ走ってくるお化けに反応してギリギリ避けたりなど、反応の速さと操作の上手さが問われるところはある。

 また、基本的に先に進むためのヒントとなるものがほとんどないので、どこか変なところでつまずくと、全然先に進めないという状況にもなる。それを打開しようとウロウロするなか、敵にやられ、お地蔵さんからのリスタートを繰り返すという状況になると、結構くじけそうになるかもしれない。

 その謎解きの難易度もなかなかに高めで、筆者も何度か苦戦した後、目的のものを見つけられたときには「これはわからないわ(苦笑)」と声に出てしまったほど。

 ゲームプレイの面では、ちょっと厳しいトライ&エラーの連続になることが多いのだが、本作の魅力としては「物語の続きが見たい」というものが1番であり、そのモチベーション、プレーヤーを惹き付ける魅力には、辛いリプレイもなんとか乗り越えさせるだけの力がある。

お地蔵さんに拾った10円玉をお供えして中間セーブができる。また、別のお地蔵さんのところにも移動できる。お化けにやられてリスタートになることが非常に多いので、こまめなセーブが大切だ

シンプルなゲーム性だけにシビアさもあるが、雰囲気や物語の魅力はとてもいい

 かわいらしい見た目とは裏腹に、ショッキングなシーンや、精神にくるタイプの和風ホラー、そして繊細な物語の楽しめる「夜廻」。少女(子供)目線の感性を思わせる「夜の怖さ」、その雰囲気の高め方、そこでのプレーヤーを怖がらせる手法はとても上手くできていて、他にはない独特な良さのあるタイトルだ。少々シビアなところが目立つのだが、愛犬と姉の行方、そして少女の体験する「夜廻」の先にあるものを、ぜひプレイして確かめてみてもらいたい。

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(山村智美)