「Alan Wake's American Nightmare」は、Xbox LIVE アーケードで2月22日より配信中のアクションアドベンチャーだ。Remedy Entertainmentのアクションゲーム「Alan Wake」の世界観をベースに全く新しいストーリーが展開する。「Alan Wake」の続編とは、明確にアナウンスされておらず、一種の外伝的なエピソードと考えていいだろう。夢とも現実ともつかない世界で、作家アラン・ウェイクの冒険が繰り広げられる。なお、「Alan Wake」は日本語吹き替えだったが、今作は英語音声、日本語字幕となっている。
本作は「Alan Wake」と比較してかなりアクション性を強めた内容になっており、「Alan Wake」ならではの“光を利用し、敵と戦う”という要素がたっぷり楽しめる。通常のダウンロードコンテンツとは異なり、「Alan Wake」がなくても楽しめ、さらに制限時間までただひたすら生き残り続けるという「アーケードモード」まで搭載している。
そして何より、本作は「Alan Wake」のストーリーとも濃密にリンクしているのが、最大の特徴といえるだろう。「Alan Wake's American Nightmare」は、位置づけ的にはホラーTVドラマ「ナイトスプリングス」での、アランが脚本を手掛けたストーリーというもので、続編であると言うことは明言されていないのだが、前作のプレーヤーだからこそわかる“繋がり”が随所にある。「Alan Wake」ファンには是非プレイしてもらいたい作品だ。
■ アリゾナ・ナイトスプリングス。新たな地を舞台にアランは邪悪な分身を追う
作家アラン ウェイク。闇にその創作能力を利用され、取り込まれてしまう |
闇から生まれた邪悪な分身ミスタースクラッチ |
数少ないがコミュニケーション可能な人物も。彼女はエマ。アランを助けてくれるが…… |
「Alan Wake's American Nightmare」の前に、「Alan Wake」について少しだけ説明しておきたい。「Alan Wake」は2010年5月に、Xbox 360向けに発売されたアクションアドベンチャーゲームだ。スランプになってしまった作家アラン・ウェイクは妻アリスの提案で、アメリカ北東部の田舎町「ブライトフォールズ」を訪れるのだが、そこには“闇の力”ともいうべき存在が待ちかまえており、妻は闇に囚われてしまう。
アランは妻を探そうとして意識が途切れ、1週間近くもの記憶を失っていた。そして、闇の力が様々な超常現象を起こし、彼を襲うのだ。アランは妻を取り戻すため、行動を開始する。手掛かりは彼が書いた記憶のない彼の小説「ディパーチャー(出発)」。アランの探索は、ブライトフォールズ全体を巻き込む、恐ろしい事態に発展していく。
「Alan Wake's American Nightmare」は、ホラーテレビドラマ「ナイトスプリングス」のアランが手掛けた話として始まる。物語の時間軸は不明だが、アランのマネージャーであり、親友のバリーがホテルで寝ているシーンからスタートする。つけたままのテレビが「ナイトスプリングス」のタイトルを映し出し、そして闇の中、ライトと銃を構えるアランと、「脚本アラン ウェイク」のテロップ。そしてテレビ画面が、そのままゲーム画面となり、ゲーム本編が始まるのだ。
本作ではアランは「ミスタースクラッチ」という不気味な自分の分身と戦う。アランは“闇”に囚われており、現実へ帰るための戦いを続けている。ミスタースクラッチは現実と闇の世界を行き来し、アラン自身に成り代わろうとしているのだという。アランがいるのはアリゾナにある「ナイトスプリングス」という街。
テレビ番組そのままの名前の街は、現実の世界なのか、それともテレビドラマの中なのか境界は曖昧だ。この世界にはブライトフォールズと同じように現実と闇の世界の境界が曖昧な場所があり、このナイトスプリングスもそうだという。その不思議な世界で、アランはミスタースクラッチを追っていく。
「Alan Wake's American Nightmare」は「Alan Wake」からアクション部分をさらに強化させており、常に敵と戦いながらストーリーを進めていくという展開になる。アランの武器は前作同様、フラッシュライトと銃である。敵は体の周りにもやもやとした“闇”をまとっており、この闇をはぎ取らなくては倒すことができない。まずLトリガーでフラッシュライトを浴びせて闇をはぎ取り、Rトリガーで銃撃して倒していくのだ。
敵のほとんどは近接攻撃を行なってくる。敵に攻撃された際、Lボタンを押すと、時間が一瞬ゆっくりとなり回避しやすくなる。わらわらとよってくる敵をうまくかわし、ライトを浴びせ、銃で倒す。この駆け引きは独特のものがあり、慣れるとかなり楽しい。「Alan Wake」では、ストーリー重視のゲーム性のため、戦うよりも逃げる場面が多かったが、本作ではアサルトライフルやサブマシンガンなど武器が充実し、戦闘要素が強化されている。
戦闘が多いだけあって、前作より弾薬は楽に豊富に手に入るし、一定時間光を放つ発炎筒や、強力な武器となる閃光手榴弾も入手しやすく、以前の作品に比べ、戦力的に心強い。しかし、その分、敵も手強い。爆発する「闇のグレネード」を投げてきたり、カラスの群れから一瞬で人の姿に変わり、素早い攻撃で襲ってきたりと、様々なタイプの敵が次々に登場する。
「Alan Wake」の敵は常にこちらの死角に回り込む狡猾な動きをする。また、ライトは長時間当てていると、ライトのバッテリーが切れてしまう。数で押してこられると捌ききるのは不可能に近い。いかに短時間でうまく光を当て闇をはぎ取り、弾丸をたたき込むかという、本作ならではの“リズム”を覚える必要がある。本作の戦闘は、多少クセは強いところがあるが、うまく戦えるとかなり爽快である。「Alan Wake's American Nightmare」ではその戦闘をたっぷり楽しむことができるのだ。
■ ループする世界。前回の記憶と、強化した武装で闇を打ち破れ
テレビで殺人を見せつけるミスタースクラッチ。彼を止めることはできるのだろうか |
原稿でアンロックされる武器ボックス |
アーケードモードでは生き残りをかけて波状攻撃してくる敵と戦う |
「Alan Wake's American Nightmare」はアクション性だけでなく、「Alan Wake」同様にストーリーや演出にも凝っている。ナイトスプリングスではミスタースクラッチが現われ、やりたい放題のことをしているらしい。彼のやりたいことは“殺人”である。アランは彼を追うのだが、ミスタースクラッチはテレビを通して自分が何をやっているかを見せつける。
今作はムービー部分は実写とCGの合成で、独特の味わいをもたらしている。ミスタースクラッチはカメラを使って自分を撮影し、アランに語りかけながら、縛られた男の首を絞めたりと残酷な方法で人を殺す。テレビの中の映像なため、こちらは何もできないのがもどかしい。また、ゲームの中の主人公が実写のテレビを見ているという“絵”には独特の奇妙な味わいがある。
「Alan Wake」ファンは“ラジオ”に注目である。ラジオで流れる音声は濃密に「Alan Wake」とリンクしており、前作と今作の繋がりをラジオの音声を聞くことで埋めていくことができる。「Alan Wake」では、「小説家」、「シグナル」という2本のDLCが出ているが、ストーリーとしての展開はわざと抑えられており、「エンディングの後のアランやアリスは、そして世界はどうなったんだ」というプレーヤーの不満は解消されないままだった。今作ではついに、その「『Alan Wake』のエンディングの後の世界」が語られるのだ。
さらに本作を面白くしているのが“ループ”である。「Alan Wake's American Nightmare」のストーリーモードでは、「休憩施設」、「観測所」、「ドライブシアター」の3つしかステージがない。このため最初はDLCに毛が生えた程度のゲームなのかなと思ったのだが、アランは終わることのない夜の世界に閉じこめられ、3つの場所で同じ事を続けさせられてしまうのだ。この繰り返しの世界から、逃げる方法を求めて、アランは戦っていく。前回の記憶を元に、先回りするような行動をして、運命を変えようとあがく。それぞれの場所にはアランに協力してくれる女性がいて、彼女たちと力を合わせ、アランは闇に立ち向かっていく。
しかし、闇もまたループするごとにより強力な敵を繰り出してくる。ここで役に立つのが、「原稿」である。本作では「Alan Wake」同様フィールドに原稿が落ちている。これを集めることで、フィールドのある武器ボックスから強力な武器を取り出せるのである。武器ボックスには解錠するための原稿の数が設定されている。最初は原稿の数が足らず開けられないボックスも多いが、ループすることで新たな原稿も登場し、これらを集めて、武装をアップグレードしていくのだ。
「Alan Wake's American Nightmare」は、最初は少しストーリーがわかりにくいところがある。いきなり「邪悪な分身ミスタースクラッチ」といわれても感情移入しづらいし、自分の立ち位置もわからない。登場人物もいきなり出てきて、説明が足りないと感じるところがある。しかし、ループしながら原稿を集めていくことで、パズルができあがっていくかのように、ストーリーがきちんと組み上がってくる。この手法は「Alan Wake」でも取られていた手法だ。どんどんストーリーにのめり込んでいく自分を発見できるだろう。
もう1つ、アーケードモードも紹介しておきたい。このモードは、アランが一定時間襲いかかってくる敵を撃退するモードだ。夜明けまでの時間、アランは周囲にある武器やアイテムを拾い、敵を撃退していく。そのスコアをフレンドや世界の人達と競うことができる。敵の攻撃を紙一重でかわしたり、連続で敵を倒すと評価が上がり、スコア倍率が上がっていく。ダメージを受けず敵を倒すことでどこまで得点を稼ぐかを競うモードである。
筆者は「Alan Wake」をやり込んでおり、本作のストーリーモードでも以前の勘を取り戻しかなりうまく戦えたためため、ちょっと調子に乗っていたのだが、このアーケードモードで自信は粉々に打ち砕かれた。難しい。10分という長めの制限時間で、後半は敵が群れをなして襲いかかってくる。一方手持ちの武器は少なめで、一瞬の油断が命取りになる。数回の挑戦ではクリアできず、これはかなりやり込まないと、と感じた。しかも次のステージは、この墓地をクリアできないと挑戦できないのだ。アーケードモードは、本作のルールを極める戦闘特化のコンテンツだと感じた。
筆者は「Alan Wake」の大ファンで、思い入れが深い。本作は「Alan Wake」の明確な続編であることはアナウンスされておらず、「Alan Wake」のシリーズ展開など、今後の展開も現時点では発表されていない。今後の発表待ちというところだが、しかしそれでも、本作に「Alan Wake」のストーリーを引き継ぐ要素が、きちんと入っているのが嬉しかった。「Alan Wake」ファンならば、要チェックの作品である。もちろん前作をプレイしていない人も楽しめる。独特の戦闘システムは、特にコアシューターに挑戦してもらいたい。うまいプレーヤーのアーケードモード攻略は、是非見てみたいと思った。様々なプレーヤーにオススメしたい作品である。
(2012年 2月 24日)