★DSゲームレビュー★
“ぞんび”の群れを操って人間と戦う! 気軽に楽しめる一風変わった“ぞんび”ぞろぞろゲーム 「ぞんびだいすき」 |
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「ゾンビ」というと、ジャンルを問わず“おぞましい敵”として扱われるのがおおむね一般的だが、そんな常識を吹き飛ばすような珍しいスタンスのゲームがこの「ぞんびだいすき」だ。タイトルからして驚かされるところがあるが、本作はプレーヤーが“ぞんび”を動かし、“ぞんび”側として人間と戦うという一風変わったゲームとなっている。そんな本作がどんなゲームなのかをお伝えしていこう。
― ストーリー ―
森のなかに、人々が幸せに暮らしている牧場がありました。
しかし、ある日突然、牧場は悪い人たちに襲われてしまいました。
みんな死んでしまったかのように思われましたが、謎のガスによる影響でしょうか……
人々は“ぞんび”として生まれ変わったのです。
“ぞんび”の心にただひとつ残っていた願い、それは「牧場を元の姿に戻したい」ということ
“ぞんび”たちは牧場を復旧させるため、
人間たちに奪われた「たいせつなもの」を取り返しに行くことに決めました。
行く手を阻む数々の困難を乗り越え、
“ぞんび”たちは平和な牧場の日々を取り戻せるのでしょうか?
■ 人間に奪われた“たいせつなもの”を取り戻せ! タッチペンで集団をコントロールする“ぞんびぞろぞろアクション”
シンプルなタッチペン操作で“ぞんび”の群れを操作し、人間を襲っていく |
「ぞんびだいすき」の大まかな流れは、牧場パートで育成等の準備を整え、アクションパートのクエストに挑んでいくというもの。クエストでは、人間たちに奪われた“たいせつなもの”を取り戻すため、“ぞんび”たちが人間のいる場所へと大挙して押し寄せていく。
“たいせつなもの”というのは、いずれも何気ない物ばかりだが、破壊された牧場を元の姿に戻すのに欠かせないもの。“ぞんび”になって思考能力もほとんど失ったにも関わらず、元の生活を取り戻したいという気持ちだけが残っているような、哀愁ただよう設定になっている。
メインクエストは30、このほかにサブクエストが100と、合計130ものクエストが楽しめる。メインクエスト中には強烈で個性的なボスたちが登場するが、勝てないときはサブクエストをこなしつつ“ぞんび”たちを育成し、レベルアップさせて再挑戦していくというのが基本の進め方だ。
クエストの目的は様々な種類があって、単純に目当てのアイテムを手に入れる、ステージにいる人間を全員倒すといったスタンダードなものから、“ぞんび”1体でステージ中に落ちているアイテムを全部集めたり、タイムアタック的に時間制限のあるなかで条件を達成するものもある。
クエスト中に倒した人間がまれに“ぞんび”になって仲間が増えていき、“ぞんび”の数は最大70体にもなる。“ぞんび”の数を増やしつつ、牧場で“ぞんび”のステータスをアップさせつつ、新たなクエストへ挑んでいく。
操作は全てタッチペン。十字ボタンかA/B/X/Yボタンのどちらかで画面をスクロールさせつつ、もう片方の手でタッチペンを持つ。右利き左利き両対応の設計になっているところに、細かな配慮が効いているなと感心した。
最大で70体まで増える“ぞんび”たち。ワラワラとうごめきぞろぞろと進んでいく |
厄介なのが現場を生中継しようとするカメラマン。逃げ足が速く、長く撮影されるとSWATがきてしまう |
“ぞんび”たちのコントロールはタッチペンで行なう。進めたい方向へ“ぞんび”の上に線を描くようにするとその方向へ歩いていき、サッサッサッと3回書くとダッシュする。画面の同じ場所を抑え続けるとそこへ周囲の“ぞんび”が集結し、トントントンと3回タップするとそこから離れるように逃げていく。“ぞんび”は人間をはじめ、かじりつけるものに近づけば自動で攻撃をはじめるシンプルな操作になっている。
人間に向かって“ぞんび”の群れがワーッと襲い掛かっていき、襲われた人が応戦しつつも逃げていく様は、リアルに想像するとおぞましい光景だが、本作ではご覧のように非常にポップに描かれているので、なんだかコミカル。攻撃するたびにドカドカと乱闘のような音が鳴って、コンボ数のカウントがどんどんと上がっていくのは気持ちいい。
人間には様々なタイプがいて、マッチョな大男なら体当たりやパンチなどの肉弾戦で応戦してくるし、細い男女なら距離を取りつつ爆弾のような飛び道具で応戦してきたりする。勇敢に向こうから接近してくる人もいれば、助けを呼びながら逃げていく人もいる。
厄介なのは、“ぞんび”たちのスクープ映像を撮ろうとしているカメラマンだ。一定以上撮影されてしまうと、その生中継を観た特殊部隊のSWATが出動し、きっちり2分後に現場に到着する。SWATは超強力で、出現してしまったらクリアは絶望的だ。カメラマンは逃げ足が速いうえに、1度倒しても気を失うだけで、しばらくすると復活してしまうなど厄介な存在だ。不用意に追い回すと気づいたらマップの奥へ誘い込まれてしまう。撮影されないように距離を取りつつ、逆に向こうを誘いこむようにするなどの工夫が必要だ。次々に人間を襲って倒していく流れのなかで、カメラマンはゲームシステム上のアクセントになっている。
メインクエストには様々なボスが登場する。ボスはいずれも個性的かつ強力で、特殊な攻撃を放ってくる。ダブルラリアットで周囲の“ぞんび”を吹き飛ばす猛者、強烈な突進、さらには光線を放つ正義のヒーローと、バラエティ豊かだ。攻撃の構えに素早く反応して、“ぞんび”を避難させるのがポイントになる。また、ボスとの戦いまで、まずそのステージにいる他の人間を倒して体勢を整えてから挑むのか、それとも他は無視して体力が満タンの状態でボスに挑むのかも大事だ。
ステージ中には爆発するドラム缶やスイッチ式のベルトコンベア、画像のような竜巻など様々な仕掛けがある |
ゲームとしては戦略的に攻略するようなタイプではなく、ワーッと群れを進めてドタバタを楽しみつつ押し切ってクリアするような方向性だ。というのも、“ぞんび”たちはかじりつけるものがあったり、落ちているアイテムの気配を感じると、ふらふら~っとそっちのほうへ行ってしまったり、体力が減ってくると指示に従わずに逃げて行ったりと、“ぞんび”らしさを感じさせる動きをする。
そのため、彼らを細かくコントロールしたり戦略的なプレイをしようとすると、もどかしさを感じる。リアルタイムシミュレーション的にプレイしようとするとこれがストレスなるだろうが、深く考えずに育成と、“ぞんび”の群れでパワーゲームを気軽に楽しむ方向性にチューニングされているように感じられた。
クエスト中のアクションパートでは、街、工事現場、砂漠など、人間のいる様々な場所がステージになっている。ステージ中には、街なら車が走っていてひかれるとダメージを受けてしまったり、竜巻が発生して“ぞんび”を飲み込んで運んでしまったり、“ぞんび”がかじりつくと爆発するドラム缶があったりと様々な仕掛けがある。
これらステージの仕掛けをうまく利用していきたい、または、回避していきたいところなのだが、前述のとおり“ぞんび”はわりと大雑把である意味奔放な動きをする。さらに不規則に動いている人間の動きも影響してくるところがあるので、うまくコントロールするのは難しい。クエストのなかには、「ドラム缶の爆発に人間を巻き込んで倒す」といった条件のものもあるのだが、それらは通常のクエストよりもちょっと難しく感じた。
クエスト中に手に入れた「作物のタネ」を牧場の畑に植え、それを食べて“ぞんび”はパワーアップする |
“ぞんび”たちは牧場の畑で作った「作物」を食べることでステータスが上がっていく。作物はクエスト中に手に入れた「タネ」を畑に植えて、日数(クエストへ行くと経過する)が経つと実るのだが、どれも変なものばかり。「はみがきこのタネ」とか「よれTのタネ」、「折れたバットのタネ」といったように、「それが畑に実るの?」、「“ぞんび”はそれを食べるの?」とつっこみたくなるようなユニークなものがたくさんある。
“ぞんび”はたまに「○○が食べたい……」というように食べたいものをつぶやく。それを食べさせると、次のクエスト中は大幅にステータスがアップするのだが、タッチペンで作物を運んで食べさせようとしたとき、“ぞんび”たちが重なってうろうろしていることもあり、違う“ぞんび”に食べさせてしまったことがあった。他の“ぞんび”を移動させることで目的の“ぞんび”だけを残すようにすればいいが、1体だけをうまく残すのは少し手間。アクションパートでもそうだが、1体の“ぞんび”を細かく制御できるような工夫が欲しかったように思う。
牧場の横には「スキルガーデン」という、“ぞんび”たちのスキルが隠されている場所がある。スキルは“ぞんび”の特殊な攻撃などの能力を追加するもののほかに、プレーヤーが発動させるスペシャルスキルもある。スペシャルスキルは“ぞんび”たちの体力を回復する「ヒール」、戦闘不能になっている“ぞんび”が一時的に復活する「ライズアップ」、隕石を降らせる「デスメテオ」がある。いずれも発動させるタイミングが非常に重要で、スペシャルスキルが揃ってくる中盤以降のボス戦では必須になっていく。
牧場は最初はあらゆるところが壊されてしまっているが、メインクエストを進めると少しずつ修復されていく。さらに、ストーリーが進むなかで“ぞんび”たちには「フラワーぞんび」や「牛のチャッピー」という仲間もできる。「フラワーぞんび」は作物のタネを与えることでスペシャルスキルのレベルを上げる特殊な花粉をまき散らす。「牛のチャッピー」は作物のタネを4種類食べさせると、特殊なタネを出してくれる。
“ぞんび”の襲撃が謎の青いマスクをかぶった集団の事件として報道される |
噂を聞きつけた様々な人間が登場する。一途な“ぞんび”たちに対して、人間の考えはいろいろだ |
さて、“ぞんび”たちと人間が巻き起こすストーリー全般や、本作の裏テーマとも言える““ぞんび”だって元は人間だった”というあたりについても少し触れておこう。
まずストーリーだが、プレーヤーは“ぞんび”側になってクエストを進め、“ぞんび”たちの希望は常に生前の暮らしを取り戻したい一心で“たいせつなもの”を取り戻すために活動する。だが、人間たちの反応はどんどんと大袈裟に、様々な展開を見せていく。
“ぞんび”たちが街を襲撃した出来事は事件として扱われ、ニュースとなり報道される。謎の存在、テロリストによるテロの可能性など、様々な憶測が伝えられ、そのうちにその騒ぎを聞きつけた人物たちが、謎の集団に挑むヒーローのように登場する。そうした一連の騒動をある意味エンターテイメントショーのように扱うニュースキャスター。謎の集団が事件を巻き起こすと、どのような騒動になるかがコミカルに描かれていく。
見ようによっては“ぞんび”たちはあくまで悪い人間たちの被害者だし、生前の暮らしを取り戻したい一心で行動するさまには純粋さも感じる。そうした一方で人間たちは刺激的な出来事を楽しむような反応を見せるわけで、「本当におぞましいのはどちらなんだろう?」と考えさせられるようなところもあるかもしれない。表現的に、本作はそこまで深くえぐるようなことはせず、あくまでコミカルでポップな見せ方をしているが、根底にあるテーマはしっかりと感じられる。
そもそも、“ぞんび”たちは元は牧場で暮らしていた人間であって、彼らにも生前の生活、様々な事情を抱えたドラマがある。それが感じられるのが“ぞんびたちのプロフィール”だ。“ぞんび”たちは最大70体が仲間になるが、それぞれに個別のプロフィールがある。
本作のプロデューサーディレクターの伊東氏は、もともとチュンソフトの「サウンドノベル」のタイトルに携わっていたということもあり、ゾンビ物である本作に人間ドラマの魅力も込めたかったという。プロフィールには「結婚を夢見てブーケを投げる練習を日々していた女性であった」ことや、「夫と喧嘩して牧場で新しい生活を始めたものの、本心では迎えにきてくれることを願いつつ暮らしていた」人であったりなど、その“ぞんび”の背景が記されている。そうした人が今は“ぞんび”となってしまったんだ、そういう“ぞんび”たちが生前の暮らしを求めているんだ、と思うと、なんだか悲しいような切ないような。この魅力は大人でも……むしろ大人のほうが楽しめる部分だろう。
元々は牧場で平和に暮らしていた人間だった“ぞんび”たち。彼らの生前の暮らしはプロフィールで読める。結婚を夢見ていたり、ちょっとした背景を抱えていたりと様々だが、今はみな“ぞんび”になってしまった。そんな彼らの唯一残っている願いは、“たいせつなもの”を取り戻したいということだけだ |
■ 気軽にやりこめるとっつきの良さは魅力。これを遊べばあなたも「ぞんびだいすき」になる?
戦術的なところは控えめで、育成が基本になる。良い意味でざっくりとしていて、ライトに楽しめるゲームだ。ただ、もう少しストレスに感じるところを軽減して欲しかったところも若干あった。そうしたところはあるが、手軽に群れを操作する面白さを味わえ、“ぞんび”に対する奥深い観点も魅力として備えている。丁寧に作られているゲームだ |
ゲームとしては、良くも悪くもざっくりとした作り。“ぞんび”の群れをタッチペンで動かして人間を襲い、仲間を増やし、育成してさらなるたくさんのクエストに挑んでいく。
クエスト中はリアルタイムシミュレーションゲームのような操作系だが、難しいものではなく、大雑把に楽しめる。そういう意味でも本作のジャンルはシミュレーションではなく、「ぞんびぞろぞろアクション」なのだと思う。気軽に群れを動かして楽しめるのは良い意味でのざっくり感だ。それでいて歯ごたえもけっこうあるので、育成をメインに長くチクチクと遊びこみたい人にも向いている。
一方で、戦術的でテクニカルなプレイの要素は低めで、基本的には育成でステータスを高めてのパワープレイが中心になるのは、人を選ぶところだろうか。“ぞんび”らしい不規則な動きにはもどかしさもあって、少しストレスに感じる部分もあった。これは悪い意味でのざっくり感と思えた部分で、全般にライトに楽しみたい人へ向けられている。“ぞんび”のコントロール方法をもう少し用意するなりして、戦術的な楽しみ方もしやすくなっていたら、より絶妙だったかもしれない。
全体にポップなテイストで、アメリカンなB級映画ノリの展開もユニーク。表向きは画像を見ていただいたとおりの明るいゲームで、群れをワーッと移動させるワラワラ感、人間を取り囲んでボコスカと乱闘するのは楽しい。そうした一方で、“ぞんび”たちのプロフィールに元は人間だったことを痛感させるような背景があったりと、気になる要素をを用意している。大人も子供も楽しめて、それぞれに魅力に感じるところが変わってくるのではないかと思う。
“ぞんび”の群れを仲間として操作する、元は人間だった“ぞんび”が人間たちと騒動を展開していく。ちょっと変わったスタンスの本作だが、プレイするうちにプロフィールの背景も相まって“ぞんび”に妙な親近感が沸いてくるというか、それまでの見方が変わってくるところがあった。タイトル名の「ぞんびだいすき」はそうした本作の醍醐味を的確に表している。ゾンビ物が好きな人はもちろんとして、そうでない人も、プレイするといつの間にか“ぞんびだいすき”になる、かもしれない。
(C) 2011 CHUNSOFT
□チュンソフトのホームページ
http://www.chunsoft.co.jp/
□「ぞんびだいすき」のホームページ
http://www.chunsoft.jp/zorozoro/
(2011年1月21日)