★PS3/Xbox 360ゲームレビュー★

ヒップホップスターが中東で大暴れ!!
“男の子の夢”をストレートに表現した怪作

「50 Cent: Blood on the Sand」

  • ジャンル:アクション・シューティング
  • 発売元:ベセスダ・ソフトワークス
  • 開発元:Swordfish Studios
  • 価格:7,140円
  • プラットフォーム:PS3 / Xbox 360
  • 発売日:7月23日
  • プレイ人数:1~2人(オンライン協力プレイ対応)
  • レーティング:CERO:D(17歳以上)

 ベセスダ・ソフトワークスが7月23日にPS3、Xbox 360向けに発売する「50 Cent: Blood on the Sand」は、北米の実在のヒップホップスターの50 Cent(フィフティーセント)とG-Unitが中東で銃を撃ちまくるというサードパーソンシューティングである。本作は50 Cent達が直接アフレコしているため、日本語は字幕で表示される。

 実在の芸能人が銃弾と爆発に飾られた大冒険を繰り広げ、悪漢どもをばったばったとなぎ倒すというコンセプトは独特の味がある。ストーリーやリアリティーは向こうへ追いやって、ノリノリの音楽と、バンバン撃ちまくれる爽快感、そして全部を“オレ様流”で突き進んでいく50 Centを楽しむ作品だ。

 本作は、ゲーム史上において“変わり種”といえる作品で、「実在のスターが大活躍!」というコンセプトならではの“軽さ”だけでなく、ゲームとしての面白さも持った作品である。笑いながら始めて、いつの間にかマジにプレイし、力を入れてやりこんでしまうゲーム性を持っている。さらに友人とも協力プレイも楽しむことができる作品だ。



■ 「劇的な過去を持つ50 Centなら、この活躍は当たり前!」。“男の子の夢”をストレートに表現した怪作登場!

ドラッグディーラーからトップスターへ登りつめた劇的な経歴を持つ50 Cent。本作は“男の子の夢”そのままに彼が大活躍する作品だ
ゲームでは常にG-Unitメンバーが彼と共に戦う。オンラインでの協力プレイも可能だ
3人のG-Unitメンバー。ゲーム内での彼らの掛け合いも注目だ

 「50 Cent: Blood on the Sand」は50 Centと、Tony Yayo、Lloyd Banks、DJ Whoo KidのヒップホップユニットG-Unitが活躍するゲームだ。舞台は中東のある国。コンサートを大成功に終わらせたG-Unit達はコンサート終了直後今回のギャラが振り込まれていないことを知る。1,000万ドルの赤字だ。G-Unitメンバーはコンサート会場からそのままプロモーターのアンワーの所へ向かい、ショットガンを突きつける。

 「金はカマルというギャングに奪われた」と言うアンワー。銃を突きつけられながら、代わりにといって隠し金庫から宝物を取り出す。それはオデッサの役人オルタが最愛の妻の頭蓋骨(スカル)に宝石をちりばめたものだった。50 Cent達はそれを受け取ることにする。帰路につこうとしたとき、突然謎の女と一団が襲ってきてスカルは奪われてしまう。女はカマルのギャングの一員だ。50 CentとG-Unitの仲間達はカマルに復讐すべく、銃を手に進むことになる。

 「コンサートの金がない、代わりに頭蓋骨でどうだ?」から「頭蓋骨がギャングに盗まれた、おのれ!」となるまでわずか4分である。かなり突っ込みどころ満載で、展開するストーリーにも50 Cent達の行動も説得力は全くない。コンサートが終わった直後に、通路を歩きながら振り込みがないことを知らされると、メンバーの1人がまるでこの事態を最初から知っていたかのようにどこからともなくショットガンを差し出し、50 Centは何気なく受け取りアンワーに突きつける。この荒唐無稽の演出が本作の味なのだ。こういった強引な演出とストーリー展開は頭から否定するのではなく、「ないない、ないよそれ」と突っ込みつつ楽しむのが正解だ。

 「細かいことはいいんだよ。50 CentとG-Unitメンバーがマシンガンやショットガンで中東ギャング団をなぎ倒し、ヘリやトラックをぶっ飛ばす。建物も大爆発だ。それで充分だろ?」。本作は全力でこう主張している。日本には昔はアイドルが出演して大活躍するB級映画がたくさんあったが、ノリとしては近いと感じた。しかし「50 Cent: Blood on the Sand」がアイドル映画と確実に違う点は、ゲームとして非常に楽しい作品に仕上がっているというところである。

 本作はスタート時はかなり無敵気分で進める。しかし途中からは敵の出現位置などを把握しないと攻略が難しくなる。そこからゲームになれてくると的確に敵を倒せるようになり、2周目からは「スコア」という新しい目標が見えてくる。いかに派手にかっこよく敵を倒すか、スタイルを求めながら探索要素や、やりこみ要素などの“幅”を持たせている作品なのだ。

 ファンアイテムとしても本作は非常に充実している。ゲームを進めていくことで楽曲やプロモーションビデオが入手でき、現実の50 CentとG-Unitの姿に迫っていける。彼らのスタイル、センスをたっぷりと堪能できるのだ。彼らのラップの歌詞がわかったらさらにゲームが楽しいだろうな、というところが少し残念に感じた点だ。50 Centのファンにはうれしい要素であり、資料集としての価値も持っている。

 過激なノリを楽しむ作品としては、「GTA4」や「セインツロウ2」といった作品があるが、これらの作品は暴力や過激さを悪のり気味に描いているのに対し、「50 Cent: Blood on the Sand」は比較的“まじめ”なのかもしれない。隙だらけのストーリーや、強引きわまりない彼らの行動の中に、皮肉な視点から生まれる強調された間抜けさや、ブラックジョークは感じられない。50 Cent達はあくまでまじめに、正直に事態に立ち向かっているのだ。

 「俺たちがゲームのような場面に立ち会ったら、間違いなくこういう活躍ができるんだぜ!」と、50 Cent達はゲームを通じて叫んでいると感じた。その子供っぽさと正直さが、本作に他の作品とは違う独特の味をもたらしている。

 ちなみに現実世界の50 Centは、ギャング映画の主人公のような危険で暗い過去を持ち、大成功を果たしたというアメリカンドリームを実現したヒップホップスターだ。彼が名乗るようになった「50 Cent」という名前は、かつてニューヨークで、50セントでも殺人を請け負ったという実在のギャングスターの呼び名にちなんだものだという。

 50 Centはニューヨークの貧しい地域の出身だ。父親はわからず、15歳で彼を生んだ母親は、ドラッグディーラーとしてその日の糧を得ていた。母親は50 Centが8歳の時何者かに殺され、彼はその後祖父母に育てられるが、12歳の時には母親と同じドラッグディーラーになり、名をはせるようになった。

 ドラッグディーラーとして生活していた50 Centだが、友人からの紹介という形で著名なDJに見出され、音楽の道を歩みメジャーデビューを果たす。しかしトラブルが絶えず、祖母の家の前で銃撃事件に巻き込まれ、自身も弾丸を顔に受けてしまう。この事件で50 Centはアメリカ芸能界のブラックリストに載ってしまう。しかしカナダで音楽活動を続け、ヒップホップスターのEminemに見出され、ストリートの人気を獲得。アルバムや楽曲が大ヒットし、スターとなった。2005年には自叙伝的な映画の主役をつとめ、ヒップホップスターであり、俳優、プロデューサーなど幅広い分野で活躍している。


左から、うさんくさいプロモーターのアンワー、謎に満ちたギャング団の女性レイラ、武器を売って50 Centを助けるラウル
コンサート終了から、スカル登場、奪われてしまうところまでわずか4分。ストーリー展開としてはかなり荒唐無稽だが、50 Centが“戦う理由”としては充分だ
ゲームを進めていくことで、50 Centのプロモーションビデオや、楽曲を入手できる。オリジナル曲18曲を含む、40曲以上が収録されているという



■ 敵をいかに効率よく、かっこよく倒すか。思わずのめり込む爽快で深いゲーム性

2人が揃わないと開けられないシャッター。協力プレイ用のギミックは様々なところにある
ギャングスタ・モード発動。敵をまとめて倒すのに有効だ

 「50 Cent: Blood on the Sand」は、常にキャラクターの姿が見えるTPSとなっている。プレーヤーは50 Centを操作し、次々と現われるギャングと戦っていく。本作では50 Centと共にTony Yayo、Lloyd Banks、DJ Whoo KidのG-Unitメンバーが戦う。ゲーム開始時やコンティニューの時に3人のうち1人を選べる。

 選んだ相棒は常にプレーヤーを援護してくれる。ゲーム中、直接指示を出すことはできないが、援護射撃はもちろん、囮になってくれる事もある。高いところに上ったり、シャッターを上げるときには力を貸してくれる。倒れたときは近くに行くことで蘇生できる。合間での掛け合いも楽しい。3人の個性を知っていれば細かいセリフもニヤリとさせられそうである。

 本作はオンラインの協力プレイに対応しており、参加することでG-Unitメンバーとしてホストを助けることができる。車に乗るときは片方がドライバーでもう1人がガンナーを担当したり、ヘリコプターでの銃撃シーンでは2つの銃座が用意されていたりと、本作は協力プレイを前提としたゲームデザインになっている。今回は発売前のプレイのため体験できなかったが、友人との協力プレイ、というのが本作の本当の楽しみ方かもしれない。

 基本的なゲーム操作は左スティックで移動、右スティックで照準を動かす。左トリガーで狙いをつけ、右トリガーで銃撃するというオーソドックスなものだ。武器は拳銃、アサルトライフル、ショットガン、そして特殊武器の4種類を携帯可能で、瞬時に切り替えられる。ゲームを進めることで金を稼ぎ、より高性能な武器を購入することが可能だ。特殊武器はスナイパーライフルやロケットランチャーで、ヘリとの戦いにはロケットランチャーが必須となる。ヘリが出現する場所では必ずロケットランチャーが置いてあるので武器の選択を間違えてゲームが進められなくなる、ということはない。

 接近戦に関しては、「カウンターキル」というシステムが用意されている。他のゲームのように一撃で相手を仕留めるのではなく、相手にボディーブローをかましてから数発殴って最後にボディスラム、といったようにいくつものスタイルが用意されている。技は武器と同じようにゲーム内で購入することで増やしていける。少林寺拳法風、ムエタイ風など多彩で、5つのスロットに出したい技を入れていく。コンボを決め、敵を倒すと50 Centの誇らしげな表情がアップになるという、グッと来る演出がカットインされる。

 敵を倒すとHPバーの上のゲージが上がる。このゲージを消費することで「ギャングスタ・モード」が発動する。ギャングスタ・モードでは時間の流れがゆっくりになり、一方的に攻撃することが可能になる。敵が固まっている場所でモードを発動させ、まとめて倒す、といったことも可能だ。

 1人の敵を倒すと画面中央上にゲージが表示され、時間経過と共に減っていく。このゲージが減る前に敵を倒すと得られる得点が跳ね上がる。また様々な場面で「敵を3体倒せ!」、「3,500ドル集めろ!」といった条件が提示され、これをクリアすることでボーナスが得られる。一定時間でどこまで倒すことができるか、いかにスマートに条件を達成するか、ゲームをクリアした後はスコアというやり込み要素がある。

 2回目のプレイでは前回よりはるかに楽に圧倒的に敵を倒すことができる自分を発見した。本作にはEASYからHARDまで3段階の難易度がある。1度目はEASYで死にまくりながら何とか進めたのだが、2回目はNORMALに上げても、前回苦戦した場所でもガンガン進められている。スコアはポイントが設定されており、一定以上稼ぐとコンテンツがアンロックされる。まだまだスコアを稼ぐ方法を模索する必要があるようだ。



多彩なカウンターキル。50 Centの格闘スタイルはショップで購入し、スロットに入れることでカスタマイズできる
最大4人まで繋がるコンボキル。決まれば高得点を獲得できる。コンテンツアンロックのためには必須のテクニックだ
ステージ上には金の入ったコンテナが隠されている。壊して金を集めることで新しい武器やカウンターキル、挑発などを購入できる
場面により様々な目標が設定され、クリアできればボーナスが得られる。隠されている照準マークを探したり、よりスコアを上げるためにはどうするか、模索するのが楽しい



■ 「マフィア、傭兵、ヘリも戦車もかかってこいや!」 埃っぽい中東の街を破壊しながら快進撃

驚異的な機動でロケットを交わすヘリ。ルールを飲み込んでムキになって撃ち込まず、当たるポイントを探すのが攻略の鍵だ
広がる風景に感嘆の叫びを漏らす50 Cent。彼の持つ素直な感性を感じられるシーンだ

 「50 Cent: Blood on the Sand」は全9ミッションを戦うことになる。ダイヤのはめ込まれたスカルを求めて、G-Unitメンバーは中東のギャング団を追いつめる。50 Centと仲間達に歯向かう奴に、世の中にはどんなに手下を繰り出しても、勝てない無敵の存在があるということを教えてやるのだ!

 ミッション1は襲撃されてスカルを奪われた直後のスラム街だ。ここはチュートリアル要素が盛り込まれており、進みながらゲームのルールを覚えていける。ステージにはポスターが貼ってあったり、撃つと得点を得られるボードが設置されていたり、金の入ったボックスが置いてあったりする。敵と戦いながらこれらのオブジェクトを探していくと、高得点を得ることができる。お金に関しては貯めておけば武器やカウンターキルの種類を増やしていくことが可能だ。

 ミッション2は高速道路での戦いだ。シングルプレイの場合、プレーヤーはドライバーとなって道路でギャング達と戦いを繰り広げる。真後ろから敵車に近付くと撃たれ放題になってしまうので、少しずれて併走しそこから敵に体当たりするのがいいようだ。スピード感があり仲間との掛け合いも楽しいミッションだが、ダメージを受ける条件などもう少しわかりやすくできないかな、とも感じた。

 ミッション4からはスナイパーが出てくる。スコープ付の武器で対処するのがいいが、あえてロケットランチャーをぶっ放すのもこのゲームらしい戦い方といえるかもしれない。敵の増援が出てくる場合は、「DANGER!」という赤い文字が表示される。ここにいかに迅速に対処できるかでスコアが違ってくる。本作は特にマシンガンのダメージが痛い。無敵気分で突き進んでいるとあっという間に倒されてしまう。一定時間ダメージを食らわなければ回復するが、素早く倒さなければスコアが稼げない。上を目指すにはテクニックを要求されるゲーム性が楽しい。

 中東のギャングは、使われなくなったショッピングモールや、劇場を根城にしている。過去使われた痕跡があって、独特の哀しさがある。また、不意に中東の美しい景色が広がる場面もあって、過酷な戦いの中、足を止めて眺めてしまう。「いい眺めだな」といった感じで50 Cent達が素直に感想をもらすところはキャラクター描写として面白い。効率を求める戦い方だけでなく、細かいところを見てみると新しい魅力が発見できるだろう。

 劇場の最上階では武装ヘリとの戦いになる。ヘリとロケットランチャーの戦いの構図というのは他のゲームでも見られるが、本作の場合は、驚くことにヘリがロケットランチャーをかわすのだ。最初何が起きているかわからなかったが、ロケットを打ち込むと、ヘリが確かに物理法則を無視したスピードでわずかにスライドしてかわす。

 ちょっとこの表現はいくらゲームでもないよなあとも思ったが、本作のルールとして飲み込まなくては先に進めない。左右に移動しているときはもう絶対当たらないのではないか、と思うほどにロケットを当てるのに苦労した。ムキになって連射するよりも、素直に当たるポイントを見つけるのが本作の攻略だ。この後も何回かヘリがボスとして登場する。ザコ敵も含めて、敵のバリエーションが少ないのは本作の批判を受ける部分だろう。この点についてはもう少し頑張って欲しかったところだ。

 ミッション6ではヘリに乗り敵の本拠地を襲撃する。空の上からガトリングで地上を掃討するのはとても爽快だ。本作は、対空砲など素早くつぶさなくてはならないオブジェクトはあるが、チェックポイントも細かく設定されており、体力が回復するシステムがあるため強くなった爽快感をきちんと味わえるところに好感を持った。協力プレイでは更に楽しさが増すと感じた。

 正直筆者は50 Centというヒップホップアーティストの存在をこの作品に出会うまで意識したことはなかった。北米では彼の登場したゲームが大ヒットを記録したとのことだが、「あの50 Centのゲームが出た、待ってた!」という熱狂的なファンが日本に多数いるかどうかも実感としてつかめない。ファンにはもちろんオススメのゲームであるが、筆者は「50 Cent: Blood on the Sand」をTPSや洋ゲーが好き、という人に「変わり種」として注目してもらいたいタイトルだと思っている。

 「俺たちは武器を手にすればこれくらいの活躍は朝飯前だぜ!」という子供っぽい、しかし多くの“男の子”の中に眠る情熱をここまでストレートに表現したコンセプトがまず面白い。そして極めればばったばったと敵を倒せ、どこまでも効率を追求していけるゲーム性をきちんと持っている。本作はキャラクター性やスターの知名度によりかかっただけのゲームではない。なによりも、この“頭の悪い(褒め言葉)”ゲームが日本語版で楽しめるという幸運を多くの人に楽しんで欲しいと思う。


ミッション1のスラム街は、いくつものチェックポイントのあるかなりボリュームたっぷりな場所だ。最後には戦車との戦いが待っている
ミッション2は車でのチェイスシーンになる。シングルプレイの場合、ガンナーはCPUが担当する
DANGERマークは敵が出現する地点を示す。スコープ付の武器は狙撃にも使える。敵がどこから来るか把握していれば更なる高得点が狙える
昔はにぎやかだったショッピングモールや劇場。ギャングの抗争の結果か、戦争の傷跡か、廃墟には哀しみがある
ヘリで敵の拠点を襲う。協力プレイなら更に楽しさが広がりそうである

"50 Cent: Blood on the Sand"interactive game (C)2008 THQ Inc. All rights reserved. THQ and the THQ logo are trademarks and/or registered trademarks of THQ Inc., in the U.S. and/or other countries. Developed by Swordfish Studios. The Swordfish Studios logo is a trademark of Swordfish Studios Limited. All master recordings and music videos courtesy of Shady / Aftermath / G-Unit / Interscope Records. (C) 2003-2008 Shady / Aftermath / G-Unit / Interscope Records. All rights reserved. GameSpy and the “Powered by GameSpy” design are trademarks of GameSpy Industries, Inc. All rights reserved. Published by ZeniMax Asia K.K. and THQ Inc. Bethesda Softworks, ZeniMax and related logos are registered trademarks or trademarks of ZeniMax Media Inc. in the U.S. and/or other countries. All rights reserved.

(2009年 7月 22日)

[Reported by 勝田哲也 ]