PS3ゲームレビュー

KINGDOM HEARTS -HD 2.5 ReMIX-

壮大な物語の中でも重要な3作品を楽しめるマスターピース

ジャンル:
  • RPG
発売元:
プラットフォーム:
  • PS3
価格:
9,800円
発売日:
2014年10月2日
プレイ人数:
1人
CEROレーティング::
A(全年齢対象)

 10月2日にいよいよ発売となるPS3「キングダム ハーツ -HD 2.5 リミックス-」。

 本作は、プレイステーション2で発売された「キングダム ハーツII ファイナルミックス(以下、『II』)」と、PSPで発売された「キングダム ハーツ バース バイ スリープ ファイナルミックス(以下、『KHBbS』)」のHD版を収録。なお、両作品ともイベントやコスチューム、敵が追加された英語音声版の「ファイナルミックス」をベースにしているが、この「KH2.5」での音声は日本語になる。

 また、携帯電話用からニンテンドーDSでリメイク発売された「キングダム ハーツ Re:コーデッド」も、HDクオリティの映像作品という観ることで物語を楽しめる形式で収録されている。

 2013年3月に発売された「1.5」と合わせれば、3DS用ソフトの「ドリーム ドロップ ディスタンス」を除いてではあるが、全ての「キングダム ハーツ」の物語がHDハードで出揃うことになる。「キングダム ハーツII」以降に登場した作品を、最も美しいグラフィックスで楽しめる本作の魅力を紹介して行こう。

初代作品から壮大に描かれ続けている「ダークシーカー編」の3つの物語がHDリファインで蘇る!

 レビューに入る前に、簡単ながら、そもそも「キングダム ハーツ」という作品がどんな物語なのかをまとめておこう。

 「キングダム ハーツ」は、鍵型の剣「キーブレード」に選ばれた少年ソラが、ドナルド、グーフィーと共に、離れ離れになってしまった親友を探しながら、闇と戦う物語だ。世界には王様ことミッキーが治める「ディズニーキャッスル」をはじめ、ディズニー作品がモチーフになっているたくさんのワールドがあり、ディズニーの世界を巡る冒険が楽しめる。

 そして「II」では、世界を危機にさらす新たな脅威・XIII機関に立ち向かっていくことになる。新たな挑戦だった初代作品よりも、アクション&バトルシステム、ストーリー、そしてボリュームと、あらゆる面でパワーアップしており、今なおシリーズの軸にある存在と言っていい作品だ。

 初代作品から連綿と紡がれているのは、大きな括りの中の一部「ダークシーカー編」であり、そのダークシーカー編はプレイステーション4/Xbox Oneで発売予定の「キングダム ハーツIII」で完結を迎えていく。「HD1.5」と、そして今回の「HD2.5」は、「III」へと至る物語を知るのに最適というわけだ。

「2.5」では、タイトル画面から選択式で、「II ファイナルミックス」、「バース バイ スリープ ファイナルミックス」、「Re:コーデッド」の3作品が楽しめる

 「2.5」において、最も注目な部分は“こだわりを持ってHD化されたグラフィックス”だ。「1.5」でHD化のノウハウを得て、「2.5」では、そのノウハウがあることで出来た余裕をさらなるクオリティアップに費やしたというグラフィックスは、見事というほかない。

 「キングダム ハーツ」はアクションRPGであり、簡単な操作の中で滑らかなアクションと美麗なエフェクトが見所なところがあるが、HD化されたことでその魅力が何倍にも高まっている。単純にHD化といっても、グラフィックスのテイストによっては向き不向きがあるもので、高解像度になると“どこか違ってしまう”ものがあるが、「キングダム ハーツ」のディズニーテイストを守っている柔らかさは、HD化が上手くハマっている。

 グラフィックス的にも、テーマ的にも、“儚く、切ない、美しさ”が本作の魅力と思うが、それを存分に、原作以上に味わえるHDリファイン作となっている。

 逆に、それ以外の部分は良い意味で“そのまま”になっているのも嬉しいところだ。例えば難易度であったり、細かな表現であったり。ディレクターが思う「こうした方がいいのでは? 」というものを入れ、調節したり変更することはいくらでもできるとは思うが、それは大概、望まれてはいない。こうしたHDリファイン作品において旧来ファンの方の多くは、「見た目以外はそのままにして欲しい」と思うのではないだろうか。「2.5」はそこも充分に考えられ、余計な手を入れていない。

 「キングダム ハーツ」シリーズは基本的に、各ワールドを巡り、ハートレスたちが湧き出る道を抜け、ボスと戦って各世界の事件を解決していくというシンプルな構造をしている。アクションも複雑な要素は少なく、いかに敵の攻撃を避けつつこちらの攻撃を当てるかというのが基本だ。それだけに、誰でも楽しめるものになっている。

 一方で、ゲームらしい手応えのある難しさというのも、実は秘めている。特にボス戦が顕著だが、最初に挑んだ時には攻撃を連続で喰らって、あっという間にやられてしまうなんていうことがしばしば起きる。いろんなゲームをやりこんだ人でも見た目に騙されて甘く見ていると「あれっ? あれれっ? 」なんて思っている間にやられてしまう。しっかりとボスの攻撃パターンを見切り、避け方を工夫していかなければ、勝てない。

 そうしたところが、ゲーム特有の「ムキになって遊んでしまう」ところを生んでくれる。悔しくて再戦し、惜しいところまでいったけどまた負けてしまい、もう一工夫してまた挑む。そうやって挑んでこそ、勝てた時に達成感が生まれる。ゲームが持つ根源的な魅力を「キングダム ハーツ」はきちんと持っているというわけだ。

 実際のところ、シークレットムービーの存在や、ファイナルミックス版ならではの高難易度を含め、やりこみの方向もしっかりとフォローされているゲームだ。ボス戦を苦労して勝利するという達成感をきっかけに始まっていく本作のやりこみは、その先にきちんとご褒美が用意されている。

「キングダム ハーツ II」では、新たな脅威「XIII機関」にソラが立ち向かっていく

 元々、2011年にPSPで発売された「キングダム ハーツ バース バイ スリープ ファイナルミックス」は、HD化によるグラフィックスの向上が大きいタイトルだ。PSPでもかなりのクオリティを出していたが、さすがにハードウェア的な制限があり、簡略化されていたものはある。特にキャラクターモデルやキーブレードのディテールは細かで綺麗になっていて、元がPSP用のゲームとは思えない仕上がりだ。

 PS3で楽しめるということで、大画面で楽しみやすいのも魅力だし、操作においてもさすがにPSPで遊ぶよりDUALSHOCK3で右アナログスティックも使える方が遊びやすくなっているのもポイントだ。

ソラがキーブレードを手にする10年前、かつての3人の戦士「テラ」、「アクア」、「ヴェントゥス」の戦いが描かれる、始まりの物語「キングダム ハーツ バース バイ スリープ」。

 「キングダム ハーツ Re:コーデッド」は、最初に携帯電話用のアプリとして開発され、それがその後にニンテンドーDS用ソフトとしてリメイクされた作品だ。本作はHDクオリティの映像として約3時間近いボリュームで収録されている。

 このレビューにあたって、一通りこの映像を観たのだが、これは実に手がかかっていそうな完成度だ。映像は他2作にひけを取らない美しさだし、全編ボイスがついている。各ワールドについた直後の探索的なパートではミッキーが語るナレーションが入るものの、一方でプレイシーンだった戦闘シーンは、新規の映像が用意されていて、繋がりをきちんと整えてある。単純にイベントシーンを繋げたようなものではなく、しっかりと映像作品として楽しめるものに仕上がっていた。

 ゲーム好きとしてそれはどうかという意見もあるかもしれないが、どっしり腰を据えて3作品も楽しむというのはなかなかにしんどい。こういう映像形式というものがひとつあって、他作品の箸休め的にゆったり楽しめるというのは、筆者としてはありだなと思う次第だ。それも、ただ観られるようにしたやっつけのような物ではなく、しっかりと手がかかったものなら、なおさらだ。

「II」のその後。データ世界に起きた異変を探るため、データで再現されたソラが世界を巡る「キングダム ハーツ Re:コーデッド」。映像作品として収録されている

 「2.5」に収録されている3つの作品の出来は、このようにファンも納得の見事なものだ。では、そもそもの「キングダム ハーツ」が持つ魅力というものは、どのようなものだろうか。それはなかなか形容し難い。言葉ではなく、感受性で、心で受け取るものかもしれない。

 あの日見た美しい夕日、友達への想い、遠い記憶。心を象る大切なキーワードが散りばめられた「キングダム ハーツ」の物語。子供は目を輝かせ、大人になった人は失いつつあるものを思い出せる。そうした“大切なもの”を与えてくれる作品というのは、昨今ではなかなか少なくなってしまったように思う。本作は、切なさと暖かさを、素晴らしい楽曲が彩り、それらの全てが、忘れられない宝石のような記憶となって、プレイした人の心に焼き付いていく。

 他のエンターテイメントにはない、自分の手で進めるからこそ生まれる気持ち、ゲームだけが作り出せる感情、美しさを味わいたいのならば。「キングダム ハーツ」はそれを今も持つ貴重なひとつだ。いずれ訪れる物語に備え、この「2.5」を、シリーズ未体験であればこの機会にぜひ「1.5」と共に楽しんで頂きたい。

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(山村智美)