小惑星の衝突により一変してしまった地球。人類復興を託され地下深く眠っていた主人公が目覚めたとき、彼は人類は滅んでなかったことを知る……。「RAGE」は現代とはまったく異なる過酷な世界で生き抜いていく主人公の活躍を描くアクションアドベンチャーだ。
本作の開発は「DOOM」、「QUAKE」等を手掛けたid Software。彼等の開発経験の蓄積が、至近距離で銃弾をかわすミュータントや、重装備の仲間を盾に進んで来る盗賊など、エキサイティングな戦闘を生み出している。さらに「メガテクスチャ」による広大な風景の表現や、人々の生活の細かい描写など、見所たっぷりの作品である。
■ 小惑星衝突後に生き抜く人々の前に、過去から蘇った男が現われる
目覚めた主人公の前に広がる風景。アーク計画がどうなったかもわからない、謎だらけの世界に放り出される |
「ようこそ未来へ」。主人公を助けたダン |
「Vault Boy」のボブルヘッド。スタッフの遊び心を感じさせる |
「RAGE」の舞台となるのは、巨大惑星衝突により変わり果てた20XX年の地球だ。「アポフィス」と名付けられた、マンハッタン島並の大きさを持つ巨大隕石の存在を察知した人類は、来るべき地球崩壊に備え“アーク計画”というプロジェクトを秘密裏に遂行し、アークと呼ばれるシェルターを数千個地中深くに建設した。選ばれた人々はアークに逃れ、人類滅亡を回避するためコールドスリープに入った。
主人公はアーク計画に選ばれた人間の1人。体に注入され人体を守るように働くナノマシン「ナノライト」の機能で息を吹き返すものの、周りのカプセルの人々は死んでいることを発見する。計画はどうなり、自分はどうすれば良いかわからないまま外に出た主人公は、スキンヘッドに刺青をした凶漢に襲われる。ナイフを突き立てられる寸前、銃弾が主人公を救う。主人公を助けた男はダン・ヘイガーと名乗った。
ダンは近くの村のリーダーだった。ダンは主人公を村に連れて行った後、目の前に銃を置き主人公に語りかける。「盗賊どものアジトに1人で乗り込んで、奴らを1人残らず倒してきてくれないか」。ダンが言うには「アークの人々には特別な力があり、その力があれば盗賊を倒せる」というのだ。主人公はこのように、突然訳がわからない状況に放り込まれる。現状を打破するには、戦うしかない!
主人公は手に入れた武器を問題なく使いこなす知識を持ち、さらにナノライトの力でたとえ死亡しても蘇生できるという超能力を持っている。冒険をしていく中で主人公は多くの人の信頼を獲得していく。やがて彼は巨大惑星の衝突でも人類は死滅していなかったこと、生き残った人々が盗賊やミュータントと戦うために集落を作っていること、過去の文明の遺産を独占し支配地域を広げようという「オーソリティ」という組織があること、そしてオーソリティと戦うレジスタンスの存在などを知る。過去から蘇った男が何をしていくかが、本作のテーマだ。
「RAGE」は1本道のFPSではなく、色々なクエストを受け、様々な場所を探索するというRPG的な要素を取り入れている。メインのクエスト以外にも多彩なサブクエストが用意されており、それらで資金や情報を得てキャラクターを強化させることができる。ゲームは街と、敵のいる拠点、そしてそれらを繋ぐ広大なフィールドで構成されている。フィールドでは乗り物を使って高速移動が可能だ。拠点や街は細かく探索することでたくさんの材料が入手でき、それらを組み合わせて様々なアイテムを作り出すことで有利に戦える。銃による戦闘だけでなく、アイテムを活用し多彩な武器を使いこなす独得のゲーム性を持っている。
「RAGE」で主人公が旅するのは「ウェイストランド」と呼ばれている。同じBethesda Softworksの「Fallout」シリーズの冒険の舞台と同じ名前だ。「Fallout」シリーズでは核戦争の後の世界で、両者に直接の関係はなくゲーム性も異なるが、1度滅んだ文明の中でたくましく生きる人々や、過去の文明を使い支配地域を広げようとする人々など、同じ匂いのするところも多い。Bethsudaの子会社になったid Softwareの遊び心として、作品の中にも「Vault Boy」のボブルヘッドを置いていたりする。「Fallout」の世界観にしびれた人は、本作も気に入ると思う。
主人公が移動できる場所は「Fallout」シリーズほど広大ではないが、マシンに乗って他の村や、盗賊達の拠点になど様々な場所へ行くことができる。「マッドマックス」や「北斗の拳」を思わせる乾いた世界観が魅力的だ。世界を探索していると、大きな街の「ウェルスプリング」や、ラジコンを改造して爆弾を積み近付くモノを爆破する盗賊、巨大なミュータントが闊歩する「デッドシティ」といった場所も登場する。ゲームが進むことにより世界がはっきりと見えてくる。武器やマシンを強化し、暴力渦巻く世界を生き抜いていく楽しさを体験して欲しい。
小惑星衝突から、アーク内での目覚め、状況がわからないまま盗賊に襲われる。めまぐるしく状況が変化する | ||
訳がわからないまま、拳銃1つ渡されて盗賊のアジトに向かう。生き抜くためには戦うしかないようだ | ||
メガテクスチャが生む美しいグラフィックス。60fpsでの動作はプレーヤーをゲーム空間に没入させる |
■ タフで素速い敵に、武器やアイテムを駆使して戦え!
至近距離で銃をかわされる。敵は全体的に手強い |
エンジニアリング。様々なアイテムを作り出せる |
「RAGE」は通常のFPSと比べ、戦闘は少しクセのある、独得なこだわりを感じさせるところがある。まず感じたのは「敵が強い」ということだ。人間離れした敏捷性を持つ盗賊や、ミュータントは銃を向けても瞬間的に左右に移動し、たくみにこちらの弾をかわすのだ。また敵はタフで、ヘッドショットを決めても容易には死なない。瀕死の体を引きずって反撃してきたりもする。本作ではいわゆる雑魚モンスターでもオーバーキルをするくらいの覚悟で望む必要がある。
このため、戦いに臨む際は村や街できちんと準備していく必要がある。弾薬の補給はもちろん、武器のアップグレードパーツも買っておきたい。購入のための資金は敵の住み家を探索しガラクタを売り払ったり、クエストをクリアすることで得られる。最初はハンドガンだけだが、コンバットショットガン、アサルトライフルなど種類が増えていく。敵の動きが速くアグレッシブなため、敵が遠くにいるときはアサルトライフル、近付いてきたときはショットガンと、状況に合わせて武器を瞬時に切り替えて戦う。
また、ゲームが進むごとに特殊な弾丸を入手していく。装甲に身を包み弾を何発も当てなくては倒せない敵には、「ポップロケット」という爆発するショットガンの弾が有効だ。水たまりがある場所ではクロスボウの「エレクトロ・ボルト」を打ち込むことでまとめて感電させられる。特殊な弾は強力だが数が少ないため、ここぞと言うときに使う。装甲服を着た敵を先頭に他の敵が援護に徹すると言った状況では、銃弾を浴びながら敵に合わせて武器や弾を変えて対応しなければならない。多彩な武器と弾を使う戦闘は最初は難しく感じるが、困難な状況をうまく切り抜けたとき自分の戦闘力の向上を実感できる。プレイし続けることで状況に合わせた戦い方を身につけていき、さらに戦闘にのめり込める楽しさは、さすがFPSの老舗であるid Softwareの作品だと感じた。
戦闘をさらにエキサイティングにする要素が「エンジニアリング」だ。主人公は設計図を入手することで、拾ったものや、店で買った材料を組み合わせて様々なアイテムを作り出すことができる。瞬間的に体力を回復させる「バンテージ」、鍵のかかった扉を開ける「ロックグラインダー」、設置することで砲台となる「セントリータレット」、移動する「セントリーロボット」など多彩なアイテムが用意されている。特殊弾薬もエンジニアリングで作れる。
セントリーロボットは自ら積極的に前に出て格闘戦もこなす強力な味方で、オススメしたいアイテムだ。一方セントリータレットは格闘に弱いため、自分より前に設置してしまうと敵に近付かれあっという間に倒されてしまう場合が多かった。探索中狭い場所に閉じこめられ、敵から波状攻撃を受けるという状況も多いため、これらのアイテムをうまく活用すれば戦闘はかなり楽になる。
筆者がお気に入りのアイテムは「ウイングスティック」だ。ブーメランのような武器で、相手に投げつけると突き刺さり、角度が良ければ手元に帰ってくる。リロード中など隙が生じたときに敵が突っ込んで来た場合、これを投げつけ難を逃れることができた。音を立てないため先制攻撃に有効だ。また、「RCボムカー」も敵の真ん中に突っ込ませて爆発させるのが楽しい。色々試してみて、自分なりの戦い方を生み出す自由度があると感じた。
ハンドガンも双眼鏡を手に入れることで狙撃が可能に。至近距離で強いショットガンに、中距離で有効なアサルトライフル | ||
左から、敵をまとめて倒せる「エレクトロ・ボルト」、投げつけて攻撃する「ウイングスティック」、閉ざされた扉は「ロックグラインダー」で壊せる | ||
「セントリータレット」、「セントリーロボット」、「RCボムカー」 |
■ アクセルベタ踏み、バギーで荒野を駆け抜けろ
「レーシング・クレジット」を使うことでマシンをアップグレードできる |
バギーなどの「マシン」も「RAGE」の楽しさだ。マシンは各街や拠点の移動だけでなく、街で行なわれているレースに参加して賞金を稼ぐことができる。レースで得られる「レーシング・クレジット」を使うことでマシンをアップグレードできる。武器や装甲、エンジンなどをよりよいものにして、盗賊達に立ち向かうのだ。
レースは決められたタイム内でコースを走破する「タイムトライアル」、4台のマシンで争う「非コンバットレース」、武器でつぶし合い勝利を目指す「ミニガンレース」、「ロケットレース」といった種類がある。ゲームを進めるとより高性能なマシンを入手できるが、レースはクラス分けされているため最初のバギーもチューンする必要がある。レースは難易度そのものは高くないが、コーナーリングの攻略や、敵との駆け引きなど基本はしっかり押さえられており、熱い戦いが楽しめる。
レースではブーストの使い方が鍵となる。コースにはブーストを回復するアイテムが置いてあり、これをうまくとり続けることで常に加速した状態で走り続けることができる。バギーでガンガン敵車と当たりながら、オフロードのコースを攻めていく感触は楽しい。今回は体験できなかったが、オンラインマルチプレイでもレースは可能で、世界中の人と腕を競える。なお、この他のマルチプレイの要素としてはCo-opが楽しめる「ウェイストランドレジェンド」もある。
マシンは移動やレース以外でも活躍する。盗賊達のテリトリーでは「マシンミニミッション」が発生し、一定の盗賊のマシンを倒すとボーナスがもらえたり、突然空より隕石が落下してきて集めることができたりする。また、「スタンリーエクスプレス」という、様々な場所のポストに手紙を届けるミッションも用意されている。もちろん、ただひたすらドライブするだけでも楽しい。マシンも「RAGE」の大きな魅力だ。
レースから、タイムアタック、武器で相手を破壊できる「ミニガンレース」等種目は様々 | ||
敵を倒したり隕石を回収する「マシンミニミッション」。右は様々な場所のポストに手紙を届ける「スタンリーエクスプレス」 |
■ 主人公の前に徐々に真の姿を現わしていく世界
NPCは陽気なキャラクターが多い。世界の活気を感じさせられる |
ロード画面のイラストも味がある |
巨大ミュータント。彼等の変異の原因は? |
「RAGE」はゲーム性に加え、巨大なテクスチャーを使って、広大なスペースをリアルに描ききる「メガテクスチャ」がプレーヤーに衝撃をもたらす。「RAGE」では遠景を眺められる場所が多く、自分が旅している場所が広大な地域だと言うことを実感させられる。メガテクスチャの威力を存分に楽しめるポイントを見つけるのもゲームの楽しさの1つだ。抜けるような青い空、視界の向こうまで広がる不毛の大地や、廃墟、さらには巨大な隕石の落下でできたクレーターなど、「異世界」を強く感じさせる光景も多い。
また過酷な世界でありながら、世界の住人の根底にどこか“明るさ”があるのも面白く感じた。たしかに生活は常に厳しいし、1度行った集落がしばらくしてから戻ると閉鎖されていたりすることもあるが、住人はタフなキャラクターが多い。「RAGE」の世界は滅び行く世界ではなく、ここから再生しようとする世界なのだという事が伝わってくる。キャラクター達の仕草がちょっとオーバーなところも、陽気さを感じさせる部分だ。
「RAGE」では「ウェルスプリング」に主人公がたどり着いたところから一気に世界が広がり、ゲームの本質が見えてくる。市長や保安官が依頼してくるメインクエストに加え、掲示板に張り出されるサイドクエストや、街の住人の依頼など、様々なクエストを受けることができる。増えた資金で設計図と部品を買い戦力を増強させることで、自分なりの戦い方を確立していける。閉ざされた扉を開けるロックグラインダーは常に複数持っていたいところだ。無くてもゲーム進行に支障は無いが、有利になるアイテムが入手できることが多い。また街で挑戦できるミニゲームも、資金を増やすのに有効だ。
衝撃的なのは「ミュータント・Bash TV」というTV番組に挑戦するシーンだろう。ここではJ.Kスタイルズという男が作った闘技場で何匹ものミュータントと戦わなくてはいけない羽目になる。スタイルズはこの挑戦者の奮闘を録画し、放送しているのだ。遊園地風の音楽の中、体中にナイフを付けて回転するゴリラの置物が周回するステージや、床からスパイクが飛び出してくる危険なステージで戦うことになる。必死で戦ってるなかで、スタイルズの陽気なアナウンスが憎たらしい。
「デッドシティ」はミュータントが跋扈する恐ろしい場所で、大きなものや、粘液を吐きかけてくるものなど様々なミュータントが襲いかかってくる。クライマックスはビルより巨大なミュータントとロケットランチャーで戦うシーンだ。これらのミュータントは隕石落下後に登場したというのだが、何か大きな秘密があるらしい。
そして、徐々にオーソリティが姿を見せ始める。高度なテクノロジーを独占し、主人公のようなアーク生存者を捕らえようとするこの組織が何を画策しているのか、そしてそれに抵抗するレジスタンスとは……主人公の前に新世界の姿が明らかになっていくのだ。様々なサイドクエストで世界の広がりを表現し、メインクエストで世界を掘り下げていく。プレーヤーはどんどん「RAGE」の世界に没入していくだろう。
気になった点としては、例えば重装甲の敵にポップロケットが有効だったり、セントリーロボットを使うときついところが楽になったり、そういう“ヒント”が少ないことだ。もっとユーザーに気付かせる工夫はあって良かった。また中盤ではアイテムや弾が増え、操作が複雑になる。もう少し洗練できたとも思う。
加えてゲーム中盤ではセントリーロボットやRCボムカーを使ってもあっという間に敵の集中砲火を浴びて壊されてしまったりと、せっかくのアイテムがポテンシャルを活かしきれない場面も多い。これを「リアルだ」と評価することもできるとは思うが、もう少しユーザーの爽快感を重視する方向でチューニングしても良かったと感じる。ガイドが足りない点やアイテムを有効に使うためにかなりの工夫が必要なところは、日本のゲームとは違う荒削りに感じた部分であり、「いかにも欧米の老舗らしいところだなあ」と思った。
「RAGE」は魅力的なストーリー、世界観で多くの人を虜にする力を持った作品である。エキサイティングな戦闘を求める人には文句なしにオススメしたいし、この世界に興味を持った人はエンジニアリングや装備の強化を駆使して挑戦してもらいたい。こまめにセーブすることも有効だし、街できちんと準備することで戦いは有利になる。難易度をイージーにするのも良いだろう。荒削りに感じる部分もあるが、詰め込まれたアイデアは面白く、試行錯誤の楽しさを教えてくれる。ぜひ挑戦してもらいたい作品だ。
メガテクスチャは驚異的な風景も、リアリティをもって描き出す | ||
拠点となり様々なクエストが受けられるウェルスプリング | ||
J.Kスタイルズという男が作った闘技場で何匹ものミュータントと戦う「ミュータント・Bash TV」 | ||
「デッドシティ」では様々なミュータントが襲いかかってくる。右は粘液を吐きかけられ、視界がきかなくなったところ | ||
サイドクエストや、街で遊べるミニゲームも。今後、DLCにも期待したい |
(2011年 10月 6日)