★PS3/Xbox 360ゲームレビュー★
バイクギャングと用心棒……男達のドラマが始まる 2本のアナザーエピソード、街はさらに魅力的な場所へ 「グランド・セフト・オート:エピソード・フロム・リバティーシティ」 |
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Take-Two Interactive Japanは、6月10日、PS3/Xbox 360「グランド・セフト・オートIV」(GTAIV)の2つのダウンロードコンテンツをセットにした「グランド・セフト・オート:エピソード・フロム・リバティーシティ」(GTA:EFLC)を発売した。
「GTAIV」のリバティーシティを舞台に、2つの新しい物語が展開する |
「GTA:EFLC」は「GTAIV」のディスクを必要とせずに、この1本でバイクギャングの幹部である「ジョニー」の活躍を描く「GTAIV:ザ・ロスト・アンド・ダムド」(GTA:TLAD)と、リバティーシティに名高いナイトクラブの用心棒「ルイス」が主人公の「GTA:バラッド・オブ・ゲイ・トニー」(GTA:BOGT)の2つの物語が楽しめる。舞台はもちろん「GTAIV」のリバティーシティであり、時間軸的にも「GTAIV」とほぼ同じ時期の物語だ。
海外でのDLC第1弾Xbox 360の「GTA:TLAD」は2009年2月に配信されていることを考えると、日本語版発売までは少し待たされた印象もある。しかし、本作「GTA:EFLC」は日本語字幕によりストーリー上の会話のみならず、移動中の会話や、ゲーム内に登場するWEBサイトなど様々なコンテンツがきちんと和訳されており、英語が苦手なプレーヤーでも、「GTA」シリーズならではの世界をたっぷり楽しめる。
なによりも、今回の2つのストーリーによって舞台であるリバティーシティがよりくっきりと浮かび上がってくるところに注目して欲しい。「GTAIV」の主人公ニコの家のあった通りをジョニーとしてバイクで走り抜ける。ジョニーの本拠地近くで、ルイスが銃撃戦を繰り広げる。エピソードが積み重なることで、街がさらにプレーヤーに近い存在になってくる。犯罪が日々生み出される悪徳の都リバティーシティこそが本当の“主役”であることをプレーヤーは実感するだろう。
■ 危険なリーダーの帰還。犯罪都市リバティーシティを愛車と共に駆け抜けろ
バイクギャング「ザ・ロスト」のサブリーダーである主人公ジョニー。ビリーの狂気を感じさせる行動に振り回されることになる |
仲間と共に街を走る。バイクと、走り、そして仲間というテーマにこだわりを感じさせられる。これまでの「GTA」シリーズとは少し異なるテイストだ |
「GTAIV:ザ・ロスト・アンド・ダムド」(GTA:TLAD)の主人公ジョニーは「ザ・ロスト」と呼ばれるバイクギャングの幹部だ。物語は裁判命令でリハビリ施設に収容されていた支部長ビリーが、ザ・ロストに舞い戻ってきた日より始まる。ビリーはいきなり自分のバイクがなくなっていたことに怒り、仲間を率いて敵対組織の「デス・エンジェルズ」を襲撃、死体の山を築いて自らの復活をアピールする。
ジョニーはビリーがいない間、組織の活動をビジネスに絞り、組織を大きくしようと努力してきた。そのためにデス・エンジェルズとも停戦を結んでいたのだが……リーダーの帰還により、全ては無駄になってしまった。ビリーはデス・エンジェルズとの抗争だけではなく、ドラッグにも手を出し、仲間を危険にさらしていく。リハビリ施設から帰ってきたビリーは前以上の狂気に囚われているように見える。そしてジョニーに対していわれのない疑いの目を向けるのだ。
ビリーの暴走は止まらない。「仲間の敵討ち」といいながらメンバーを動員するものの、実際はドラッグを奪うためだけだったり、弁護士や政治家とコネクションを持ったり、危険なことを積極的に行なっていく。ジョニーは不安を募らせながらも実働部隊としてこなしていくが、ある事件でビリーは再び警察に捕まり、ジョニーはリーダーになる。しかし、それを快く思わないビリーの腰巾着のブライアンがメンバーをそそのかし、ザ・ロストを2つにわける対立が勃発してしまう……。
「GTA:TLAD」はバイクギャングとしての活動を体験できる。アジトで仲間とカードやアームレスリングをしたり、リーダーの命令の元夜の街を疾走したり、敵対組織に殴り込んだり。バイクを盗み、売り払ったりもできる。「GTAIV」のニコとは全く違った“生活”ができる作品だ。ジョニーはビリーの行動に嫌悪を感じつつも、彼がいなくなってからも結局ドラッグの取引や、抗争を続けていくことになってしまう。ジョニーがリーダーとして組織をどうしていくのか、そしてビリーとの決着はどうなるのか、ストーリーと、バイクギャングという特殊な犯罪集団の生き様に強く引き込まれる。
「GTA:TLAD」は「GTAIV」とほぼ同じ時間軸でのストーリーとなっており、「GTAIV」にも登場したドラッグディーラーの女ボス、エリザベスからの依頼をこなす他、いくつかのミッションで「GTAIV」の主人公ニコも顔を出す。ニコでも体験した事件をジョニーの視点で描いており、もう1度「GTAIV」をプレイしたくなる。ジョニーとして様々な場所を走り、ミッションをこなしていくと、「GTAIV」をプレイしていた記憶が蘇ってくるのも楽しい。
プレイの中ではやはり、“愛車”というこれまでにない感覚をもてるのが面白かった。「GTA:TLAD」は、バイクに乗っていなくてはスタートしないミッションがあったり、バイクに乗ったまま進んでいくミッションも多い。これまでの「GTA」シリーズはドライブゲームという側面はあったものの、大体の乗り物は使い捨てだったり、様々な乗り物に乗り換えたりするミッションが多かった。自分の車というのはコレクション要素であって、ゲーム本編にはあまり関わらなかった。しかし、「GTA:TLAD」では“愛車で街を流す”というシチュエーションがゲームの中心に置かれている。本作ならではの独特の感覚、愛車への愛着はぜひ体験してもらいたいポイントだ。
■ レース、バイク盗難、抗争……バイクギャングの危険に満ちた日常
仲間と共にミッションを行なうと、仲間は成長する。タフになり、武器も強力なものに |
ジョニーの元彼女アシュリー。ドラッグから逃れられずにいる |
ザ・ロストではジョニー、ビリー、そしてブライアン以外にも、3人の主要メンバーが登場する。1人目のジムはジョニーの相棒とも言える存在で、ジョニーを新しいリーダーとして支える。2人目のテリーは武器を安価で売ってくれ、さらにバックアップを頼むと仲間としてミッションに同行してくれる。3人目のクレイはどこからともなくバイクを調達してくれる。ジミー、テリー、クレイはジョニーの心強い味方だ。
加えて、「GTA:TLAD」では“メンバーの成長要素”がある。本作では主要メンバーも含めミッションに参加することで耐久力が増えたり、使用武器がより強いものになる。ミッションで生き残ることができれば彼らはより心強い味方として成長する。主要メンバー以外は死亡すると新たなメンバーが補充されるが、できれば生き残らせたいところだ。
本作はメインミッションでも10時間近く遊べるボリュームを持っている。ジョニーと彼のチーム“ザ・ロスト”がどうなっていくか、敵対組織との関係、ドラッグ密売組織の介入や、謎の黒幕など、ストーリーは緊迫度を高めていく。このメインストーリーの他にも、いくつかのフリーミッションが用意されている。
「ギャングウォー」というミッションでは、バイクでジョニーがその場所に行くと、他のメンバーが集まり、隊列を組んで敵対組織デス・エンジェルズに戦いを挑む。バイクでのチェイスや、敵の拠点への殴り込みなど、様々なシチュエーションがある戦闘ミッションだ。難易度は徐々に上がっていくため、できるだけ仲間を生き残らせ、鍛えて戦っていきたい。
「バイクレース」は「GTA:TLAD」ならではのバイクでのレース。コースがかなり入り組んでいて、直角カーブなどバイクをどこまでうまく操作するか、その力量が試される。さらにこのレースでは参加者が全員バットを持っていて、ガンガン殴り合うという過激なルールがある。殴られた場合、大きくコースから外れてしまう。バイクギャングのリーダーだからこそ、なんとしても勝ちたいところだ。
目当てのバイクを盗む「バイク泥棒」というフリーミッションもある。バイクを盗んで売り払うという、あらためてバイクギャングのモラルのない日常を見せられるミッションである。指示通りに、走っているバイクを無理矢理奪ったり、持ち主がバイクを磨いている目の前で強奪したりする。ビリーにブレーキをかけようとするジョニーも、品行方正の善人でも、「正義の不良」でもなく、かなり生々しい犯罪者であることがわかるミッションである。
この他、「GTAIV」にもあったランダムキャラクターも登場する。突然出会うキャラクターに依頼される事件でのドタバタも楽しい。「GTA:TLAD」はバイクギャングという1つのテーマに焦点を当てた、これまでの「GTA」シリーズにはないテイストの作品だ。ジョニーには“組織の頭”としてある種の責任感が常にある。自由気ままに犯罪を繰りかえし、のし上がっていったニコとはひと味違う“プレイ感”を体験して欲しい。
ザ・ロストの拠点では、仲間達とカードやアームレスリングができる。右はクレイに頼んでバイクを調達してもらったところ | ||
「ギャングウォー」は仲間を集めて敵対組織を襲う。シチュエーションは様々だ | ||
バットを振り回す過激なレース。右はバイクを盗む「バイク泥棒」 |
■ 強面のクラブの用心棒ルイス。タフな彼の人知れぬ悩み事とは?
更正し、夜のリバティーシティで活躍するルイス。彼は今の良い場所を守ろうと危険に飛びこんでいく |
ルイスのパートナー、トニー。2つのクラブを経営する伝説的なオーナーだが、借金による不安で薬物に逃げ込むようになる |
「GTA:バラッド・オブ・ゲイ・トニー」(GTA:BOGT)の主人公ルイスはドラッグの密売人として2年間を刑務所で暮らし、出所後トニー・プリンス(通称ゲイ・トニー)に拾われた。トニーは2つの大きなナイトクラブを経営する伝説的なオーナーであり、ルイスは今では強面の用心棒として、ナイトクラブの様々なトラブルを解決する、従業員達からも一目置かれる存在となった。
ルイスの幼なじみ、アルマンドとエンリケはそんな“まとも”になった彼に裏切られたと感じている。彼らはまともな仕事に就けず、今でもドラッグの売人として危険な日々を過ごしている。ルイスは友達を危険な仕事から足を洗わせようとするが、逆に仕事を手伝わされることもしばしばだ。また、ルイスの母親も怪しい連中から借金をしたりと目が離せない。
そして、彼を救ってくれたパートナーのトニーもまた転落への縁に立っているのだ。ギャングや怪しい組織からの借金がふくれあがり、よくない友人達にそそのかされ、きっぱりやめていた薬物に再び手を出すようになっていく。追いつめられた状況がより一層彼の現実逃避への行動を後押ししていく。ルイスはトニーの借金返済のため、大金持ちの無茶苦茶な要求や、マフィアが命じるミッションをこなしていかなくてはならなくなる。
「GTA:BOGT」はこういった“しがらみ”を描いているところが面白く感じた。ドラッグの密売でしか生計を立てられない友人。ルイスにまともになれと言いながらも、彼の差し出す金を必ず受け取る母。成功者であったにもかかわらずギャングの借金でドラッグへと逃避する恩人……。プレーヤーは本作を通じて、ルイス1人では解決できない悩み、社会への苛立ちをきちんと共感していくだろう。
「GTA」シリーズは、他の作品以上に社会の闇の部分を説得力を持って描き、ストーリーに盛り込む印象がある。犯罪描写などで「悪のゲーム」としてやり玉に挙げられることが多い「GTA」シリーズだが、他の作品以上に社会への鋭い視点があると思う。“社会派”のゲームなのだ。特にこの「GTA:BOGT」では、アメリカ社会が抱える問題を意識するストーリーとなっていると感じた。
もちろん、重いテーマを根底に持ちながらも、本作もこれまでのシリーズ同様、破天荒でタガの外れたノリに満ちている。警官隊が封鎖線を張るのを爆弾で吹っ飛ばしたり、工事現場、鉄道、飛行機を連続爆破したり、地下の金網に囲まれた秘密リングでファイトしたりもする。トニーに対して悪い噂を流す悪質ブロガーを脅すため、ヘリから突き落としダイビングキャッチ、などなど街を舞台に常識を越えた大活躍ができる。
特にアラブの大富豪ユスフのミッションはユニークだ。「豪華客船にヘリがあるから、それを盗んでこい」と言われ、ルイスは実行するのだが、次の瞬間「あいつらは悪い武器商人だから船ごと沈めてやれ」といわれ、それを実行してしまう。ユスフから依頼されるミッションは、「金持ちの思いつき」に満ちており、ルイスは振り回される。高層ビルの上で警察のヘリと戦ったり、ド派手なシチュエーションばかりなのも面白い。
本作にももちろん「GTAIV」や「GTA:TLAD」のキャラクターも登場する。特に「GTAIV」で活躍する筋トレマニアのブルーシーの兄、モーリの登場にはニヤリとさせられた。弟は筋肉や自分の金持ち振りを自慢するアクの強い人物だったが、兄はそれに輪をかけた変人だ。モーリに比べるとブルーシーの方が愛嬌があり、「GTAIV」で暑苦しく自慢していたブルーシーが、兄の前ではやりこめられてしまうのも面白い。他にも「GTAIV」、「GTA:TLAD」をプレイしたユーザーには楽しいネタがたくさん散りばめられている。
■ クラブマネージャの仕事は大変?! 地下闘技場や、ドラッグ争奪戦など多彩なサブミッション
華麗な踊りを見せるルイス。ノリノリの表情が楽しい |
母と友人。彼らもまたルイスの大事なものだ |
ルイスはナイトクラブのマネージャーであり、用心棒だ。これまでの主人公と違い「定職」を持っていて、夜から朝までナイトクラブで勤務することが求められている。出社すると黒いジャケットに身を固め、耳にレシーバーをつけて仕事を始める。監視カメラでナイトクラブを見張るスタッフの指示に従い、トラブルが起きそうなところで睨みをきかす。
トラブルに対して、他のスタッフのヘルプに向かうこともある。有名人がパパラッチに見つかったときなど、客をのせてパパラッチを巻くために車を運転することも。また、客を呼び込むスターのためにわざわざ遠くの店から料理を買ってくるなど、わがままにつきあわされることもある。他のスタッフから相談を持ちかけられたり、クラブの皆から頼れる存在として扱われるのは、独得の感慨をもたらす。
もちろん、仕事を離れ、客としてナイトクラブにはいることもできる。ダンスはリズムアクションになっていて、ノリノリで踊ることができる。またVIPルームではシャンパン飲み競争ができる。このお馬鹿なノリが一晩で湯水のようにお金を使う“夜の遊び”らしくていい。
VIPルームは取り巻きの女性がつねにいて金の魔力を感じさせるし、一般ルームでも暗がりで男女がいちゃついていたり、警備員に流し目をする女の子がいたりして雰囲気たっぷりだ。ちなみに、トニーがやっているもう1つのクラブはゲイ専門で、こちらはかなり強烈だ。
金網リングのファイト「LCケージファイト」はシナリオ以外でも挑戦できる。中盤からは武器を持った敵と対峙しなくてはいけないのが難しい。敵の武器を奪えるかが鍵だ。また、パラシュートを使ってビルから飛び降り、目標地点に着陸する「ベースジャンプ」といったチャレンジもある。
アルマンド、エンリケと組んで行なう「ドラッグウォー」はドラッグ取引の現場に踏み込んだり、アジトを襲撃してドラッグを奪うという危険なミッションだ。挑む前に弾薬の補充と、防弾チョッキの購入はしておきたいところだ。敵を制圧し、奪って逃走する。この無法なミッションは楽しいのだが、ふとルイスの気分になって、「アルマンドとエンリケはこんな事を続けていてどうなるのかな」とも考えてしまう。
「GTA:BOGT」は崩壊しそうな“現在”をルイスが必死に支えているところにちょっとした哀しみがある。皆が破滅に向かって突き進む中、頼れるマネージャーとしてようやく自分の「居場所」を見つけていたルイスがどうなっていくのか、心配してしまう。ストーリーがどう展開していくか、グッと引き込まれる作品だ。
「グランド・セフト・オート:エピソード・フロム・リバティーシティ」はDLCといっても、両作品ともにシングルプレイのメインミッションだけでも10時間以上プレイできるボリュームがある。本作は「GTAIV」本編を持っていなくてもプレイできるが、やはり「GTAIV」をプレイしておくことをオススメしたい。両作品ともミッションが「GTAIV」の中盤くらいからの難易度になっており、ルールを把握していないと、少し難しい部分がある。また、武器屋の利用やタクシーの便利さなど、プレイのテクニックを学んでからの方がゲームを有利に進められると感じた。
何よりも、リバティーシティという街、そして「GTAIV」の主人公ニコの生き様を見てから本作をプレイすることで、ドラマと、目に見える風景の厚みが大きく増す。3本のストーリーを通すことで、リバティーシティという存在がこれまで以上にしっかりとプレーヤーの中に根付く。ここまで大きなスケールの街を、ここまでしっかりと、そしてリアルに描いたゲームはかつてない。「GTAIV」はPS3版、Xbox 360版共に廉価版が発売されている。未プレイの方は是非「GTAIV」と本作を合わせて楽しんで欲しい。ゲーム史に間違いなく残る“街”をたっぷりと楽しんで欲しい。
クラブマネージャーとして様々な難問に対処するルイス。“プロの顔”が見られる瞬間だ | ||
わがままなスタッフの要求に応じることも。中央はパラシュートでチェックポイントを通過する「ベースジャンプ」、右が地下格闘場での「LCケージファイト」だ | ||
「ドラッグウォー」。アルマンド、エンリケと共にドラッグを手に入れるため死線をくぐる |
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(2010年 6月 16日)