2016年11月4日 13:36
人気FPSシリーズの最新作、「バトルフィールド 1(以下、『BF1』)」はシリーズで初めて第1次世界大戦を舞台とするマルチプレイFPSとなったが、果たしてどんなゲームに仕上がったのだろうか。
第1次世界大戦(以下WWI)は1914年~1918年にわたって行なわれた人類史上最初の世界大戦だが、日本人にはわりとなじみが薄い。というのも別名欧州大戦と言われる通り参戦当事国は欧州各国が中心で、日本を含む極東地域では離れ小島的な植民地を巡っての小競り合い程度のエピソードしか残ってないので仕方がない。
とはいえ欧州ではこの戦争原因として4つの大帝国(ドイツ、オーストリア、ロシア、オスマン)が崩壊するなど世界地図に大きな変更を加えた。また戦場では機関銃やセミオートマチックライフル、戦車や航空機といった現代につながるハイテク戦闘兵器がはじめて大量に投入されたなど、世界史的な影響の大きさは第二次世界大戦以上かもしれない。
というわけで欧米の人々に非常に大きな爪痕を残したWWIだけに、本作も非常に愛情のこもった作品になっていることは確かだ。ゲーム内ではWWIの代名詞である塹壕戦成分が薄めだったり、実際にはほとんど配備されていなかった歩兵用マシンガンが大量にあったりと、本作をFPSとして成立させるための独自解釈は行なわれているものの、それでも時代がかった銃器や兵器の数々、歩兵中心のゲーム性などはシリーズ中屈指のユニークさである。それではシングルプレイキャンペーンとマルチプレイの両側面からレビューしていきたい。
欧州大戦のアウトラインを楽しめるシングルプレーヤーキャンペーン
「BF3」以降、本シリーズでは毎度重厚なシングルプレーヤーキャンペーンを搭載し、1人でも作品世界を楽しめるように構成されてきたが、本作ではこれまでにないオムニバス的な構成を取ることで、WWIの戦場風景を幅広く楽しめるようになっている。
「大戦の書」と名付けられたこの1人用モードでは、プロローグ的な位置づけの「鋼鉄の嵐」シナリオにはじまり、5つのキャンペーンシナリオを収録。ドイツ・フランス国境地帯における戦車兵の戦いを描く「血と泥濘の先に」、アルプス山脈での航空兵の戦いを描く「高き場所の友」、北イタリア戦線でのエリート歩兵の活躍を描く「サヴォイアに栄光あれ!」、ガリポリ上陸戦での斥候役を体験する「ランナー」、そして中東でオスマン帝国に対する破壊活動に従事する「記されぬ言葉」。
それぞれのシナリオは異なるテーマにそって構成されており、登場人物も異なる。それぞれに全く違った戦闘ドラマを体験できるのが良いところだ。ただ、どのシナリオもかなりフィクションに寄っているし、主人公はすべて連合国サイドだったりで、歴史モノとして史実に忠実なエピソードを両サイドから学べる構成にはなっていないのがちょっと残念なところか。映画「アラビアのロレンス」と同じロケーションで展開するシナリオ「記されぬ言葉」でも、肝心のトーマス・エドワード・ロレンスはほとんど出てこず、架空と思われるアラビア人の女性アサシン的なキャラクターが主人公なのも少々食い足りないところ。
ちなみにWWI特有の塹壕戦の雰囲気をいちばん味わえるのはプロローグシナリオとなる「鋼鉄の嵐」。大戦末期、ありとあらゆる最新兵器が投入されたドイツ領内の最前線で、過酷な攻防を行なうアメリカ軍を中心としたシナリオだ。このシナリオでは登場する兵士全員が主人公。塹壕の土にまみれつつ熾烈な攻撃に晒され、あえなく戦死してもゲームオーバーにはならず、同じ戦場の別の人物へ次々に視点が移り、戦闘が続行していく。某ゲームではないが“俺の屍を越えてゆけ”状態だ。味方の屍を乗り越えて、1メートルでも先に進んでいくのだ。これぞWWI!
筆者お気に入りのシナリオは「高き場所の友」。パイロットにしてギャンブラーのクライド・ブラックバーンが、賭けで奪った戦闘機で勝手に飛行し、流れ流れてドイツ軍の航空隊と熾烈な空中戦を繰り広げていくという内容だ。巨大要塞を眼下にしての大規模な空中戦はスピーディで痛快だ。敵方のドイツ戦闘機が全部赤塗りなのは考証的にどうかと思ったが、“レッドバロン”ことマンフレート・リヒトホーフェンの飛行隊にあやかりつつ、敵味方の識別を容易にするための工夫ではあるだろう。
イタリア北部山地での歩兵戦を描く「サヴォイアに栄光あれ!」では無敵の装甲歩兵で存分に暴れまわったかと思えば、ガリポリの戦いを舞台とした「ランナー」では老兵と新兵のホロリとするようなエピソードも。個々のシナリオは各1~2時間程度でクリアできる程度のボリュームにはなっているが、どれも密度が濃いので一気に遊ぶことができる。ついでにマルチプレイでも役立つ様々なシチュエーションでの戦いがひととおり体験できるという構成だ。
ボリュームの不足は気になるものの、構成は非常に面白く、プレイ満足度は高い。今後の「BF」シリーズのシングルプレーヤーモードもこのような構成でいいのではないか、と思わせた。できればドイツ軍をはじめとする中央同盟国軍側のエピソード(例えば毒ガスで負傷した某伍長が主人公の話とか)などもあれば、もっと面白くなったと思う。
オーソドックスなシステムと歩兵中心主義的なマルチプレーヤーモード
本作の中心はもちろんマルチプレイモードだ。ゲームルールとしてはシリーズおなじみの「コンクエスト」を基本として、小マップで陣取りをする「ドミネーション」、攻撃チームが通信設備を破壊して前線を進めていく「ラッシュ」、シンプルに叩き合う「チームデスマッチ」、新ルールの「ウォー・ピジョン」、「ラッシュ」を変形させたようなルールで複数マップを戦う「オペレーション」といったルールが実装されている。
最も多くのゲームサーバーで稼働しているのは「コンクエスト」なので、まずそこから話を進めよう。このモードではマップ中に存在する複数の拠点を奪い合いつつ、最大64人が2チームに分かれて対戦する。各チームの本陣やいくつかの陣地では戦車等の装甲兵器も出現し、本作におけるフルスケールの戦いが体験できる。まあこのあたりは従来通りだ。
基本的なアクションはシリーズを踏襲していて、基本の操作感覚は「BF4」と変わらない。5人一組で分隊を組み、分隊メンバーから再出撃が可能といった基本システムもほぼ同様のオーソドックスな作りだ。しかし現代戦テーマの「BF4」とは2つの点で非常に大きな違いがある。
ひとつは、全体的に兵器の性能が低いことである。1918年時点に存在した兵器をモチーフにしているので仕方ないところだが、戦車はのろいし、兵員輸送に優れたヘリなどはないので、徒歩で移動しながら戦うのが本作の風景の中心だ。
また歩兵のマシンガンは撃ち始めすら精度が低いし、精度高く攻撃できる武器はセミオートもしくはボルトアクションのライフルに限られる。したがって、スナイパーライフルを装備できる「偵察兵」クラスを除けば、決着を付けるのは近距離での撃ち合いが主だ。特に前線火力の中心となる「突撃兵」は近距離に強く、遠距離はからっきしダメという性格が極めてハッキリしていて、このため本作では敵の懐に飛び込んで肉薄して戦う、ということの重要性がかなり増している。
「BF4」と比較してのもうひとつの違いは、チーム全体を指揮統括&支援するコマンダーモードがないことだ。確かに当時は今と違って、巡航ミサイルはもちろんなかったし、戦場を俯瞰する偵察カメラも、空中から支援物資を投下するための輸送機やヘリもなかったわけで仕方ないとは言えるものの、ゲームとしてはひとつレイヤーが減ってしまった感じがある。
死角に敵が潜む、五里霧中の戦い
コマンダーモードの不在は前述した接近戦重視のゲーム性とともに、本作においてプレーヤーの“死角”を増やす要因となった。入り組んだ前線では敵兵の偵察・スポットが充分でない状況が非常に多いうえ、戦闘が進むと地面は爆発のあとで穴だらけになり、敵が潜んでいる可能性がある場所がいくらでもある。このためどこから攻撃を受けるかわからず、顔を出したら5倍の敵が待っていましたとか、誰も居ないと思って進んでいたら背後から撃たれました、とか、状況を把握する前に倒されるケースが非常に増えた感じがある。
これを防ぐにはミニマップのレーダーに頼るのはやめて、泥臭いクリアリングをくまなく展開していくしかないが、さらに拍車をかけるのはランダムに戦場を覆う霧の存在だ。しばしば戦場に現われる濃霧は視程を20メートル程度に制限し、遠くの敵が全く見えなくなる。こういった状況は遠距離を移動しての裏取りのチャンスでもあるが、不意の遭遇が増えるため、状況をコントロールするのはさらに難しくなる傾向がある。
さらに本作で人気のガジェットとなっているガスグレネードも、戦線の混乱を増すのにうってつけのアイテムだ。ガスグレネードは暗緑の煙によって視界を悪くするだけでなく、その毒性を避けるためには標準装備のガスマスクを付ける必要があるのだが、そうすると視界が狭くなり、さらに音がくぐもるため敵の銃撃音や足音を聞き分けるのが難しくなる。狭い路地や屋内では特に効果てきめんである。
これらの要因が折り重なって、本作では単独行動に対する風当たりが厳しい。本作をストレスフリーにプレイするために1番いいのは、常に味方の集団と行動を共にすることだ。「BF4」なら遠近どちらもいける銃器やグレネードランチャーによる爆発的な瞬間火力に加え、コマンダーによる偵察支援等でひとりでも打開できる場合がしばしばあったが、本作では常に複数人で死角を減らし、火力を束ねることがより重要となっている。特に衛生兵がきちんと仕事をする分隊はすこぶる強い。
こういった本作の特性を踏まえて常に移り変わる戦況を読めるようになると、本作のプレイは一気に楽しくなる印象だ。逆に言えば、状況を把握しないまま、従来作のような感覚で動き回っていると思い通りにならないことが増え、ストレスにつながる傾向がある。この点が本作を気に入ることができるかのポイントになるだろう。
戦闘に一味加える巨大兵器
「コンクエスト」ではチームスコアに一定以上の差がつくと、負側チームに“ベヒモス”とも呼ばれる巨大兵器が登場する。出て来る兵器はマップごとに決まっていて、線路があるマップなら「装甲列車」、海があるマップなら「ドレッドノート」、どちらもないマップでは「エアシップL30」が登場する。
どの巨大兵器も、膨大なヒットポイントと強力な火力を誇り、6つの座席がある。兵器単体で見れば“無双”そのもの、近づく敵は簡単にけちらせる。さらに装甲列車なら乗ったまま線路上の拠点を占領でき、エアシップなら空中の出撃地点として使うことで、マップ中の全拠点に素早く兵士を送り込める。その強力な火力で付近の地面は穴だらけ、そのカバー範囲には敵兵も容易に顔を出せなくなり、負側チームは俄然有利になる……。
といいたいところだが、巨大兵器単体で勝敗を覆すほどのパワーがあるかというと、微妙なところだ。筆者の経験上、巨大兵器が登場した10ラウンド中、負側チームが逆転したのは1回だけだ。それも、相手側が巨大兵器の破壊にやっきになって拠点確保を放棄したのがほぼ原因というやつである。
なにしろ巨大兵器が登場すると、搭乗人員だけで6人が兵器内に拘束されるし、装甲列車がカバーできるのは沿線のみ、ドレッドノートにしても海岸沿いのみというかんじで、決して万能ではないのだ。というわけで巨大兵器は勝負という点ではあまり意味がないかもしれないが、戦場をより賑やかにし、戦いにメリハリとさらなるスリルを付け加えるという点では面白い存在である。
お気に入りのゲームモード「ウォー・ピジョン」
幾つかのゲームモードが搭載されているなかで、筆者が特に気に入ったのは「ウォー・ピジョン」というルールだ。これは小マップで最大24人でプレイするモードで、マップ中のランダムな地点に出現する伝書鳩を確保し、一定時間保持することで伝令文書を作成、鳩を空に放つとチームにスコアが入るというものだ。
「BF1」自体が歩兵の近距離戦闘に重きを置いたゲームなので、小マップでごちゃごちゃと入り乱れながら激しいアクションが連続するというプレイは基本的に面白い。それは「ラッシュ」や「ドミネーション」等も同じだが、「ウォー・ピジョン」ではそれに加えて、マップ中に配置される伝書鳩や、伝書鳩をゲットしたキャリアー役のプレーヤーという、作戦目標が常に1点に集中している点、そしてその集中点が常に移動する点が「BF1」の面白さをより引き出しているように感じた。
キャリアーになったら全ての敵から狙われるが、逆に状況はつかみやすい。敵が遠距離にいる間は致命傷を受けることはほとんどないので、ひたすらダッシュで移動し、味方を巻き込みつつ有利な地点に移動。敵の進行ルートを限定しながら、ハラハラドキドキの防衛戦だ。鳩を保持している間はできるだけ動かないほうが早く命令文を書ける(鳩を放つためのゲージが溜まりやすくなる)というルールもあるため、この際は味方を利用しながらじっとしていられる場所を確保。敵が来る方向を1方向に限定できると最高だが、そういった有利な位置を見つけられるかどうかは戦いながらのアドリブ力が要求される。
といった駆け引きが目まぐるしく展開する「ウォー・ピジョン」は、他のモードとは違って戦闘の核となる位置が常に移り変わるため、攻防どちらにしてもプレーヤーに対して創意工夫が求められるのが特に面白いところだ。というわけで本モードが筆者のいちばんのお気に入りである。
本作には他にもたくさんのゲームモードがあるので、皆さんもひとつやふたつはお気に入りのゲームモードが見つかることだろう。今後は恒例の拡張パックでさらに遊びの内容が拡充されていくことも期待されるので、長く愛されてきた「BF4」同様、本作もシリーズ作品らしく対戦型FPSの定番になれるかどうか、長い目で見ていきたい。