2016年10月27日 00:00
待ちに待った「マフィア III」の発売である。筆者は本シリーズが大好きで、その想いは“【特報】「マフィア III」、リンカーンが辿る復讐の旅路”で語ったたけでなく、「マフィア」レビュー、「マフィア II」レビューでも紹介している。「マフィア」シリーズは、歴史への深い理解と、鋭い社会風刺という2つの大きな魅力がある。
「マフィア III」の主人公リンカーン・クレイはいわゆる“黒人”である。そして時代は1968年、現代以上に人種差別が露骨だった時代だ。そしてそれだけでなく、様々な犯罪や、社会の矛盾そのものが本作のテーマとなっている。プレーヤーはダークヒーローであるリンカーンの物語を進めていきながら、アメリカ社会が抱えている“闇”と向き合うこととなる。
我々の社会、そして歴史は完璧ではない。様々な悲劇、矛盾、そして恥ずべき行為で彩られており、人々はそこから社会を良くしようと努力し続けてきた。そのためにはそういった“恥”を認め、知らせ、糺弾することにある。本作はそういった人間が行なってしまった“恥ずべき歴史”に容赦なく光を当て、プレーヤーに問いかけている。
これまでもクライム系アクションゲームは社会批判の要素は持っていたが、「マフィア III」はそこからさらに1歩進んでいる。正直、こういったゲームが世に出るということ自体に驚きを禁じ得ない。日本ではとても作れないゲームだろう。ゲームというジャンルの表現の可能性、クリエイターの力強さを強く感じられる。プレイしながら、人間の“業”を強く意識してしまう作品だ。
すべてを奪われた男は、敵のすべてを奪うことを誓う
リンカーンは孤児として施設で育った。父も母の顔も知らない彼は、家庭に、そして愛情に飢えていた。そんな彼が安息を見出したのは、サミーという黒人ギャング団のボスだったが、サミーはリンカーンに家族を与えてくれた。ベトナム戦争にリンカーンが徴兵されたときは、サミーは日夜彼の無事を祈った。リンカーンはサミーとその仲間達から愛情を受け取ったのだ。
しかし、彼らの故郷ニューボルドー最大の勢力である、サル・マルカーノをリーダーとするイタリアンマフィアはその野心をむき出しにした。サミー達のごたごたを利用し、さらにアイルランド系マフィアにも協力を呼びかけ、連邦銀行を襲って大金を得ただけでなく、リンカーンの“家族”を皆殺しにし、その金を独り占めにした。
……しかしリンカーンは生き延びていた。その堅い頭蓋骨が銃弾をそらしたのだ。そしてリンカーンは復讐を開始する。彼はマルカーノの命ではなく、“破滅”を望んだ。彼はマルカーノの敵となるハイチ系のギャングを率いるカサンドラ、マルカーノに裏切られたイタリアンマフィアのヴィト、息子を失ったアイリッシュギャングのバークを幹部とし、彼らの協力を得ながらイタリアンマフィアの勢力を突き崩していく。
密かに、そして確実に。リンカーンの手は血にまみれ、マルカーノの腹心をわざと目立つように殺し、“見せしめ”にしていく。背筋が寒くなるその復讐劇は、リンカーンを幸せにしてはくれない。復讐を重ねても家族は戻ってこない。それを痛感しながらも、リンカーンの復讐は止まらない。彼はその復讐の果てに何を見るのだろうか……。
「マフィア III」はヘビーでシリアスな復讐の物語である。プレイしていて、心が渇いていくような気持ちになる。いかに効率よく敵を倒すか、敵を追い詰めるためにはどう動くか、より力を得るためにどの腹心にこの地区を任せれば良いか。「マフィア III」は非常にボリュームのあるゲームだ。ニューボルドーは広大であり、ミッション、そしてサブミッションは多彩だが、全てが“復讐”という1つの目的に集約している。プレーヤーの、そしてリンカーンの“目標”はシンプルなのだ。
このためふとしたとき、ミッション半ばで倒されて拠点で復活した時や、収集アイテムプレイが楽しくてミッションから意識が離れた時など、改めてその目的に突き進むリンカーン自身が、プレーヤーキャラクターであるにもかかわらず怖くなってくることがある。こんな時、プレーヤーの心を和ませるのがニューボルドーの風景だ。「マフィア III」のニューボルドーは本当に美しい。カーニバルや、水没してしまった遊園地などで、地域性をきちんと出しているところも素晴らしい。
大きなビル、古風な町並み、生活感が濃厚なスラム街、そしてジャングルのように見える湿地帯。ミッション中でもその景色の美しさは心をつかむ。そしてラジオから流れる1960~1970年代の名曲達。音楽に疎い筆者でも知っている曲が多く、楽しい。街を走っているだけで楽しいというのは、オープンワールドゲームでとても大切な要素だと想う。
もう1つ感心させられるのは、やはり秀逸な時代の描写だ。リンカーンだけでなく3人の幹部の過去や、ふとした登場人物のセリフが時代を物語る。第2次大戦での黒人兵士がどんな扱いを受けたか、ハイチ系の移民達はどのような想いでこの国に逃げてきたか、警察や政治家の腐敗、移民を社会はどのように“使い捨て”にしてきたか……プレイしていて、その深い歴史知識と、それをゲームに活かす手法に感心させられてしまう。ゲームの可能性に改めて考えさせられる。映画や小説とも異なる語り方で、社会や人間の矛盾をえぐり出せるのは、本当にスゴイ。
「マフィア III」は、他のオープンワールドアクションとは、一味違うゲームだ。その社会的メッセージや、復讐に集約していくゲーム性から“重くて暗い”というイメージは正しいのだが、それでもやはり人に薦めたい。ゲームの新たな可能性を見せてくれるゲームだし、改めて自分の中の“良識”を問いたくなるゲームだ。目を背けたくなるような残酷で陰惨なシーンを描きながら、よりよい社会を模索するための方法を問いかけている。こういったゲームが世に出たことに、アメリカ社会の懐の広さを感じるし、何よりテーマを描くのに挑戦した開発スタッフに拍手を送りたい。
敵を次々に血祭りに上げ、ニューボルドーを奪い取れ!
次に「マフィア III」のゲーム性を紹介していきたい。本作は広大なニューボルドーを舞台としたオープンワールドクライムアクションゲームである。オープニング、そして3人の“幹部”を得てからは、地域を攻略する順番もプレーヤーの手にゆだねられている。
ミッションの目標は多彩で、特定の人物を消す、施設を破壊する、ターゲットを追い詰め情報を聞き出す、さらには乗り物を奪って特定の場所に運ぶなどもある。ゲームが進むほどに様々な目標が提示されてくる。地域で提示されるミッションは短めなものが多く、それらをクリアすると敵のアジトに乗り込むなど大がかりなものが提示される。ある者は寝返らせ、ある者は血祭りに上げ、まるでオセロゲームのように、マルカーノの支配地域をリンカーンのものに塗り替えていくのだ。
最初にプレイすると「マフィア III」は難しいゲームだと感じるかもしれない。リンカーンの体力は低く敵に数発撃たれるだけで倒されてしまう。敵のAIはこちらの場所を確認すると包囲攻撃を仕掛けてくるし、仲間を呼ばれて増援に挟み撃ちにされることも少なくない。本作でまず気をつけることは「敵に気づかれないこと」。常に物陰に隠れ敵の気配を察知できる能力で敵の位置を探り、口笛を吹くなどで注意を惹いて敵を分断、1人1人しとめていく。
敵の察知位置は案外狭く、不意打ちに弱い。特に小さな場所でのターゲットを始末するミッション場合は、音の鳴る“笑い袋”のような「スクリーミングゼミ」で敵を集めておけば、火炎瓶で一網打尽にできたりする。ゲームに慣れてきて、リンカーンの能力も向上すればさらに効率的に戦えそうだ。
戦いで注意しなくてはいけないのが警察の存在だ。治安の良いところでは市民が警察に通報をするし、時には敵が警察と癒着し、警察が警備しているところに飛び込んで目的を果たさなくてはいけない場合もある。「マフィア III」の警察はとてもしつこい。しかもバンバン発砲してきてこちらのタイヤを狙ってくる。そして警察に取り囲まれ蜂の巣にされてしまう。本作では特に警察は注意したい。こういった「マフィア III」ならではのリズムを覚えていくことで、ゲームの進め方がわかってくるだろう。
3幹部がそろうゲーム中盤からは、「支配地域を幹部の誰に割り振るか」が重要になってくる。カサンドラは銃器系の能力を向上させたり電話を無効化でき、ヴィトは襲撃班を強化したり、リンカーンの体力を増したりできる。バークは警察に見逃してもらったり、爆弾を強化できる。他にも多彩な能力を得ることができる。どの能力を早めに得た方がミッションに楽になるかを考えたいところだが、えこひいきをしてしまうと幹部が離反してしまう。彼らのバランスを考えるのも、あえて切り捨てるのも自由だ。
ちょっと気になったというか、窮屈に感じたのは、ゲーム中盤まで2つしか武器を携行できないところだ。ショットガンやマシンガンなど多彩な武器を敵が落とすのに、リンカーンは2種類の武器しか携行できないため、使い勝手がいいライフルと、弾数の多いオートマチックピストルだけで中盤まで進めてしまっている。
ゲームを複雑にさせない配慮かもしれないが、敵が近いときはショットガン、離れたときにはライフル、多数の敵にはマシンガンなど、早い時点で複数の武器を携行させて欲しかったところだ。結局遠距離でもそこそこ戦えるライフルを多用してしまっている。こういった感覚はゲームをやり込んでいき、リンカーンが強くなると変わってくると思うので、もっともっとやり込んでいきたいところだ。
“復讐”のみにフォーカスしたコンテンツ。DLCで広がるか?
「マフィア III」の最大の魅力は、やはりストーリーテリングにある。いわゆる黒人であり、ベトナム帰還兵であるリンカーンは、“復讐”という目的を得た今、どこか生き生きとして見える。それはリンカーンに手を貸すCIA職員ドノヴァンも同様だ。ドノヴァンは楽しそうにマルカーノの戦力を分析し、弱点を探し、リンカーンに教える。リンカーンは自分の存在を誇示するかのように街で暴れ回る。
売春、人身売買、癒着による企業献金、武器や麻薬、密造書の取引……ニューボルドーは悪に満ちあふれている。リンカーンはそれらを正す存在ではない。マルカーノを破滅させるためそのシステムを破壊し、影で隠れている元締めを暴き出し、そしてリンカーンの息のかかった者達にすげ替えていくのだ。リンカーンは暴力でそれを成し遂げるし、そしてそれらの犯罪が、元締めを倒したからといってなくなるかどうかは描かれない。
リンカーンは正義の味方ではないが、プレーヤーは彼となり、街の悪に立ち向かっていく。黒人や労働者を虐待し、娼婦達を不当に監禁している奴ら、暴力で周囲を威嚇する用心棒達の所行……。「マフィア III」のグラフィックス、演出にはリアリティがあり、悪事を働く者達の行動を目にすると、現実で目の前で目撃してしまったような怒りがわき上がる。そういう“悪い奴ら”を恐怖と絶望のどん底にたたき落とすのはやはり爽快感がある。悪を持って悪を制する、クライムアクションの根幹を成す楽しさを、本作は非常にうまく表現している。
そして「マフィアの抗争に巻き込まれる一般市民」のリアルな描写も見逃せないところだ。リンカーンの襲撃に市民達は悲鳴を上げ逃げ惑い、そして凄惨な彼の復讐を見せつけられる。彼らは殺されるべき“悪”がすぐ近くにいて、その悪が行なわれていることに気がつかないように生きていて、突然のリンカーンの襲撃で、悪がすぐそばで成されていたという現実に直面させられる。この抗争に巻き込まれる市民達を描き出すのは、実は「マフィア」シリーズを通じて力をかけて表現されているところだ。
そして考えてしまうのだ、「“現実”ではどうだろうか?」。日本は他国より平和だと思えるが、それでも人知れず犯罪は行なわれており、暗部はあるだろう。リンカーンとマフィアの抗争のようなことも、報道されないだけで起きているのかもしれない。そう考えさせるリアルさも、本作の魅力である。様々なことを考えさせられるゲームだ。
しかし一方で、“ものすごくストイックだなあ”と感じさせられるところもあった。例えば、「マフィア III」は多彩な車が登場するのだが、残念ながら現時点ではコレクションできないのだ。こういったカスタマイズやレースの要素は第1弾のDLCで盛り込まれるので、こちらに大いに期待したい。リンカーンの髪型や服装を変える要素なども欲しいところである。
ゲーム部分を“復讐”にフォーカスしている本作だが、探索要素も用意されている。マップ上でちょっとエッチなプレイボーイ誌や、当時の音楽ジャケットなどが入手できるコレクション要素があるのだ。戦いに明け暮れる本作だが、たまにはコレクションに夢中になったり、行く先を決めないドライブや、ボートクルーズを楽しむのも良いだろう。
ただ、やはり今後のDLCでニューボルドーでもっと遊べる要素を増やして欲しい。筆者は、ニューボルドーをリンカーンとは違う立場でも眺めたい。例えば主人公を変えてリンカーンの復讐と同時期のストーリーを描くのも楽しいと思うし、個人的には「バスツアー」の様な、本当に観光に特化したコンテンツも欲しい。「マフィア III」本編はとても魅力的ではあるが、ニューボルドーはリンカーンの復讐だけでは描ききれない魅力を持っていると思う。
何度でも繰り返すが、「マフィア III」はスゴイ。このドロドロとした、血まみれの復讐劇と、社会の暗部をえぐり出す濃密な社会描写は、一見の価値がある。ゲーム史に残る作品であり、本作を抜きにしてクライムアクションは語れない。作品から伝わってくる開発スタッフの“情念”をぜひ感じて欲しい。そして、DLCで魅力的なニューボルドーをもっと多角的に描き出して欲しい。モデルになったニューオリンズにも行きたくなるゲームだ。筆者は本作が、本当に大好きである。
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