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全部入りヘッドセットPC「Sulon Q」は“買い”なのか!?
AR/VR両対応HMD「Sulon Q」がAMD「Liquid VR」セッションにも登場
(2016/3/16 19:32)
「GDC 2016」2日目の15日、AMDは「Liquid VR Today and Tomorrow」と題したセッションを行なった。登壇したのはAMDで「Liquid VR」のSoftware Architectを務めるGuennadi Riguer氏。本セッションの話題の大半は、Liquid VR SDKを使用するうえで、マルチGPU環境でのHMD内蔵のヘッドドラッキングセンサーからデータを取得した後、いかに遅延させることなくCPUと複数のGPUに仕事をさせるか、という命題に対するプログラミング上のテクニックが、Riguer氏のよって語られていた。
そんなセッションなかで、ひとつ驚きだったのが、「Liquid VR」を活用した事例として、突然14日夜にAMDが行なった”CAPSAICIN”のイベントのなかで紹介された「Sulon Q」が登場したことだ。Riguer氏に招き入れられて、「Sulon Q」の実機とともに登壇したRichard Char氏は、「Sulon Q」について、あらためて披露していたので、本セッションでの紹介の模様をお伝えしたい。
まずは、「Sulon Q」のスペックのおさらいからで、APUにAMDのRadeon R7 GPUを内蔵するFX8800P CPUを搭載すること、OSにWindows 10を採用すること、その結果、当然DirectX 12に対応していること、また本セッションの主役AMDの「Liquid VR」テクノロジが有効なこと、GenAudioのAstoundSoundテクノロジにより3Dサウンドをサポートすることが紹介された。
「Sulon Q」には、現実の空間をトラッキングするとともに現実空間を撮影するカメラセンサーが搭載されているのだが、このカメラセンサーが生み出す体験、センサーからの入力を受けてからCPU/GPUで処理が進んで液晶モニタに表示されるまでの遅延の低減、パフォーマンスの最大化に対して、「Liquid VR」のDIRECT TO DISPLAYが最大限活用されている。
その結果、「Sulon Q」のシームレスで激しい揺れのない仮想空間の体験につながっており、また現実世界のキャプチャが毎フレーム行なうことができ、必須タスクのスケジューリングに対して、さほど神経を尖がらせなくても良いという恩恵を得ている。
つまり「Sulon Q」とは、AMDがAR/VRに向けて行なっているGPUの最適化、またそのGPU性能を最大化するためのSDK「Liquid VR」のアドバンテージを、余すところなく使い切っているデバイスということになる。「Oculus Rift」等の他のHMDが、あくまで360度ヘッドトラッキングする機能を持った立体視ディスプレイという位置付けなのに対して、「Sulon Q」は、各種センサーを備えた小型PCを眼前に戴いてしまっているという点がユニークだ。しかもモバイルデバイスを活用した「Gear VR」とは異なり、いわば高性能ながら小型スリム化が進むノートPCや手のひらサイズの超小型PC並みか、それ以上のPCとしての性能が期待できる。VR HMDにとって重要な没入感という観点からも、“紐に縛られない”ゲームプレイ環境は、移動の自由という大きなメリットが得られる。
実際のところモニタ一体型のPCと同じことではあるので、キーボードやマウスを接続すれば、「Sulon Q」を装着したまま仕事や勉強をすることだってできる。
「Sulon Q」のアドバンテージはこれだけではない。他のHMDが完全な没入をゴールに外界からの遮断のために、各社工夫しているなか、この「Sulon Q」はARデバイスでもある。つまり外界の情報を積極的に活用する機能が存在するのだ。その秘密は、空間マッピング&トラッキング用のステレオカメラセンサーにある。先に触れたように、「Liquid VR」を最大限活用することにより、リアルタイムでの現実空間と仮想空間のマッピングを実現しているのだ。
その制度が見て取れるのが“CAPSAICIN”イベントでムービーが紹介された「Magic Beans」のデモで、実機でのARコンテンツの振る舞いをキャプチャしたムービーであることがChar氏からも確認できた。リアルタイム、しかも90FPSで同期するというのは、実はこれはかなりスゴいことではないかと思ってしまう。
現実世界の空間にマッチング用のマーカーを設置することもなく、3DCG側のデータを動的に補正する余地があるとはいえ、あらかじめデータとして作られた仮想のオブジェクトが滑ったりめり込んだりせずに破綻なく合成できるのだとすれば、既存のグラスを通して見える現実世界に多少のCGを追加するAR表現とは異なる、まったく新しいARコンテンツが実現できる可能性を感じる。たとえば、車庫に止めたままの車を使って、車の窓ガラスの部分だけをCGで覆い、助手席に美しい女性のCGを座らせて、一緒に空飛ぶ車の空中ドライブ楽しむといったゲームをプレイすることができるようになるかもしれない。
とはいえ、ちょと未来を感じる「Sulon Q」だが、現在発表されているスペックでは心もとない部分もある。ひとつはメモリの量で、いまどき8GBは少々心もとない。もうひとつはAPUの性能で、ノートPC向けハイエンドのFX8800Pだとしても、「Oculus Rift」を超える2,560×1,440ドットの解像度のディスプレイに、90FPSを維持したままVRコンテンツを全画面ドローするとなると、なかなか厳しいのではないだろうか。ARコンテンツの場合、オブジェクト数を制限すれば、一定のクオリティを維持することもできそうだが、現実世界になじむようなフォトリアルなグラフィクス表現は、ちょっと難しそうだ。性能低下時のリプレイスという点では、「Oculus Rift」のようなHMDに分があるだろう。また、すでにハイエンドPCを所有しているゲーマーの場合、1番手の候補とはなりにくい。
残念なことに、「Sulon Q」の紹介は、本日のセッションでもスライドにとどまっており、実機によるデモは行なわれなかった。手元の資料には、14日夜の“CAPSAICIN”イベントで実機からキャプチャムービー以外に、完全なVR空間をウォークスルーするデモを用意しているとのことだったが、結局見ることはできなかった。
16日以降に開催されるEXPOブースへのSulonの単独出展はなく、パートナーのAMDブースもごく小規模なものであるため、実機での体験ができるのかは未知数だ。今年の晩春に発売が予定されているだけに、願わくば、今回のGDCで実際に実機で試遊できることを期待したい。