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オートデスクの「SHOTGUN」はゲームプロジェクトの救世主となり得るか!?

EAやTurn 10の事例から見るプロジェクト管理ツールが支えるゲーム開発の舞台裏

12月10日開催



会場:秋葉原UDX GALLERY

オートデスクの新和也氏からは、同社を取り巻くマーケットと製品の概況が伝えられた

 オートデスクは、「SHOTGUN ゲーム業界ユーザ導入事例セミナー」と題し、同社のクラウドベースプロジェクト管理ソリューション「SHOTGUN」の紹介を、ゲーム業界向けに行なった。「3dsMAX」「Maya」といった3DCG作成ツールを主力とする同社だが、「SHOTGUN」はプロジェクト管理ツールと、同社にとっては異色のプロダクトだ。ハリウッドでは映像製作会社を中心に720社以上の採用実績があり、同様に日本でも映像を中心に導入する企業が増え始めているという。

 今回のセミナーでは、ゲームにおける「SHOTGUN」の活用事例として、Electronic Arts(以下「EA」)およびMicrosoft Studios傘下のTurn 10 Studios(以下「Turn 10」)の事例が、それぞれのスタジオの担当者から紹介された。「SHOTGUN」は、ゲームに直接組み込まれるものでも必須の開発環境でもないが、開発の舞台裏を間接的に支えるツールであり、本セミナーの内容をゲーム業界の最新動向として紹介したい。

同じくオートデスクの渡辺揮之氏は「SHOTGUN」の概要を解説

 そもそも、「プロジェクト管理ツール」とは何か。ざっくり言うと、ゲーム開発チームの、誰が、何を、いつからいつまでに、どのように製作するのかを計画、把握、分析するためのツールである。ツールのバックエンドにデータベースを活用しているものが多く、人間とって視覚的に分かりやすく、多様な表示形式で出力できるのが特徴だ。

 少人数、少量、短期間のシンプルなプロジェクトであれば、プロジェクト管理ツールを使わず、もっと素朴なプロジェクト管理手法でも必要十分な場合もあるだろう。1人で3日で完結するなら、手帳にメモ書きで十分だ。ところが、多くのゲーム開発プロジェクトは、それほど単純なものではない。最近では、スマートフォンの高機能化に応じて、モバイル向けゲームの小規模プロジェクトでも10人前後の開発スタッフが動くことが多くなってきているだろうし、コンソール向けの平均的なプロジェクトでは、30人、50人といった規模になり、大規模プロジェクトでは、100人、200人といった単位で人が動くことも、めずらしくない。

 プロジェクト管理そのものは、業態による差異はあれど、工場の生産計画表や営業マンの行動予定表、営業店舗でのシフト表などと、その目的とするところは同一だ。ただし、ゲームや映像の場合、誰がどうやっても、完璧な設計図に基づいて寸分違わず同一の製品を作り出すことや、一定のノルマの達成、同一のサービスレベルを維持することのみをゴールにするわけにはいかない。基本的に同一のものを複数製作することはないわけで、個々の開発者の裁量に委ねざるを得ない、あるいは委ねた方が良い事項も多く、それでいて一定レベルの作業生産性とクオリティを出さなければならないという特性がある。プロジェクトメンバーが相互に依存するタスクも多いため、問題点をいち早く発見し迅速に対処しなければならない。こういった業界独特の要求を満たすために開発プロジェクトを陰で支えるのがプロジェクト管理ツールだ。

 オートデスクの「SHOTGUN」は、映像やゲーム開発プロジェクトに特化した機能を有しており、前述した目的の達成に寄与する。進捗管理、アセット管理、レビューと承認の管理の大きく3つの機能を備えており、ツールの表示表現は、さすがオートデスクの製品だけあって、非常にグラフィカルで洗練されている。なかでもアセット管理の機能は非常に優れており、同レベルで類似の機能を提供するソリューションは思い当たらない。

「SHOTGUN」のガントチャート付きタスク管理画面とアーティスト向けアセット管理画面

EAアートワーク部門シニアテクニカルアーティストのJean Sebastien Baril氏

 「SHOTGUN」を活用したアセット管理の優位性は、ゲスト登壇者、EAのJean Sebastien Baril氏、Turn 10のArthur Shek氏の説明からも良く伝わってきた。最初に登壇したBaril氏は、同氏が携わった「プラント vs. ゾンビ ガーデンウォーフェア」のDLC(以下「GW DLC」)と「プラント vs. ゾンビ ガーデンウォーフェア2」(以下「GW2」)との対比で「SHOTGUN」導入の成果を解説した。

 「SHOTGUN」導入前の「GW DLC」開発時に、アセット管理が手動で非効率的であったため、「GW2」の開発ではアセット管理に「SHOTGUN」導入を決断。「GW2」では前作の内容に加え、新たな6つのキャラクタークラスとそのアビリティ、100以上のプレイ可能なキャラクター、シングルプレイヤーモード、ロビー機能を持ちキャラクターのカスタマイズができるバックヤードバトルグラウンド、24人対戦のハーバルアサルトモードといった数多くの新要素を追加するにあたり、「SHOTGUN」の導入がアセット管理の面で大いに貢献したという。

 「GW DLC」では、プロジェクト管理ツールに「JIRA」を使用しており、「JIRA」に対して、外部委託先への依頼状況をすべて手動で登録していた。また、アセットの管理自体は、ゲーム内で行なっているという状態だった。それに対して「GW2」では、「Maya」やFrostbiteエンジンのツールでアセットを登録すると同時に、「SHOTGUN」に対しても自動的にアセットを登録することで、作業の手間を増やすことなくアセット管理を実現している。

 Baril氏は「GW2」プロジェクトの一員であるとともに、全体で4,500名もの開発スタッフを抱えるEAでグラフィックリソースの共有化を促進する“Artworks”というチームにも所属している。同氏は、まとめのなかで「GW2」の開発を通じて得られた成果を踏まえ、今後は全社で汎用的に使えるものにしていきたいとした。

「GW2」のゲームイメージ。アートリソースは「SHOTGUN」を活用して産み出されている

Turn 10コア・プロダクション部テクニカル・アート・ディレクターArthur Shek氏

 続いて登壇したTurn 10のShek氏から示された“破滅のスプレッドシート”は、縦にも横にも長大で、なかなかに悲劇的なものだった。もっとも、初期450車種以上、毎月10車種の追加、26コースが登場する「Forza Motorsport 6」(以下「FM6」)クラスのゲームにおいて、1枚のスプレッドシート(リスト)でアセットを管理しようとすると、こうなってしまっても不思議ではない。特段めずらしい話ではなく、この手のリストに心当たりのある開発者も多いのではないだろうか。

 リストは、管理しなければならない数量が多くなるほど行方向に縦に長くなり、それぞれに固有の要素が増えるほど列方向に横に長くなる。縦横に広がれば広がるほど、視認性が悪くなりミスも増えるものだ。たとえば、登場する全車種を1枚のスプレッドシートで管理する場合、縦方向には450行以上続くことになり、横方向には、各車種に従属するプロパティが何列も続くことになる。PCにはスクロールという便利な機能があるものの、見にくい表は褒められたものではない。

 Shek氏のチームは、このやり方からの決別を決意した。そればかりか、同氏はMicrosoftの傘下でありながら、アセット管理に対しては、統合ソフトウェア開発ソリューションTeam Foundation Server(以下、「TFS」)の採用すら見送ったのだ。というのも、「TFS」はプログラムソースコード管理ツールから発展してきたという経緯から、マネージメントサイドが好むレポート機能は充実しているものの、アセット管理に要求されるアートビジュアルを含めて管理する機能は不足しており、アーティスト好みのスタイルでの運用は難しいからだ。

 そこで目をつけたのが「SHOTGUN」というわけだ。「SHOTGUN」を活用すれば、サムネール画像のコース一覧から特定のコースを選択すると、そのコースの走行中ムービーや、コースに含まれる3Dモデルの一覧をイメージ付きで表示し、そこからさらに各3Dモデルの製作担当者やスケジュールにアクセスするといったことが簡単にできる。また、製作予定に対する実績をトラッキングし、いつでも容易にスケジュール差異のグラフレポートが生成する機能もある。

 「FM6」のプロジェクトでは、これらの「SHOTGUN」の機能を十分に活用し、現場のアーティストが好む視覚的なアセット管理と、マネージメントサイドが満足するレポーティングの両立に成功したということだ。

会場で紹介された「FW6」のトレーラームービーより。プレイヤーが車のあらゆる部分にアクセスできるため精密にモデリングされている

”破滅のスプレッドシート”を避け、「SHOTGUN」でスマートにアセット管理

 本セミナーの採用事例から、「SHOTGUN」は、何が何でもコストダウン、という節約優先のプロジェクトではなく、一定のコストをかけることで、より高いクオリティを目指すプロジェクトにフィットするように感じられた。煩雑な間接業務から解放されれば、ゲーム開発者はゲームの中身に注力できるからだ。ゲーム開発プロジェクトのメンバーのうち、半数かそれ以上を占めるアーティストにとって使いやすいプロダクトの導入に成功すれば、最終的には多くのゲームファンが幸せになれるということになるだろう。

 既存のプロジェクト管理ツールは、プログラムやドキュメントの管理を主眼に置いたものが多く、ビジュアルを含めて管理する機能が弱い。リッチな表示表現が求められるゲームプロジェクトにとって、増え続けるグラフィックスデータの管理は常に悩ましい問題だ。問題修正や仕様変更の履歴を管理し切れずに先祖返りを起こしたり、後からプロジェクトに合流したチームメンバーにとって、情報のキャッチアップが非常に困難なこともある。十分に使いこなすために、管理の粒度の工夫やトレーニングをしなければならないといった懸念点はあるものの、「SHOTGUN」なら使い方次第でこうした問題を解決する可能性がある。

(谷川ハジメ)