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「FFXI」はまだまだ続く! 「ヴァナ・ディール プロジェクト」を解説する

準備2年超、松井P肝いりの「FFXI」新生プロジェクトの全貌とは!?

3月19日発表

 スクウェア・エニックスは3月19日、MMORPG「ファイナルファンタジーXI」の記者発表会を実施し、大型の新企画「ヴァナ・ディール プロジェクト」を正式発表した。概要については速報(その1その2その3)でもお伝えしたように、現行の「FFXI」の枠を大きくはみ出した同作始まって以来の大型プロジェクトとなっており、サービス開始14年目にして最大のチャレンジとなる。本稿では「ヴァナ・ディール プロジェクト」の意味と、その全体像について解説したい。

【登壇者】
挨拶を行なうスクウェア・エニックス代表取締役社長松田洋祐氏
「ヴァナ・ディール プロジェクト」を発表する松井聡彦プロデューサー
左より「ファイナルファンタジーグランドマスターズプロデューサー」渕上貴史氏、クルーズ ディレクター加藤督樹氏、クルーズ取締役古瀬祥一氏、松井氏
左より松井氏、Nexon Korea代表取締役社長パク ジウォン氏

3つの軸からなる「ヴァナ・ディール プロジェクト」

野村哲也氏が描いた「ヴァナ・ディール プロジェクト」イメージイラスト

 まず「ヴァナ・ディール プロジェクト」は、3つの軸で構成されたプロジェクトだ。1つ目は、「FFXI」そのものについて、2015年5月のバージョンアップより順次最終章シナリオ「ヴァナ・ディールの星唄」を実装し、「FFXI」の物語を完結させる。そして2016年3月をもってプレイステーション 2版とXbox 360版のサービスを終了する。Windows版についてはサービスを継続するが、アップデートはマイナーバージョンアップや不具合修正に留まり、実質的には「FFXI」の14年に渡る物語は「ヴァナ・ディールの星唄」をもって完結を迎える。

 2つ目としてソーシャルデバイス向けのゲーム開発を得意としてきたクルーズとの共同開発プロジェクト。「ファイナルファンタジーXI」が培ってきたヴァナ・ディールの世界観を活かした、まったく新しいオンラインRPGで、“「FFXI」の世界観で楽しめる”、“スマートフォンでプレイできる”、“MMOらしさを手軽に体験できる”という3点を基本コンセプトに、クルーズ主導で開発が進められている。2015年4月よりクローズドβテストを実施し、年内サービス開予定。

 3点目は、「FFXI」ファンにとっては待望となる「FFXI」そのものを“新生”させるプロジェクトとなる。韓国大手オンラインゲームメーカーのネクソンと共同で、スマートデバイス向けの「FFXI」の開発に着手する。こちらはまだ開発が始まったばかりということで、発表会では具体的な情報は一切出てこなかったが、2016年中のサービス開始を見込む。ビジネスモデルは、正式サービスのタイミングで最適なモデルを採用するとしている。

【ヴァナ・ディール プロジェクト】
2015年5月から11月にかけて最終章「ヴァナ・ディールの星声」を実装
2016年3月にPS2版とXbox 360版のサービスを終了する
スマホ向けRPG「ファイナルファンタジーグランドマスターズ」。2015年サービス開始予定
スマホ向けネイティブアプリ版「ファイナルファンタジーXI」

 さて、この一連の「ヴァナ・ディール プロジェクト」の起点は2012年までさかのぼる。「ヴァナフェス2012」で正式発表された田中弘道氏のプロデューサー退任、松井聡彦氏のプロデューサー就任がそうだ。松井氏は、この発表を受けて「新生FFXIV」のバトルディレクターとして「FFXIV」の“新生”に尽力した後、「FFXI」にカムバックすることになる。

 松井氏がカムバックした際、スクウェア・エニックスのオンライン事業戦略として若干ストーリーが変化した。それはもともと「FFXIV」が「FFXI」の後継作として作られており、「FFXIV」のローンチ後は、PS2というレガシーなプラットフォームを抱えた「FFXI」は徐々にフェードアウトしていく計画だったが、「旧FFXIV」のローンチが躓いたことにより、「FFXI」をフェードアウトどころか再び成長路線に乗せる必要に迫られたのだ。

「VANA★FEST 2012」での田中プロデューサー退任発表の様子
「FFXI」プロデューサー就任後にインタビューに応じる松井聡彦氏

 松井氏に与えられた選択肢は限られていたが、“そのままサービスを継続する”という選択肢だけは最初から無かった。理由は、提供プラットフォームの寿命だ。PS2についてはハードウェアのサポートが次々に終了しており、このままではプラットフォーマーがサポートしていないハードウェアにサービスを提供するという前代未聞の事態になる。Xbox 360についてはサービスの継続自体に支障はないものの、もともと“「FFXI」だけの特例措置”でXbox 360版のサービスをスタートさせたため、プラットフォーマー側の積極的なサポートは期待できず、世代も変わっているため今後のサービス拡充も難しい。こうしたことから、PS2とXbox 360については「どう綺麗に終わらせるか」しか選択肢として残っていなかったと思われる。

 その上で松井氏が採った戦略は「FFXI」の新生と、「FFXI」フランチャイズの横展開だった。当時、「FFXI」の新生方法は、3つの選択肢があり、1つはほぼ新規で開発し直し、次世代機(現在のPS4/Xbox One)とWindows向けに、「FFXIV」並のグラフィックスを実現した「新生FFXI」(仮称)を提供するプラン。もうひとつは、子会社のシンラ・テクノロジーが研究開発しているクラウド版「FFXI」を実用化させ、全スマートデバイス向けにサービスし直すプラン。そして3つ目が現行のデバイス向けに、新規開発のモバイル版を開発するプラン。松井氏が最終的に選択したのは3つ目ということになるようだ。

 ネイティブアプリ版「FFXI」は、現行サーバーへの繋ぎ込みをサポートしたマルチプラットフォーム展開ではなく、完全に新規のプロジェクトで、新規キャラクターを作成してプレイするモバイル向けのオンラインゲームとなる。開発パートナーには、PC・モバイル向けオンラインゲームの開発実績が豊富なNexon Koreaを迎え、日韓共同開発の形で、「FFXI」を新生させる。

 発表会で示されたのは、まだコンセプトレベルだったが、とりわけ注意が払われていたのは、引退組も含めた新旧の「FFXI」ユーザーが見て、「ああ、これは確かに『FFXI』だわ」と納得して遊んで貰えるような枠組みのゲームにすることだ。ジョブシステムやパーティープレイ、連携、アビリティなど、「FFXI」ユーザーがピンとくる文言をたっぷり盛り込み、姿形は変われども「FFXI」はまだまだ続くことをアピールしていた。

【ネイティブアプリ版「FFXI」】

「ヴァナ・ディールの星唄」イメージイラスト
主要キャラクターが総出演する究極のシナリオ

 しかし、おそらく現役のレベル99ユーザーは、ネイティブアプリ版の発表には不満を覚えるはずだ。現行のサービスこそ継続して欲しいのに、実質サービスを終わらせて、タッチ操作の「FFXI」を作るとは何事だと。この点については開発チームにとっても究極の決断だったはずだが、ユーザーの言い分はまったくその通りであり、この不満感というのは、ちょっとやそっとではぬぐえそうにないが、それを幾分でも軟着陸させるための工夫が、今回発表された最終章シナリオ「ヴァナ・ディールの星唄」であり、14年の感謝の気持ちを込めた「ヴァナ・ディール☆大感謝祭」ということになる。

 最終章シナリオ「ヴァナ・ディールの星唄」は、一見、「FFXI」が大団円を迎えるために、全「FFXI」ユーザーをウェルカムバックさせて大勢で楽しむコンテンツと思いきや、実際はそうではなく、重きを置いているのは現役ユーザーをいかに満足させるかだ。「ヴァナ・ディールの星唄」は、「これまでのシナリオに登場した主要キャラクターが総出演する究極のシナリオ」を目指しており、5月、8月、11月の3回に分けて実装される大型コンテンツとなる。これに合わせて新規バトルコンテンツや新報酬なども用意するとしている。

 「ヴァナ・ディールの星唄」は有料の拡張ディスクではなく、無料のバージョンアップとなるため、参加そのものは誰でも可能とは言え、自らの目でフィナーレを見るためには、最低でもそれなりに装備の整ったレベル99のキャラクターと、すべての拡張ディスクのインストール、そして信頼できる仲間が必要不可欠となる。新規組や引退組にとってはすこぶるハードルが高い条件となるが、現役ユーザーにとっては、完結した「アドゥリンの魔境」以来の歯ごたえのあるストーリーコンテンツとなる。といった点から見ても本最終章シナリオは、あくまで現役ユーザーを重視した施策であることがわかる。

 一方、「ヴァナ・ディール☆大感謝祭」は、お馴染みのウェブカムバックキャンペーンをはじめとした様々な企画が同時進行で行なわれるキャンペーンとなる。ゲーム外も含めた多岐にわたる記念企画の実施も検討しているということで、引退組、新規ユーザーも含めて盛り上がることができそうだ。

【ヴァナ・ディール☆大感謝祭】
2015年を通じて実施される「ヴァナ・ディール☆大感謝祭」

「ファイナルファンタジーグランドマスターズ」タイトルイメージ
可愛らしい「FFXI」キャラクターたち

 そしてもうひとつ松井氏が仕掛けたのが「FFXI」の横展開だ。「“ヴァナ・ディール”を使ったコンテンツを!」という声は、田中プロデューサーの時代からあったが、結局実現しなかった。そこにメスを入れたのが松井氏であり、熟慮の末に選んだパートナーがクルーズということになる。

 今回発表された「ファイナルファンタジーグランドマスターズ」は、文字通り、“ヴァナ・ディール”の世界観をベースとしたスマートデバイス向けのオンラインRPG。多少頭身を落とした可愛らしい「FFXI」キャラクターが、クォータービュー見下ろし型の3Dフィールドを動き回り、グゥーブーやオーク戦車、モルボル、ダルメルなど、「FFXI」お馴染みのモンスターとのパーティーバトルを繰り広げる。

 ファーストインプレッションは、グラフィックスは「FFXI」だが、スマホ用UIやシステムはクルーズオリジナルという、両社のいいとこ取りをした印象。AF装備に身を包んだエルヴァーンやガルカ、ミスラ、そしてタルタルにスマホで出会えるのは、温故知新的でおもしろい。「FFXI」ユーザーにとっては「シアトリズム」的な楽しみ方ができそうで、基本プレイ無料のアイテム課金制のゲームと言うことでまずは試してみたいところだ。

 「FFXI」ユーザーにとっては悲喜こもごもありそうな今回発表だが、現役ユーザーのみならず、引退ユーザーや、新規ユーザーもひっくるめてより広範な「FFXI」ユーザーに対して、新しい「FFXI」を末永く提供しようという取り組みは高く評価したい。なにより、発表会を通して流れていた「FFXI」の魅力的なBGMや、発表会でアピールされた「FFXI」のストーリーをはじめとした各種コンテンツ、“ヴァナ・ディール”の広大な世界観などが、今後も引き続き楽しめるのは何より嬉しいニュースではないだろうか。「ヴァナ・ディールプロジェクト」のスタートを心待ちにしたいところだ。

【「ファイナルファンタジーグランドマスターズ」トレーラー】

【「ファイナルファンタジーグランドマスターズ」スクリーンショット】

(中村聖司)