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Intelが2015年に放つゲーミングに対する9本の矢とは!?
Intel GDCカンファレンス「Future of PC Gaming」レポート
(2015/3/6 12:59)
米IntelはGDC2015 3日目となる3月4日、Moscone Center近くのバーで「Future of PC Gaming」と題したプレス向け発表イベントを開催した。発表会にはホスト役のIntelSoftware and ServiceグループバイスプレジデントPete Baker氏、Premiun Notebook and Client Graphics部門マーケティングディレクターChris Silva氏をはじめ、多様なパートナーから総勢8名が登壇し、ゲーミングに関する様々な発表を行なった。本イベントで発表された重要事項は、次の9項目。
1、インテルによるUbisoftとEAのモバイルゲームへの投資
2、Funcomとインテルによる「LEGOl mini figures」の2-in-1 PC環境での最適化
3、65Wデスクトップむ向けIris Pro統合CPUは本年中頃の登場
4、第5世代Iris統合コアプロセッサ搭載NUCは今春リリース
5、ゲームSNS「Raptr」と新規パートナーシップ締結
6、開発者向け支援コミュニティプログラム「Achievement Unlocked」の始動
7、MicrosoftとのDirectX12に関する協力体制
8、「Real Sense」テクノロジのゲームへの応用
9、先鋭的開発者支援
それぞれの持ち時間は非常に少なく駆け足の紹介ではあったが、インテルの本丸CPUのみならず、ゲームにとってCPUと同等、いやむしろCPU以上に重要なGPUの分野においても、各パートナーと協調して取り組む、相互繁栄策の数々がアナウンスされたので順を追って紹介する。
最初に登壇したPete Baker氏は、インテルプロセッサのゲームデバイスへの採用の変遷を振り返りながら、スピーチを進めていった。今日では、インテルプロセッサはデスクトップやノートPCはもちろんのこと、ゲームコンソールやタブレットにも採用されている。各デバイスへのインテルコアプロセッサベースの採用は1億を超えている。これは1億人のユーザーがインテルプロセッサで遊ぶゲーム市場が形成されていることを意味する。採用の広がりは既存のハードウェアにとどまらない。インテルベースのアンドロイドタブレットは急速に拡大しており、2014年には4,600万台ものタブレットが市場で販売され、200機種が設計されている。
ゲーム開発社との協力も強化されており、数多くのパートナー開発社から、特にUBI SOFTとの取り組みをゲストを迎えて紹介した。UBIは、「Assassin's Creed: Pirates」や「DRIVER:Speedboat Pradise」で使用されている同社のゲームエンジン「Cosmos Engine」をインテルx86ベースのアンドロイドデバイスにネイティブで対応させることを発表した。
「Assassin's Creed:Pirates」はそのファーストタイトルであり、インテルチップの高い性能がゲーム体験をさらに高めるだろうとコメントした。「DRIVER:Speedboat Pradise」は、グラフィック品質を進化させたうえで今春の発売予定で、「Assassin's Creed:Pirates」同様にx86ベースのアンドロイドタブレットにネイティブで対応する。また、Intelは、EAとも密接な協力関係にあり、「Real Racing 3,」「Need for Speed Most Wanted」「Plants vs Zombies」等の有力タイトルもx86アンドロイド端末にネイティブで対応させる計画だ。
続いてx86ハードウェアの進化についても触れられ、第5世代インテルコアを採用したタッチパネルタイプのノートPC「VAIO」のようなタブレットとノートPCのハイブリット型の登場が、x86ベースでゲームを開発する意義の拡大に繋がるとした。こうしたハイブリッド型の「2-in-1 PC」に最適なタイトルとして、パートナーゲーム開発社Funconによって開発されている「LEGO® Minifigures Online」が紹介された。マウスやキーボードの操作がまだ上手にできない幼児のタッチ操作から成長に応じてノートPCでのプレイにシフトできる同作は、2-in-1ハードウェアの特性が活きるタイトルであると力説していたのが印象的だった。
インテルのイノベーションは本年も続く。本年の中頃には、14nmプロセスルールを採用するデスクトップ向け第5世代インテルコアプロセッサには65W版が追加され、LPGパッケージとしては初めてIris Proグラフィックスが統合される。0.6リッターサイズ(10x6cm程度)のミニPCであるインテルNUCには、Iris6100が統合された第5世代のクアッドコア「Core i7」が4月に市場投入される。
新しいNUCはm.2 SSDをサポートもサポートする。過去のものも含め、これらのグラフィック統合CPUのリリースにより、インテルのGPUシェアは拡大している。事実、Steamのハードウェア調査によると、プレイヤーのGPUとして、2010年には6%あまりであったものが、2014年には19%超と3倍以上にそのシェアを拡大している。またUnityの調査によると、2013年当初30%であったものが、2014年には38.4%と、40%に迫る勢いでシェアを伸ばしている。
しかしながら、インテルチップに問題点がないわけではない。問題点を解決すべく迎えた新しいパートナーとして、ゲームプレイヤーをターゲットにしたソーシャルネットワークサービス「Raptr」との提携が発表された。「Raptr」によるとPCユーザーの実に85%のゲームユーザーがPCのメンテナンスをしていないというのだ。グラフィックスドライバでさえも、60%以上のユーザーが古いままにしている。またゲームプレイ動画を共有するために利用されているビデオキャプチャツールは、リソース要求が激しいことも問題だ。
Intelは「Raptr」と協調して、ユーザーに最適なPCセッティングを提供する。加えてドライバの更新を通知し、最新ドライバの改良点の情報を提供する。またドライバのイージーインストールや、ソーシャルネットワークでシェアすること意識したゲームと同時に使えるビデオキャプチャツールも供給する。
パートナーシップは、過去3年間にインテルグラフィックスを採用するハードウェアが4億以上販売されていることを背景に、これらのインテルユーザーが「Raptr」を利用して多くのメジャーゲームをプレイすることを狙ったものだ。加えて、何百万もの新規ゲームプレイヤーを増やすことや、ゲームユーザーの増加がPCの買い替え需要を強く喚起することも視野に入れている。
開発者支援の新しい仕組みとしては、「Achievement Unlocked」プログラムが発表された。「Achievement Unlocked」はインテルGPU、CPU開発者のためのコミュニティで、全世界的に開発上の技術的支援を行う。開発支援体制はインテル単体にとどまらない。MicrosoftとIntelは、ゲームエンジン「Unreal Engine」「Unity」のDirectX12サポートをバックアップする。さらにCodemastersは、DirectX12の最新機能を活用したエフェクトを、同社のEGOゲームエンジンに実装するとともに、インテル第5世代CPUに最適化する。
カメラを使ったインテル「Real Sense」テクノロジの支援についても力を入れて取り組む。従来、Flying Molluskのサイコ心理ホラー「Nevermind」を完全な形で体験するためには、素肌に心拍計測バンドを装着する必要があった。「Real Sense」の赤外線カメラを活用すると、心拍計測バンドを装着しなくてもプレイヤーの心拍を計測することができるようになり、手軽にゲームを楽しむことができるようになる。「Nevermind」以外にも65以上の開発社が「Real Sense」テクノロジを応用したアプリケーションの開発を行っている。
ゲーム開発者コミュニティIGDAを通じては、女性開発者、女性プレイヤーのための施策を行う。また未経験開発者であっても開発を行う熱意のある者に対して、率先した支援を行っていくといった開発者の裾野を広げる取り組みを行っていく。
Intelといえば、誰もが知るPC向けCPU最大手だ。PCゲームの世界では、ことCPUについては他の選択肢を考える必要はなく、CPUはIntel、GPUはNVIDIAかAMDと長きにわたって相場が決まっていた。その一方でGPUに関しては、チップセット統合GPUの時代から、Intelの新GPUがリリースされるたびに、今回は性能が良い、今回は性能が良いと言われながらもPC筐体の中で死蔵される存在だった。
ところが時代は変わり、今やゲーミング環境の主役は、PCでもコンソール機でもなく、スマートフォンや、タブレット端末となった。これらの環境では、省電力で高パフォーマンス、省スペースでありながら部品として低コストな演算ユニットが求められる。すでにNVIDIAやAMDのみならず、ARMやPowerVRの後塵を拝している感がしなくもないが、本来要求を満たしているはずのCPU統合GPUを持っているインテルとしては、拡大し続ける市場を指をくわえて黙って見ていられないということだろう。
今回発表された施策の中では、EAやUBIにネイティブをねじ込んでいるところが最も興味深い。NVIDIAやAMDの施策に素直にならい販売力のあるゲームパブリッシャーのキラータイトルを狙い撃つ方法論だ。Direct X12の普及に注力するMicrosoftとの蜜月関係を背景に、ゲームのローレベルな部分から攻め込むのも面白い。その他の試みは、すべて資金力のあるIntelだからできることでだろうから、当たり外れは未知数だ。