本日公開の「PlayStation Mobile」をSCEJ桐田富和SVPが語る

「ゲームやろうぜ!」のDNAが流れる新モバイルプラットフォーム


10月3日 配信開始



 株式会社ソニー・コンピュータエンタテインメント(SCEJ)は10月3日、ゲーム配信サービス「PlayStation Mobile」の提供を開始した。

 このサービスは、これまでのプレイステーションプラットフォームに比べてオープンな環境になっているのが特徴で、PlayStation Vitaだけでなく、PlayStation CertifiedというSCEJの認定を受けたAndroid端末でも利用できる。以前はPlayStation Suiteという名前で初代プレイステーションのゲームを配信していたサービスだが、名称を変更するとともに、よりオープンな環境で提供されるものになっている。詳しくはこちらの記事などをご参照いただきたい。

 今回はこのPS Mobileを率いる、SCEJシニアバイスプレジデントの桐田富和氏に話を聞く機会が得られた。桐田氏は、新たなクリエイターを発掘するプロジェクト「ゲームやろうぜ!」の企画者として知られている人物。その桐田氏から、PS Mobileにはどんな狙いがあるのかを語っていただいた。




■ マルチデバイスのPlayStationプラットフォームを仕切り直して再出発

SCEJシニアバイスプレジデントの桐田富和氏

――前身のPS Suiteのイメージから、初代プレイステーションのエミュレーターという印象が強いのですが、PlayStation Mobileはそれとは違うものなのでしょうか?

桐田氏 :確かにPS Suiteはそういう色が強いものでした。PS Mobileは名前が変わったから考え方も大きく変わったということはありません。PS Vitaを中心として、スマートフォンやタブレットPCにおいて、プレイステーションのクオリティのゲームをマルチデバイスで遊んでいただけるものを提供したいのです。

 ユーザビリティーから考えると、初代プレイステーションのゲームは、コントローラーを握っていろんな遊び方ができました。それをそっくりそのまま、同じようなユーザビリティーで展開するのは無理です。今回、ある面では区切りをつけています。特に初代プレイステーションのゲームは、PS Vitaでかなりのタイトルがエミュレーションで遊べるようになりますから、今後はそちらで遊んでいただければ。そしてPS Mobileは新たにスタートするという考え方です。

――するとPS Mobileでは何をしようとしているのでしょうか?

桐田氏 :クリエイターの立場で言うと、シングルバイナリで、PS Vitaで遊べて、スマートフォンでも遊べて、タブレットでも遊べるというのが良さです。それぞれの端末に最適化することなくシングルバイナリで遊べるものを作れるという良さがあります。一般のユーザーから見ると、PlayStation Networkアカウントを登録することで、1つのアカウントでPS Vitaでも遊べるし、スマートフォンやタブレットでも遊べます。家の中でいろんな部屋でいろんな端末をとっかえひっかえ遊ぶことはないと思いますが、全ての対応プラットフォームで遊べるという良さがあります。

――ではPS Vitaで過去のタイトルを配信する「ゲームアーカイブス」とPS Mobileの違いは、オリジナルタイトルを作れるというところにあるということでしょうか。

桐田氏 :そうですね。10月3日には27タイトルが発売になりますが、まずはiOSやAndroid、PCで出ていたものや、PS Vita、PlayStation Minisで出ていたものがラインナップされています。今後はそういうものだけではなく、PS Mobile用のユニークなコンテンツも出てきて欲しいし、そういうものが出てきた時にPS Mobileの良さがわかっていただけるのではないかと思います。開発環境に関しても、既にSDKのβ版を公開していて、個人のクリエイターの方々にも多数ダウンロードしていただいています。そこからのコンテンツが、これから年末にかけて出てくると思います。




■ 年間99.99ドルで参入可能。事前の企画審査もなし

「Developer Program」は現在オープンベータ版が無償で提供中

――開発者に向けての話ですが、PS Mobileの利用条件や料金はどのようになりますか?

桐田氏 :11月に正式オープンする「Developer Program」で登録とSDKのダウンロードをしていただき、開発を始めていただきます。ここには「Developer Forums」というフォーラムがあって、開発者同士で意見交換ができます。そこで何がしかができあがれば、PlayStation Storeで販売できます。販売時には年間99.99ドル(約8,000円)のライセンス料を払っていただきます。我々はストアの方の立場で、仕入れ販売をさせていただく形になります。

――年間99.99ドル以外に、開発キットなどのお金はかからないのですか?

桐田氏 :かかりません。ご自宅にあるPCにダウンロードしていただければそれで済みますので、追加投資は必要ありません。

――コンテンツの審査はどのようになっているのですか?

桐田氏 :PS VitaやPS3、PSPというようなPlayStationフォーマットでやっている企画審査のフローは、一切ありません。ある一定の規定を守っていただければ、それで開発していただけます。その上で、実際にストアで販売する前の段階でQA(品質確認)をさせていただきますが、よほど公序良俗に引っかかるものでない限りは、販売できるような形になっています。

――配信前のQAにかかる期間はどのくらいを想定していますか?

桐田氏 :QA自体は簡易的に行なうことを考えていますが、PS Storeに載せるプロセスを考えると、配信の10日から2週間前にはマスターアップしていただく形になります。

――当初は9カ国に配信されるということですが、言語対応のサポートはどうされるのですか?

桐田氏 :日本語だけでは他国で理解していただけないので、最低限、英語はお願いしたいと思います。ただ、それほど本格的なものでなくても構いません。RPGのようにテキストを読むものだと大変ですが、そうでないものであれば、それほど重いローカライズは必要ないはずなので、英語だけあれば大丈夫です。




■ 優秀な開発者をPS Vitaや次世代機へ導くステージに

コンソール機でのゲーム開発への道筋にもなる、と桐田氏は語る

――こういった配信プラットフォームは既にiOSやAndroidなど数多く存在しています。それらに対して、PS Mobileというプラットフォームの優位点はどこにありますか?

桐田氏 :インストールベース的には、Android端末の中でPlayStation Certifiedの端末はまだ少ないですから、PS Mobileは小さいと思っています。しかし開発者にとってエントリーしやすい環境を提供することによって、有意義なコンテンツが出てくればいいと思っています。

 我々の狙いの1つとして、サンデープログラマーや、今までゲームを作ったことがないような方、もしくはプロでやっている方々でもいいのですが、我々が提供するデベロッパーコミュニティの中で、様々なユニークで面白いコンテンツが生まれてくることを期待しています。それがPS Mobileでリリースされ、それなりの評価を得たものに対しては、いずれPS Vitaのゲームを作ってみたり、それから先の次世代機などへエントリーできるような環境を提供していきたいと思っています。そういうステージで活躍できる下地にしていきたいのです。

――そのあたりは以前企画された「ゲームやろうぜ!」に通じるところがありますね。

桐田氏 :「ゲームやろうぜ!」を立ち上げた時に考えたことですが、プロのゲーム開発者は、とても秀逸で面白いゲームを作っていらっしゃいますし、フランチャイズでずっとシリーズ物を作り続けられています。それはとても価値のあることだし、ユーザーを満足させる上でとても必要なものです。しかしその反面で、ユニークで面白いゲームというのは、そういうところからは生まれづらい環境にあります。「ゲームやろうぜ!」では、学生の方に考えてもらって、普通にはありえないものを題材にしてゲームを作ったりして、本当にユニークなものが出てきました。それがプレイステーションのDNAの1つです。そういうものもPS Mobileの中で実現していきたいと思っています。

――プラットフォームとしては、積極的にアマチュアプログラマーに参加して欲しいということでしょうか。それとも大手のデベロッパーにもどんどん参加して欲しいのでしょうか?

桐田氏 :もちろん大手のデベロッパーさんも大歓迎です。ノウハウも技術力もお持ちですし、今サービスされているiOSやAndroidのゲームを持ってきていただいても構いません。しかし、それが全てであるべきだとは思っていません。新しい、ユニークなコンテンツを生み出せるクリエイターの方々に、アマチュアかプロかという立場の違いを問わず、PS Mobileのステージで活躍してもらえるといいなと思っています。その上で、面白そうなコンテンツがあった場合は、場合によっては我々がファンドを組んで、PS Vitaや次なるものに持っていくということも、積極的に取り組んでいきたいと考えています。

――少し意地悪な質問かもしれませんが、先ほどおっしゃったプレイステーションクオリティというのは、どういうものとイメージすればいいでしょうか?

桐田氏 :プレイステーションで生まれたユニークなゲームがプレイステーションのDNAだと思うし、それがプレイステーションクオリティと言われるものに通ずると思っています。プレイステーションは他のゲーム機で出ているゲームが出るゲーム機だよね、と言われたらそれでおしまいです。それはPS Mobileも同じで、iOSやAndroidで出ているゲームが出ているのがPS Mobileだよねということなら、プレイステーションという名を語る必要がありません。そういうところに通ずるのではないか、と私は思っています。




■ 今後登場するPlayStationでユニークなタイトルに期待

東京ゲームショウ 2012ではPS Mobileのタイトルをいち早く体験できた

――PS Mobileは東京ゲームショウ 2012でも出展されていて、そこでは富士通やシャープ製の端末も置かれていました。これらの端末は今後も増えていくのでしょうか?

桐田氏 :もちろん、増えていきます。

――それは今後発売される端末ということですか? それとも既に発売されている端末に後からCertifiedを付けることも可能なのですか?

桐田氏 :両方できます。あとは端末メーカーさんの判断次第ですね。既に発表しているメーカーさんからは今後も増やしていくというコメントをいただいていますし、まだ公表していないスタンバイ状態のメーカーさんもあります。

――以前、PS Suiteの発表時にSony Tabletでゲームをプレイしたことがあります。その時には、操作のレスポンスがよくないなと感じたのですが……。

桐田氏 :ですよね! 当時は全然ダメでした。今はとてもよくなっていますので安心してください。

――PS3にも対応するという話も聞いたのですが、その辺りはいかがですか?

桐田氏 :様々な可能性を検討してはいますが、現時点でお答えできることはないです。申し訳ありません。

――「ゲームやろうぜ!」の考え方も含まれたプラットフォームということでしたが、そのあたりも含めてPS Mobileでどういうことをやっていきたいのか、読者様へのメッセージをいただけますか?

桐田氏 :クリエイターを目指している方には、本当に魅力的なプラットフォームになると思います。Androidなどでもグローバルなビジネスはできますが、我々のPS Mobileでは、発売日からいきなりグローバルにコンテンツを配信できます。また1人でエントリーしても、「Developer Forums」で色々な方々と出会えて、そこでチームを組んでコンテンツを作るといったこともできますので、積極的に活用して欲しいです。開発のサポートに関しては、フォーラムに全て任せるのではなく、我々もサポートできることは極力やっていきます。本当にユニークな、これぞというコンテンツにチャレンジしていただき、グローバルにサービスして色々な人たちの評価を得られるような環境をご用意します。

――一般ユーザー向けにはいかがですか?

桐田氏 :今の段階では全部で27タイトルで、全てのユーザーさんにご満足いただけるタイトル数ではありません。しかしいずれはユニークなコンテンツが出てくる環境を作っていきます。面白いプラットフォームだねと言っていただけるようなものを育てていますので、ぜひ期待していてください。

――ちなみに27タイトルの中で、桐田さんがオススメのものはどちらですか?

桐田氏 :それぞれに面白さはありますが、個人的にはシミュレーションっぽい「ユーフロリア」と、パズルの「Magic Arrows」、ちょっとおバカなアクションゲームの「Wipe!」ですね。個人的に先週からハマっています。短い時間で少し遊んでというなら「Wipe!」がいいですし、じっくり腰をすえて遊ぶなら「ユーフロリア」もいいですし、「Magic Arrows」もエンドレスに遊べるゲームです。あと「快感足つぼマッサージ」はハマる人はハマると思います。

 「ユーフロリア」はピグミースタジオが開発したものです。ピグミースタジオの社長の小清水さんは、「ゲームやろうぜ!」を立ち上げた時の、ある会社のメンバーです。また「Magic Arrows」はシフトという開発会社で、「Xi[sai]」というプレイステーションのゲームを作り、「ゲームやろうぜ!」で最初に設立された会社です。彼らがPS Mobileに対して、間接的とはいえ参入してくれて、新しいことにチャレンジしようとしているということを聞いて、とても心強いなと思っています。私が遊んで気に入ったタイトルが、たまたまそうだったというのを後から気づいて、私もびっくりしたんです。

――今回はカジュアルゲームが多めのラインナップになるんですね。

桐田氏 :あまりガッツリと遊ぶものはないですね。容量制限がありまして、20MB以下を推奨、1GBが上限になっています。とはいえ我々からカジュアルなものを要求してはいません。ローンチ時には入りませんが、いずれは追加ダウンロードビジネスや、Free to Playにも対応しますので、しっかりとしたゲームもいずれ作ってもらえると思います。ソーシャルゲームも歓迎します。

――わかりました。今回はまだ入り口のお話しでしたが、またゲームが出揃った頃に改めてお話しを聞かせてください。ありがとうございました。


【スクリーンショット】
上から順に、「ユーフロリア」、「Magic Arrows」、「Wipe!」、「快感足つぼマッサージ」。このほか計27タイトルが本日より配信されている

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(2012年 10月 3日)

[Reported by 石田賀津男]