GDC 2011レポート

GDC2011、NVIDIAブースレポート
KHRONOS GROUP PRESIDENTインタビュー
Webアプリ新時代を見据えて、KHRONOSが規格制定に乗り出する新オープンAPI規格とは?


2月28日~3月4日開催(現地時間)

会場:サンフランシスコ Moscone Center



KHRONOSグループのプレジデント、Neil Trevett氏。フルタイムの本職としてはNVIDIAのMobile ContentのVice Presidentを務めている

 「今年のGDCの主役はタブレット端末やスマートフォンだった」……という感想を漏らす来場が少なくなかったが、そうした組み込み機器のグラフィックスAPI「OpenGL ES」の規格制定を行なっているのが業界団体のKHRONOS GROUPだ。

 今回のGDCでは、KHRONOSグループのプレジデント、Neil Trevett氏にインタビューする機会が得られたので、その内容をレポートしたい。




■ Webブラウザを3Dグラフィックスアプリケーションプラットフォームに変える「WebGL」

 KHRONOSグループは前述の通り、組み込み機器向けのグラフィックスAPIである「OpenGL ES」の他、非Windows環境向けのグラフィックスAPI「OpenGL」などの規格化も行なっている団体だ。

 近年では、スマートフォンやタブレット端末のような新興の情報端末の台頭が目立っているが、そうした機器におけるアプリケーション開発を支援するためのAPI規格の制定などもKHRONOSは担当している。

KHRONOSグループ加盟社一覧KHRONOSが手がけるAPI群

 最近のKHRONOSグループの活動の中で、特に注目を集めているのが、Webブラウザ上でプログラマブルシェーダー世代の3Dグラフィックスをリアルタイム動作させるための規格「WebGL」だ。

 これまで、Webブラウザ上の3Dグラフィックスと言えば、何かのプラグインソフトを入れなければならず、そうしたプラグインソフトはたいていの場合、Windowsなど特定のプラットフォーム専用になっており、万人が見られるべきWebコンテンツの在り方としては疑問視がなされてきた。

Webブラウザ上でプログラマブルシェーダー世代の3Dグラフィックスをリアルタイム動作させるための規格「WebGL」Webブラウザだけで、プラグイン無しで、こうしたシェーダーベースの3Dグラフィックス表現が可能。当然ゲームも動かすことができる

 ADOBE FLASHなどは、そうしたプラグインソフトの中では最も普及したものだと言えるが、結局プラグインソフトという形態が特殊であり、特定の企業の開発したものであるため内部仕様がオープンではなく、その仕様が1社で独善的に決められてしまうのは問題……として、Apple系ハードウェアなどは、あえてサポートしない方針などを打ち出してきている。

 WebGL1.0は、そうしたプラグイン無しでOpenGL ES2.0相当の3DグラフィックスをJavaScriptから取り扱えるようにするオープン規格で、HTML5の規格の一部に盛り込まれることになる。

WebGLのコンテンツパイプライン。JavaScriptで制御されてCSSでレイアウトされるプラグインと違い、WebGLならば、3Dグラフィックスが矩形に限定されずCSSによってシームレスにレイアウトが可能

WebGLの実装形態。ゲームエンジンや特殊機能をライブラリのような形で提供するミドルウェアはWebコンテンツの1部として提供される

 WebGLで扱える3Dグラフィックスは、インタラクティブコンテンツとして構成でき、なおかつプラグインソフトのように矩形領域だけに表示されることもない。動画、静止画、3Dグラフィックスを自由に合成して、これをCSSでWebページに自在にレイアウトができるのだ。つまり、HTML5とWebGL、そしてJavaScriptの組み合わせは、ある種1つのソフトウェアプラットフォームになり得るのだ。

 現在、スマートフォンやタブレット端末が新しい主流のゲームプラットフォームになるのではないか……と期待されているが、iOSだ、Androidだ、Windows Phone 7だとプラットフォームの違いがあり、これはいわゆるゲーム機メーカーでいうとWiiだ、プレイステーションだ、Xboxだと言っているのと変わらない。HTML5は2012年頃には標準規格として勧告される予定なので、それ以降はほとんどのWebブラウザがHTML5に対応してくるはずで、“その時”が来れば、あらゆる端末、機器において、3Dグラフィックスを活用したWebアプリが共通に透過的に動かせる環境が整うことになる。


 なお、WebGL1.0は、今回のGDCで正式発表がなされ、3月中には仕様が確定される予定となっている。

 現状での対応Webブラウザは、FireFox、Chrome、Safariなどで、このHTML5やWebGLへの対応に消極的なInternetExplorer(IE)は対応表明がなされていない。ただし、IE環境ではChrome Frame Plug-inを利用すれば使用できなくはない。

2011年3月中にWebGLの最終仕様が決定OpenGLのエコシステム



■ 物理エンジンやビデオ編集などのデータ並列コンピューティングをWebアプリで提供するために~WebCLの規格化にむけて

HTML5向けのOpebCLとなる「WebCL」規格策定のワーキンググループが動き出す

 今回のGDCでは、HTML5に組み込まれるべき新API群としてコードネーム「WebCL」の存在が明らかにされた。WebGLがHTML5版のOpenGL(ES)なわけだが、WebCLはHTML5版のOpenCLということになる。OpenCLは、データ並列コンピューティングを行うための(端的に言えば、例えばGPGPU)プログラミング言語/フレームワークで、CLはComputing Languageの略だ。

 例えばだが、物理シミュレーションなどのミドルウェアをHTML5上のWebアプリとして構成することができるようになるのだ。

 「3Dグラフィックスと物理シミュレーションがHTML5上のWebアプリで動作する」というとなんだか夢物語のように思えるが、Trevett氏によれば、実際に、2011年から規格化にむけてワーキンググループを発足させていくらしい。


手がけるAPIが次々に多くなってきているKHRONOSグループ。Trevett氏は連日大忙しだ

 それと、もう1つ、重要な事柄がTrevett氏の口から放たれた。

 それは、2011年から、OpenInput(仮称)、コードネーム「Input Working Group」の発足に乗り出すというものだ。

 OpenInputという仮称からも想像が付くかも知れないが、これは、スマートフォンやタブレット端末に採用されているジェスチャー入力やモーション入力をシステマティックに取り扱えるようにするAPIだ。なお、こちらはHTML5関連とは今のところ無関係で、どちらかといえば組み込み機器向けのAPIということになる。


 最近では、画面へのマルチタッチだけでなく、GPS、加速度センサー、電子コンパスなど、ありとあらゆるセンサーが様々な情報機器に同時に組み込まれるようになり、1つ1つのデバイス(センサー)の状態を取ってくるためには、そのデバイスメーカーから提供されるドライバソフトウェアなどを自前で活用してシステムに組み込まなければならず、そうしたセンサー同士が別メーカーだったりすると複合的なセンシングは少々難しくなってしまう。

 各センサーから統合的に、たとえばタイムライン付きで情報が取得できるようなAPIができれば、複数のセンサーからの情報を組み合わせた“入力”の取得も容易になる。これがOpenInput(仮)の目指すところだ。

 今回のGDCでの発表はここまで。だが、毎年夏に行なわれるSIGGRAPHではOpenGL周りの発表が行なわれるのが通例だ。果たして、このスマートフォン、タブレット端末ブームをうけて、今年は、期待のOpenGL ESの次期バージョン、コードネーム「Halti」の仕様が明らかになるのか……今から楽しみだ。

(2011年 3月 7日)

[Reported by トライゼット西川善司]