Game Developers Conference(GDC) 2010現地レポート

スクエニ、ディレクター鳥山氏が語る「FF XIII」の開発秘話
「FF XIII」の様々な「何故?」に答える貴重なセッション、未来の「FF」はどうなる?


3月9~13日 開催(現地時間)

会場:サンフランシスコ Moscone Center


スクウェア・エニックスの「FF XIII」ディレクター、鳥山求氏

 サンフランシスコで開催中のゲーム開発者向けカンファレンスGame Developers Conference(GDC)では、発売直後の「ファイナルファンタジー XIII」に関する3つの講演が行なわれた。うち、2つは製作に用いた技術についての講演で、残り1つは「FF XIII」のディレクター、鳥山求氏による「The Crystal Mythos and FINAL FANTASY XIII(クリスタル神話とファイナルファンタジーXIII)」というタイトルで、製作秘話が語られた。

 本稿では、3つのセッションの中のハイライトとなる鳥山氏の講演の模様をお伝えする。開発に関する2つの講演は後日別の記事で報告する。併せて読むことで、「FF XIII」という大作がどのような思考と技術で作られているのかを、概観することができると思う。

 鳥山氏の講演は、「FF」シリーズの過去のシナリオ作法の紹介から始まり、「ファブラ ノヴァ クリスタリス」構想の説明、「FF XIII」に用いた「ストーリードリブン」というコンセプトが生んだプラス面とマイナス面に関する報告、そしてFFの未来への展望と続いた。

 「FF XIII」製作についての話は、日本で批判されている部分への釈明といった雰囲気で、本作が完成するまでの紆余曲折がよくわかる。「FF XIII」がどうして一本道と批判される形になったのか、なぜ街がないのか、この記事を読めば「なるほど」と理解してもらえるだろう。また、JRPGとWRPGの違いについても、鳥山氏個人の考えを述べている。




■ 開発全員がストーリーに関わるという体制が変化していった理由

 鳥山氏が「FF」シリーズに関わるようになったのは、入社直後の1994年からで、当時はちょうど「FF VI」の国内版が発売されたところだった。当時の開発体制は40人に満たない規模で、開発会議はスタッフ全員を集めて行なわれた。「テーブルの1つもない部屋に開発一堂が集まって、坂口さんや、現在のプロデューサーの北瀬、キャラクターデザインの野村も参加していました。そこで全員が持ち寄った企画のアイデアを披露して、次回作となる『FF VII』へのブレインストーミングを行ないました」(鳥山氏)。この当時は職種にかかわらず、全員がストーリーやシステムのアイデアを出していた。「みんなの努力と根性で詰め込んでいく、ジャパニーズスタイルで、若くて元気のある開発体制が築かれていました」(鳥山氏)という、いかにも黎明期らしい活気があった。

 「FF VII」ではまだシナリオはすべてテキストベースで、カットシーンはスクリプトで組んでいたので、カットシーン担当者の裁量で、演出や台詞を適宜変更することができた。また、この頃からプリレンダムービーが使われるようになり、開発体制が大規模化していった。開発に関わるスタッフの数は200人を超えて、職種ごとに分かれたセクションが構築され、ワークフローが急速に整備されていった。

 開発体制が、大きな転換を迎えたのが「FF X」だ。「FF X」からキャラクターにボイスが入るようになり、モーションキャプチャーで動きが作られるようになった。そのために、「FF X」以前は開発末期まで確定していなかったシナリオを、早い段階で確定する必要ができた。開発の過程でスタッフから次々と上がってくるアイデアを盛り込むといったかつての方法は使えなかったため、そんな状況に対応するために、野島一成氏、鳥山氏、渡辺大祐氏の3人で少数精鋭のシナリオチームを結成した。「熟練した技術を持ったスタッフによって、タイトになった製作期間を乗り切るという形にしました」と鳥山氏。

 また「FF X」では、シリーズ初の正式な続編となる「FF X-2」が製作された。「シナリオの製作手法は『FF X』と同じような形ですが、『FF X-2』ではポップな世界観やゲーム性を取り入れるなど、あまり普段のFFではできないことをやっています」(鳥山氏)。これ以降、1つの作品に対して、複数のコンピレーションが生まれていくという流れが生まれる。

 「FF X-2」の開発終了後、メインシナリオライターだった野島氏が退職して、シナリオチームは更なる再構築の必要が出てきた。鳥山氏によると、6名のシナリオライターでチームを組織して、後継の育成とラインナップを増やすという2つの目的で、小さな開発チームによる様々な「FF」シリーズが作られた。  ちょうどニンテンドーDSやPSPなど、新しいプラットフォームが次々と登場してきた時期で、新人シナリオライターに経験を積ませる意味も兼ねて「ファイナルファンタジー クリスタルクロニクル」や「DISSIDIA FINAL FANTASY」、「ブラッド オブ バハムート」などが作られた。  シナリオライターを組織化して教育するのは、後継の育成とともに、会社全体のシナリオのクオリティを上げることを目的としている。こうして開発の体制が整えられていく中、「FF XIII」の開発がスタートする。


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鳥山氏が新人時代にシナリオを担当した「バハムートラグーン」。この当時から、キャラクターの演技や表情を考えながらストーリーを作っていたという大きな転換点となった「FF X」と「FF X-2」。シナリオの体制が変わり、初めて正式な続編が作られるようにもなったDSやPSPなど携帯機向けのゲームが、シナリオライター育成のために小規模な開発体制で作られた



■ すべての出発点となる「クリスタル神話」と「ファブラ ノヴァ クリスタリス」構想

複数の神々による「クリスタル神話」が壮大な「ファブラ ノヴァ クリスタリス」のベースとなる

 「FF XIII」は単体で完結している作品だが、その世界観は「ファブラ ノヴァ クリスタリス(以下、FNC)」という大きな枠組みの中にある。「FNC」は「クリスタル神話」というオリジナルの神話体系に支えられていて、この枠組みの中で作られる作品はすべて「クリスタル神話」に基づいている。

 「クリスタル神話」については「まだシリーズが続くため、詳しくは語れませんが、とある目的のために誕生し、とある法則に基づいて行動している複数のクリスタルの神々と、人間の歴史を描くという壮大なストーリーになっています」(鳥山氏)というもので、未だ全容は見えていない。その全貌は、「FNC」構想の元で作られる「FF XIII」、「ファイナルファンタジー ヴェルサス XIII」、「ファイナルファンタジー XIII ヴェルサス・アギト」という3作品の中で語られていく形となる。

 この「FNC」構想と、「FF VII」や「FF X」、「FF XII」で行なってきたコンピレーションは、設計の思想から異なっている。「従来のコンピレーションの特徴は、オリジナルの作品の持っている魅力的な世界観と、キャラクターの人気をもとに興味を引きつけていました。このようなコンピレーション作品は、当然ですがオリジナル作品の完成と、人気の確立の後でプロジェクトが立ち上がります。内容も各作品をベースに、直接の続編や過去のストーリーの切り出しという形で構成します。オリジナル作品のファンをある程度意識して、ファンの期待を裏切りすぎない作品にする必要があるのです」(鳥山氏)。

 これまでのコンピレーションは上記のような事情の元、ゲームシステムに新しい試みを加えることで新鮮さや商品としての魅力を打ち出してきた。「FNC」では、作品の共通項は「クリスタル神話」のみで、各作品が独立したストーリーで構成された、完全な新作となる。「これは自由な発想を好むクリエイターには非常に魅力的です」と鳥山氏は言う。「それぞれのプロジェクトが、オリジナルのファイナルファンタジーを作ろうという意識を持っています。神話はクリエイティブな要素の障害にはならないというのが『FNC』の構想です」(鳥山氏)。


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これまでのコンピレーション(左)と違い、「FNC」構想(右)にはすべての前提として「クリスタル神話」が存在している

 「FF XIII」は神話を出発点に世界を構築している。「クリスタル神話」には複数の神々が登場する。神々は、「ファルシ」という神の道具を生み出す能力を備え、「ファルシ」は神の目的に沿った世界を構築していく。「FF XIII」は「パルス」と「リンゼ」という2人の神の対立を物語のベースにしている。

 「パルス」は「グランパルス」という世界を作った神で、世界を広く開拓していくという性質を持っている。言葉で定義すると「直線的、無骨で原始的なテクノロジー」(鳥山氏)となる。もう一方の神「リンゼ」が作った世界「コクーン」は「流線的、洗練された社会、進んだ未来のテクノロジー」(鳥山氏)がキーワード。

 これらの言葉をキーワードにして、アートチームが世界を構築して、イメージボードを作っていく。その中からいいものをフィードバックして、さらに新たな世界設定に活かしていくという循環のなかで、「FF XIII」の世界は構築されていった。

 また、「クリスタル神話」には、「ファルシ」は人を「ルシ」に選んで使命を与えるという法則がある。使命は神から与えられた運命で、この運命にあらがう人間の戦いが「FF XIII」のメインテーマとなっている。登場するキャラクターはみな「コクーン」で暮らす一般市民だ。この設定について「我々の現在の立場に近い心理を選びたかったのです。日常生活の中で、誰にでも降りかかる可能性がある危機をコンセプトにして、典型的な勇者型ではないキャラクター像を打ち出そうとしました」(鳥山氏)。このキャラクター造形には日本特有の事情に対するアンチテーゼが含まれている。「理不尽な運命はある意味、階級社会的なテーマでもあります。日本では経済社会で1度ドロップアウトしてしまうと、なかなか上層の階級にたどり着けなくなります。そんな理不尽な状況におかれても、希望を捨てずに未来を信じて立ち向かって欲しいという気持ちを、ストーリーのテーマにしています」(鳥山氏)。

 鳥山氏は、壮大な大作RPGというカテゴリのプレイ時間を「最低でも40時間以上」と考えている。そのためシナリオは映画的というよりも、テレビの連続ドラマを参考に作っていくことが多い。「『FF XIII』はアメリカのテレビドラマ『LOST』に構造が似ています」と鳥山氏。「LOST」は複数の登場人物が関わるメインストーリーが進行していく中で、個々の登場人物の過去がフラッシュバック的に挿入されていくという手法が採用されている。「FF XIII」でも「物語の冒頭に、世界を変えた13日間の13日目のクライマックスがあり、ドラマが進行する中で13日間の出来事を振り返るような展開になっています。次々にキャラクターが事件に巻き込まれてドラマが進行し、先の読めない展開と謎によるサスペンスを提供しています」(鳥山氏)。

 「FF」シリーズを含む既存のRPGにおけるストーリー進行は、フィールドを移動して街にたどり着くと、そこでイベントが発生してストーリーが進行するという、点と線で結ばれた形だった。「FF XIII」では物語は途切れなく進行し「どちらかというと、シューターのゲームプレイ感覚に近づけることを想定しています」(鳥山氏)と、従来のRPGとは違う作法がとられている。FPSやTPSのいわゆるガンシューティングの作品は、ストーリーが進むイベントと戦闘が交互に動いていくような形をとっていることが多いが、「FF XIII」はそんなアクションゲーム的なアプローチでシナリオが作られているというわけだ。

 「クリスタル神話」はシナリオだけでなく、ゲームデザインにも関与している。ゲーム前半の舞台となる世界「コクーン」は、人間を養う神「リンゼ」によって作られているので、プレーヤーをお客様としてもてなすというコンセプトの基に設計されている。「適度なレベルに配置されたバトル、カットシーンは映画並というコンセプトで作っています」と鳥山氏。

 その一方で後半の舞台となる「パルス」の神は人間を守護しないため、プレーヤーは広大なフィールドに放り出されて、自分で目的を決めて動かなくてはならない。オープンワールドには非常にレベルの高いモンスターもいて、一瞬で殺されることもある。


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「パルス」の作った「グラン・パルス」とそこにいるファルシ。大地を開拓する「アトモス」と、弱者を淘汰する「タイタン」「リンゼ」の作った「コクーン」とそこにいるファルシ。太陽の役割をする「フェニックス」と、食糧を供給する「カーバンクル」「グラン・パルス」と「コクーン」のコンセプトの違い



■ 「FF XIII」の根底をなす「ストーリードリブン」というコンセプトの功罪

おびえた顔をして今にも逃げ出しそうなヴァニラと、敵に挑もうとしているファング。「『FF XIII』の開発はまさにこのスクリーンショットのようだった」と鳥山氏

 「クリスタル神話」の説明をする中で、何度も「ストーリードリブン」という言葉が登場した。これはシナリオを基にしながら、すべての計画を作っていくという手法で、「FF XIII」開発の根底をなす思想だ。シナリオからすべてを導き出して、キャラクターの内面をより深く表現することは、ストーリーや演出手法が高く評価されてきたこれまでの「FF」シリーズに沿った考え方だといえる。だが「FF XIII」では、この「シナリオドリブン」という設計がデメリットも生んだ。

 「『FF XIII』は、CG映画に匹敵するクオリティのカットシーン、メインキャラクターの心を大切に描く「ストーリードリブン」というコンセプトを最優先にしています。このコンセプトでカットシーンのクオリティを上げるとことには成功しましたが、ゲームデザイン的にはマイナス面を生み出すことにもなりました」と鳥山氏は言う。

 「FF XIII」のゲーム性の根幹となる、ロールを切り替えながら戦うバトルシステムは、実はPS2で開発をしていた時代には既に構築されていた。ストーリーに関しても、世界観やキャラクターなどはPS2の段階である程度形になっていた。プラットフォームがPS3に変更されることになり、力を入れたのは「キャラクターの心情に更なるフォーカスを当てること」(鳥山氏)だ。すべてのシーンにモーションとフェイシャルでの表情付けを導入し、世界観のディティールを肉付けするために、質感まで再現するシェーダーとポストエフェクトで臨場感と空気感を強めた。


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PS2で作られた「FF XIII」のプロトタイプ(左)、とE3で発表されたトレーラーの戦闘風景(右)。基本的なシステムはPS2の時から変わっていない

 開発が3年以上の長期にわたってしまった理由を鳥山氏は、基礎テクノロジーのチェックに時間がかったからだと言う。「未定の項目がたくさんありました。キャラクターやエフェクトの描画処理の負荷、広大なマップの読み替え処理、物理演算やモーションなどは、基礎的なテクノロジーの構築が終わって、実機で検証しながら進めていく必要があるのですが、そこに至るまでに時間がかかってしまったのが長期化の1つの理由です」(鳥山氏)。

 技術的な部分の開発が遅れたために、シナリオが先行した「ストーリードリブン」な開発体制になるのは不可避な状態だったともいえる。PS3になったことで、ブルーレイディスクの大容量で、ハードウェアの処理能力を超えたシーンはすべてプリレンダムービーにするという方針も当初から決まっていたので、どうしてもカットシーンを優先させる開発体制になっていったのだという。そしてこれがいろいろなセクションに影響を与えることになった。

 「『FF XIII』のバトル総数を例えば500と定義します。それをロケーションごとに割り振っていくわけです。ストーリー優先のロケーションなら50、バトル優先なら100といった形で決めて、バトル間の距離を決めます。後はレベルデザイナーの裁量で、各地にポイントを配置したり、カットシーンやマットギミックの配置を決めます。この時に、開発経験の足りないデザイナーは、バトル間の距離を確保することを最優先にしてレベルデザインを初めてしまうのです」(鳥山氏)。

 移動するとこまめにマップを読み替えて、モンスターのシンボルを再配置するというデータ構造が、1本道に適していたこともあり、「ストーリードリブン」というコンセプトが「いつしかリニアなマップ構造を強要していく形に変貌を遂げていく」(鳥山氏)という事態を引き起こした。

 初心者でも道に迷わない単純なマップは、「日本人的なお客様をもてなす精神で、一方通行であっても、楽しませる、驚かせるアトラクション型のギミック配置をコンセプトに設計しています」(鳥山氏)。

 モーションキャプチャーを収録するためには、マップ上のどこでイベントが起こるのか、そこに壁や枝はあるのかといったことを決めなくてはならないため、それを先に決める製作体制になった。そのため、「イベントが発生する地点までの道中の探索や、敵との接触に対するゲーム性が後回しになる傾向がありました」(鳥山氏)。これはモンスターを動かすAIの開発が遅れたことも原因となっている。AIの完成を待つのがベストだが、待機している大勢のアーティストにまったをかけられない状況だったのだという。これらの状況の結果、まずカットシーンの発生位置が決められ、イベントとイベントの間にモンスターが等間隔に配置されているという「FF XIII」のマップが生まれた。

 「FF XIII」のワークフローは、限られた時間にハイクオリティな作品を作り上げるため、同時並行的に作業が行なわれる。そのため後戻りが非常にやりにくい構造になっている。そのため「妥協するか、後戻りするかという判断がディレクターに任されるのですが、いくつかのロケーションではスケジュールを優先する決断をしました」(鳥山氏)。

 「FF XIII」ではチャプターごとに主人公となるキャラクターが変わる。バトルの時に操作できるのは主人公のキャラクターだけなので、チャプターごとに操作するキャラクターも変わることになる。「チャプターごとに主人公を設定することで、ビジュアル的にもストーリー的にもキャラクターの内面を深く描くことができるというのが1つのメリットで、もう1つは新しいバトルシステムに段階的に慣れてもらえることです。でもメリットを優先したことで、逆にデメリットも生まれました」と鳥山氏。

 1つめのデメリットは「コアユーザーに対するストレス」(鳥山氏)だ。ゲームを遊ぶ慣れているプレーヤーは、バトルになれると自分の好きなキャラクターの組み合わせで戦いたいと思うものだが、それができない。そしてもう1つは、召喚獣の入手プロセスで、せっかく入手してもその直後に操作できるキャラクターが変わってせっかくの召喚獣が使えないということだ。「これはある程度開発が進んだ時にはわかっていたのですが、その時にはもうストーリーやマップを直すことができなかったので、そのまま製品版に入れる決断をしました」(鳥山氏)。

 召喚獣は「FF XIII」のバトルでもっとも派手な部分で、プロモーションでも頻繁に姿を見せるいわば象徴的な存在だ。しかし、キャラクターも、モーションもプログラムも特別なものが要求されたため、製作工程的には一番後回しになってしまった。そのため、召喚獣周りで問題が起こった時には、すでに他の行程は後戻りできない状況だった。

 また、1本道以外によく耳にするのが「街がない」という批判だ。「FF XIII」では街が無い代わりにセーブポイントで消費アイテムを購入することができるが、これまでのシリーズのように、フィールド移動して新しい街に到着し、新たな出会いがあったり、クエストを得たり、新たな武器や防具を調達するといった要素は存在しない。そのゲームデザインの理由について鳥山氏は次のように語った。

 「ストーリー面からは、今回は人類の敵の“ルシ”という形で逃げ回っているので、街で悠長に時間を過ごせませんでした。ビジュアル面では、スタンディングのモーションと、テキストの会話を廃止したかったということがあります。そのため、街でのNPCとの会話を削減する方法で動いています。また、単純に街の人より、敵のモンスターを優先し、バトルに必要のない仕様は後回しにされたこともあり、いろいろな判断をして街の数を減らしたのです」(鳥山氏)。

 その代わりに、「ボーナム」や「ノーチラス」のような大きな街では、NPCにたくさんのボイスを用意して臨場感を高めることに特化し、それはある程度の成功を納めたと判断しているそうだ。

日本とアメリカで行なわれたフォーカス・グループ・インタビューの結果。青が日本で黄色がアメリカだが、2つのグラフはよく似ている

 つまり「FF XIII」は、バトルとストーリーという部分に比重を置いて、その他の部分をそぎ落とすような設計になっている。この設計について、鳥山氏はスクウェア・エニックスが行なった「フォーカスグループインタビュー」というマーケティング調査の結果を参照して、日本でもアメリカでも、ストーリーとバトルに期待する声が大きいことを示した。日本ではキャラクターに対する期待の比重がアメリカよりも大きいが、どちらも同じような形のグラフになっている。アメリカではバトルの派手なアクションが好評だったため、開発終盤にはバトルのアクション性を高める方向に絞って調整が行なわれた。

「この結果だけで判断するわけではありませんが、『FF XIII』でカットシーンとバトルを重視した方向性はある程度間違っていなかったということが証明されたと思っています」(鳥山氏)。この調査は日本語版で行なわれたが、日本語のわからないアメリカのユーザーの方が表情から感情を読み取ろうとしてくれたことは、興味深い発見だったそうだ。


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マップへ要素を配置した設計図。初心者でも道がわかりやすいが、そこが批判の対象にもなっている



■ JRPGとWRPGの違いと、「FF」シリーズの未来形

日本と西洋のRPGを比較。左は英EidosのRPG「Hitman Trilogy」(上)と「トゥームレイダース」(下)

 鳥山氏は、インタビューでよく聞かれるという、日本と西洋のRPGの違いについても、自身の考えを説明した。西洋ではキャラクターの視点と自分の視点が同じFPS(1人称視点)のRPGが主流だが、日本ではほぼすべてのゲームが、キャラクターを見ながらプレイするTPS(3人称視点)だ。

 これは日本と西洋のキャラクターへの感情移入の方法が違うことに起因しているのではないかと、鳥山氏は分析する。「日本では、プレーヤー自身がどのように選択したり、行動したりするかといったことよりも、キャラクターがストーリーの中で言う台詞や行動に共感して、自分がそのキャラクターになっているという感覚を強めていきます」(鳥山氏)。つまり映画やドラマを見る感覚だが、西洋でも映画やドラマは人気なのだから「このスタイルで行くことが受け入れてもらえると、個人的には考えています」という。

 また、同じようによく比較対象になる、自由度については、「オープンワールドを作るかどうかはゲームデザインのバランスをどこに置くかの違いだと思います」(鳥山氏)と言う。オープンワールドにすると、カットシーンの量が増えるので、当然1つのシーンにかけられるコストや時間は制限される。モーションがスタンディングになったり、カメラが固定になったりしてしまうことを避けるため、「FF XIII」では「その選択をしなかっただけの問題です」(鳥山氏)。

 「FF XIII」の開発の中で、HD機に対応したたくさんのミドルウェアが開発され、それらは「クリスタルツールス」という形でまとめられた。また、子会社となった英Eidosのツールや、そのほかの外部ツールの研究も始まっている。そのため、「次回以降はゲームデザインに妥協のないかたちで開発を進められると思います」と鳥山氏。開発期間を短くすることも、次回以降トライしたいという課題のひとつだという。

 これからの「FF」シリーズの未来系については「今回(デベロッパーズアワード大賞を)受賞した『アンチャーテッド2』のようなプレイアブルなカットシーンが増えていくと考えています。『FF XIII』ではインタラクティブな要素はバトルシーンに特化しましたが、今後はカットシーンとストーリーのインタラクティブ性をぜひ試してみたいです。例えば、千匹の竜が飛び交う中で、その1匹1匹を移動していくようなカットシーンが誕生すると楽しいと思います」(鳥山氏)と語った。

 また「FF XIII」はダウンロードコンテンツ(DLC)に対応していないが、今後は「すべてのユーザーがオンラインであるという前提が確保されたら対応していつくつもりです」(鳥山氏)とのことで、追加ストーリーや、バトルの段階的な解放にDLCで対応していくことを、視野に入れている。

 最後に「『FF』シリーズは作品ごとに変化を続けるゲームです。最新のハードウェアごとにスペックでの究極の技術の達成を目指しています。これはビジュアルだけでなく、バトルシステムにおいても同様です。また一方、変わらない要素として、普遍的かつグローバルで壮大なストーリーがあります。人間ドラマを中心とした感動的なストーリーは、「FF」シリーズのどの作品にも当てはまるもので、それこそがこのフランチャイズが世界で輝きを放っている理由であると思います。これら2つの要素はどのFFでも守り抜いて行くことを約束します」と今後のFFへの期待と目標を語った。


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発表されている3本のFF。左から「ファイナルファンタジー ヴェルサス XIII」、「ファイナルファンタジー XIII ヴェルサス・アギト」、「ファイナルファンタジー XIV」

(2010年 3月 14日)

[Reported by 石井聡]