Game Developers Conference(GDC) 2010現地レポート

Social & Online Games Summitレポート その1
大盛況だったFacebookの基調講演。ソーシャルアプリのマネタイズ成功のカギは?


3月9~13日開催(現地時間)

会場:サンフランシスコMoscone Center


 世界最大規模のゲーム開発者向けカンファレンスGame Developers Conference(GDC)が開催されている。ここ数年のFacebookやソーシャルゲームの世界規模のブームを反映して、今年から新たにSocial & Online Games Summitが開設された。

 Social & Online Games Summitでは、FacebookのGareth Davis氏が行なった基調講演をはじめ、初日だけで19の講演が行なわれた。これは今年のチュートリアル&サミットの中では最多で、ソーシャルゲームへの注目の高さが伺えた。

 Facebookは2008年に日本語版がスタートした。日本では、ソーシャルアプリと言えばmixiアプリを想像する人が多いだろうが、mixiアプリで上位にいる人気ゲームの多くはFacebookで始まったサービスを移植したものだ。Facebookのソーシャルアプリは世界中で急成長して大きな市場を作り出しており、今年は日本法人も立ち上がる予定で、日本でも関心が高まってきている。実際、基調講演後の質疑応答には、日本人の姿もあった。

 本稿では、Gareth Davis氏の基調講演「How Friends Change Everything」と、その他のいくつかの講演からソーシャルゲームの最新動向を探ってみたい。



■ 基調講演から読み解く、ソーシャルゲームが作り出す新しいゲーム像とは?

FacebookのGareth Davis氏
会場は大勢の聴衆で満員状態だった

 Facebookはアメリカで生まれ、全世界に2億人のデイリーアクティブユーザーを擁する世界最大のソーシャル・ネットワーク・サービス(SNS)だ。いまゲーム業界でもっとも熱い注目を集めているソーシャルゲームは、SNS内の既存の関係を元にコミュニケーションを図ることを目的とするゲームで、Facebookがサイト上で動くゲームの開発環境をオープンソースにしたことをきっかけに爆発的に拡大した。ソーシャルゲームの進化は同時にFacebookの進化でもあると言っても過言ではないだろう。

 Davis氏はボードゲームや古いテレビゲームを例に出して、ソーシャルゲームは実はずっと昔から遊ばれていたと説明した。千年以上の歴史を持つ「バックギャモン」や、サッカーのようなスポーツ、子供の鬼ごっこ、そしてテレビの前で友達や家族と並んで遊ぶパーティーゲームなど、これらのゲームはソーシャルゲームと同様に近い知り合いと共に遊ぶゲームだ。そして「近いうちにすべてのゲームはソーシャルになるだろう。そうなるともうソーシャルゲームとは呼ばれず、再びただ“ゲーム”を呼ばれることになるだろう」と語った。

 Facebookの特徴は、プレーヤーが自分の写真やプロフィールをそのまま使ってゲームをプレイすることだ。これまでのオンラインゲームは、架空のキャラクターを作り匿名でプレイしてきたが、Facebookのプロフィールに自分の写真を使っていれば、ゲーム画面にもその写真が表示される。さらにプレーヤーの写真をクリックすれば、そのプレーヤーの詳細な情報を見ることができる。faebookのプロフィール登録画面を見ると、実に多くの項目が用意されていることに驚く。名前、年齢、住所はもちろん、趣味、政治観に宗教、家族や交友関係、出身校に職歴。もちろんこれらのデータは隠したり、限定的に公開することも可能で、項目ごとに細かいカスタマイズが可能になっている。Facebookのゲームは現実の生活の一部であり、現実と離れた場所に存在していた世界で遊ぶ今までのゲームとはまったく違っている。

 このオンライン上のアイデンティティと現実世界が融合する一例として、現在全米で放送中の大作テレビドラマ「FLASHFORWARD」とのコラボレーションが紹介された。FacebookのIDを持っている人間が「FLASHFORWARD EXPERIENCE」のサイトにコネクトすると、テレビの映像内に実に自然な形でFacebookに登録しているデータが登場する。プロフィール写真、友達、ニュースフィードに投稿した出来事などがドラマと一体化して、まるで自分も「FLASHFORWARD」の世界に入ったかのような気分になれる。

 もう1つのFacebookの特徴は、プラットフォームの多さだ。PCやiPhoneだけでなく、Xbox 360やプレイステーション 3(以下、PS3)、ニンテンドーDSiでもFacebookを見ることができる。PS3はトロフィーを獲得したときにFacebookに自動で書き込んでくれるし、Xbox 360からは直接Facebookを利用することができる。

 またDSiからは、撮影した写真をFacebookにアップロードすることができる。Davis氏はスライドを使って、自分はiPhoneから、友達はXbox 360から、母親はパソコンから同じ情報を見ることができると説明した。また、PS3のクイズゲーム「BUZZ! Quiz World」はFacebookにコネクトして、プロフィールのデータを使って遊ぶことができたりと、Facebookアプリ以外のソーシャルゲームも出現してきている。オンラインがゲームの遊び方の中で1つの要素になったように、これからは“ソーシャル”要素が盛り込まれたゲームが増えていくかもしれない。

 Davis氏は「今年はゲームメーカーにとっても重要な戦略の年になるだろう」と予告し、Facebookからの具体的な提案として、近々独自の決済システム「Facebook Credit」を開始することを明らかにした。「Facebook Credit」はプリペイドカードやクレジットカード、オンライン決済のPayPalから課金ができる仮想通貨だ。現在はそれぞれのゲームが独自の決済システムを用いているが、FacebookビジネスモデルはFacebookが30%、デベロッパーが70%となる。

 講演の内容自体は、アメリカのコアなFacebookユーザーにとっては既知のことだったが、多プラットフォームへの展開から、今年以降“ソーシャル”を要素にしたまったく新しいジャンルのゲームが生まれてくる可能性を示唆したことは注目点だろう。日本人としては、この新しい奔流の中で日本のデベロッパーが存在感を示せていないことが気になった。質疑応答でも、日本市場への参入について質問が出ていたが、その答えからは、日本は重要な市場の1つではあるものの主要な市場ではないという印象を受けた。ますます拡大し、多様化を見せているソーシャルゲームの市場に追いついていくためには、ネット上でもより一層のグローバル化が求められていきそうだ。


【基調講演のスライド】
世界中のユーザーが、異なるプラットフォームから同じ情報を共有することができるのがFacebookの特徴であり、大きな強みだ
バックギャモンから最新のビデオゲームまで、すべてのゲームには“ソーシャル”の要素が含まれている
人気TVドラマ「FLASHFORWARD」やPS3用ゲームとのコラボレーションで、ソーシャルゲームは新しい局面へと踏み出している



■ ソーシャルゲームのマネタイズ。いかにしてユーザーを集め、課金へと導くか

RockYouのLisa Marino氏

 RockYouのスポンサーセッションでは「Monetization and Business Models for Social Games」というタイトルで、RockYouのLisa Marino氏が講演を行なった。Marino氏によると、現在Facebookユーザーの70%は北米以外の国にいるユーザーで、そのうち女性が65~70%と過半数以上を占める。

 ソーシャルアプリは、SNSのソーシャルグラフを介在してプレーヤーを増やしていく。そのためソーシャルゲームには知人を招待するためのシステムが必ず盛り込まれている。1つは他人との競争をビジュアル的に見せるというシステム。ソーシャルゲームでは、ゲームに参加している友達のランキングを画面上のどこかに表示していることが多い。

 もう1つは友達を助けることで報酬を得られるシステムだ。ソーシャルゲームでは、レベルを上げるために友達を招待する必要があったり、手助けが必要なことをゲームの外へ発信することができる。これらの方法を用いることで、ユーザー同士を結びつけてゲーム内外に及ぶ強固な関係を作り上げることができる。上記のような方法でゲームに参加したプレーヤーを引き留めるために、「Collections(コレクション)」、「Decorating(装飾)」、「Friendship/Collaboration(友情/協力)」、「Exploring(冒険)」、「Caring(世話)」、「Competition(競争)」という6つの基本的な戦略も紹介された。

 次に話はソーシャルゲームのマネタイズに及んだ。RockYouのゲームでは、現在デイリーアクセスユーザー(DAU)1,000人あたり、最高で100ドル、平均で10~30ドルが使われている。マネタイズのキーを握るのは「Drama(ドラマ)」、「Friendship/Love(友情/愛)」、「Competition(競争)」、「Collections(コレクション)」、「Gambling(ギャンブル)」、「Individuality(個性)」の6つ。常にエモーションを刺激して、ゲーム内の通貨の価値を上げ、ユーザーにどうすれば通貨やキャラクターの成長を得ることができるのかを考えさせることが重要だという。

 現在、課金しているプレーヤーは全体の1~3%で、PayPalでの決済が60%、クレジットカードが25%で、リピートすると購入額が大きくなる。収入全体の50%はそうしたリピーターによるものだ。その中でも、広告とタイアップしたバーチャルグッズの購入は3%から25%に拡大している。こうしたブランドイメージとのコラボレーションによる広告収入も、マネタイズの大きなカギとなる。

 ソーシャルゲームは開発しやすいぶん競合相手も多く、いかにマネタイズするかが大きな課題だ。それだけに関心も高く、広い会場は満員状態だった。ブランドイメージとコラボレーションしたアイテム課金は、日本でもオンラインゲームのアバターなどに使われている。レアなグッズとして出すことで購買欲をそそり、企業にもユーザーにもメリットがあるこのシステムは今後さらに拡大していきそうだ。


【講演のスライド】
新規のユーザーを獲得する難しさを、具体的な数字で紹介
他のプレーヤーとの競争や協力を、新しいユーザー獲得のためのフックにする
現在は過半数以上のプレーヤーがPayPalのオンライン決済で課金を行なっている
広告とコラボレーションしたバーチャルグッズの売り上げは、3%から25%に急増した



■ ビッグ3が支配するソーシャルゲーム市場に、新たな風穴を開けるのは?

Inside Social GamesのJustin Smith氏

 初日には上記以外に17の講演が行なわれた。Social & Online Games Summitという名前の通り、本来は広くオンラインゲーム全体を扱うサミットだが、初日はほとんどの講演がソーシャルゲームを題材としたものだった。

 「The State of Social Gaming:Industry Overview and Update」はソーシャルゲームの情報サイトInside Social GamesのJustin Smith氏がソーシャルゲーム全体の概要を解説した。2009年の北米ソーシャルゲーム市場は4億9,000万ドルで、2010年には8億3,500万ドルに拡大するとみられている。さらに注目したいのがアジア市場だ。アジア市場のバーチャルグッズ販売は、2009年には70億ドルに達するなど北米以上の成長を見せている。

 ソーシャルゲームは基本的に誰でも製作して公開することができるが、ここ数年はトップランクに入るゲームを作る大手は固定化の傾向にある。その中でも「Farm Ville」のZynga、「Pet Society」のPlayFish、全米第2位のSNS、MySpaceでソーシャルゲームを提供しているトップデベロッパーのPlaydomは、合わせてビッグスリーと呼ばれている。他にも北米のデベロッパーにはCrowdStar、RockYou、Slideなどがあるが、注目すべきは急激に勢いを増している中国勢だろう。mixiアプリの「サンシャイン牧場」でもおなじみのRekooや、台湾でFacebookブームを作りだしたFive Minutesなど多くの企業がFacebookアプリを供給している。

 世界には多くのSNSがあるが、Smith氏が注目するのはやはりFacebookだ。4億のユーザーを抱え、6カ月ごとに大きな変更を加えながら成長を続けている。アメリカでは広い年代にまんべんなく利用され、男女比ではすべての年代でやや女性が多い。世界のユーザー分布は、北米に1億4,000万人、アフリカに3,000万人、アジアに7,000万人、ヨーロッパに1億3,000万人、南米に3,500万人と世界中にユーザーが広がっている。

 まもなく始まる「Facebook Credit」についても言及しつつ、将来的にFacebookはさらにユーザーを増やしていくだろうと予想。バーチャルグッズは“普通”になり、チャンスはグローバルに広がっていく。zyngaなどの大手が上位を占めてもう参入は不可能だと思われていた市場に、「Happy Aquarium」のCrowdStarが颯爽と登場したように、まだまだ道は開かれている。次のGrowdStarは世界中のどこからでも出る可能性があるのだ。

【講演のスライド】
アジア市場のバーチャルグッズ販売は、北米を遙かにしのぐ巨大な規模で行なわれている
北米のデベロッパーに対抗して、中国のデベロッパーが勢力を拡大している
20代から40代がコアを形成し、世界中で幅広い世代がFacebookを使っている
バーチャルグッズの市場は今後も成長が予測され、バーチャルアイテムはそのうちに“ノーマル”になるだろうと予想している

SulakeのSulka Haro氏

 「What Virtual World Can Learn from Social Games」は、大手アバターコミュニティサイト「Habbo Hotel US」を開発したSulakeのSulka Haro氏が数百万人を集めるソーシャルゲームに重要な要素について解説した。提示したキーワードは「Friends(友達)」、「modes of play」、「accessibility」の3つ。

「modes of play」について、Haro氏は、ソーシャルゲームが子供の発達段階でいうと数人の身近な人間と遊ぶ「Parallel play」という段階に相当すると語った。限られた知り合いとコミュニケーションをするソーシャルゲームは、現実の生活に密接に結びついており、現実世界というベースがあるからこそ、ゲーム中の非同期型コミュニケーションを実現することができる。

 「accessibility」については、ソーシャルゲームはインストールを必要とせず、ほとんどのパソコンにプリインストールしてあるFlashをベースにしている。さらにサインアップの手間もかからず、クリック1つだけで登録が完了する手軽さが、そうでないゲームに比べて障壁を低くしている。

 最後にソーシャルゲームで成功するためには、友達を簡単に探すことができて、有意義な「Parallel play」を提供し、幅広いユーザーのために具体的な問題を解決することだと語った。

【講演のスライド】
「Habbo Hotel US」はソーシャルゲームではないが、Facebookとコネクトすることで、Facebookに登録したデータを使って登録なしにゲームを開始することができる

(2010年 3月 11日)

[Reported by 石井聡 ]