スギヤマ工房、「第23回 ファミリークラシックコンサート ドラゴンクエストの世界」
「ドラゴンクエストIX 星空の守り人」全曲を演奏!!


8月5日 開催

会場:東京芸術劇場


すぎやまこういち氏。コンサートのお話しから、「ドラゴンクエストIX 星空の守り人」のゲームの内容に付いてまで今回も様々な話題について答えていただいた

 スギヤマ工房有限会社は8月5日に、東京芸術劇場において「第23回 ファミリークラシックコンサート ドラゴンクエストの世界」を開催した。毎年高い人気を誇り、プラチナチケットとなっているが、今年は発売されたばかりの「ドラゴンクエスト」シリーズの新作「ドラゴンクエストIX 星空の守り人」の全曲を演奏するとあって、高い人気を集めた。

 今回の演奏はすぎやま氏も高く評価している東京都交響楽団で、ソロ・コンサートマスターは矢部達哉氏、そして指揮とお話しがすぎやまこういち氏となっている。今回もコンサート開始直前に共同インタビューが行なわれた。そこですぎやま氏がコンサートへの意気込みなどを伺った。

 ちなみに、すぎやま氏自身が誰よりも「ドラゴンクエスト」シリーズを愛し、プレイし続けていることは有名な話。「ドラゴンクエストIX 星空の守り人」の開発中からテストROMでかなりやり込んでいたことはすでに明らかにされているが、現在は製品版でガンガンやり込み中だという。お話しでは「50時間ちょっと過ぎ」と仰っていたが、実質は90時間近く。職業は「たびげいにん」のままで、パーティ構成は武闘家が2人で、最後の1人が僧侶。なぜ武闘家が2人なのかという理由は「先に殴られるのが大嫌い。1ターン中に殴られる前に倒すという先手必勝作戦。武闘家にさらに“ほしふるうでわ”をつけたり。絶対に敵より先に手を出す」という非常にはっきりとした理由から。ちなみに戦士が嫌いな理由も「遅いから」だという。今後は武闘家のレベルが99を超えたらバトルマスターに転生させたり、僧侶を賢者にしたりしたいという。

 「ドラゴンクエストIX 星空の守り人」の楽曲制作については、すごく試行錯誤した曲もあったという。例えば戦闘の場面で流れる音楽については、完成したのは5曲目くらいだったという。「序曲IX」のイントロなども作っては壊しの連続だったとか。それだけ手間が掛かったと言うこともあり、最終的には満足のいくものにしあがったと言い、「『序曲IX』の生演奏は相当迫力があるので楽しんで欲しい」とすぎやま氏は語った。

 コンサートが開催された8月5日には、キングレコードから「『ドラゴンクエストIX』星空の守り人 シンセサイザー版&オリジナルサウンドトラック版」が発売された。これまですぎやま氏のCDはSUGIレーベルから発売されていたが、今回から発売・販売元がキングレコードとなる。すぎやま氏によれば「これは大きな変革」と言い、キングレコード側としてもかなり力が入っているという。

 この「シンセサイザー版」もすぎやまこういち氏が打ち込んだMIDIデータを元に作られており、使用機材も「ローランド JV-2080」、「Proteus/2」、「コルグ M1」などすぎやま氏の手持ちのもの。すぎやま氏が打ち込んだデータを使用してのCDは初めてだという。そしてもう1枚にはニンテンドーDS版の音源を収録したゲームバージョンが収められている。こちらもすぎやま氏の監修が全てに入っている。

 すぎやま氏はネットなどで「ドラゴンクエストIX」の音楽でどの曲が人気が高いかなど情報収集も行なっており「意見を楽しく拝見している。好き嫌いは人それぞれで良いことだと思う。コンサートで生演奏を聴くと好きな曲がかわるかもしれない。それも楽しみの1つとしてほしい」とコメント。今後のスケジュールとしては8月29日に京都で開催されるが、すでに完売しているとか。また9月には札幌でコンサートが予定されている。こちらは現時点ではまだ余裕があるという。

指揮とお話し担当のすぎやまこういち氏。今回も指揮に加え、演奏の合間に楽しいお話しも挟むという八面六臂の活躍を見せた今回の演奏も東京都交響楽団。とにかく人気が高く、スケジュールが押さえられないとか。交響組曲のCD収録も秋になってしまうという

 交響楽の楽譜は6月いっぱいで書き終えたというが、楽譜を書く時にテストROMのプレイが影響したという。プレイしている内に「こうしよう、ああしようと考えが浮かぶ」とか。ちなみに報道陣から「好きな曲は?」の問いには、「気に入らない曲はキャンセルする」ともっともなお答え。そんな中でも「人気の出る曲は戦闘の曲など。作曲者としては終盤のダンジョンで流れる『運命に導かれ』やなど静かな曲に思い入れがある」とコメント。

 すぎやま氏として「『ドラゴンクエストIX 』の全体を通じて大切だと感じた曲は天使界で流れる『天の祈り』という曲」だという。当初1コーラスの曲だったというが、すぎやま氏がテストROMをプレイしたところ、ゲームの冒頭からかなりの時間を天使界ですごすことから変更しなければならないと感じ、2コーラスから転調して結果3コーラスの曲へと手直しされた。すぎやま氏は「ボクにとっても大切な曲」と付け加えた。

 ROMをプレイすることで影響を及ぼした他の例では、ムービーシーンで流れる「悲愴なるプロローグ」も空から光が降りてくる場面でハープが入るなどムービーを観て映像に完璧に合わせる形で作曲されたという。これにはゲーム制作スタッフも「ああ、ピッタリじゃん」とうなったとか。この他にもベクセリアのイベントの最後に流れる曲なども「シーンと音楽がうまくいっているなと感じた」場面だという。

 これまですぎやま氏は全ての楽曲を担当してきたが、シリーズを手がけることで難しい面も出てきたのではないだろうかと思い質問をぶつけてみたところ、「9作品あれば、城のシーンにしろ戦闘のシーンにしろ、同じコンセプトで違った曲を作らなければならず、これはかなり大変なことですよ。ですが、おかげさまで(ゲームの)開発期間が結構あるので、何年も曲を考える時間があるというのが助かります」と語り、また「今回作曲にはいる時に気合いを入れたのは、作曲家という職業はスポーツ選手のように年齢に左右されず、活動の前期でも中期でも後期でも年齢にかかわらず名曲を作曲することができる。衰えないというのがありがたい。これまでの音楽家のことを思うと『がんばらねば』と励みになった」と作曲に挑んだ時の想いを語った。

 記者陣からは「ドラゴンクエストIX」のゲーム内容についても質問が飛んだ。話題となっているサンディというキャラクタについては「ぼくの音楽を入れてはじめてテストROMをプレイしてサンディが出てきた時に、あまりにサンディの雰囲気と曲の合い具合が面白くてね、笑っちゃいました(笑)」とコメント。すぎやま氏は「けっこう好きだね」とサンディを気に入っている様子。サンディだけ言葉遣いが違うことに関しても「その落差が面白い」と感想を述べた。

 また、他のコメントにあわせて「セーブデータが1つしかない」点についても触れた。すぎやま氏は「堀井雄二さんが、あれもしたい、これもしたいという中ですれ違い通信などプログラムが膨大になり、セーブデータを1つしか記録することができなくなった。私もその件については質問しました」とご自身も気になっていたことを明かした。しかし、セーブデータを複数記録することでゲームの内容を相当削らなければならなくなり、「堀井さんも悩んだみたい(すぎやま氏)」という。結果的に「ゲーム内容を優先することで、僕は良いと思います」とその判断を支持した。ちなみに今回は中断することができるため、実質2つセーブできることにあたり、それで一杯一杯だったようだ。

 さて、今後のドラゴンクエストのコンサートの予定としては前述の京都での「30th トーセ プレゼンツ ドラゴンクエストスペシャルコンサート」が8月29日に京都コンサートホールで、9月21日には札幌の札幌コンサートホールkitara大ホールにて「都響×すぎやまこういちがやってきた!~ヒット曲からドラゴンクエストまで~」が開催される。

 さらに9月12日・13日には東京・ゆうぽうとホールにおいて「バレエ『ドラゴン・クエスト』スターダンサーズ・バレエ団公演」が。9月24日には旭川市大雪クリスタルホール・音楽堂で「第5回 東京メトロポリタン・ブラス・クインテット旭川公演」を開催。9月25日にも札幌コンサートホールkitara大ホールにおいて「第6回 東京メトロポリタン・ブラス・クインテット札幌公演」が行なわれることが決定している。

 今回会場にはいると多くの人がニンテンドーDSをプレイする姿が見られた。すぎやま氏も「すれち(すれ違い通信のことをすぎやま氏は『“すれち”っていうんだって?』と語っていた)がはやっているんだって? 楽屋で交響楽団のメンバーとすれ違い通信してたら、知らない人のが入ってるんだよ!」と語っていたが、確かにあちこちですれ違い通信がおこわなわれるほどの人気となっている。この場ではファンが集うという意味では、同好の士と思う存分すれ違い通信を楽しめたのではないだろうか。夏から秋にかけて行なわれるコンサート。ぜひともDS片手に迫力の生演奏を楽しんでいただきたい。

キングレコードから8月5日に発売された「『ドラゴンクエストIX』星空の守り人 シンセサイザー版&オリジナルサウンドトラック版」を持っていただいての1枚取材が終り「ドラゴンクエストIX」を立ち上げるすぎやまこういち氏。インタビューでは製品版で「50時間ちょっと過ぎ」と仰っていたが、プレイ時間は90時間近くとなっている模様

(2009年 8月 5日)

[Reported by 船津稔]