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Epic Games「Bullet Train」にみる新ジャンル、VR-FPSの作り方

ひたすらに“快適さ”と“痛快さ”を追求したVRゲームデザイン技法

3月14日~18日開催



会場:San Francisco Moscone Convention Center

「Bullet Train」
講演の様子

 ゲームの歴史を作ってきたのは、決定的なイノベーションがあり、完成度も高いというゲームたちだ。FPSジャンルで言えば、「DOOM」。1993年に初代作が登場してから、その後のゲームに与えた影響の大きさは計り知れない。

 Epic GamesがOculus Rift+Oculus Touchのために開発した「Bullet Train」も、ゲームの歴史を作る作品になるかもしれない。VR HMDとハンドプレゼンスデバイスで遊ぶ新ジャンル、VR-FPSと言うものの基本的な文法を、決定的に高いレベルで生み出した可能性があるからだ。

 VRDCの2日目に開催されたEpic Gamesによる講演「Going Off the Rails: The Making of Bullet Train」では、「Bullet Train」の新鮮・痛快なゲーム性を実現するために投じられた様々なゲームデザイン上の工夫が披露された。そのうちの多く……というよりはほとんど全ての要素は、まだ見ぬ新作の規範となれる、完成度の高いアイディアだ。後世に影響を与えるかもしれない、その内容を見ていこう。

【Bullet Train Unreal Engine 4 Demo - Oculus Connect 2】
昨年9月のOculus開発者向けイベントで発表された「Bullet Train」

自由度高く、快適・多彩なアクションを可能にしたゲームデザイン

初期はその場で戦うだけのものも検討された
倒した敵の銃を奪って次の敵を倒す、連鎖型のゲームプレイ

 Epic Gamesでは、2013年春のOculus Rift DK1の登場直後からVR向けの実験作を数多く作ってきている。時系列で並べると、E3 2013で披露された「Elemental VR」からOculus Connect 2015の「Showdown」まで、6本のVRデモを開発・公開。年3本というすさまじいペースだ。

 そういった蓄積あったうえで、Oculus Touchというハンドプレゼンスデバイスを手にしたチームが開発したのが「Bullet Train」だ。銃を拾う、構える、撃つ。敵の銃弾を弾く、つまむ、投げる。敵の側面・背後にテレポートして、素手で殴り倒す。ひたすら痛快なゲーム性は、ハンドプレゼンスデバイスなしには成立しない、全く新しい文法で成立している。これを僅か6週間で開発したというのだからすごい。

 本作の開発では複数のゲームデザインが検討されたが、結論としては、その場にとどまって戦う“シューティングギャラリー”と、強制移動しながら戦うレールシューターの、双方の利点を意識的に組み合わせた。

 そうして生まれたのが、戦う場所をテレポートによって切り替えられる本作のゲームデザインだ。この方式であれば、次々に新しい場所やシチュエーションに直面するゲーム性を実現しつつ、ほとんどすべてのユーザーがVR酔いを感じずに楽しめる。

ステージデザインの元になったのは、スタジオのある街の空港と、フランス人クリエイターの故郷の駅舎。電車の外観はマーケットプレイスのものを利用するなど最小限のアセット制作で開発が進められた
常に敵の集団を正面に見られる位置にテレポート位置を設定
銃弾を投げ返す時は、ユーザーが見ている方向を元にある程度の命中補正が行われる(ただしやりすぎない範囲で)
ボス戦ではミサイルを投げ損なうごとに10%づつ補正を強める仕組みを導入。誰でも超人敵プレイを楽しめるようにした

 ここでキモとなるのが、プレーヤーが位置変更を行なう手段となるテレポートの実装だ。基本的な部分でいうと、プレーヤーがテレポート可能な位置はすべて、正面に敵の集団を捉える配置になっている。また、敵の動きも、マップの中央あたりで常時展開するように調整されている。これにより、どこにテレポートしても常に戦いの渦中にいる感覚を得られる。プレーヤの自由意志を尊重しつつも、ゲームテンポ自体は開発者の意図に沿った形にできるよう構成されているわけだ。

 しかし、VR内での戦闘は想像以上に忙しいし、VR HMDを装着しているせいで手元が見えず、たくさんのボタンを使った操作はかなり難しい。このため操作系は極限までシンプルであるほうがよいが、同時に、プレーヤーが快適・直感的に多種多様なアクションを楽しめるようにすることも大事だ。シンプルな操作と多彩なアクション。二律背反を成立させるため、本作ではさらに次のようなゲームデザイン上の工夫がとられている。

・テレポート先は手で狙う。頭で狙うようにすると、敵の位置確認などが忙しすぎてうまく操作できない。
・テレポート時に「まばたき」と「トレイル」の演出を入れ、突然の移動による混乱を低減。
・テレポートとバレットタイム発動操作を同じボタンにすることで操作を簡略化。

 テレポートを使って敵の側面や背後に移動する、様々な武器を手にとって射撃する、敵の銃弾を掴んでは投げ返す、といった多彩なアクションを、手の動きとボタン1個だけの直感操作で駆使できるようになっているのは、これら工夫の積み重ねのおかげだ。また、銃弾やロケットを投げ返して命中させるアクションについては、やりすぎない範囲での自動補正を加えることで、誰もが超人的活躍を楽しめるように調整されているところも秀逸だ。

ロケット弾を掴んで投げ返す、本作特有のアクション

ひたすらに“痛快さ”を追求するために工夫された映像と動きの表現

GDC 2016版で追加されたという手榴弾のピン抜き。言われなくてもごく自然に操作できる
Touch=手ではなく、Touch=銃という関係

 「Bullet Train」を快適で楽しいVR-FPSとするための工夫は、3Dモデルやアニメーション表現の分野でも多数試みられている。特にこだわりが見られるのは、手と銃の関係だ。

 本作で前提としているコントローラー、Oculus Touchは、手そのもののプレゼンスを高いレベルで表現できる秀逸なデバイスだ。代表的なVRアプリである「ToyBox」ではVR空間内にモデル化された手がまずあり、オブジェクトを操作するときはその手に対象のオブジェクトがアタッチされる、という方式をとっている。こうすると、VRの手の位置は正確に反映されるが、手に持ったオブジェクトの位置は(その感覚が現実にはないため)曖昧になりやすい。特に、銃を正確に撃つのには向かない。

 一方、「Bullet Train」では、Oculus Touchを通じて表現したいのは銃のプレゼンスだ。そこで本作では、VRの手を通じて銃を操作するのではなく、Oculus Touchそのものを銃と見なし、それに対してVRの手が追従するという関係が実装されている。こうすることで、ユーザーの手の感覚とVR内の銃の位置との関係が厳密に一致するようになり、正確で思い通りのガンアクションが可能になるというわけだ(銃にアタッチされたVRの手の位置はユーザーの実際の手の位置から多少ずれてしまうが、それは銃を撃つことがメインのプレイ感覚上、問題にならないということらしい)。

手をメインにしたOculus「Toybox」と、銃をメインにした「BulletTrain」における考え方の違い
大型の武器は手の動きに対する反応が鈍くなるよう調整されている
マジックハンド的な当たり判定

 動きの面でもかなりのこだわりがある。特に面白いのは、アサルトライフルのような重量級の武器ではわざとトラッキングを遅延させて重量感を表現するというテクニックだ。遅延なしに追従させるより、多少遅れさせたほうがオブジェクトの操作感に説得力を感じるというから面白い。これにやや大げさなリコイルのアニメーションもブレンドすることで、本作では銃を撃つという感覚が非常に迫力ある形で再現されている。

 さらに多くのVRゲームで参考になりそうなのが、銃やその他のオブジェクトを拾うときに、マジックハンド的に延長された当たり判定を用いていることだ。これによりユーザーが物をつかむ時の判定は、手の位置から2メートルも前方に拡張。地面に落ちているものを拾うのに、いちいちかがむ必要もなく、サックサクだ。この工夫のおかげで、目に入った武器を手当たり次第に拾っては撃ち、弾が切れたら投げ捨てて、という贅沢な本作のプレイが成立している。

 こういった、実際にはリアルではないインタラクションを敢えて導入しているのも、本作がVR-FPSとしての“痛快さ”を表現することに最大のプライオリティを置いているため。現実における個々人のスキル差や、現在のVR機器の限界からくる動き上の制限をゲーム側でうまく嘘をつくことで補い、誰もが快適かつ痛快なプレイを楽しめる。「Bullet Train」はこの新しいジャンルのお手本として、多くのタイトルに影響を与えていくかもしれない。

目から手への方向で、手がオブジェクトに触れるための当たり判定を引き延ばす
操作したいオブジェクトに厳密に近寄らなくても、ざっくりとした感覚で掴む・離すことが可能に

(佐藤カフジ)