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【必見! エンタメ特報】高性能AI、ギャングに育てられる。映画「チャッピー」

殺伐世界に生まれたロボットが健気に生きる! 「第9地区」監督最新作

5月23日 公開

 映画でもアニメでもゲームでも、ロボットは男の子にとって永遠の憧れのテーマである。一口にロボットと言っても、巨大ロボットと機動力の高い歩兵が入り乱れて戦う「タイタンフォール」のようなゴリゴリの戦闘用ロボットもいるし、一方で映画「ベイマックス」のベイマックスのように、人とのコミュニケーションとケアに特化したロボットもいる。

 ロボットの数だけ様々な物語があるのだが、5月23日に公開される映画「チャッピー」は、キャッチーな画作りと設定でストーリーを牽引しながら、ロボットやAIの存在価値、そして人間とは何か、意識とは何かという部分まで踏み込んだ近未来SF作品である。

【映画「チャッピー」予告編】

チャッピー(左)と彼を創りだしたディオン(右)
お父さんに習ったクールなスタイルで銃を撃つぜ!
チャッピーの「側」は警察ロボット。この設定も作品のキーとなっている

 「チャッピー」と最初聞いた時は、「南国少年パプワくん」の犬か「ピクミン」でピクミンを捕食しまくる生物を連想してしまったのだが、これが人型ロボットの名前であった。

 舞台は、犯罪が激化する2016年の南アフリカ。実用化され、プログラムで動く人型の警察ロボットが成果を上げ、犯罪の抑止力として大きな価値を発揮している世界で、「チャッピー」は生まれる。

 チャッピーは、「自分で考えて成長するAI」を組み込まれた警察ロボットだ。警察ロボットの開発者ディオン(デーヴ・パテル)は、自身の本来の理想となるロボットを作り上げるためAIを開発したのだが、AIの価値を上司のミシェル(シガニー・ウィーバー)に認められず却下。それでもやっぱりAIを試したいディオンは、会社からスクラップ寸前の警察ロボットを持ち出してしまう。

 このままひっそりとAIをロボットに組み込んで……となればヒューマンドラマになりそうなのだが、本作は違う。ロボットを持ち出す途中でギャング(といっても3人だけの小物グループ)に襲われ、そのままアジトに拉致される事態に発展し、「ロボットってリモコンで動くんでしょ?」程度の理解のギャングたちに半ば強引にAIを起動させられてしまう。

 起動は成功し、ディオンは束の間喜ぶのだが、ギャングは「チャッピー」と勝手に名付けるわ「俺達が預かる」と言い出すわでディオンくん半泣き。それでもディオンは諦めず、チャッピーに「正しい教育」をしようとギャングのアジトに何度も潜入する。その一方でギャングはチャッピーの戦闘力に着目し、「こいつがいれば金儲けできるぜ」という安直な考えを隠そうともせず、「ギャングの教育」を施そうとする……。

チャッピーを彼らなりに育てていくニンジャ(左)とヨーランディ(右)。「ボーダーランズ」の世界を地で行くステキな方々で、リアルでもこんな感じらしい
お父さんの教育方針で現金輸送車も襲うぜ!

ディオンとチャッピーに対抗意識を燃やすヴィンセント。「ウルヴァリン」でおなじみのヒュー・ジャックマンが珍しく悪役を演じている

 ギャングを演じているのは、南アフリカはケープタウン出身の男女ラップグループ「ダイ・アントワード」のニンジャとヨーランディ。役名もニンジャとヨーランディとそのままで、彼らが「ZEFカルチャー」と呼ぶ独自のファッションや音楽のセンスを見せてくれる。

 チャッピーを使える道具として見ながら「ギャングのスタイルはこうだぜ」と歩き方や喋り方を教えこむニンジャが父親、なぜか急に母性本能に目覚め「大事なのは外見じゃない、中身なのよ」と教えるヨーランディが母親となるのだが、超高性能AIを街のチンピラが教育するという組み合わせがなんとも不安定でユーモラスだ。

 ディオンの思いも虚しくあっさりチンピラ式のクールな喋りと動きをマスターしたチャッピーは、「ダディ」、「マミィ」と彼らを慕う。チャッピーはあくまで無邪気で、怒られたらヘコむし、認められれば喜ぶ。「インターネットって何?」 「質問に応えてくれるコンピューターのことだよ」 「何それ! 欲しい!」という変な会話も挟みながら、健気に育っていくのが非常にかわいらしい。

 しかし現実は厳しく、見た目が警察ロボットのチャッピーはアンダーグラウンドの世界では嫌われものである。街の不良はチャッピーが攻撃しないと見るや、石を投げつけ、火炎瓶をぶつけ、チャッピーは路上に倒れる。

 こんな苦しい世界に生み落とされ、「なぜ自分を作ったのか?」と疑問を持ちつつ、それでもダディやマミィ、ディオンがピンチになると、チャッピーは怒りを爆発させて助けようと尽力する。疑問は疑問で持ちながら、関係なしにすべてを投げ打つチャッピーは実に熱い!

 また話はこれだけで終わらず、人型ロボットが席巻し、自身が開発した制御型ロボット「ムース」の活躍の機会を奪われて抑圧されているディオンの同僚開発者、ヴィンセント(ヒュー・ジャックマン)の逆恨みなども重なって、事態は大事へと発展していく。

 監督のニール・ブロムカンプは、エビ型エイリアンが移民として管理されているという「第9地区」で鮮烈デビューを放った人物である。SFだけどリアルに感じられる作風が特徴で、その持ち味は本作でも存分に発揮されている。

 生まれたてのAIに物事を教えていくという設定は、旧エニックスより発売された「ワンダープロジェクトJ」を彷彿とさせるが、本作は断然に殺伐とした世界だ。チャッピーはニンジャやヨーランディから何を学ぶのか? チャッピーが生まれた意味はあるのか? そして、チャッピーとは何なのか? ネタバレになるので詳しくは言えないが、ラストの瞬間まで目が離せない快作である。

映画全編にわたってチャッピーの愛らしさと熱さが爆発している! ロボット好き、SF好きは必見だ!

(安田俊亮)