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【特別企画】深淵を覗き込め! カードゲーム「クトゥルフの呼び声フラックス」

H.P.ラヴクラフトの狂気に彩られた幻想世界がテーブルの上に蘇る!

1月17日発売

価格:2,100円

 ホビージャパンが1月17日に発売したパーティーカードゲーム「クトゥルフの呼び声フラックス」。プレイしながらルールがどんどん変わっていくカードゲーム「フラックス」にH.P.ラヴクラフトの幻想小説「クトゥルフの呼び声」シリーズをテーマにルールをアレンジした作品である。

 “クトゥルフ”という単語で反応する人はコアなホラーファンといえる。クトゥルフというのは幻想小説「クトゥルフの呼び声」に登場する邪神の名前であるが、ラヴクラフトは様々な小説で恐怖世界を描き、さらにその後多くの作者と世界を共有、発展させ、大きなジャンルを作り上げた。小説に留まらず、映画、ゲームなど、現在も多くの作品が作られている。

 筆者もかつてホビージャパンのテーブルトークRPG「クトゥルフの呼び声」にハマり、その世界の根幹となる小説を読み、クトゥルフに魅了された日本の作家の作品も読みあさった。そのクトゥルフがゲームになるからにはなんとしても取材しなければ、ということで今回の企画はスタートしたのだ。

 「クトゥルフの呼び声フラックス」ではクトゥルフ、ヨグ=ソトース、ショゴスといった神々、ネクロノミコン、旧神の印といったアイテム、ウィルバー・ウェイトリやハーバード・ウェストなどラヴクラフトの小説や「クトゥルフ」ファンにはたまらない単語が溢れており、それらを組み合わせ勝利を目指していく。勝利を目指していながらそれは同時に世界全体の破滅への条件を満たしていくことにもなり、ゲーム展開は一寸先が見えない、油断のできないものとなっている。

 今回、発売の前にホビージャパンゲーム事業部輸入ゲーム事業課の北島氏と広報宣伝課の佐藤氏の3人で実際にゲームをプレイしてみた。「クトゥルフの呼び声」シリーズのホラーで破滅的な雰囲気がゲームにどう活かされているだろうか?

1928年に生まれ、今でも発展している「クトゥルフの呼び声」シリーズとは?

パッケージに描かれているのが邪神クトゥルフ。英語名は「Cthulhu」で名前は正確に発音できない設定となっている。読み方は様々で、日本でも「クトゥルー」、「ク・リトル・リトル」など様々な翻訳表記がある

 カードゲームの紹介をする前に、「クトゥルフの呼び声」シリーズとは何なのかを少し紹介しておきたい。「クトゥルフの呼び声」はアメリカの怪奇小説家H.P.(ハワード・フィリップス)ラヴクラフトが1928年に発表した怪奇小説のタイトル。この作品では太平洋に眠る人間では太刀打ちできない強大な神“クトゥルフ”が描かれた。この作品は大きな反響を呼び、その後も様々な恐怖小説、様々な神々を生み出していく。

 ラヴクラフトの生み出したクトゥルフ、ヨグ=ソトース、ニャルラトホテプなどの神々、ネクロノミコンや古き印といったアイテム、さらに物語に登場するキャラクターはその後ラヴクラフトの同世代や後輩作家によっても使用され世界観は広がっていき、ラヴクラフトの死後、オーガスト・ダーレスによって「クトゥルフ神話」として体系化されていく。

 その後ダーレスの働きによって「クトゥルフ神話」は様々な作家のモチーフとなり、作品世界は大きく拡がっていく。日本でも翻訳が行なわれ、栗本薫や菊池秀行といった作家が題材にし、最近では逢空万太の「這いよれ! ニャル子さん」が話題を集めた。「クトゥルフ神話」は現在も拡大し続けているのだ。

 コンピューターゲームでも「クトゥルフの呼び声」は好まれる題材だ。Bethesda Softworksはそのものずばりの「Call of Cthulhu」を2005年に出しているし、「アローン イン ザ ダーク」などモチーフに使用しているゲームも多い。日本のゲームも強く影響を受けており、邪神の名前や、「ネクロノミコン」、「旧神の印(エルダーサイン)」など作中の小道具をアイテムに使っているゲームはそれこそ無数にある。さらに先日フランスのパブリッシャーFocus Home Interactiveが現在「Call of Cthulhu」というタイトルのゲームを制作中であることも発表された。

 筆者にとってホビージャパンで「クトゥルフの呼び声」シリーズといえば、なんといっても日本語化されたテーブルトークRPG「クトゥルフの呼び声」だろう。「クトゥルフ神話」をゲーム的にわかりやすく解説し、TRPGの主流だったファンタジー世界とは異なるホラーテイスト溢れる舞台を可能にしたTRPGの「クトゥルフの呼び声」は筆者を含めた多くのファンを生み出し、原作や「クトゥルフ神話」への興味もかき立てられた。ちなみに、TRPGは現在はエンターブレインから「クトゥルフ神話TRPG」シリーズとして発売されている。

 今回発売された「クトゥルフの呼び声フラックス」はアメリカのLooney Labsの作品であり、TRPG「クトゥルフの呼び声」との直接の関係はないが、ホビージャパンが日本語を発売するにあたり、ゲーム内の用語にはこだわっており、ファンにはたまらないものになっている。原作ファン、TRPGファンはもちろん、ホラーな雰囲気が好きな人にプレイして貰いたい。「クトゥルフの呼び声」シリーズの入門としてもオススメである。深遠なる恐怖の世界に、足を踏み入れてみてはいかがだろうか?

めまぐるしくルールが変わる「フラックス」を「クトゥルフ」のテイストでアレンジ

ホビージャパンゲーム事業部輸入ゲーム事業課の北島氏
こちらは元となる「フラックス」。「ミルクとクッキー」など親しみやすい雰囲気

 それでは今回の本題である「クトゥルフの呼び声フラックス」を紹介していきたい。「クトゥルフの呼び声フラックス」は、アメリカのLooney Labsが発売した「フラックス」をアレンジした作品である。「フラックス」というカードゲームの最大の特徴は、出したカードによってルールそのものが大きく変わってしまうところだ。最初はドロー1枚、プレイ1枚のルールだが、ルールカードによって「ドロー2枚、プレイ2枚」になったり、「手札は1枚のみ」となったりする。プレーヤーが出したカードによってどんどんゲームルールが変化していくのだ。

 「フラックス」のカードは「ルールカード」、「アイテムカード」、「アクションカード」、「ゴールカード」の4種類となっている。各カードにはそれぞれ細かい説明が書かれている。カードを場に出すことでそのカードに書かれたルールが場を支配していくという、他のゲームとは全く異なるゲーム体験が楽しめるのである。

 アイテムカードは「クッキー」や「ミルク」、「太陽」など様々で、プレーヤーはこれらを並べていく。ゴールカードによって提示されたカードを場に出している人が勝利になる。「ミルクとクッキーを置いている人が勝利」となっていても他のプレーヤーがゴールカードを上書きしてしまえば勝利条件は全く異なってしまう。ここに「相手の手札を奪う」、「アイテムカードを自分のものにする」といったアクションカードが絡み、場はさらに混沌とする。刻々変わる状況の中、勝利を目指すゲームなのだ。

 「クトゥルフの呼び声フラックス」は、この「フラックス」のベースの上に「クトゥルフの呼び声」シリーズオリジナル要素でアレンジしている。アイテムは「夢の国」や「画家(リチャード・ピックマン)」、「旧神の印」、「食屍鬼」など原作小説を知っている人にはニヤリとさせるものばかり。ゴール条件は原作の要素を感じさせるもので、画家と食屍鬼は、怪奇画家が本物の怪物を描いていたという「ピックマンのモデル」という小説が基になっている。ラヴクラフトファンはこういったうんちくを交えながらゲームが楽しめる。

 本作ならではのアイテムカードとしてはマイナス要素のある「クリーパー」というものがある。「クトゥルフ」、「ヨグ=ソトース」、「ユゴスからのもの」など恐怖をもたらす存在で、これを引くと強制的に場に出さなくてはならなくなり、自分の場に出ていると他の勝利条件を満たしても勝利できないため、何らかの形で無効化したり、他のプレーヤーに押しつけなければならない。ただし、クリーパーそのものがゴールの条件として有効な場合は別だ。

 さらに「アンゴールカード」がある。カードに描かれている“砂時計”は「6つ以上砂時計が場に出ている場合、ゲームは強制的に終了になる」というアンゴールカードを使うと、じつにクトゥルフらしい「全員負け」という破滅的な結末になる。アンゴールカードは「決められた邪神が場に出ている」、「4つのアイテムのうち3つが場に出ている」といった事で発動させられるものもある。

 アンゴールカードはゴールカードを上書きしてしまう。ゴールに向かって進んでいたゲームを一気に破滅させてしまうことも可能なのだ。こういったルールが、“破滅がすぐそばにある”というダークな雰囲気をもたらしている。

 「クトゥルフの呼び声フラックス」は親しみやすい「フラックス」を大胆にアレンジし、破滅に向かっていく世界の中で、自分だけが生き残るために勝利条件を構築していくゲームとなっている。勝ちを求めるのではなく、世界全体の破滅を目指してプレイするのもアリなのだ。暗くダークな世界を手軽に味わえるというのは大きな魅力だ。

【フラックス】
アメリカの格言などがルールになっており、ファミリー向けの親しみやすいものになっている

【クトゥルフの呼び声フラックス】
カードから濃厚に立ち上る「クトゥルフの呼び声」ならではのテイスト。原作のエピソードを語りたくなる

(勝田哲也)