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【ChinaJoy 2014】上海アクセスブライトCEO秦智勇氏インタビュー

中国人のためのゲームと、日本のIPへの思い入れ、そのバランスをいかに実現するか?

中国人のためのゲームと、日本のIPへの思い入れ、そのバランスをいかに実現するか?

秦氏は中国のIPへの視点などもはっきりと語った
秦氏の分析するゲーム業界。数百のメーカーが参入し、生き残るのは10~20社だという

――お話を聞いていると、中国と日本では、モバイルゲームの成功へのアプローチが全く違いますね。「パズル&ドラゴンズ」、「クイズRPG 魔法使いと黒猫のウィズ」、「チェインクロニクル」、「モンスターストライク」といった日本でメジャーな新規IPタイトルは最初はプロモーションに大きなお金は掛けておらず、純粋なゲームのおもしろさから口コミで評価が上がっていき、大きな成功を収めましたが、中国ではそういったアプローチは難しいのでしょうか?

秦氏: 中国は日本と違って競争が激しいので、最初から成功させないと会社が潰れてしまいます。また、日本を含む、海外のタイトルをそのまま持ってきても、中国では成功しないのではないかとも考えているんです。実際、ランキング上位のタイトルは中国の自社開発タイトルばかりです。海外タイトルは上位に入らないので、自社で開発した方がいいと考えています。

 中国と日本の違い、というのはゲーム市場の発展の歴史が背景にあると思います。日本はコンソールゲームからモバイルになっていきました。ユーザーがひとりで遊ぶ、おもしろさや世界観を重視する傾向があります。一方、中国はかつてコンソールゲームをパクったものばかりで面白くなく、韓国からMMORPGが入ってきて大きくヒットしました。結果、ソーシャル性、人とのつながりを重視するゲームが人気があります。このためモバイルゲームでもソーシャルを重視する傾向がある。日本と中国のゲームの発展が違うのではないかと思っています。

柏口氏: 良い例だと「クラッシュ・オブ・クラン」の遊び方で、中国と日本の遊ばれ方で全然違うので、違いがはっきりわかりますね。クラン戦でのコミュニケーションが全然違う。日本はこつこつ型ですが、中国はユーザーのチャットでの連携などが盛んです。

 面クリア型ゲームも、日本ではそれぞれで自分のペースでやる形が好まれますが、中国だったら「今日中に100面に到達しなくてはあなたはやられちゃうよ?」という勢いが必要なんです。他の人との競争要素ももちろん必要で、他人に負けたくない、負けたら悔しいから課金するというのがポイントなのだと、私たちもようやく気がつきましたね。

――善し悪し、ではなく好みそのものが全然違うんですね。

柏口氏: だからこそカルチャライズが大変なんです。実は日本のタイトルを持ってきても、このカルチャライズに新作開発と同じくらいかかる。それならば最初から自社開発で中国向けに作っていこう、というのがこの1年で得た経験です。

――これまでのアクセスブライトは、日本のコンテンツを中国にサービスするパブリッシャー業がメインというイメージがありますが、今後は自社開発にシフトするのですか?

柏口氏: IPは日本のものを日本の版元さんに信頼してもらいながら預からせていただいて、我々のほうで開発を行なって、中国のユーザーさんの好みに合わせたゲームをサービスしていく、というのが目標です。

秦氏: 日本と中国では、IPの考え方が全く違います。日本の版元にとって、IPの世界観やキャラクター設定はとても重要なものですが、そこを理解し、対応できる中国メーカーはほとんどいないと思います。中国では、「売れればいいんだろ」という考え方で、平気で改変してしまう。

 これは、ビジネスの進め方ではっきり出てきます。日本では企画書を書いて、マーケティング計画、MG(Minimum Guarantee:ロイヤリティの最低保証料)、ロイヤリティを決める。中国ではMGとロイヤリティを決めて、マーケティング計画は存在しない。しかも企画書はいつ変えるかわからない。中国にとって金の問題を解決してから他の問題に移るのです。日本のMGは企画書とマーケティング計画からだいたい3カ月の売上。中国は何もないので金額は交渉次第でどんどん変わる。

柏口氏: アクセスブライトでは日本に専任の監修担当者を置き、日本でゲームを作っているのと同じ感覚で、コンテンツの監修をしてもらい、その結果を中国に伝えます。面白い話としては、出版社に、「御社のIPのために10億円持ってきた、ぜひ契約させてくれ!」と、とある中国メーカーが来たそうなんですが、出版社側が担当者にIPの内容について尋ねたら、何も知らなかった。出版側は激怒したそうです(笑)。ここら辺も中国と日本の感覚の差だと思います。

秦氏: 中国では、作品の中身はどうでもいいところがあります。社長が「それいいな」といえばできる。基準がない。一方、日本では、監修が通らないのでゲーム化そのものができない。日本は版元とIPの意識を重視しています。逆に中国はお金が儲かればほかはどうでもいい。だから海賊版がいくらでもできる。このあまりに異なる2つの国のどちらの話も聞けるのは、中国人と日本人が設立したアクセスブライトしかできないと考えています。だからこそ、360やテンセントは私たちのコンテンツを欲しがっています。彼らはこういう作り方はできないからです。

――中国のIPのとらえ方は、とても刹那的で不健全だと思います。さらに言えば、なぜ中国でグローバルで通用するようなIPが育たないのか、海賊版が無くならないのか、ハッキリ理解できた気がします。秦さんはこうした中国の現状に対してどう考えていらっしゃいますか? そういう考えでは、中国ではずっとIPは育たないのではないでしょうか?

秦氏: そこは、バランスだと思います。現状では、IPをもっている日本側にとってMGを手にはできるし、リスクも開発コストも全部こちらの負担になり、リスクが中国側にのみ存在しているこれは不公平ではないか、というのは正直思っています。

――その考え方も、なかなか日本人にとっては特異な考え方に思えますね。お金を払ったから、リスクは全部こっちが負ってるっていうのは、IPを守り育ててきている側からいえば、「とんでもない!」という感覚だと思います。

柏口氏: 仰るとおりで、今中国では「国家動漫(アニメ)基地」を作っていますが、なかなかうまくいっていません。ソフトウェア、アニメ、漫画の作る側に今後たってくればもう少し変わってくるんだと思います。創作の大変さをわかって欲しいというところはありますね。やっぱり中国は商売の国だなと。一方日本ではものを作るのは上手ですね。

秦氏: 話を戻しますが、こういう“常識”の違う国同士のビジネスで、アクセスブライトでは、アクセスブライトジャパンがこの橋渡しをしてくれます。一方で、上海の我々は中国の感覚でゲームを作っていける。そうすれば両方を満足できるゲームが作れると考えています。バランスが必要で、日本のことばかりを聞いたゲームだと、中国では儲からないものになってしまう。

 中国の感覚では、日本は「孤島文化」だと考えています。他国では通用しない感覚を持ち、逆にその感覚を理解しないとその中では生きられない世界だと思っています。しかしその見方は改善しつつある。日本のコンテンツにお金を出す中国メーカーが増えてきました。しかし、日本のコンテンツを獲得できて、それからどうするか、そのビジョンを持っている中国メーカーは少ない。一方で私たちは、そのバランスに対してノウハウがあります。そのためには両国の言い分を聞ける会社が必要です。

――今後のビジネスの展望をきかせてください。

秦氏: そのためには、まず中国のゲームの歴史から説明させてください。PCオンラインゲームは15年の歴史がありますが、今生き残っているのは10~20社。WEB GAME(ブラウザゲーム)は5年の歴史、ここでも最初は数百社が参入しましたが、今は10~20社しかない。同じように、モバイルゲームはまだ2年の歴史しかないが、生き残るのは10~20社だと思います。

 PCもWEBも何百何千と会社が参入しましたが、ほとんど潰れました。モバイルも同じ状況になると思います。プラットフォーマー、開発会社、配信会社、この3つの業態がある中で、まず大手プラットフォーマーは生き残れます。それは無料でユーザーが獲得できるからです。そして、開発会社は、開発力が強ければ生き残れる。

 最後は盛大や我々のようなパブリッシャー。これは強い会社同士が連携して、弱い会社は死んでいくと思う。2~3年後は、今のゲーム会社の70%の会社が倒産する。そして生き延びるのは最終的にトータルで10~20社ほどになります。生き残る会社の共通点は必ず有利な点があること。プラットフォーマーは金儲けでは無く、ユーザーを集めることが大事。テンセントのWeChatや360のセキュリティソフトもそうして強みがあるからこそ勝ち残っている。

 Baidu(バイドゥ)は91を買収したが、特に有利な点がないので今後も成長し続けることは難しいと思う。ハードはPC端末からモバイルに変換していくが、ユーザーがPCゲームからモバイルに流れ込めるかどうかわはわからない。一方、パブリッシャーは弱くなっている。それは利益は少なく、コストが高すぎるからです。

 だから今後の中国市場は、プラットフォーマーと開発会社に集束していくでしょう。現段階では、プラットフォーマーはパブリッシャーにもなるので、占拠されてしまう。プラットフォーマーはユーザー獲得コストがないので、その分を開発会社にお金を注ぎ込める。このためプラットフォーマーと開発会社の連携が成功の道だと思います。アクセスブライトは、その道を進んでいきます。

――今後のアクセスブライトはどういう道に進みますか?

秦氏: まず開発に進みます。有利な点はIPものです。IPもののプラットフォーム会社を目指していきます。そして、日本の版元がプラットフォーマーに出してもいいものを作れるかどうかわからない。360は自分らで日本のメーカーに交渉できますが、それが中国で受け入れられるかのカルチャライズができるかはわからない。だからこそアクセスブライトからもタイトルをとっているのです。IPを扱うかどうかではなく、“どううまく扱えたか”が重要になる。そして来年、アクセスブライトは、プラットフォームを作る予定です。

 アクセスブライトにとって2つの優位の点があります。柏口さんや、冨江さんのように日本に詳しい人がいます。さらに盛大から来た社員も多く優秀です。プラットフォームに近い点も有利。これを活かしてビジネスを展開していきたいと思います。

柏口氏: 今私たちは、日本のIPを軸に開発しています。そして、プラットフォームの領域を取りに行きます。WeChat、セキュリティと同じように、“IPのファン”という視点からユーザーをとっていく。今はまだどういう姿になるかはお話しできないのですが、まずは「クレヨンしんちゃん」をはじめて、年末までにさらに何本か見せていく予定です。IPがあるからヒットするわけではない。ちゃんと当てられることを証明していく必要があります。

――最後にユーザーへのメッセージを

秦氏: 私も日本のゲームやアニメが好きで、よりよい発展をお互いにしていければと、そのために力になれればと思っています。私たちアクセスブライトのゲームをよろしくお願いします。

――ありがとうございました。

【ロボットガールズZ】
「マジンガーZ」などダイナミックプロのロボットを美少女化したアニメ「ロボットガールズZ」のゲーム化。タイトルは現在未定で、ジャンルはアクションRPG。2015年初リリース予定。必殺技や、3Dモデルも見ることができた

(中村聖司)