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【ChinaJoy 2013】「CGBC」DeNA小林氏がgumi國光氏に全面反論
「日本のWebゲームはまったく死んでない(笑)。どっちに張るかは会社の方針」
(2013/7/24 22:35)
gumi國光宏尚氏の「Webゲームは死んだ、カードゲームも死んだ」という過激な講演の後に壇上に上がったのがDeNA取締役の小林賢治氏。Webゲームもカードゲームも自社他社含めてサービスしているプラットフォーマーとして、國光氏の発言についてどうリアクションするのかが注目されたが、かくして國光氏の発言の反論に講演の大部分を費やし、Webゲームはまったく死んでおらず、カードゲームもその精神はまだまだ生きていることを笑顔でアピール。また、DeNAのグローバル展開については、UI(ユーザーインターフェイス)、UX(ユーザーエクスペリエンス)について、変えるべきではないというスクウェア・エニックス和田氏に対し、リージョンごとに変えるべきとする小林氏で真っ向から意見がわかれた。海外展開について正解はひとつだけではないということがよくわかる講演だった。
Webゲームもカードゲームもまったく死んでない
実は國光氏とは、講演が行なわれる前日夜に遅くまで呑んでいたという。小林氏は、「だから2人は仲良しなんですけど、ひとつ言っておくと、日本のWebゲームはまったく死んでないです(笑)」と切り出し、会場は爆笑に包まれた。
小林氏は、具体的な証拠として、「ネイティブアプリは確かに成長性は高いものの、まだWebアプリの方が2倍以上の市場規模があり、安定的にユーザーを捕まえることができ、長く収益が上げられる特徴がある」と発言。さらに「逆に不思議なのが『パズル&ドラゴンズ』が当たってみんなネイティブアプリに行ったので、誰もいなくなった感がある中で、Webゲームで良いものを出すと大きなヒットになって、その規模は実はアプリよりデカい。それは忘れてはいけないところ(笑)」と語ると若干会場がどよめいた。小林氏は真顔に戻り、「どっちに張るかは会社の方針だと思う。現時点ではどちらの市場にも魅力があり、DeNAとしては両方やる」とDeNAは今後もWebゲームもサポートしていくことを明言。
そして國光氏と内容が被ったことを理由にアジア市場ネタをバッサリカットし、「國光さんが言ったことをもうひとつ訂正すると、カードバトルは死んだということですが、これも否定します」と再び反論モードに突入。
小林氏は「カードという表現形態を使った、トレーディングカードバトルゲーム(TCG)風のものは死んだけど、思想としてカードバトルの文法を使ったゲームは沢山出てきていて、中国の上位タイトルにもそういう文法を使ったものが多く、内容的にも日本のカードバトルゲームに端を発したようなものが増えている」と語り、カードゲームは終わるどころかむしろグローバル化しているという見解を示した。
アジア市場については、1年前までは海外のデベロッパーがなんとなく翻訳して出したというものが多かったが、現在は自国のデベロッパーが増え、ランキング上位の顔ぶれもずいぶん変わってきたという。
逆に変わっていないことは、大ヒットしたらめちゃめちゃデカい魅力的な市場であることで、「Candy Clash Saga」クラスのグローバルタイトルは月に100ミリオンドル弱(約100億円)の売上が出せる点は昔も今も変わっていないという。
そうした中で、ソーシャルゲームメーカーはどう立ち回るべきかについて小林氏は、「経営の考え方」とした上で、「イノベーションを起こして世界中で1位を取りまくるゲームを狙うのは全然あり」と國光氏率いるgumiの取り組みについて一定の理解を示した上で、「ただ、それを引けるかどうかは会社の財力次第ですよね、國光さん? 会社が続く間にそれができると思うなら、それに張るのは全然ありだと思います」と、聞いている方がハラハラするような、竜虎相打つ激しいつばぜり合いが展開された。
「ローカライズを舐めると痛い目に遭う」DeNA独自の国別の運営ポリシーとは?
そしてDeNAがWebゲームの分野において重視しているのは何かというと、「自分たちが慣れたシステムで、しっかりローカライズしていくこと。この方が歩留まりとしては読める」と、手堅い手法の堅実な実践を挙げた。
小林氏はそのローカライズの手法について「市場ができているのは明確で、グローバルで共通の文法を使えるゲームシステムが登場してきている」とした上で、「各国のデベロッパーも成長してきているので、単に翻訳して出してもほぼ負ける。可能性があるのに、ちゃんとやらないので負けるというパターンが増えてきている」と分析。ローカライズについてはDeNAはかなり早くから取り組んでいたというが「舐めると痛い目に遭う」と和田氏と同じ表現で、その難しさを表現した。
小林氏は「カードバトル型、正確に言うとカードバトルの文法を使ったバトルゲームは、まだ世界の上位にいる。中国、北米、日本は『パズドラ』が流行っているので見えにくいが実はクラシックなカードバトルゲームが上位にいる。gumiさんの『ブレイブフロンティア』も実はそうした要素を多分に残したゲーム」と改めてカードバトルゲームが根強い人気を持っていることを踏まえた上で、「ガラッと変えすぎると破綻する。カードバトルの文法を発展させながら、各国の事情を理解した上で、アートのテイスト、ゲームシステムの陣形、日本型のイベントなど、ゲームの盛り上げ方などをしっかり対応しなければならない」と、ローカライズは全面的に、しかし慎重に行なっていく必要があることを説明した。このあたりのアプローチは、冒頭でも紹介したように、和田氏のアプローチとは真逆になる。
それではローカライズはどうすべきか、どこまですべきか。小林氏は偶然にも和田氏と同じ設問を用意して、ローカライズについて項目による取捨選択ではなく、その判断基準や深さという独自の尺度で解説を加えていった。
まず判断基準については、1点目は「ピンとこさせること」。ユーザーはゲームの説明文などは読まないため、少し遊んでアートを見てしっくりくるかどうか。その点でIPは非常に有効とした上で、その一方で、USのコミックを見てもピンとこない。この時点で日本人はインストールしない。このため、まずはピンとこさせることが重要だという。
2点目は「期待に添うこと」。ピンときて内容を予想して、その予想通りの内容を提供できているかどうか。たとえば、日本のカードゲームを北米に持っていっても、彼らのMMOの文法とマッチしていないところが多分にあるため、そのまま持っていっても「なんじゃこりゃ?」と思われてしまう。ここは気をつけるべきとした。
3点目は、運用が各国に合わせて実施されていること。DeNAでは国毎に運用体制が異なり、運用ポリシーもまったく異なるという。従来の各国共通の運用ポリシーで翻訳だけをして展開していた時期と比べると、「まっっっっっっったくパフォーマンスが違う」と、国別に運用方針を変えることのメリットを力説した。考え方としては国毎に運営が異なるオンラインゲームと同じで、市場が伸びているし何とかなるのではないかと考えるのは完全なる間違いだと、安易なローカライズに釘を刺した。
ローカライズの深さについては、レベル1は言葉のローカライズだけ、レベル3はポジティブなファクターを入れる。レベル4はアートまで変える、そしてレベル5はシステムまで変えるという。ここは「最初からユニバーサル対応を踏まえて開発すべきで、地域別に変えるべきではない」とするスクウェア・エニックスとはまったく異なる方針となっている。
どこまでやるかは、リソースでの判断となるということだが、DeNAで1番多いのはレベル3のポジティブなファクターを入れることだという。大きなシステム変更は加えないが、その国でポジティブなファクターを入れる。ローカライズの中ではもっとも幅の広い対応となるようだ。
こうしたきめ細かいローカライズ体制を整えた結果、主要タイトルが軒並み上位にランクインするという結果が生まれている。小林氏によれば、具体的に何をやっていったかというと、日本の運営スタイルを北米向けにモディファイしていっただけだという。
小林氏は締めくくりとして、今後は急成長を遂げつつあるアジア市場においても、同様のアプローチを使ってシェアを大きく伸ばしたいと抱負を述べ講演を終えた。DeNAのアプローチは、派手さや即効性には欠けるものの、どの地域を見ても実直で手堅く、時間を掛けて粘り腰で取り組んでいる。上海に拠点を置くDeNA Chinaなどはまさにその典型とも言えるが、北米で成功したノウハウを、アジアに適用することによってどのような化学反応が起きるのか。中国展開する数少ないメーカーの1社として、今後の推移を見守りたいところだ。