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「GGS東京 日中モバイルゲームサミット」開催
スクエニ安藤氏が「拡散性ミリオンアーサー」の中国での成功の秘密を語る
(2013/9/19 10:02)
中国Renren Game Japanと中国内のモバイルビジネス経営者によって作られた長城会(GWC:Great Wall Club)は9月18日、赤坂インターシティにて「GGS東京 日中モバイルゲームサミット」を開催した。
このサミットでは日中のモバイルゲームパブリッシャー・デベロッパーが集まり日中のモバイルビジネスの情報交換がなされた。本稿ではサミットでの発表内容をピックアップしていきたい。
特に興味深かったのはスクウェア・エニックスの「拡散性ミリオンアーサー」の成功事例である。盛大(シャンダ)ゲームズが中国、韓国、台湾で展開しヒットとなった。なかでも中国での成功の秘密は、盛大が持つ漫画やアニメのコミュニティへの働きかけがあったという。
盛大グループが総力を挙げてもたらした「拡散性ミリオンアーサー」の成功
盛大ゲームズ社長のMoney Chien氏は「拡散性ミリオンアーサー」をいかに中国市場で展開したかを語った。盛大ゲームズは中国では上位のオンラインゲームパブリッシャーだが、盛大グループとしての最大の強みは多くのIPを持っていること。オンライン小説、オンラインコミックではいくつもの有力なIPを持っているという。このIPとそのファン達が創っているコミュニティが「拡散性ミリオンアーサー」のヒットに繋がったとのことだ。
ヒットに繋がる要因の1つが中国での市場の変化にある。中国は他の国に比べるとモバイルゲームでも本格的なゲームを好むところがあったが、2012年に入ってカードゲームの人気が高まり、2013年にはカードゲームの流行は少し収まってきたが、その分ソーシャルゲーム全体の人気が高まっていったという。
そういった中、「拡散性ミリオンアーサー」は7月にサービスを開始したが、中国での記録を塗り替えるような大きなヒットとなった。日本、韓国、中国は欧米タイトルを別にすればそれぞれ自国のコンテンツが人気だったが、最近はそれ以外の国のタイトルがランキングに入ることが多くなっており、「拡散性ミリオンアーサー」その代表的なタイトルの1つになった。特に中国で日本タイトルが成功した秘密は「コミュニティ」にあるとChien氏は語った。
通常、モバイルゲームはいきなりオープンβサービスから入り、そのまま正式サービスになるのだが、「拡散性ミリオンアーサー」はCBTを行ない、PCオンラインゲームと同じような展開を行なった。この時に盛大の持つアニメ・漫画コミュニティで積極的に「拡散性ミリオンアーサー」を取り上げた。ゲーム内のカードの絵を描くアーティスト募集なども行ない、認知度を上げた。また人気の高いIPとのコラボレーションも行なった。
そして盛大の子会社に所属するコスプレモデルを起用してゲーム内のキャラクターのコスプレ写真を掲載し、一般のユーザーからも写真を募った。この反響は特に大きかったという。「拡散性ミリオンアーサー」をインストールすると、盛大の小説やコミックを割引で買える、といったキャンペーンも行ない、盛大グループの様々なメーカーと協力して知名度を上げていった。
加えて有名人に依頼して中国版TwitterといえるWeiboで「ミリオンアーサー面白い」とつぶやいて貰うような“搦め手”も行なった。これに関しては一般ユーザーに加え依頼した以外の有名人も多数つぶやき、結果として知名度向上に大きく貢献したという。こういった手法は盛大はMMORPGなどのオンラインゲームでもやっている手法だが、その手法が「拡散性ミリオンアーサー」ではかっちりとはまり、大きな成功に繋がったとのことだ。
パブリッシャーを信頼し、任せるというデベロッパーのあり方
「拡散性ミリオンアーサー」のプロデューサーを務めるスクウェア・エニックスの安藤武博氏はMoney Chien氏の講演を受ける形で「日中ゲームの壁はなくなるのか」というテーマでデベロッパー側から今回の中国での展開を語った。
まず安藤氏は「拡散性ミリオンアーサー」は日本のゲームデベロッパーの“悲願”であった日本、中国、韓国で高い評価を受けるという目標を達成したことを語った。そして“売り上げ”も明らかにした。2013年8月の「拡散性ミリオンアーサー」での収入は日本を1とした場合、中国は3、韓国が0.6だという。最高月商においては、韓国は日本以上の売り上げを記録した月もあったという。
安藤氏はこの成功で最も大きい要因は「日本チームが何もしなかったこと」だと語った。盛大側の提案を実現し、任せたからこその成功だというのだ。安藤氏は実際に中国や韓国に訪れて「市場のわからなさ」を痛感したという。iOS用のアプリの提供先が複数合ったり、Androidのシェアの大きさが大きく違っていたりと、日本とは全く違う市場があり、ユーザーがいる。彼らに向けたサービスは、それぞれの国の人達がすべきという思いで、サービスを展開したからこその成功だったと安藤氏は語った。
「徹底的に相手を信頼し、何も言わないようにしよう」という姿勢でビジネスを展開した安藤氏だが、これができたのは「拡散性ミリオンアーサー」オリジナルタイトルだったからだと指摘する。「ファイナルファンタジー」や「ドラゴンクエスト」では素材の確認、キャンペーンのやり方1つ1つにチェックが入り、とても今回のようなスピード感のある展開は無理だったとのことだ。
そして何よりもパートナーが良かったという。「ローカライズとかいらないから、日本のままのコンテンツが欲しいんだ」といってくれた、ありのままの「拡散性ミリオンアーサー」が欲しいといってくれた、それはゲームを創る側にとって大きな自信に繋がったという。
現在、日本のコンテンツは中国や韓国にも受け入れられるようになった。韓国のMMOなどはすでに日本で受け入れられており、後は中国のタイトルが日本で受け入れられル様になって欲しいと安藤氏は指摘した。中国は技術力では高いものを感じるが日本から見ると絵が古くさい感じがする。このため、ビジュアル面での協力ができるのではないかと安藤氏が語った。「それぞれの国でお客様がワクワクすることを、遠慮無くやろう」と最後に安藤氏は会場に向かって語りかけた。
コアゲーム志向の中国モバイルゲームユーザー。攻略の鍵はニッチな方向性!?
Renren Game Japan CEOの馮剛氏は「中国モバイルゲーム市場最新動向紹介」として、日中のモバイルゲームの市場を比較した。まず最初に馮氏は中国市場の大きな伸び、特にスマートフォンの普及予測をし、2016年には4億2千万人がモバイルユーザーとなり、市場は大きなものになると語った。
現在の中国のモバイルユーザーは20歳以下が31%と、日本の20%と比べると多く、モバイルゲームの課金も200~1,000円が多い。接続はWifiが多く、3G、2Gを合わせたよりも多い。通信料も安いが、あまりお金をかけられないユーザーが多いという状況が見えてくる。
ゲームとしては昨今はカードバトルの人気が高い。2013年のiOSの売り上げランキングでは半数以上をカードバトルが占めたという。現在中国のユーザーはカードバトルに夢中になっている人が多く、継続率も他のジャンルに比べると高めだ。課金率の高さ、課金額の高さもはっきり見えてきており、現在中国ではカードバトルというジャンルへの注目度が増しているという。
流行しているカードバトルだが、日本と比べるとスポーツ系のIPは成功していない。武侠や神話ものという世界観が受けている。またオンラインゲームのIPを使ったタイトルの人気も高めだ。日本が幅広い層をターゲットにしたタイトルが受けているのに対し、中国は本格的なゲーム性を求める傾向があり、協力プレイよりも「個人英雄主義」ともいえるPvPにフォーカスしたタイトルを好む。
たっぷりプレイ時間をとる多彩な資源を活用するような複雑なゲームを好む傾向があり、日本があいた時間を使うようなカジュアルなゲーム性を求める傾向が強いのに対し、じっくりゲームをプレイするスタイルが好まれているという。
運営もイベントなどは自動化したざっくりとした運営を求めがちで、日本のようなしっかりしたイベント運営などは求められていない。VIP用のカスタマーサポートがあるなど運営も異なる。ジュエルブレイクに対する考慮も行なう点などは、日本とはっきり違う点だと馮氏は語った。
そして馮氏は中国市場における日本のデベロッパーのチャンスは、「幅の広さ」にあると指摘した。ニッチと言われるジャンルでも母数が大きいためにビジネスとして成立する可能性がある。だからこそ他のゲームの単純なコピーではダメで、従来のものを独自のバランスで組み合わせたような新しい遊びを提供するゲームが求められていると語った。