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【ChinaJoy 2013】ゲームカンファレンス「CGBC」でスクエニ和田会長が基調講演

「中国の重要度はA、B、Cランクの中で、Sランク。ずば抜けて重要なマーケット」

7月26日〜29日開催(現地時間)

会場:上海新国際博覧中心(Shanghai New International Expo Centre)

 中国最大規模のゲームショウ「China Digital Entertainment Expo(ChinaJoy)」が明日7月25日より、中国上海にて開幕する。前日の7月24日はChinaJoyの開幕に先駆けて、ChinaJoyの併催イベントのひとつであるゲーム関係者向けカンファレンス「China Game Business Conference(CGBC)」がスタートした。GAME WatchではCGBCの中から日本人が数多く登壇した「SNS & Social Game Forum」の日本人講演を中心にその模様をお伝えしたい。本稿では、セッションの開幕を飾ったスクウェア・エニックス取締役会長和田洋一氏の基調講演の模様をお伝えしたい。

 和田氏は、昨期の業績不振の責任を取ってスクウェア・エニックス代表取締役社長を退任したばかり。新たな役職となる取締役会長としては初の海外講演となる。

世界の市場規模を63ビリオンドルと推計。和田氏「新しいビジネスモデルの分だけ、マーケットが伸びている」

CGBC初日は「SNS & Social Game Forum」が実施された
講演を行なうスクウェア・エニックス取締役会長和田洋一氏
講演テーマ
世界の購買力シェア推移予測図
2012年のビジネスモデル売上高

 和田氏のセッションテーマは、「Free to Play(F2P)モデルのローカライズとは?」というもので、スマートフォン向けゲームの大多数が採用している基本プレイ無料アイテム課金制のビジネスモデルを採用したタイトルにおいて、海外展開するにあたり、何をローカライズして、何をローカライズすべきでないか。その基本的な考え方を和田氏のこれまでの海外展開を指揮してきた経験と印象から語るというものだった。和田氏は「これは中国に限った話ではなく、科学的な検証ではない」と繰り返し断りを入れながらも、要所要所で切れ味の鋭い発言を連発し、久々の和田節を聞かせてくれた。

 和田氏は、本題のローカライズについて言及する前に、グローバルマーケットの購買力シェアの未来推移予想図と、2012年ビジネスモデル別売上高を提示した。未来予想図では、日欧米で過半数を占めている現況から、近い未来には中国、インド、東南アジアを中心にアジア諸国の購買力が大幅に伸びることが予測されている。予測では2030年で、中国、インド、東南アジアで世界の購買力の過半数を占めるという状況になる。

 また、図の起点になっている2000年の段階から、すでにゲームは世界中で一般的な遊びとして認知されており、ゲーム市場規模がそのまま購買力に比例するという状況になっていた。この理屈を未来に当てはめていくなら、中国やインドが世界の売上高に占める割合は、現在とは比べものにならないぐらい大きなものになっていくことになる。

 一方、2012年のビジネスモデル別売上高では、世界の市場規模を63ビリオンドル(約6.3兆円)と推計。内訳でいくと、ディスク(パッケージ製品)が18.8、ダウンロードが7.8、F2Pが20.5、サブスクリプション(≒月額課金制)が9.5、広告が2.1となっている。(単位はすべてビリオンドル)。

 和田氏は、「特徴的なのは、2002年頃の市場規模はだいたい20ビリオンドル(約2兆円)で、ほとんどすべてがディスクセールス。家庭用ゲーム機とPCがメインだったのが、この10年でまったく代わってしまったということです」と解説し、「新しいビジネスモデルの分だけ、マーケットが伸びている」と分析した。

 ここで和田氏は唐突に話を転じて、「世界中の人々は古くからゲームを楽しんでいた」と切り出し、「世界中に出張して『FF』ファンの多さに驚いた。その地域でパブリッシュした覚えはまったくないんですけれども(笑)、皆さんよく知っていただいている」と、海賊版や並行品を通じて未展開地域にまでブランドが行き渡っている皮肉な現状をユニークな表現で言及した上で、「海賊版は売上として計上されないのでマーケットとして認識されない。ところがF2Pモデルではこういったところがマーケットとして立ち上がる、これが大きい。そして今度はこれが逆輸入という形で、日米欧においてもF2Pモデルが中心となった。これはメーカーにとっては素晴らしいことであり、これまでは水面下にあった市場が、F2Pが扉をこじ開けてくれたおかげで全部水面上に浮上した。だからこれは一過性、地域特殊性に根ざしたものではなく、F2Pは世界中で進化していくマーケットになっている」と、パッケージメーカーならではの表現で、F2Pモデルの有用性を説いた。

 その一方で和田氏は「これは素晴らしいことではあるのですが、我々にとっては大変なことだ」と苦笑しながら話を続け、これまでは自国だけで収益が立てられていたためその国のことだけを考えていれば良かったが、今後は色んなところに展開していかなければならないとし、そこで重要なのがローカライズであり、どうローカライズすればいいかだとし、本題であるローカライズに関する話に移った。

和田氏「自分たちの得意分野に特化すれば、海外の人たちはエキゾチックなものとして受け入れてくれる」

ローカライズすべきか否かを分けた最終結果。左側はしないほうがいい、右側はしたほうがいいという要素
欧米からアジアシフトを鮮明にした和田会長。具体的なコミットメントはなかったものの、中国市場に対して非常に意欲的な様子は伝わってきた

 和田氏は、これから語る内容の前提として、科学的な検証でなく、自身の経験と知識による感覚的なものであり、情報を集めて解析を行ない、勝ちパターンに昇華できれば、その展開スピードはさらに速めることができるのではないかとした。

 和田氏はローカライズについて、「言葉、知識」、「アート・世界観」、「ゲームメカニズム・ジャンル」、「UI(ユーザーインターフェイス)」、「交流・コミュニケーション」、「課金決済」の6項目について、個々にすべきか、すべきではないかを語り、その理由について言及していった。

 まず、「言葉・知識」については、「ローカライズした方がいいに決まっている」と断言し、「最初は高く付くと思っていたものの、世界中でゲームを作っているので、その国でローカライズをすればそんなに大変ではない。だからローカライズはデフォルト」とし、一方、知識については「その地域でなければわからない知識は前提にできないため、特殊な知識は使ってはいけない」とした。

 次に「アート・世界観」については、ローカライズしたほうがいいように思われているが、「する必要は無い」とした。当初、和田氏はアートや世界観についてローカライズしたほうがいいと考えていたというが、実際に海外展開を始めて見たところ、そんな心配はしなくて良くて、日本のものとして受け入れてくれる。「これは私にとって発見であり、グローバル標準、世界標準のキャラクターなどいない。ちゃんと自分たちの得意分野に特化すれば、海外の人たちはエキゾチックなものとして受け入れてくれる」という。

 和田氏は補足として、「日本で三国志時代や日本の戦国時代をモチーフにしたゲームがよく出るが、戦国モノを海外展開してもうまくいかないが、これは文化やキャラクターの問題では無く、海外の人は戦国時代をご存じないから、これは当たり前のこと(笑)」とし、知識の問題と、世界観の問題は全然別物であり、切り分けて考える必要があると語った。

 「ゲームメカニズム・ジャンル」についてもローカライズする必要はないとした。国々で好きなゲームメカニズムがバラバラにあるだけであり、かつてアメリカではアクションゲームが売れると言われたこともあったが、実は関係なかったという。もっともこれについては別の議論もあり、ハリウッド映画にアクションものが多いのは、アクション映画は世界中で受け入れられるからだという説もあるという。しかし、和田氏によれば、ゲームというものは映画に比べて良い意味で敷居が高いため、ユーザーはゲームを遊ぶ際は、楽しむつもりで入ってくれるため、「ゲームメカニズム・ジャンル」のローカライズについてはあまり深刻に考えなくていいのではないかとした。

 「UI」については語気を強め「これは絶対ローカライズしちゃいけない」と2度繰り返し、「スマートフォンやタブレットPCの時代になってUIそのものがユニバーサル化しているにもかかわらず、なぜ地域毎の操作性を出そうとするか、これは間違っている。これは禁じ手。地域毎のものを作ってはいけない」と繰り返し断言し、「タッチパネルやボイス入力(といった標準機能)を使ってどのようにゲーム体験を楽しんで貰えるかを考えなければならない。我々最初からユニバーサルなものに作るつもりでゲーム開発に望まなければならない」と強い表現を使って、UIについて深いこだわりを見せた。

 「交流・コミュニケーション」については「ここが1番ローカライズしなきゃいけない」といい、和田氏の調査によれば、日本人は赤の他人と戦うことに楽しさを見いだす人は少なく、グループやパーティーを組んでモンスターと戦うとか、基本的に一緒に同じ方向を向いているのが好きであり、これに対してアジアの人々は、1対1、多対多は戦いが好き。そしてサッカーが強い、ラテン系、アングロサクソンの人々は、和田氏の仮説通り、チームで戦うことが好きで、チームの結束力が高く、鉄の掟で規律が守られているという。だからチーム戦が向いているという。結論として和田氏は「コミュニケーションをどうデザインするかというのは、我々が思っている以上に、地域、国民性が出てくるところで、ここを舐めてかかると痛い目に遭うと思った」とまとめた。この和田氏の話は、交流・コミュニケーションというよりは、ゲームメカニズムそのもので、部分的に自己矛盾が発生してしまっているが、それだけに正解のない、判断の難しい部分と言える。

 最後の課金決済については、課金が発生してキャッシュを受け取るまでの決済方法は国によってかなり違うため、ローカライズしなければいけないとした。

 和田氏はまとめとして「今回の話は、急成長を遂げる中国に限った話では無く、一過性で終わる話でもなく、今後も継続的に世界中で通用する話であり、世界を相手にビジネス展開する際に、このローカライズの問題は避けて通れないので、もっと科学的に研究し、検証しなければならない」と語り、講演を終えた。

 質疑応答では、スクウェア・エニックスの中国でのパートナーである盛大のスタッフが手を挙げ、「スクウェア・エニックスは日欧米市場でビジネス展開してきたが、今後はアジア市場も注力していくという理解でいいか? また、スクウェア・エニックスの中国事業はどれほどの優先度になっているのか、中国市場への戦略も合わせて教えて欲しい」と日本語で質問した。

 和田氏は「我々はグローバル戦略とよく言っていたが、グローバルの定義が間違っていて、日米欧しか見ていなかった。中国は非常に重要な市場で、A、B、CのランクでいうとSランク、ずば抜けて重要なマーケット」と中国市場を最上級の表現で絶賛。その上で中国市場は「自社単独では難しい」とパートナーと組むことの重要性を説き、質問してくれた盛大と組んで中国展開している「拡散性ミリオンアーサー」について、「非常に反応が良いが、自社単独でやっていたらあそこまではできなかった」とパートナーを褒めていた。

 スクウェア・エニックスは、和田氏が社長を務めていた昨期までは、日欧米市場は和田氏、中国市場は当時副社長を務めていた本多圭司氏の担当だったため、和田氏が中国市場を語る機会というのは意図的に少なかったが、和田氏が中国市場に大きく乗り出してきたことで、スクウェア・エニックスの中国展開がどうなるのか大いに注目されるところだ。

(中村聖司)